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疾走

「ぎゃあああああああああああ!!!」


 背後に絶叫を聞きながらカナタは疾走した。

 しかし全力疾走をするとミシェルがシルから振り落とされる為、その辺の配慮はしっかりとしている。


 走り出して約一分後、目の前に魔物が現れた。

 漆黒の外殻に赤黒い(ライン)が入った禍々しく巨大な蠍、地獄蠍(ヘルスコーピオン)

 異変を報告したB級パーティを壊滅させた魔物だ。

 

 近接殺しと呼ばれるほどに硬い外殻と、まるで断頭台(ギロチン)のように鋭い鋏が特徴的な蠍だ。

 極め付けは尾から放たれる溶解液。いくら硬い盾だろうが瞬く間に溶かしてしまうと言われている。

 

 いくらA級迷宮だとしても、上層に出現する魔物ではない。

 それが二体。


 ……回避は……するまでもないな。


 カナタは大きく踏み込むと、瞬雷を使った。

 ズドンと雷鳴が轟き、瞬く間に地獄蠍の懐へと入る。

 

 速すぎて地獄蠍はまだ気付いてすらいない。そして気付く事は未来永劫ない。

 雷を纏った刀が閃き、一太刀の元に地獄蠍は両断された。


 そこでようやくもう一匹の地獄蠍が異変に気付いた。

 しかし、時すでに遅しだ。カノンが地獄蠍に向かって手のひらを向けていた。そこには魔術式が記述されている。


 ――呪属性攻撃魔術:呪槍影穴(じゅそうえいけつ)


 地獄蠍の足元に丸い影が出現。数多の槍が影から突き出し、地獄蠍を串刺しにした。

 絶命。

 戦闘時間、わずか一秒。


 カナタは足を止める事なく、駆け抜けた。


 そうして戦闘を繰り返す事、約五分。

 下層へと続く階段に辿り着いた。


「一層五分か。急がないとな」


 ギルドから借り受けた時計を見ると経過時間は約五分だった。残り時間は約三時間半。

 目的地は第二十六階層の為、一階層に掛けられる時間は約八分程度だ。

 下層に行くごとに時間が掛かることを考えればギリギリだろう。それに目的の階層に着いたからといってそこから捜索しなければならない。

 よって、きっちり三時間半の猶予があるわけでもない。


「ミシェルさん。行けるか?」

「は、はい〜」


 ミシェルはシルの上で目を回していた。しかし、体調に気を遣っている暇はない。


「悪いが、我慢してもらうぞ」


 そうしてカナタたちは第二階層に足を踏み入れた。




 第二階層もただひたすらに駆け抜けて通過した。

 階段までの距離もそれほど変わることなく五分ほどで辿り着いた。

 第十一階層からは階層面積が広くなったため少し時間がかかったが第二十階層までは無事に踏破できた。

 経過時間は約二時間。残り時間は約一時間半といったところだ。

 捜索に時間がかかるとして一時間以内には辿り着きたい。


 ……やっぱり余裕はねぇな。


 ミシェルが言うにはこの先の階層はかなり広くなるらしい。

 カナタは内心で焦りながら、第二十一階層へと続く階段を降りていく。

 その途中で異変に気付いた。


 ……風の……音?


 階段を降り切ってその原因が判明した。


「……なんだこれ」


 目の前に広がる光景を見て、カナタはつい足を止めた。

 そこにあったのは砂塵舞う砂漠だ。視界が悪く、先がうっすらとしか見えない。

 

「ミシェルさん。これはいつも通りか?」

「いえ、熱砂迷宮は第三十階層まで環境変化はありません。砂嵐の起こる環境は第四十階層からです。それに……こんなに酷くはありません」

「……ならこれも異変か。案内は出来るか?」

「階段は南南東の方角ですが……」


 ミシェルが指を差した方角にカナタは視線を向ける。

 その先には天を衝かんとする螺旋、大竜巻が荒れ狂っていた。


「直進は無理か? ……でも時間がない。行くしかないか……」

「……カナタ。……ちょっと待って。……おいで鴉たち」


 カノンの呼びかけに応え、虚空から十羽の鴉が姿を現した。

 続けてカノンと十羽の鴉が魔術式を記述する。


 ――呪属性結界魔術:呪皇境界(じゅおうきょうかい)


 紫色の線が鴉を頂点にして繋がっていく。やがて出来上がったのは多角形の結界だった。

 

「……これで直進できる。……たぶん?」

「たぶん? ちなみに自信の程は?」

「……よゆー」


 カノンがカナタの胸の中でピースサインをした。カナタはニヤリと笑みを浮かべる。


「……え? ……嘘ですよね? ……まさか突っ込むとか言わないですよね?」

「そのまさかだ。わざわざ迂回してたら時間が足りねぇ。……いくぞ」


 カナタの姿が掻き消え、一瞬遅れてシルが疾走を開始した。

 

「……うそ!? ……え? ぎゃああああああああ!!!」


 熱砂迷宮に再度絶叫が響き渡った。




 次々と現れる魔物の群れ。

 地獄蠍(ヘルスコーピオン)はもちろんのこと、尾が二つある巨大な蠍、双尾蠍ツインテール・スコーピオンや毒々しい赤色をした蟻、焔獄蟻(ヘルフレア・アント)などが三人を襲う。


「いくらなんでも……! 多すぎじゃねぇか!?」


 カナタが舌打ちをしながら、魔術で地獄蠍を貫いた。

 

 先程までいた階層とは次元が違う。

 一体倒している間に二体、二体倒している間に四体と、砂の中から魔物が次々と湧いてくる。

 文字通り際限がない。


 だが、それでもカナタたちの足は止まらなかった。

 前方に出現する敵だけを倒し、他は無視。背後からの攻撃はカノンの結界が防いだ。


 するとあっという間に大竜巻の前まで辿り着いた。


「突入するぞ!」

「……ん!」

「ええええ!? ほんとに!? うそでしょぉぉぉおおおおお!!!」


 カナタは悲鳴を聞き流しながら、大竜巻へと突入した。

 砂塵が勢いを増し、結界外の視界が悪くなる。だがそれでもカナタは突き進んだ。


 ……ん? なんだ?

 

 中程まで進んたところでカナタは異変に気付いた。


 ……魔物が居なくなった?


 あれだけ居た魔物の群れがピタリと止んだ。


 ……まあ、好都合か。


 と思った瞬間、ふいに視界が開けた。


「……おいおい。嘘だろ?」


 そこに居たのは一体の魔物だった。

 背には巨大な翼。体表は茶色の鱗に覆われており、腕は大樹のように太く、力強さを感じさせる。

 頭部には多数の角が生えており、その眼は金色に輝いていた。


「……砂塵竜ミコラス・エルグネラ」


 ミシェルが呆然と、その竜の名を呟いた。

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