黒砂塵竜
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カノンは遠方に見える黒砂塵竜をじっと見つめていた。
背後からは凄まじい戦闘音が聞こえてくるが、カノンは一切振り返らない。
カナタが負けるなんて事は、万に一つもあり得ないと知っているから。
黒砂塵竜はカノンの元へと一直線に飛翔してくる。
しかしおよそ三百メートルほどの距離を残してその動きを止めた。
そして、大きく羽ばたくと膨大な数の魔術式を記述する。
「……魔術勝負? ……受けて立つ」
黒砂塵竜の周囲に展開する風槍を見てカノンは呟いた。
カノンは自分が強者であると正しく認識している。
日々魔術を研究し知識を蓄え、最果てでさまざまな魔物と戦うことで研鑽を積んできた。一時も努力を怠った事はない。
アストランデを恐怖の象徴から変える。
その為にカノンが選んだ手段は人助けをする事だった。
よって、強さは絶対に必要だったのだ。強くなければ人を助けるなんて事はできないから。
結果としてカノンの強さはバケモノ揃いのアストランデでも最上位に位置する事となった。
そうしてカノンは村を出た。
まず向かったのは南だ。北側ではアストランデの恐怖は色濃く、人助けもままならない。
だから外堀を埋めるような形で南を選んだ。
それからは目的のために人助けをしながら各地を巡り、旅をしていた。もちろんアストランデと名乗って。
そんな時だ。
勇者パーティのメンバー募集の話を聞いたのは。
アストランデが勇者パーティに参加し、人類の敵である魔王を倒すことが出来れば、目的への大きな一歩となる。
実力に自信のあったカノンは迷わなかった。
試験を経て実力が認められたカノンは勇者パーティに無事加入することが出来た。
奈落の森ではしっかりと戦力に貢献し、カノンがいなければ伯爵令嬢の呪いは解けなかった。だから自分は役に立てたとカノンは自負している。
しかし問題は魔王との戦いだ。
カノンは魔王を一目見て自分が足手纏いだと悟った。
魔王のふとした気まぐれで自分は命を落とす。そんな確信があった。
違かったのはレイとカナタ、そしてラナだけだ。
ラナが氷壁を作り出した時にカノンは心の底から安堵した。してしまった。
カノンはそんな自分が許せなかった。
激戦の果て、なんとか魔王を封印することには成功した。
しかし、安堵してしまった事実は消えない。カノンは帰路の中、自問自答を繰り返していた。
自分は本当に仲間である資格があるのかと。
だが、カナタの言葉でカノンは考えを改めた。
カナタは生粋の魔術師であるカノン、ラナ、アイリス、ウォーデンを集めて言ったのだ。
「俺たちは弱い。魔法使いと枯死の翠との戦いを見ているだけだった。俺は二度とあんな思いはゴメンだ。みんなはどうだ? 同じ思いなら知恵を貸してくれ」
見ていることしかできなかった。
その点で言えばカナタも同じ心境だったのだと気付かされ、カノンは考えを改めた。
仲間である資格なんて言っている場合ではない。今は少しでも強くならなければいけない。
だから過ぎたことを悔やんでいる場合ではないのだと。
「……おいで」
カノンの呼びかけに答え、虚空から鴉が召喚された。
二十羽もの鴉が上空を旋回する。
「カァァァ!!!」
そして鴉たちは一鳴きすると魔術式を記述した。
記述した魔術式は二種類。
――呪属性攻撃魔術:呪影覇槍
――呪属性攻撃魔術:呪焉蝕杭
一つは影の様に真っ黒で巨大な槍。それが空中に留まり照準を黒砂塵竜へと合わせている。
そしてもう一つは禍々しい紫色をした杭だ。
杭は生み出された瞬間、重力に従い落下した。
カノンを取り囲む様に。少し離れた地面に等間隔で突き刺さる。すると突き刺さった箇所から円を描くように砂を紫色に染めていった。
突き刺さった杭と鴉を基点としてカノンは再び魔術式を記述する。
出来上がったのは巨大な立体魔術式。
――呪属性固有魔術:呪界
魔術が発動した瞬間、地を染めた紫色が禍々しい紋様を描いた。そしてカノンの真っ白い肌が浅黒く染まっていく。
「……この範囲に入らないで。……死ぬから」
カノンは「遥かな空」に向かって忠告したその時、黒砂塵竜が動いた。
「グォォォオオオオオオオ!!!」
大地を揺るがすような咆哮を上げ、展開していた風槍を射出する。
風を切り、一直線に突き進む槍を一瞥したカノンは一言告げた。
「……放て」
鴉から射出される十の呪槍。
それは迫り来る風槍を、無視した。
カノンに襲いかかる無数の風槍。それが呪界の縁に触れた瞬間、風槍が紫色に染まり、消え去った。
カノンは後衛の魔術師だ。
後衛の魔術師というものは接近戦に弱いという弱点を抱えている。それはカノンも例外ではない。
その弱点を克服する為にカノンが編み出したのがこの呪界だ。
領域に入った物を有機物、無機物問わずに呪い、消し去る。
呪界の中にいる限り、生半可な攻撃ではカノンに傷一つ付けることはできない。
風槍をすり抜けた呪槍は黒砂塵竜に殺到した。
しかし、黒砂塵竜は飛翔することにより軽々と回避。周囲の大竜巻をカノンへ向けて放つ。
だがそれも無駄に終わる。大竜巻も呪界に侵入した瞬間、紫に染まり消え去った。
「カァァァ!!!」
鴉が鳴き、次は二十羽を総動員して魔術式を記述する。
記述した魔術式は先ほどと同じく呪影覇槍。それが時間差をつけて放たれる。
そして放ち終えた鴉はすぐさま魔術式を記述し、次の呪槍を生み出す。
その様はまるで銃撃だ。
絶え間なく放たれる呪槍。黒砂塵竜もあまりの物量に防戦一方となる。
しかし空を自由に飛翔する黒砂塵竜に呪槍は当たらない。
攻撃に転じることができない黒砂塵竜。そして攻撃を当てることが出来ないカノン。状況は膠着したかに思われた。
しかし、カノンに焦りはない。
ただ、機を待ち続ける。
「……ここ」
やがて機は熟した。
呟いたカノンは大鎌を一振り。
すると刃から空間を塗り潰したかのような黒い斬撃が放たれた。黒砂塵竜はその斬撃に自ら突っ込んでいく。
そして直撃。
黒砂塵竜は一度大きく身体を震わせると、砂漠に墜落。そのまま動かなくなった。
死鎌の刃は呪いの塊。
それは触れただけで敵の命を奪う。S級魔物如きでは到底抗えない代物だ。
「……おわり」
カノンは呟き、大鎌を消した。
呪界も解除され、肌の色も戻っていく。
振り返ると既に戦いを終えていたカナタがいた。
「お疲れ様カノン」
「……ん。……カナタもお疲れ様」
戦闘終了。
二人は傷を負うこともなく、S級魔物を圧倒した。
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