創世教冒険者ギルド
店を出て、再び大通りを歩く。
しばらく店を眺めながら歩いていると、武装している人間が多くなってきた。
「ここらへんは武器を持った人が多いんだな」
「それは多分アレのせいだね」
ラナが指差した方向にあったのは教会だ。
屋根の上に掲げられている紋章には見覚えがあった。
円の上に十字架を模した剣。その左右には純白の翼が円を護るように折りたたまれている。
「創世教か。どこにでもあるんだな」
王都に帰ってくる際に立ち寄った街にもあった。
一定規模の街には必ず一つはあるようだ。
「正しくは創世教が運営している冒険者ギルドだけどね」
「迷宮の入り口にある施設とは違うのか?」
「同じだよ。でも入り口の方が常駐してる聖騎士が多いから厳重だね」
「なるほど」
名前も役割も俺が漫画や小説で読んだものと似ている。
もしかしたら設立には過去の勇者が関わっているのかもしれない。
「ちなみに俺も冒険者登録はしておいた方が良かったりする?」
「んー。どうだろ。正直に言うとどっちでもいいかな。レイが迷宮とかに入るなら持っておいた方がいいけど」
「迷宮か……」
今後自分から入るつもりはない。
あんな危険な場所は非常時でもなければ行きたくないのが本音だ。
だけど、これから地球への帰還方法を調べたりするのに古い遺跡を探索する必要が出てくる場合もある。
その遺跡が迷宮化していたら冒険者登録は必要になるだろう。
ならば、今のうちから登録しておいた方が後々面倒が少ない。
……それに俺の予想が正しければ迷宮は放って置けない。
「なら登録しとくか。ちょっと興味もあるし」
漫画や小説好きには冒険者ギルドは憧れの存在だ。
奈落の森では冒険者ギルドというよりもただの入り口として見ていた為、特に思う事はなかった。
だが、今は違う。
これから行くのはあの冒険者ギルドだ。
見慣れない初心者を威圧してくるベテランとかいるのだろうか。物語の中では定番だが。
ともあれ、かなりワクワクする。
「……その顔はちょっとじゃないでしょ?」
「バレた?」
「バレバレだよ!」
そうして俺たちは冒険者ギルドへと向かった。
扉を開けて中へと入る。
ギルド内は正面に三つのカウンターがあり、受付嬢が冒険者の対応をしていた。
時刻は昼前。冒険者は既に依頼に出ている時間帯だ。その為、人はかなり少ない。
向かって右側には依頼が貼り付けられた掲示板があり、左側には酒場があった。
ここも今の時間は人がまばらにいるだけだ。
酒場で酒を呑んでいる冒険者なんて皆無。よって、静かなのは仕方ないだろう。
だけど、静かすぎた。不自然なほどの静寂だ。
そしてその原因はすぐに分かった。ロビーのド真ん中に居る人たちだ。
まばらにいる冒険者や受付嬢の視線もそこに向いている。
視線を集めていたのは黒髪の青年だ。
そんな青年は何故か屈強な大男を組み伏せている。
青年の隣には魔女帽を被った灰色の髪を持つ少女が一人。その少女は無表情ながらも大男を冷ややかに見下ろしていた。
「……カナタ、カノン。なにしてんだ?」
「ん? ……レイか?」
黒髪の青年、改めカナタは俺を見つけて苦笑した。
さすが幼馴染。サングラス程度の変装は効かないらしい。
俺たちはギルド内の酒場へと移動した。適当な果実水を注文して待っているとすぐに運ばれてきた。
一口だけ飲んで喉を潤すとカナタに聞く。
「んで、何してんだ?」
「いや、俺は何もしてねぇんだがな」
カナタが曖昧に笑う。カノンはどことなく不機嫌そうだ。
ちなみに大男はというと「覚えてろよ!」と定番の捨て台詞を残して去っていった為、既にいない。
首から下げていた冒険者証は銅色。ランクで言うとC級だ。覚える必要はないだろう。
……まあ予想通りだな。
聞いたところによるとカナタは俺たちより少し先に来て、冒険者登録をしたらしい。
登録までは何事もなく終わったが、問題はその後だ。
酒場で呑んでいたあの大男が因縁を付けてきたらしい。
「つまり、テンプレに遭遇したってわけだ」
「テンプレ?」
俺とサナの影響でカナタも漫画や小説を読むが、俺たちよりは読んでいない。嗜む程度だ。
なのでそこら辺のテンプレはわからないのだろう。
「……なんかずるいな」
もう少し早く来れば定番イベントを俺が経験できたと言うのに、逃したのが少しだけ惜しい。
「いや、羨ましがられてもな」
カナタは呆れたように苦笑した。
「それで、カナタとカノンは何で冒険者ギルドに?」
隣で話を聞いていたラナがカナタに聞いた。
カナタが周囲を見回し、顔を寄せてきたので俺たちも同じように顔を寄せる。
そして小声で話し始めた。
「依代探しだ。アイリスに頼んで魔力を注いでもらえば回復魔術を使えるヤツができるんじゃないかってアレ」
「あぁ奈落の森で言ってたやつか」
カノンの使い魔、シルを造り出した時に話していたことだ。
「……そんなことできるの?」
「現にシルの属性が雷になったからなぁ。だから可能性はある」
「もしできたらすごいね」
「ああ。戦術の幅が一気に広がる」
召喚魔術はまだ謎なことが多い。
そもそも使える者が希少すぎて研究が進んでいないらしい。
「って事で、何日か空けるわ。って言うのをウォーデンに伝えてたんだけど、その様子だと会わなかったみたいだな」
「なら聞いたってウォーデンに言っとくよ」
「そうしてもらえると助かる。……それでお二人さんはどうしてこんなところに?」
わかっているだろうにカナタがニヤニヤして聞いてきた。
「デートだよデート」
ここで照れたら負けだ。だから事実を淡々と話す。
「なるほどねぇ。お熱いこって。なら俺たちは邪魔か?」
「そうだな。邪魔だ」
あけすけな物言いにカナタは笑った。
「だろうな。じゃあカノン。俺たちは先に出ようぜ」
頼んだ果実水を一気に飲み干すとカナタが席を立つ。
「……ん。……二人とも楽しんで」
「ありがとね。カノン」
そうして二人は去っていった。
「じゃあ俺たちも登録に行こうか」
「うん!」
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