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触媒

「何が……起きた?」


 カノンと黒砂塵竜の戦いを目に焼き付けていたクライストンは呟いた。

 

 理解の範疇を超えている。

 黒砂塵竜へと放たれる魔術の嵐。

 一発一発に膨大な魔力が注ぎ込まれている魔術(それ)をカノンは湯水の如く放っている。

 魔力切れなど無いかのように。

 それだけでもクライストンには理解できないものだった。

 しかし、真に理解できなかったのは最後の瞬間だ。


 今まで魔術を回避し続けていた黒砂塵竜が、鎌による斬撃に自ら突っ込んでいった。


「……自滅?」


 相手はS級魔物である砂塵竜だ。それも変異種。知能はそこらの魔物より遥かに上だろう。

 だからクライストンは自滅(そう)ではないと解っていた。しかしその目には自滅(そう)としか映らなかった。


「違う」

 

 クライストンの疑問に答えたのは、戦いを終えたカナタだ。

 既に額に角は無く、雷鳴鬼は解除している。一本角だった為に反動も殆どなかった。


「あの槍の魔術で誘導したんだ。だから自ら突っ込んだように見えた」

「……そんなことが可能なのですか?」


 クライストンは魔術師であるミシェルをちらと見たが、彼女は首を横に振った。

 その顔には「できるわけがない」と書かれている。

 

「……まぁカノンなら可能だろうな」


 カナタは言葉を濁した。

 カノンの演算能力はズバ抜けている。地頭が良いのは勿論だが、演算に鴉も使っている。

 だからこんな芸当が出来るように()()()

 

「途轍もないですね……」

「だな」


 カノンが鎌を消し、振り向いたのでカナタが声をかける。


「お疲れ様カノン」

「……ありがと。……カナタもお疲れ様」

「後続は?」

「……たぶんいない」

「ならサクッと触媒を取っておこう」

「……ん」


 カノンは頷くと、視線を上空に向けた。


「……警戒よろしく」

「カァァァ!」


 カノンの言葉に応えるように鴉が鳴き声を上げ、方々へと散っていく。


「心臓があればいいんだったか?」

「……ん。……心臓が一番魔力が強いから」

「わかった。なら俺は竜の方を取ってくるよ。すぐ分かるだろうし。正直あっちはよくわからない」


 カナタが指差した先には大きなクレーターがあった。

 底には黒い鱗に包まれた球体がある。黒帝砂獣の本体だ。

 一応は生物だがカナタはどこに心臓があるのか、まるでわからなかった。

 だけどカノンには魔眼がある。触媒に適した部位を探すのは簡単だろう。適材適所と言うやつだ。

 

「……わかった。……よろしく」

「おう。じゃあいってくる」


 雷鳴が轟き、カナタが姿を消す。

 カノンが黒砂塵竜の方を見ると、カナタは既に竜の元に辿り着いており作業を始めていた。


「……シルも警戒をお願い」

「ワオン!」


 そうしてカナタとカノンは触媒を入手した。

 当初の目的はA級魔物の触媒だったが、S級魔物の触媒を手に入れられた事は思いがけない幸運だった。




「さて。戻るか」


 黒砂塵竜の心臓を片手に戻ってきたカナタはカノンも作業を終えていることを確認して言った。

 そんなカナタにシェリーが首を傾げる。


「え? 素材は持ち帰らないんですか?」


 S級魔物の、それも変異種の素材は貴重な物だ。

 なにせ金になる。冒険者というのは、そういった素材を売却して生計を立てている。

 だから心臓だけを取り出して後は放置というカナタとカノンは不思議に映った。

 

「荷物になるし、触媒にならねぇからなぁ。カノンはいるか?」

「……いらない。……これがあれば十分」


 そう言って血だらけの手に持っていた心臓を見せてきたカノン。やはり絵面が完全にホラーだ。「遥かな空」の面々がドン引きしている。

 カナタはそんなカノンから心臓を取り上げると、魔術式を記述して水を生成。血を洗い流した。


「……ありがと」

「前みたいに結界を作ってくれるか?」

「……ん」


 カノンは五羽の鴉を呼び寄せると四角錐の結界を作った。カナタはそこに触媒を入れる。


「これでよし。……ってわけで俺たちは特にいらない。放置したらマズいとかあるか?」

「いえ。基本的に放置しますね」

「ならいいか。……ちなみに欲しかったりする?」

「……え?」


 シェリーはポカンと口を開けたが、すぐに慌てたように顔の前で手を振った。


「いえいえ! そんな図々しいことを言うつもりはありません! ただ、確実に大金になります。それに冒険者ならばS級魔物の素材は喉から手が出るほど欲しい物ですので気になって」

「って言ってもほとんど手ぶらだからなぁ。欲しかったら取ってきても良いけど? 幸い敵もいないし」


 カナタは先程から周囲を警戒していたが、新手の魔物が出てくる気配はなかった。

 カノンの鴉も反応していないところを見るに、少しの間なら安全だろう。


「……それに金は必要だろ?」


 カナタはクライストンの腕を見て行った。

 レスティナにあるかどうかはわからないが、地球には魔導義手という魔力で動く腕が存在する。

 回復魔術で治らない程の負傷をした魔術師はこれを使うことになるのだが、とにかく値が張る。


 レスティナにもあるのならば、それ相応の値段だろう。


「……確かにそうですね。救ってもらった上、素材まで恵んでもらうのは申し訳ないですが……」


 クライストンは申し訳なさそうに言った。

 

「別に気にしないでいいよ。俺たちには不要な物だ」

「わかりました。ありがとうございます。このご恩はいずれ必ず返します」

「本当に気にしないでいいんだけどな。……あぁでもコレを恩って感じてるなら、アストランデは怖くもなんともないってのをそれとなく冒険者たちに伝えてくれ」


 クライストンはぱちくりと目を瞬かせた。

 顔に「そんなことでいいのか」と書いてある。

 しかしそれはクライストンが北部出身の人間ではないからだろう。


 ……一番は北部出身のエルデが伝えてくれる事だけど。


 リーダーであるクライストンにも頼んでおいた方がより確実だろう。

 やがてクライストンはしっかりと頷いた。

 

「……わかりました。……必ず」

「じゃあ俺たちは周囲の警戒をしてるからなるべく早めで頼む」

「はい」


 そうして「遥かな空」の三人はクレーターの底へと駆け降りて行った。

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