表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/239

黒帝砂獣

 目の前で繰り広げられる激闘にクライストンとシェリーは己が目を疑った。

 敵は砂塵竜(ミコラス・エルグネラ)帝砂獣(グランドサンドワーム)の変異種。

 元がS級の砂塵竜は言うまでもなく、帝砂獣もA級冒険者では束になっても敵わない魔物だ。


 それが、圧倒されていた。


「ねぇミシェル。私、夢でも見てるのかな?」

「……私も初めはそう思ったよ」


 S級魔物相手に単身で圧倒しているその姿は、まるでかつて本で読んだ英雄の様。

 

「……これが勇者パーティ」


 クライストンとシェリーの目にはもはや絶望はなく、少年少女のようなキラキラとした瞳で激闘の行く末を見守っていた。




 カナタは瞬雷を使って、帝砂獣(グランドサンドワーム)もとい黒帝砂獣ブラックグランドサンドワームの頭へと肉薄した。

 刀に紫電を纏わせ切断力を上げ、振り抜く。……が体表を覆っている黒い鱗に弾かれた。


「……ん?」


 カナタは手に残った妙な感覚に首を傾げる。


 そして、試しに魔術式を記述した。選択した魔術は初歩中の初歩。


 ――風属性攻撃魔術:風弾(ふうだん)


 風属性の魔術を扱う魔術師ならば初めに習う魔術だ。

 特級魔術師であるカナタを持ってしても威力は低い。だが、検証としては十分だ。


 カナタの手から生まれた風の弾丸が黒帝砂獣に向けて放たれた。そして先程と同様に弾かれる。


 ……いや、弾かれたと言うより霧散しているな。


 この現象にカナタは心当たりがあった。


 ……反魔物質か。


 地球には反魔物質と呼ばれる物が存在する。

 一般的に魔術を無効化する物質だとされているが、それは正確ではない。

 魔術を構成している魔力を乱して散らすというのが正しい。

 

 よって魔術を完全に無効化できるわけではない。

 物質によってその許容量(キャパシティ)が決まっている。


 ……こりゃ面倒臭さが増したな。


 許容量を超えた場合、魔術は無効化できない。

 よって天壊てんかい(イカズチ)のような威力が高すぎる魔術は()()()()()()可能性がある。

 そうなれば元がA級の帝砂獣は原型を止めることができるのか。

 うっかり消し飛ばしてしまえば、カノンがまた肩を落とす事になるのは目に見えている。

 それは嫌だった。


 威力の低い魔術は無効化され、高い魔術では消しとばしてしまう。なんとも面倒な敵だ。


 ……魔術は極力使わない方針でいくか。


 カナタはそう決め、空中で刀を構える。

 その時、真下の地面が隆起するのが見えた。


 現れるは黒帝砂獣の()


「はぁ!?」


 空中を蹴り、瞬雷を使用。

 そのまま多角的に空中を駆け、新たに出現した頭の側面に回り込み、脚撃を放つ。


「キィイイイイイイイイ!!!」

 

 反魔物質の鱗が砕け、黒帝砂獣が耳障りな絶叫を上げた。頭が地面に激突し、砂煙が舞う。


 ……二体目? いや、尻尾も頭なのか?


「まあやることは変わらない。だけど斬撃よりは打撃の方が効きそうだなぁ?」


 カナタは刀を消し瞬雷を使う。そして倒れた頭へと急降下した。


「ハァッ!」


 鋭い呼気と共に雷で強化した拳を繰り出す。

 

 反魔物質の弱点。

 それは身体強化のような魔力を体内で循環させる魔術は無効化することができない事。

 雷鳴鬼は身体強化の極致とでも言うべき魔術だ。

 相性はとことん悪い。


 轟音が響き、鱗が陥没。そして粉々に砕け散った。

 顕になったのは白色の体表。

 カナタは刀を再度呼び出し、紫電を纏わせる。


「紫電雷覇!!!」


 白い体表に刀を突き刺し、雷を放出する。

 内部を焼き尽くされた黒帝砂獣の尾は地面をのたうちまわる。しかしすぐに動かなくなった。


 ……鱗を砕くのが早いか。


 カナタは再び瞬雷を使用、初めに出現した頭に肉薄する。

 しかし黒帝砂獣も黙ってはいなかった。頭の周りに無数の魔術式が記述される。


 ――地属性攻撃魔術:土槍


 魔術式がパッと輝き、土で出来た槍が山ほど出現。その照準はカナタへと向けられていた。


「……遅い」

 

 しかし、魔術式の記述速度が遅すぎた。

 魔王と比べれば雲泥の差だ。

 

 カナタも同数の魔術式をを一瞬で記述。現れた土槍の全てを雷槍で粉砕、そのまま黒帝砂獣の頭目掛けて拳を振り抜いた。


「キィイイイイイイイイ!!!」


 鱗が陥没し、砕ける。

 そこへカナタは刀を突き刺した。


「紫電雷覇!!!」


 先ほどと同じく内部を焼かれた頭は力なく倒れ伏した。


 カナタは地面に着地し、刀を消す。


「終わりか。随分あっけな――」


 カナタの言葉を遮る様に地中から黒帝砂獣の頭が顔を出した。それも五つ。

 新たに出現した黒帝砂獣は大口を開けてカナタに襲いかかる。


 ……新手か? いや違うな。


 カナタは己の考えを即座に否定した。先程から気配はずっと一つだ。だから二つ目の頭を尾だと推測した。

 ならば考えられることは一つ。


 ……どの頭も本体ではない。


 その推測を裏付ける様に黒帝砂獣の胴体は全て地面に埋まっている。


「……シル!!! 防御頼んだ!!!」

「ワオン!」


 カナタが叫び、シルが吠える。

 カナタは瞬雷を使い、襲いくる頭を全て回避。同時に殴り付け、大地に沈める。


 そしてカナタとシルが魔術式を記述した。


 ――風属性攻撃魔術:絶破

 ――風属性防御魔術:風魔防壁


 現れ出でるは純粋なる暴風。向かう先は五つの首が出現した中心点。


 暴風は砂漠の砂を根こそぎ吹き飛ばした。

 あまりの威力に砂の津波が出現。しかしシルの作り出した風の壁がしっかりと防ぐ。味方に被害は出なかった。


 そして現れたのは地中に埋まった反魔物質の鱗に包まれた黒き球体。

 そこからいくつもの黒帝砂獣が生えていた。


 ……相変わらず気持ち悪いな!


 カナタは瞬雷を使用。球体へと急降下し、拳を放つ。


「ハッ!!!」


 凄まじい轟音が鳴り響き、鱗が砕け散る。


 ……十中八九、これが本体。


 ならば打撃で倒した方が、上質な触媒が手に入る。カナタはそう考え、右拳を雷で限界まで強化した。

 溢れ出した魔力が紫電を迸らせる。


「――沈め」


 そして放たれる拳撃。

 その一撃は黒帝砂獣の命を狩り尽くした。

ご覧いただきありがとうございます!


「続き読みたい!」「面白い!」と思ってくれた方は

下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いします!

面白いと思っていただけたら星5つ、つまらなかったら星1つと素直な気持ちで大丈夫です!

ブックマークも頂けたら嬉しいです!


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=755745495&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ