墓参り
その後、俺はラナを連れてレストランに入った。
高級なレストランではなく、偶然目についた小綺麗なレストランだ。
決め手は個室があった事。
流石に変装しながらのディナーでは堅苦しくて嫌だとお互いに意見が一致したからだ。
結果として店選びは大成功だった。
通された個室は広く清潔で料理も美味しい。王族であるラナが幸せそうにしていたので相当な味だったのだろう。
俺も大満足だ。
途中で注文を取りに来たウェイトレスがラナを見て驚くという一幕があったが、そこは流石プロ。声一つ出さなかった。
個室があるという事でそういう教育は充分にされているのだろう。
これならまた来たいと思う程にはいい店だった。
「美味しかったね!」
「だな。また来よう」
店を出ると辺りは闇に包まれていた。
道を照らすのは等間隔に配置された街頭と、月明かりのみ。レスティナではこの時間になると人がまばらになってくる。
歩いている人々も家路についている最中だろう。
これだけ遅くなってしまうと昼間に行ったアイスクリーム店は閉まっていそうだ。
「今日はもう遅いし帰ろうか。アイスはまた今度かな」
「そうだね。……だけどなんか……少し寂しいね」
ラナが曖昧な笑みを浮かべた。
言いたい事はわかる。俺も同じ気持ちだからだ。
「昔、サナとカナタと遊んだ帰りもこんな気持ちになったな」
それは小学生の頃の思い出。
夕暮れと共に家に帰らなければいけないあの寂しさと同じだ。
「私も昔アイリスとお忍びで来た時と一緒。でも今日の方がもっと寂しいかな」
「そう言ってもらえると彼氏冥利に尽きるな。またラナの時間が空いたら来よう」
いつでも、はラナの王女という立場が許さないだろうがこれからまだまだ時間はある。
こういう機会は幾度となくあるだろう。だからその度に楽しめばいい。
「うん! そうだね! 約束だよ?」
「ああ。約束だ」
はにかんだラナの手を取り、俺たちは帰路についた。
王城の門を潜ると大きめの広場に出る。
城に入るにはそこからさらに進む必要があるのだが、ラナは広場の中心で足を止めた。
「ラナ?」
声を掛けると、ラナは城への入り口ではなく裏口へと続く通路を見ていた。
ラナの顔は陰になっていて見えない。
「私、最後に行きたいところがあるんだけどいい?」
どこに行きたいのかはわからないが、きっと大切な事なのだろう。
ラナの纏う雰囲気から察することができた。
だから俺は頷く。
「もちろん。付き合うよ」
「ありがと。こっち」
ラナに手を引かれ、裏口へと進む。
しかし向かっている先は裏口でもないようだった。ラナは裏口を素通りするとさらに奥へと進んだ。
迷路のような道をしばらく歩いていると唐突に視界がひらけた。
「これは……すごいな」
俺は思わず感嘆の息を漏らした。
そこにあったのは庭園だ。
純白の花弁を付けた花々が月明かりを反射して煌めいている。その風景は幻想的で、浮世離れした美しさがあった。
ラナは花に照らされた道を迷うことなく進んでいく。
やがて小さな広場に出た。
「ここは……」
広場には二つの石が並んでいた。
石は綺麗に整えられていて、表面に何かが書かれている。
ラナはその石の前へと進み、膝をついた。俺もラナの隣で膝をつく。
そこで気付いた。
……あぁ。これは墓石か。
石の表面に書かれていたのは名前だった。
グライスフィール=ラ=グランゼル。
エリス=ラ=グランゼル。
ラナの両親だ。
「私、帰ってきて初めに来るならレイとが良かったんだ。帰ってこれたのはレイのおかげだから……。それに、二人にちゃんと紹介したいし」
「そうだな。俺もちゃんと挨拶しないとな」
「うん」
ラナは祈るように手を組んだ。そして墓石に語りかける。
「お父さん。お母さん。遅くなってごめんね。私、ちゃんと帰ってきたよ。……今日は二人に紹介したい人がいるんだ。……彼は柊木レイ。わざわざ地球から私の事を救う為だけに来てくれたの」
そう言ってラナが俺を見た。なので今度は俺が挨拶をする。
「初めまして。柊木レイと言います。ラナさんとは真剣にお付き合いさせてもらっています」
「……見ての通りレイのおかげで私は今、幸せだよ。仲間も増えたんだ。レイの幼馴染のカナタとサナ。サナは勇者なんだ。あとあのアストランデのカノンとS級冒険者のウォーデンさんも。みんなレイが繋いでくれた縁」
ラナが滔々と語る。
「それに……私がいない間、アイリスががんばってくれたおかげで王国は平和だよ……。……だから…………だから」
ラナの言葉に嗚咽が混じる。目からも煌めく雫が流れ落ちていく。
俺は静かにラナの肩を抱いた。
「これからは……アイリスと二人で! …………違うね。今は支えてくれる人が……いっぱいいる。……みんなで力を合わせてがんばっていくから! だから……安心して天国で見守っていて! そして、もしまた会えたら……がんばったねって…………昔みたいに頭を撫でてね! 愛してるよ、お父さん!!! お母さん!!!」
言い切ってラナは気丈に笑みを浮かべる。
涙は流れ続けているけれど、その笑顔は輝いて見えた。
「……ちゃんと届いたかな?」
「ああ。これからも天国で見守っていてくれるよ」
「……うん。…………ごめんねレイ。ちょっと胸を貸して」
「もちろん」
ラナは俺の胸に顔を埋めると、声を上げて泣いた。
俺はそんなラナの背中をさすりながら、目を瞑り墓石に向かって黙祷を捧げる。
……あなた方が守り続けた国と娘たちは、今度は俺が命を賭けても守り通します。だからどうか安心して、安らかにお眠りください――。
初デートおわり!
こういう二人の日常的な話も書きたかった!ようやく書けた!
よければ感想等頂ければ嬉しいです!
明日からは少しの間、カナタとカノンの話になります!
触媒を取りに迷宮へ行きます!
お楽しみに〜!




