表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/239

視線

 素材を取り終わった「遥かな空」の面々と共に、警戒しながら第二十五階層へ続く階段を目指す。

 道中は異常なほど魔物に遭遇しなかった。それどころか気配すらない。本当にただの砂漠のようだ。

 

 好都合といえば好都合。

 しかしここまでの道のりを考えると違和感を感じざるを得ない。


 ……タイミングが良すぎるな。


 目的を達した瞬間、魔物の出現が止む。

 おかしいどころではない。カナタは何者かの意図を感じていた。


 そんなことを考えながら進む事数十分。無事に登り階段へと到着した。

 しかしやはり異変はない。


 ……何かが起こるならここだと思ってたんだけどな。


 人という物は何かの区切りで警戒心が緩むことが多い。

 探し物を見つけた、目的地に到着した等々。

 登り階段にたどり着いた今がそれだ。

 故にカナタは警戒心を引き上げていた。

 それはカノンも同様で、纏う雰囲気が鋭くなっている。


 しかし何も起こらない。


「……カノン」

「……ん。……大丈夫だと思う」

「わかった。ならシルと先に上がってもらえるか?」


 本来ならば後衛であるカノンを先導させるべきではない。

 だが、カナタはこの場に残す方が危険だと判断した。


 ……それにシルが居れば時間は稼げる。

 

「……ん」


 カノンは頷くと、階段を上っていく。

 やはり何も起こらない。


 ……杞憂だったか?


 そう思いつつ、「遥かな空」の面々も階段を上っていく。全員が上がったのを確認し、カナタも階段に足を掛けた。

 その瞬間微かな違和感を感じた……気がした。

 例えるならば誰かに見られているような、そんな感覚。


「――雷鳴鬼」


 額に顕現する()()()

 脳の制限(リミッター)を解除し、一瞬で魔術式を記述した。


 ――雷属性固有魔術:(イカズチ)


 一切の手加減は無し。

 これはカナタの持ち得る正真正銘の最大火力だ。


 視界が白く染まり、一瞬遅れて轟音が響いた。


「……カナタ!?」


 カノンが階段を駆け降りて来る。

 そこには砂漠へと警戒の視線を向けているカナタがいた。

 視線の先の砂漠は魔術によって地平線の彼方まで大きく抉れ、ガラス化していた。

 これではもし何かが居たのだとしても無事で済むはずがない。それこそ跡形もなく消し飛んでいることだろう。


 やがてカナタは警戒を解いた。

 額の二本角が消え、ふらついたカナタをカノンが支える。


「……大丈夫?」

「……ああ。やっぱ二本角は負荷が高いな。……もう大丈夫だ」


 そう言ってカナタは一人で立った。

 しかしカノンは心配そうな視線を向けている。


「本当に大丈夫だからそんな目すんなよ」

「………………わかった」


 不服そうにしながらもカノンは頷いた。


「……それで、何があったの?」

「視線を感じた気がしたんだ」

「……視線?」

「ああ。俺たちが去るのを待っていたのかもしれない。まあ気のせいって可能性も捨てきれないけどな」

「……でももし居たとしてもこれで生きてるとは思えない」

「まあな。カノンは何も感じなかったか?」

「……ん。……わたしはなにも」

「そうか。……じゃあ戻ろうか。先導は俺がしよう。……ほら、アホみたいに口開けてないで行くぞ」


 カナタの言葉に「遥かな空」の面々はハッと我に帰り、口元を引き締めた。

 女性二人組は恥ずかしそうに頬を染めていたのは言うまでもない。


 そうしてカナタとカノン、「遥かな空」のメンバーは地上へと向けて再度歩き始めた。




「………………ぷはぁ。……行きましたか」


 ガラス化した砂の中。

 そこから顔を出した一人の人間がいた。

 頭から足の先までを漆黒の外套で全身を覆い尽くしており、見るからに怪しい人間だ。

 声も中性的で男なのか女なのかさえ判別がつかない。

 

 そんな黒外套は外套の中に隠していたネックレスを手に取った。


「これが無かったら死んでいましたね」


 黒い星を逆さにしたネックレスだ。

 しかしそのネックレスは黒外套が手に取った瞬間にヒビが入り、灰となった。


「そうでした。使い切りでしたね。……それにしても」


 黒外套が周囲を見回した。

 遥か彼方から放たれた魔術だというのに、砂漠一面をガラス化させている。

 とんでもない火力と範囲だ。

 

「控えめに言ってバケモノですねぇ。あれが勇者ではないとは。至天の方々が警戒するのも頷けます」

「――首尾はどうですか?」


 声が聞こえた瞬間、黒外套は凄まじい速度で振り返り膝をついた。


「これはこれは、()()自らが足を運んでくださるとは」

 

 いつのまにか砂漠に一人の男が立っていた。

 長い金髪を靡かせ、白い外套を纏った男だ。

 特徴的なのはその顔。不気味な()みを浮かべた道化師のような仮面を付けていた。

 

「我らが主はこの計画に期待しています。ならば私が足を運ぶのは当然です」

「その通りですね。……イレギュラーはありましたが準備は終えています」

「イレギュラーとはこの惨状ですか?」

「ええ。勇者パーティの二人が来まして」

「……誰でしたか?」

「特徴的に考えるとカナタとカノン=アストランデでしょう」

「なるほど。これをやったのはカナタですか?」

「はい」


 仮面の男は顎に手を当てる。

 黒外套は仮面の男が再び口を開くまでただ黙っていた。


「……評価を修正する必要がありそうですね。……まあ良いでしょう。ともあれこの計画がうまくいけば貴方も褒美を賜われるでしょう。至天に至れるかは分かりませんが、期待しています」

「ありがたきお言葉。このミリエス、使命を果たします」

「では以後も計画通りに」

「はい。至天に栄光あれ」


 男は満足そうに頷くと一瞬で姿を消した。

 黒外套は忍び笑いを漏らす。


「……ふふふ。遂に、遂に私も褒美を! ならば失敗は許されない! 全身全霊をかけて貴方を殺しましょう。黒の暴虐、レイ!!!」


 誰もいない砂漠に黒外套の笑いが響き渡った。

ご覧いただきありがとうございます!


「続き読みたい!」「面白い!」と思ってくれた方は

下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いします!

面白いと思っていただけたら星5つ、つまらなかったら星1つと素直な気持ちで大丈夫です!

ブックマークも頂けたら嬉しいです!


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=755745495&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ