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王都グランゼルを出立してから約六時間。
カナタとカノンは予定通り、迷宮都市ネッサに到着した。
ネッサはA級の迷宮都市というだけあってかなり広い。だが広いといってもナラクほどではなかった。
ナラクは防壁が三つあったが、ネッサは一つだ。
二人は馬車に乗りながら防壁を潜った。すると直ぐに、窓の無い直方体の建築物が見えてきた。
迷宮への入り口だ。こんな建物は一つしかないので非常に目立つ。
停留所は入り口のすぐ側にあった。
「そういやナラクじゃ気にしなかったけど、この建物って名前はあるのか?」
「……たしか正式名称は冒険者ギルド迷宮管理局。……長いからみんなギルドとか入り口とか呼んでるって聞いた事がある」
「たしかにそっちの方がわかりやすいな」
二人は馬車を降りると早速ギルドへと向かった。
ギルド内の構造はナラクの物と同じだった。入ってすぐの場所は待合室で、正面に三つの受付がある。
しかし受付には一人しか受付嬢がおらず、誰も並んでいなかった。人が極端に少ない。
……異変の影響だろうな。
そんなことを思いながらカナタはカノンと共に受付嬢の元へ向かう。
「ようこそいらっしゃいました。ご用件はなんでしょうか?」
薄緑色の髪をした受付嬢が笑みを浮かべて上品なお辞儀をした。思わず見惚れてしまいそうなほど完璧な所作。しかしその顔には隈ができており、疲労が色濃く浮かんでいた。
「初めまして。カナタといいます。一応勇者パーティの一員なんですが、わかりますか?」
「……は? ……え? カナタ様ですか!?」
受付嬢はポカンと口を開けた後、目を見開いた。その目は救世主を見つけたかのように輝いている。
「まさかカナタ様が救援の方ですか? ……でも到着は明日だって」
「救援? ……いえ、俺はたまたまこの迷宮に用があっただけです」
「あ……そうなんですね」
受付嬢はあからさまに肩を落とした。悲壮感漂うその様子は見ていて気の毒に思えてくる。
「……でも困っているなら力になりたい」
「えっと……そちらは?」
「カノンだ。カノン=アストランデ」
「え!? カノン様まで? って言うことは勇者様もいらっしゃるんですか?」
また瞳に輝きが戻った。表情がコロコロと変わる女の子だ。
だが、サナはこの場に居ない。
「いえ、申し訳ないですがここに来たのは俺とカノンだけです。ひとまず状況を――」
「――お願いします!!!」
その時、カナタの声を掻き消すような大声がギルド内に響いた。
カナタとカノンが声の方向に視線を向けると、そこには聖騎士の足に縋り付いている男がいた。
「仲間がまだ……中にいるんです! ……どうか……どうか救援を!」
赤髪の青年だ。
身に付けている鎧は無惨にも砕け、穴が空いている。見れば残った鎧の所々に血が固まって赤黒く変色している箇所もあった。
帰還したばかりなのか、肩で息をしている。
「私たちからもお願いします!」
「どうか救援を!」
パーティメンバーだろうか、青年の後ろにいた男女も声を張り上げた。
この二人も装備はボロボロで、色々な箇所に傷を作っている。無事な所を探す方が難しい。
しかし、そんな訴えを聖騎士は首を振って拒んだ。
「なりません! 話が本当ならば、戦力不足です。万全を期すため現在S級冒険者を招集中ですのでお待ちください」
「S級はいつくるんですか!?」
「……早くても明日です」
聖騎士は悔しそうに顔を歪めると俯いた。それでは間に合わない事がわかっているのだろう。
「それでは遅いんです!」
「――あれは?」
尚も食い下がる男を見ながら、カナタは受付嬢に聞いた。
「彼らはA級冒険者パーティ『遥かな空』です。本当は五人なのですが……」
「あぁなるほど。そう言う事ですか」
言葉から察するに迷宮内に仲間が取り残されているのだろう。囮になったのか逸れたのかは定かではないが、結果として生き残ったのは三人。
そしてその三人は仲間を助けようとしている。
「……あの」
受付嬢が控えめな声でカナタに声をかけた。
口元がキュッと引き結ばれ、言おうか言うまいかを迷っている様子だ。しかし、結果として彼女は口を開いた。
「受付嬢として特定の冒険者に肩入れするのは良くありません。……ですが、『遥かな空』は知り合いで……その、とてもいい人達で……」
受付嬢は俯きながら、今にも泣きそうな声で言葉を溢した。それだけで、「遥かな空」は人望が厚いのだとわかる。
「だから――」
「……言わなくていい」
カノンが受付嬢の肩に手を置いた。受付嬢がハッとして顔をあげる。
そしてカノンは無表情ながらも、しっかりとした笑みを浮かべた。
「……わたしたちが助けに行く。……カナタ。……いい?」
カナタの裾をギュッと握りながらカノンは聞いた。
「無論だ。人助けだろ? 手伝うって約束したもんな」
「……ありがと」
カノンは微笑むと、今だに押し問答を繰り広げている男の元へと向かう。
カナタもそれを追うと、後ろから声が掛かった。
「……ありがとうございます!」
「礼はちゃんと助け出せてから貰うよ」
「はい!」
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