冒険者登録
ラナと共にカウンターへと向かう。
カナタが目立ったせいで、俺たちもかなり注目されていた。
「あれって黒の暴虐じゃないか?」
「でも隣の人は誰だろう? 聖女様?」
「って事はやっぱりさっきのはカナタ様とカノン様だったのかな?」
「勇者パーティに喧嘩を売るなんてバカだなぁ」
そんなヒソヒソ話が聞こえてきた。
ラナはバレていないようだが、俺は完全にバレている。
「反応しちゃダメだよ?」
「大丈夫。わかってる」
こういうのは九十九パーセント、バレていたとしても確定させなければいい。一パーセントでも違う可能性があるのなら迷うのが人間というものだ。
俺たちは集まる視線に居心地が悪くなりながらも端の列に並んだ。
そうして待つこと数分、人も少なかったのですぐに順番が来た。
「ようこそいらっしゃいました。創世教冒険者ギルドへようこそ。ご用件をお伺いします」
シスター服を纏った受付嬢が柔和な笑み浮かべる。
輝くような金髪と柔らかい雰囲気は、むさくるしい冒険者にはさぞ人気が高そうだ。
「冒険者登録をお願いします」
「お二人ですか?」
聞かれて気付いた。
……そういえばラナはどうするんだろう。
てっきり登録済みなものとばかり思っていたが、そもそもラナは王女だ。登録していたらしていたで問題がありそうな気がする。
そう思い、ラナを見たら頷かれた。どうやら登録していなかったらしい。
「二人でお願いします」
「かしこまりました。ではこちらの用紙にご記入をお願いいたします」
受付嬢から用紙とペンを受け取る。
記入すべき情報は名前と年齢、使う武器、魔術が使えるなら得意属性といった感じだ。項目はさほど多くない。
……名前はレイだけでいいか。武器は刀っと。
すぐに書き終わった。ラナも書き終わったようで同時に受付嬢に用紙を渡す。
そして、受付嬢がサッと用紙に目を通した。
「……え?」
用紙と俺たちの顔を見比べる受付嬢。
「……あの! ギルドマスターを呼んできます!」
慌てた様子でそう言い残すと、すごい勢いで去っていった。
「まあそうなるよね」
ラナは苦笑していた。俺は声量を絞って聞く。
「本名で書いたのか?」
「登録で嘘は書けないし、この際だからと思って」
テヘッと舌を出したラナはお茶目で可愛かった。
でも大丈夫なのだろうか。ここでバレたら面倒なことになりそうな気がする。
「安心して。たぶん大丈夫。個人情報をわざわざ喧伝するようなことはしないと思うから。カナタとカノンも大丈夫だったでしょ?」
確かにその通りだ。
あの二人も勇者パーティのメンバーとして顔は知られている。なにせ試験で活躍した魔術師と、S級冒険者であるウォーデンの攻撃を真正面から受け止めた剣士だ。
その二人が大した騒ぎも無く、無事に登録できたのだからおそらく問題はない。
「……絡まれてたけどな」
「それは言っちゃダメ」
ラナは苦笑しながら人差し指を口に当てた。
「お待たせいたしました!」
そんなことを話していると、金髪の受付嬢が息を切らせて戻ってきた。
「ギルドマスターがお会いしたいそうです!」
俺たちは受付嬢の案内でカウンターの中へと通された。
「こちらです」
受付嬢の後を追っていくと、一つの部屋の前にたどり着いた。他の部屋とは違い、扉の装飾が派手な気がする。
見るからに偉い人がいそうな部屋だ。
受付嬢が扉をノックする。
「フェルナンド様。お連れいたしました」
「……フェルナンド?」
ラナが首を傾げ、小声で呟いた。しかしその声は扉の中から響いた声に掻き消される。
「お通ししろ!」
受付嬢によって扉が開かれ、俺たちは中へと入った。
すると事務机に向かっていた男が立ち上がる。
白髪をオールバックにし、キッチリとしたスーツを着こなした男だ。右目に掛けた片眼鏡のせいか、理知的な印象を受ける。
顔に刻まれた皺が初老であることを示しているが、衰えているという印象は全く受けない。
……強いな。
一目で分かる。
立ち振る舞いに隙がない。この男はいくつもの修羅場を潜り抜けてきた猛者だ。
おそらくはウォーデンに勝るとも劣らない強さを持っているだろう。
しかし残念なのはその左腕。
開いた窓から吹き込んできた風が、スーツの左袖をヒラヒラと揺らす。肩から先が無いことは明白だった。
男はラナに目を止めると、前まで来て膝をついた。
「……姫様。……よくぞ、よくぞご無事で」
その声は震えていた。
「……久しいですね。フェルナンド。このような場所で再開できるとは思ってもみませんでした」
「……私もで御座います。まさか再びお会いできるとは。……姫様…………申し訳ございません。私は……私は陛下を守れなかった!」
フェルナンドは絞り出すように、懺悔するように言葉を紡いだ。見れば肩が震えていた。
「なのにも関わらずこうして生き恥を晒しております。その上、姫様を見つけることもできず。どのような処罰でもお受け――」
「――フェルナンド」
ラナがフェルナンドの言葉をぴしゃりと遮った。
「一つ聞きます。ギルドマスターになったのは私を探す為ですか?」
しかしてフェルナンドは頷く。
「――はい」
「ならば私の言うことは一つです。大義でした。父に代わり、私から最大限の感謝を」
「…………勿体なきお言葉」
フェルナンドがより一層頭を下げる。
「知り合いなんだな」
「フェルナンドには小さい頃からお世話になってたから」
「小さい頃……?」
「うん。フェルナンドは前騎士団長なんだ」
「なるほど。通りで強いわけだ」
今の騎士団長であるソルドも元はS級冒険者だ。ならば前任であったフェルナンドはそれ以上であってもおかしくない。
「それでフェルナンド。姫にお茶のひとつも出せないのですか?」
「……姫様には敵いませんなぁ。すぐにお持ちします」
顔を上げたフェルナンドは草臥れたように笑った。
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