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報告

 その後も襲撃に備えていたカナタとカノンだったが、特に問題は起こらなかった。

 魔物も弱くなり、数もまばら。

 ミシェルによるといつもの熱砂迷宮に戻っているとの事だ。

 

 そうして約半日を掛けてカナタとカノン、「遥かな空」の三人は無事に熱砂迷宮から帰還した。


「クライさん! シェリーさん!」


 五人が迷宮から出ると、先日カナタとカノンの応対をした受付嬢が駆け寄ってきた。


「無事……では無さそうですね。でも命があってよかったです」


 受付嬢はクライストンの左腕を見て、一瞬泣きそうな顔をしたものの堪えて笑みを浮かべた。

 そしてカナタとカノンに向き直り、深々と頭を下げる。


「カナタ様、カノン様。本当にありがとうございました」

「俺からも改めてお礼を合わせてください。お二人が居なければ俺とシェリーは助かりませんでした。本当にありがとうございました」

「「ありがとうございました」」


 受付嬢に続いて「遥かな空」の三人も深々と頭を下げた。

 

「ああ。礼は受け取った。だからアストランデのこと、よろしくな」

「はい! それは必ず」


 クライストンは力強く頷く。

 

「……じゃあカノン。行こうか」

「……ん」


 目的は達した。熱砂迷宮でカナタとカノンがやるべき事はもうない。

 

 それに、表には出していないが二人は疲労困憊だった。

 環境の厳しい熱砂迷宮の強行軍。未知の敵へと警戒。心身ともに余裕はない。


 ……この状態で帰るのは厳しいな。どこかで休んでからにしよう。


 カナタは客観的にそう判断し、その場を後にしようとした。

 しかしそこで受付嬢が待ったをかけた。

 

「あっ! すみません! カナタ様。カノン様。お疲れだとは思いますが、報告を聞かないといけなくて……」

「あぁ……。確かにそうですね。完全に抜けていました」


 出来るなら後日にして欲しい。

 率直にそう思ったカナタだったが、口には出さなかった。

 言えば許可された事だろう。なにせ勇者パーティであるカナタの願いだ。

 しかし、その間になにか致命的な事態が起きたら目も当てられない。


「……カノンはどうする? 報告だけなら俺だけでもいいけど」

「……わたしも同席する。……それが義務」

「わかった。ならもう少し頼む」

「……ん」

「本当にすみません。こちらの応接室へお願いします」


 受付嬢はもう一度頭を下げると応接室へと向かった。

 カナタとカノンも案内に続く。その間、「遥かな空」の三人は頭は下げ続けていた。


 ……律儀な事だな。


 そう思いはしたものの、決して悪い気分ではないカナタだった。


 

 

 応接室は質素な作りをしていた。

 余計なものは何一つない。あるのはソファが二つとその間に机が置かれているだけだ。

 カナタは機能性重視といった印象を受けた。


「お座りください」

「ありがとうございます。……それで、報告っていうのは何をすれば良いですか?」


 カナタとカノンが隣同士に座り、受付嬢はその対面に座る。

 

「主に交戦した魔物と迷宮内部の環境を教えていただければ」

「わかりました。では魔物から。俺たちが交戦したのは……」


 そうしてカナタは戦った魔物の種類、数。そして迷宮の環境変化に関して報告を行った。

 念のため、第二十六階層で感じた視線についても報告済みだ。


「砂塵竜に帝砂獣。それに変異種。……信じられない事態ですが、私は視線というのが気になりますね。記録上は誰もいないはずですが……」

「魔物の出現タイミングや種類に何者かの意図は感じていたので、居たと考えた方が自然だと思います」

「……そうですね。何者かが居た前提で考えておきます」


 受付嬢はメモに筆を走らせる。


「警戒はし過ぎるぐらいが丁度いいでしょうし」

「それがいいと思います」

「あとは……考えたくありませんが、S級に成ってしまった可能性ですね」


 受付嬢が難しい顔をして呟いた。

 

「俺も砂塵竜と遭遇した時、その可能性は考えました」


 A級迷宮にS級魔物は存在しない。

 したとすればそれはもはやS級迷宮だ。

 ウォーデンによると()()()迷宮は難易度が跳ね上がる。

 A級とS級とでは天と地ほどの差なのだとか。

 A級迷宮で自信を付けた冒険者が無謀にもS級迷宮に挑み、命を落とすなんて事は枚挙に暇がないらしい。


 しかしカナタには気になっていることがあった。


「ですが、今はその考えが揺らいでいます」

「それは帰路に異変が起きなかったからですか?」

「その通りです。もし第二十六階層で感じた視線の主が今回の異変を引き起こしていたのだとしたら辻褄が合います」

「つまり熱砂迷宮はA級のままで、今回の異変は視線の主が引き起こした。しかしカナタ様の攻撃で死亡、異変が解けたと言う事ですね」

「はい」


 カナタは頷いた。

 

「……そうだとギルドとしてはありがたいですね。……でも念のため調査はS級冒険者に任せるのが良さそうな気がします」

「それはそうですね」


 先程受付嬢が口にした通り、警戒するに越した事はない。カナタも異論はなかった。

 

「ちなみにカナタ様とカノン様の所見でいいのですが、異変の起きていた時の熱砂迷宮を踏破するにはどれだけの戦力が必要だと思いますか?」


 カナタは口元に手を当てて考える。


「難しい問題ですね。……参考までに『遥かな空』はA級ではどのぐらいのレベルですか?」

「トップクラスです。順調に行けばS級にも至れると私は考えています」

「ならA級冒険者がどれだけ増えたところで死人が増えるだけですね」


 カナタの言葉に受付嬢は絶句した。


「………………それほどですか」

「それほどです。二十階層という上層でS級魔物が出現したと言う事実が重いです。下層にはどれほどのバケモノがいるか……」


 もし奈落の森で交戦したヒュドラの変異種レベルが出現するのならばA級冒険者など邪魔なだけだ。居ない方がマシなんてこともあり得る。

 

「頭の痛い問題ですね。……ですがわかりました。ありがとうございます。カナタ様の意見はきっちりとギルドマスターにお伝えしておきます。お疲れの所、申し訳ございませんでした」


 もう一度、受付嬢が頭を下げたのでカナタとカノンは立ち上がった。

 

「いえ、お役に立てたようでよかったです。では俺たちはこれで」

「はい! ありがとうございました」


 受付嬢が立ち上がり、扉に駆け寄る。

 するとそこで思い出したかのように声を上げた。

 

「あっ! あとギルドマスターから休むのなら宿の手配はギルドでするようにと言われていますがどうしますか?」

「それはありがたいですね。カノンもそれで良いか?」

「……ん」

「じゃあそれでお願いします」

「わかりました。すぐに手配しますのでここで少しお待ちください」


 受付嬢が先に退出し、すぐに戻ってきた。そんなに待つ事にはならず、ものの数分だ。

 そうしてカナタとカノンは受付嬢から宿の場所を聞き、ギルドを後にした。




「うわ。すごいな」

「……ん。……ほんとにすごい。……こんなところはじめて」


 カナタとカノンが通された部屋はとびっきりに広く、家具も一目見て逸品だとわかるものばかり。

 ベットなんて王城にあった物と比べても遜色がない。

 それもそのはず。説明を聞いたところ、普段は位の高い貴族が宿泊する部屋らしい。

 視察に訪れた王族も泊まった事があるのだとか。

 ここを無料(タダ)で使わせてもらえるのだからギルドも太っ腹だ。何も文句はない。

 しかし、問題が一つあった。


「……なんで同室なんだ?」

「……わたしは気にしない」


 カノンはそう言ったが、そういう問題ではない。

 しかしカノンがあまりにも堂々としていた為、カナタは自分がおかしいのかと疑い始めた。疲れているのだ。

 しかしすぐに認識を改める。


 ……いやいや、俺はおかしくない。

 

「……いろいろまずいだろ」

「……わたしは気にしない」

「……」

「……」


 無言が空間を支配する。

 やがて疲れで頭が回らなくなってきたカナタは諦めた。めんどくさくなったとも言う。

 

「……はぁ〜。わかったよ。疲れたから俺は寝る」

「シャワー浴びなくて良いの?」

「………………魔術でなんとかするからいい」


 カナタが魔術式を記述すると身体中を雷が駆け巡った。

 雷で身体についた汚れを焼く魔術だ。風呂に入った方が気持ちがいいのであまり使わないが、今は一刻も早く寝たかった。

 

 カナタは綺麗になった身体で二つあるうちの一つのベットに飛び込む。ベットは思った通りふかふかで直ぐに睡魔が襲ってきた。


「……わかった。……おやすみカナタ」

「……あぁ。おやすみカノン」


 カナタの意識はそこで途切れた。

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