砂塵竜ミコラス・エルグネラ
砂塵竜ミコラス・エルグネラ。
西部最果てには【無窮砂漠】と呼ばれる場所がある。
今まで何人もの高位冒険者を呑み込み、亡き者としてきた超危険地帯。
【無窮砂漠】に出現するのは全てS級の魔物で、砂塵竜もその中の一種だ。
巨大な翼による羽ばたきは大竜巻を作り出し、冒険者を砂塵の牢獄へと閉じ込める。
環境すらも支配する正真正銘の怪物だ。
「そんな……竜種だなんて」
ミシェルは砂塵竜に絶望の眼差しを向けていた。その身体はガクガクと震えている。
A級冒険者からしたらS級でも上位の強さを持つ竜の魔物は遭遇するだけで死が確定する魔物だ。
そうなるのも仕方ないだろう。
だが、震えていたのはミシェルだけだった。
カノンはいつもの無表情で特に何も感じていない様子。一方のカナタはというと露骨に舌打ちをこぼした。
「チッ。……時間がねぇってのに」
気にしているのは時間のみ。勝てないとは露程も思っていない。
ミシェルはそんなカナタを信じられない物を見るような目で見ていた。
「……どうする?」
「……殺るしかねぇだろ」
カナタは大きく溜息を吐いた。そして抱えていたカノンを地面に下ろす。
「カノンはミシェルさんを守ってくれ」
「……一人でいいの?」
「ああ。十分だ。……しっかし、竜殺しか。久しぶりだな」
カナタは結界の外に出ると、刀の切先を砂塵竜へと向けた。
砂塵竜とカナタの視線が交差する。
「五分で片付けてやるよ。クソトカゲ」
「……えぇ?」
ミシェルの呆けた声は竜の咆哮に掻き消された。
ズドンと雷鳴が轟き、地面が爆ぜる。
瞬雷を使い、一気に距離を詰めたカナタが刀を振るった。
「飛ぶ魔物は、翼を落とすのが手っ取り早い」
雷を纏った刀が、右翼を付け根から斬り飛ばした。
赤い血が吹き出し、砂塵竜が絶叫を上げる。
「グォォォオオオオオオオ!!!」
その瞬間、砂塵竜は残った左翼を羽ばたかせ五つの魔術式を記述した。
現れるは五つの大竜巻。
その場にいたら巻き込まれると判断したカナタは即座に瞬雷を使用。一度大きく後退した。
「竜種だもんな。魔術を使うのは当然か」
呟いた瞬間、五つの竜巻がカナタに襲いかかった。
砂を巻き上げ、地面を抉りながら竜巻が突き進む。
「力技か? いいだろう。付き合ってやるよ。ちょうど俺も試したかったんだ」
カナタは不敵に笑った。
そして地面に刀を突き刺すと、手のひらに立体魔術式を構築していく。
凄まじい速度で組み上がっていく立体魔術式。
それはとどまる事を知らず、どんどん大きくなっていく。
……ラナみたいに立体魔術式を何個も構築するなんてマネは俺にはできない。だが、大きくする事はできる。
構築した魔術式をひたすらに増築。
まるで樹が成長するかのように、立体魔術式が巨大化していく。
そして出来上がったのは、大樹のように上へと広がった巨大な魔術式。
――一を極めなさい。
レニウスが口にした言葉の真意はまだわからない。
だが、レニウスは魔法使いは概念を司るのだと語った。
ならば極めるべきは一とは己の象徴だ。仲間たちはそう結論付けた。
ラナならば氷。
アイリスならば癒。
カノンならば呪。
ウォーデンならば炎。
そして、カナタならば雷。
なればこそ、カナタは超自然現象である雷を作り出そうと考えた。
余計な物はいらない。
雷という現象を何の制約もなく放つ。ただそれだけの魔術だ。
「……消し飛べ」
――雷属性固有魔術:雷
轟音と共に閃光が爆ぜる。
今まさにカナタを呑み込もうとしていた竜巻が一瞬にして消滅。雷が砂塵竜を呑み込んだ。
視界が晴れた時、そこに居たのは黒焦げになった砂塵竜だった。
かろうじて息はあったがそれだけだ。勝負は既に決していた。
「五分も掛からなかったな」
カナタは歩きながら砂塵竜に近づくと、刀を一閃。その首を落とした。
圧倒。
砂塵竜が血を吹き出し、崩れ落ちる。
それと共に階層を満たしていた砂嵐が止んだ。
……やっぱりコイツが元凶だったか。にしても前より遥かに簡単だったな。
特級魔術師にとって竜種の討伐は既に通った道だ。
というのも、特級魔術師に選ばれる最低条件が竜種の単独討伐だからだ。
カナタは竜種討伐を弱冠十六歳にして成し遂げている。
それも全ては行方不明の親友を探すため。
一般社会ではサナが、魔術社会ではカナタが。
その為には特級魔術師という肩書きが必要だったのだ。
「……さて。カノン。ミシェルさん。進もうか」
「…………もう何が起きても驚きません」
「……ん。……帰りに余裕あったら触媒取ってもいい?」
「そうか。竜種の触媒は確かに欲しいな」
だが、今は時間がない。
触媒を取っていて間に合いませんでした、なんて事はあってはならない。
「場所だけでも覚えておこうか」
「……ん」
そうして三人は先へ進み、わずか二分後に降り階段を発見した。
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