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自滅

 カナタが目を覚ましたのは日が沈んでからだった。

 部屋に灯りは付いておらず、全体的に薄暗い。

 だからか、身体が起き上がることを拒否していた。


 ……まだ眠い。


 カナタ自身、寝起きはいい方だ。しかしとにかく今は疲れていた。充分に寝たつもりだが全然寝足りない。

 普段は二度寝なんてしないが、たまにはいいだろうとカナタは目を瞑る。そこで違和感に気付いた。


 腕の中に温かい何かがある。

 

 ……なんだ……これ?


 働かない思考でその何かに手を触れる。

 感触は柔らかく人肌のように温かい。サイズも丁度よく抱きしめるとふわりといい香りが漂ってきた。


「……んぅ」

「……………………んぅ?」


 自分のものでは無い声にカナタの頭は急速に覚醒した。そして、毛布を剥ぎ取る。


「………………は?」


 カナタの思考に空隙が生まれた。

 目の前の状況を頭が理解を拒んでいる。端的に言うと訳のわからない状況に置かれていた。


「……な……ん……え?」


 言葉にならない声がカナタの口から漏れる。

 先程まで抱きしめていたのは腕の中でネコのように丸くなったカノンだった。


「……んぅぅ」


 カノンは寒いのかそんな声を漏らすと、目も開けずに手探りで毛布を探し、頭の上まで引き上げた。

 原因が見えなくなったことで、カナタはほんの少し冷静さを取り戻す。

 しかしその口から出たのは現実逃避の言葉だった。


「………………見間違いか?」


 カナタは一人呟くと、そっと毛布の中を覗く。

 そこにはやはりカノンがいた。


「……んなわけねぇよな。どんな状況だこれ? 俺か? 俺がなんかしたか?」


 いつも冷静なカナタにしては珍しくパニクっていた。

 記憶を掘り返しても、カノンをベッドに連れ込んだ記憶はない。

 なにせこの部屋に来てすぐに寝たのだから。


「……いや。ないない。流石にない。絶対にない」


 ……ともあれこの状況はまずい。現行犯だ。いや待て。落ち着け。


 カナタは一度大きく深呼吸をした。


 ……幸いこの部屋には二人だけだ。なんとか起こさないように向こうのベッド――。

 

「……うぅん」


 カナタの思考を遮るようにカノンが身じろぎをした。

 そして目が開き、紅い瞳がぼんやりとカナタを見つめる。


 ……あっ。手遅れだコレ。


 見つめ合う二人。

 まるで時が止まったかのようにカナタは感じた。


「………………んえ?」


 まだ頭が覚醒してないのか、カノンは可愛らしい声を出した。


「……」

「………………」


 そして見つめ合うこと数秒。カノンの目に理性の色が宿った。その瞬間、ボッと音が出そうなほどの勢いで顔が赤く染まる。


「……え? ……なん……で?」

「……いやなんでもなにも……俺が聞きたい」

「……あ。……え? ………………あ!」


 そこでカノンはイタズラと称し自らカナタのベッドに潜り込んだ事を思い出した。盛大な自爆である。


 カノンはスッと立ち上がると、もう一つのベッドへ直行。毛布で全身を覆った。


「……ぁぁぁあああ!!!」


 この日、カナタはカノンの叫び声を初めて聞いた。




 カナタはカノンを連れてギルドへと向かっていた。

 というのも報酬の件で話があるとの事で宿に連絡が入り、呼び出されたのだ。

 

 しかし何とも気まずい。

 あれから一時間ほど経つが、カノンが口をきいてくれない。というよりもベッドから出てきたのがついさっきだ。


 ……でもこれから人と会うんだよなぁ。


 なのでいつまでもこうしてはいられない。だからカナタは一歩後ろを歩いているカノンに話しかけた。


「なぁカノン」

「……ん」

「なんであんな事したんだ?」

「……」


 再び無言の時間が流れる。

 しばらく二人で歩いていたが、やがて観念したようにカノンは呟いた。


「………………疲れてたの」


 疲れていて思考が突飛な方向に働いてしまったということにしたかったカノン。しかし言葉足らず過ぎてカナタは首を傾げた。

 

「……疲れてた?」

「……ん」

「……疲れてベッドを間違えたってことか?」

「………………ちがう」


 カノンはカナタを背中を半眼で見つめる。

 頷いて誤魔化すのが丸く収まると思いながらもカノンは誤魔化したくなかった。

 やはり乙女心は複雑だ。


「ちがうのか……」

「……ん」


 カノンは頷くだけで何も言おうとはしない。

 だからカナタも諦めた。別に問い詰めることでもないと。悪意がなかったのなんて見ればわかるのだから。

 でも一つ言っておかなければならないこともあった。


「まぁいいけどさ。あまりああいうことはするなよ?」

「……しないもん」


 カノンが唇を尖らせて呟く。

 

「もんって……。カノンも女の子なんだからそこら辺はしっかりしてくれ。危ないからな」


 カナタの言葉にカノンは足を止めた。

 それを気配で察したカナタは振り返る。すると紅い目を真ん丸く見開いたカノンがカナタを見つめていた。


「……女の子?」

「……ああ。女の子だろ?」


 なにを当たり前のことをと思ったカナタだったが、口にはしない。そこらへんの配慮はできる男だ。

 するとカノンは口元に小さな笑みを浮かべた。


「……ふふ。……わかった。……カナタ以外にはしない」

「いや……俺にもすんなよ」


 先程までとは打って変わって上機嫌になったカノン。

 女の子扱いをされたのが嬉しかったからなのだが、カナタは訳がわからなかった。


 ……まあ機嫌も直ったようだしなんでもいいか。

 

 そうしてカナタは乙女心を理解することを放棄した。

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