視線
素材を取り終わった「遥かな空」の面々と共に、警戒しながら第二十五階層へ続く階段を目指す。
道中は異常なほど魔物に遭遇しなかった。それどころか気配すらない。本当にただの砂漠のようだ。
好都合といえば好都合。
しかしここまでの道のりを考えると違和感を感じざるを得ない。
……タイミングが良すぎるな。
目的を達した瞬間、魔物の出現が止む。
おかしいどころではない。カナタは何者かの意図を感じていた。
そんなことを考えながら進む事数十分。無事に登り階段へと到着した。
しかしやはり異変はない。
……何かが起こるならここだと思ってたんだけどな。
人という物は何かの区切りで警戒心が緩むことが多い。
探し物を見つけた、目的地に到着した等々。
登り階段にたどり着いた今がそれだ。
故にカナタは警戒心を引き上げていた。
それはカノンも同様で、纏う雰囲気が鋭くなっている。
しかし何も起こらない。
「……カノン」
「……ん。……大丈夫だと思う」
「わかった。ならシルと先に上がってもらえるか?」
本来ならば後衛であるカノンを先導させるべきではない。
だが、カナタはこの場に残す方が危険だと判断した。
……それにシルが居れば時間は稼げる。
「……ん」
カノンは頷くと、階段を上っていく。
やはり何も起こらない。
……杞憂だったか?
そう思いつつ、「遥かな空」の面々も階段を上っていく。全員が上がったのを確認し、カナタも階段に足を掛けた。
その瞬間微かな違和感を感じた……気がした。
例えるならば誰かに見られているような、そんな感覚。
「――雷鳴鬼」
額に顕現する二本角。
脳の制限を解除し、一瞬で魔術式を記述した。
――雷属性固有魔術:雷
一切の手加減は無し。
これはカナタの持ち得る正真正銘の最大火力だ。
視界が白く染まり、一瞬遅れて轟音が響いた。
「……カナタ!?」
カノンが階段を駆け降りて来る。
そこには砂漠へと警戒の視線を向けているカナタがいた。
視線の先の砂漠は魔術によって地平線の彼方まで大きく抉れ、ガラス化していた。
これではもし何かが居たのだとしても無事で済むはずがない。それこそ跡形もなく消し飛んでいることだろう。
やがてカナタは警戒を解いた。
額の二本角が消え、ふらついたカナタをカノンが支える。
「……大丈夫?」
「……ああ。やっぱ二本角は負荷が高いな。……もう大丈夫だ」
そう言ってカナタは一人で立った。
しかしカノンは心配そうな視線を向けている。
「本当に大丈夫だからそんな目すんなよ」
「………………わかった」
不服そうにしながらもカノンは頷いた。
「……それで、何があったの?」
「視線を感じた気がしたんだ」
「……視線?」
「ああ。俺たちが去るのを待っていたのかもしれない。まあ気のせいって可能性も捨てきれないけどな」
「……でももし居たとしてもこれで生きてるとは思えない」
「まあな。カノンは何も感じなかったか?」
「……ん。……わたしはなにも」
「そうか。……じゃあ戻ろうか。先導は俺がしよう。……ほら、アホみたいに口開けてないで行くぞ」
カナタの言葉に「遥かな空」の面々はハッと我に帰り、口元を引き締めた。
女性二人組は恥ずかしそうに頬を染めていたのは言うまでもない。
そうしてカナタとカノン、「遥かな空」のメンバーは地上へと向けて再度歩き始めた。
「………………ぷはぁ。……行きましたか」
ガラス化した砂の中。
そこから顔を出した一人の人間がいた。
頭から足の先までを漆黒の外套で全身を覆い尽くしており、見るからに怪しい人間だ。
声も中性的で男なのか女なのかさえ判別がつかない。
そんな黒外套は外套の中に隠していたネックレスを手に取った。
「これが無かったら死んでいましたね」
黒い星を逆さにしたネックレスだ。
しかしそのネックレスは黒外套が手に取った瞬間にヒビが入り、灰となった。
「そうでした。使い切りでしたね。……それにしても」
黒外套が周囲を見回した。
遥か彼方から放たれた魔術だというのに、砂漠一面をガラス化させている。
とんでもない火力と範囲だ。
「控えめに言ってバケモノですねぇ。あれが勇者ではないとは。至天の方々が警戒するのも頷けます」
「――首尾はどうですか?」
声が聞こえた瞬間、黒外套は凄まじい速度で振り返り膝をついた。
「これはこれは、至天自らが足を運んでくださるとは」
いつのまにか砂漠に一人の男が立っていた。
長い金髪を靡かせ、白い外套を纏った男だ。
特徴的なのはその顔。不気味な嗤みを浮かべた道化師のような仮面を付けていた。
「我らが主はこの計画に期待しています。ならば私が足を運ぶのは当然です」
「その通りですね。……イレギュラーはありましたが準備は終えています」
「イレギュラーとはこの惨状ですか?」
「ええ。勇者パーティの二人が来まして」
「……誰でしたか?」
「特徴的に考えるとカナタとカノン=アストランデでしょう」
「なるほど。これをやったのはカナタですか?」
「はい」
仮面の男は顎に手を当てる。
黒外套は仮面の男が再び口を開くまでただ黙っていた。
「……評価を修正する必要がありそうですね。……まあ良いでしょう。ともあれこの計画がうまくいけば貴方も褒美を賜われるでしょう。至天に至れるかは分かりませんが、期待しています」
「ありがたきお言葉。このミリエス、使命を果たします」
「では以後も計画通りに」
「はい。至天に栄光あれ」
男は満足そうに頷くと一瞬で姿を消した。
黒外套は忍び笑いを漏らす。
「……ふふふ。遂に、遂に私も褒美を! ならば失敗は許されない! 全身全霊をかけて貴方を殺しましょう。黒の暴虐、レイ!!!」
誰もいない砂漠に黒外套の笑いが響き渡った。
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