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魔眼

「……わたしの眼は魔力が見える」

「魔眼だよな」

「……ん。……でもそれは副産物で本当の力は違う。……この魔眼は幻鏡眼(げんきょうがん)。……地球にはない?」

「げんきょうがん? 聞いたことないな。能力は?」

「……風景が見える()()

「風景? ……()()?」

「……ん」


 カノンは頷いた。

 

 魔眼は魔術というよりは異能に近い存在だ。

 異能とは魂に刻まれた力で、その力が眼に影響を及ぼし、発現した物を魔眼という。

 

 地球でも稀に魔眼を持つ者が生まれる。

 有名なのは見たものを石化させる石化眼、真実を見抜く真実眼、精神に干渉して人を操る操心眼などがある。

 だが、風景を見る()()という魔眼をカナタは聞いたことがなかった。


「それは千里眼の類か?」


 視界を遠方に飛ばし、千里先までをも見通す魔眼だ。

 しかし、カノンは首を横に振った。

 

「……違う。……多分この世界の風景じゃない。……その世界は停まっていて、とても幻想的な風景だから。……そこには見たこともないような生き物がたくさん居る」

「……停まっている? もしかして、召喚魔術はそこから?」

「……そう」


 カノンは頷いた。


「不思議に思ってたんだ。どうやって異界を観測するのかって。でもそういう事なら納得だ」


 召喚魔術とは異界から幻霊と呼ばれるモノを召喚する魔術だ。

 しかし異界という物は不確かな物で、観測のしようがない。よって召喚魔術というものは理論上は可能だが、実現は不可能だとされてきた。

 しかし、その異界を観測できる()があるのなら話は変わってくる。


「だから召喚魔術はわたしにしか使えない。……そしてそれが視える事はわたしにとって当たり前だった」


 見えている世界が、他とは違う。

 それは辛い事だろうとカナタは思った。なにせカナタにも経験がある。


「俺もそうだった」

「……カナタも?」

「ああ。地球には魔術なんて知らない人間が殆どなんだ。だから魔力が見える俺は異端だった。みんなには気味悪がられたものだよ」

「……わたしも。……似てるね」

「そうだな」

「……カナタはどうやって克服したの?」

「……レイが助けてくれたんだ。……あいつは覚えてねぇけどな」

「……その話聞きたい」

「……いいけど、本人には内緒な?」

「……ん!」


 カノンが食い気味に頷いた。無表情なカノンのそんな様子が珍しく、カナタは苦笑を漏らす。

 

「あれは何歳の時だったかな? 幼稚園に入る前だったか? 魔力……当時はモヤモヤしたものって認識だったんだけど、公園で遊んでた時にそれが視えるって友達に言ったらまあ気味悪がられて誰も遊んでくれなくなった。そこに現れたのがレイだ。偶然通りかかったレイが一人で遊んでた俺に声を掛けてきたんだ」

「……へぇ」

「暇なら遊ぼうぜって。んで知っての通りレイには魔力がない。だからモヤモヤが見えなかったんだ。俺は不思議に思って『なんでモヤモヤがないの?』って聞いたんだよ。そしたらなんて言ったと思う?」

「……なんて?」

「『もやもや? そんなのはいいから早く遊ぼうぜ』って。人が悩んでいるものをそんなの呼ばわりだ。信じられるか?」


 カナタは肩を(すく)めると苦笑を浮かべた。


「怒ろうとしたんだけどレイがあんまりにも気にしてなくてな。怒る気も起きなくなったんだ。それ以前に俺の悩みなんて些細な物だとわかった」

「……無神経」

「だろ? でも俺はレイの言葉に救われた。レイは俺に救われたって言ってたけど、その前に俺が救われてたんだよ。少しして再会した時、俺のことをアイツは覚えてなかったけどな。だから死んでも言わねぇ」


 唇を尖らせたカナタを見て、カノンはクスリと笑った。

 

「……だからそんなに仲良いんだ」

「そういう事。ちなみにカノンは?」

「……わたし? ……わたしは自分の世界に閉じこもったの。……アストランデは物心ついた頃から戦闘訓練を受ける。……最果ては危険だから。……でもわたしは受けさせてもらえなかった。……だから家に閉じこもって本ばかり読んでた」

「本?」

「……そう。……魔術の事が書かれた難しい本。……それしかやる事がなかったから。……その時に眼の事を知った。……そして召喚魔術を使ったら周りの評価が変わった。……アストランデは良くも悪くも実力主義だから」

「なるほどな……。カノン。もう一つ聞いていいか?」

「……なに?」

「言い難い事なら言わないで構わない」


 そう前置きしてカナタは言った。


「なんでアストランデを恐怖の象徴から変えるなんて目的に至ったんだ? その境遇なら恨んでてもおかしくないだろ?」

「……それは簡単な事。……理不尽だから」


 カノンはキッパリとそう口にした。

 

「理不尽?」

「……一度だけ村を出る機会があった。……その時にわたしたちに向けられた視線が恐怖。……ただ歩いていただけなのに。……本を読んで知ってはいたけど、経験してみると全然違った。……そしてわたしは思ったの。……これは間違っている。……理不尽だって。……わたしたちの先祖は決して間違ったことをしていない。……だからわたしはこの現状を変えたい。……たしかに恨みはないわけじゃないけど、それとこれとは別問題」

「なるほどな。カノンはすごいな」

「……すごい?」

「ああ。すごいよ。俺ならそんな扱いを受けてその思考はできない。カノンは誰よりも優しいんだな」

「…………よくわからない」


 そう答えたカノンの顔はすこしだけ赤かった。

 

「わからなくてもいいさ。俺が知ってるからな」


 その時、馬車が目の前で止まった。


「熱砂迷宮行きです。乗りますか」

「はい。……じゃあ行こうぜカノン」

「……ん」


 カナタが差し出した手を取り、カノンは俯きがちに立ち上がった。

 心臓の鼓動がうるさいぐらいに鳴っている。それに気付かれないようにと祈りながらカノンは馬車に乗り込んだ。


 そうして二人はA級迷宮、熱砂迷宮へと向かった。

 

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