朝
翌日。
俺は朝早くに目を覚ました。
「あ〜〜〜」
ベッドの上で一人、気の抜けた声を漏らす。
それからしばらく天井を見つめるだけで身動きひとつしなかった。
何を考えるわけでもない。ただひたすらにぼーっとしていた。
それから一時間後、俺は気付いた。
……やばい。なんのやる気も出ない。
ラナを救い出すという、この世界に来た目的は達成できた。一つの大きな区切りだ。
今の今まで、この目的のだけに突っ走ってきた。だから少し疲れてしまったのかも知れない。ベットから起き上がるのも億劫だ。
いわゆる燃え尽き症候群というヤツだろう。
それからまたしばらくぼーっとしていると、控えめなノックが部屋に響いた。
今いるのは王城の一室だ。この世界に来たばかりの頃、俺はほぼほぼ禁書庫に引き篭もっていた。
とにかく情報を調べるために。
その時から一応部屋は与えられていたが、ほとんど使わなかった。
あそこはあそこで綺麗な部屋だったと思う。
しかし今いる部屋はもっと上質な部屋だ。
大きさは二倍以上。家具も一目見て高級だと思う物ばかり。
つまりは王族専用の寝室だ。
「は〜〜〜い」
気の抜けた返事をすると視界の端でそろーっと扉が開くのが見えた。ラナがひょこっと顔を出す。
「レイ? 起きてる?」
王族専用の寝室に王族であるラナが来る。
そう。ここはラナの部屋だ。
もちろんやましいことは無い。王族の部屋というのはすごい物で、もはや家だ。部屋の中に部屋がある。
その一つ一つの部屋も、地球の俺の部屋よりも遥かに大きい。
この寝室も部屋の一つだったらしいのだが、昨日帰ってきてから俺の部屋になった。
わずか数時間で豪華な寝室になるのだから、使用人たちの手腕は見事なモノだ。
では何故こんなことになっているのか。
それは俺の今の役職が第一王女専属親衛隊【蒼氷騎士団】の団長だからだ。
昨日、王城に戻ってきた俺たちは城の人々総出で出迎えられた。
高名な貴族から騎士団、魔術師団。そして使用人まで。ありとあらゆる人々が王城の広間に集まった。
あれだけの人数が集まっておきながら、誰かが集合を掛けたわけではないと言うのが驚きだ。
それだけ、ラナとアイリスが慕われているのだろう。
皆が魔王の討伐よりもラナの帰還を喜んでいたように思う。
涙する者も多かった。
サナなんてもらい泣きで号泣していたぐらいだ。
落ち着いたあと、その場で魔王は勇者パーティによって倒されたことが第一王女であるラナの名の下に宣言された。
正しくは封印だが、説明する必要はないだろう。下手に説明しようものならパニックが起きかねない。
ともあれ、これで勇者パーティの役目は終わりだ。
だが、それで「ハイ、解散」というわけにもいかない。帰還方法も分からないし、勇者を召喚したのがアイリスである以上、それはグランゼル王家の責任だ。
よって俺たちに役職が与えられることになった。
それがラナ専属の騎士団【蒼氷騎士団】だ。
団長は俺。カナタとカノンは形だけだが、その部下になる。ウォーデンは少し考えたいとの事で保留中だ。他のメンバーはいない。
サナは少し特殊だ。
勇者を騎士団に加えるのはグランゼル王国に所属することになる。それは国際的にまずいとのことなのでサナだけは王家の客人という立場に落ち着いた。
そんなこんなで「護衛なんだから同じ部屋のがいいよね」って事で半ば強引に俺はラナの部屋で暮らすことになった。
まあ、俺も一緒にいたいから文句はない。
ちなみにカナタとカノンはそれぞれこの部屋の左右の部屋を与えられた。アイリスの部屋は向かいにあり、左右はサナとウォーデンの部屋だ。
「うん。起きてるよ」
答えたはいいが、身体を起こす気にはなれなかった。
身体がベッドに深く沈み込み、一体化してしまいそうだ。
せめて顔だけを向けると、目が合った。
ラナは苦笑を浮かべると、部屋に入り扉を閉める。
まだ朝早いというのにラナは完璧だ。
窓から差し込む陽光を反射して輝く銀髪は癖の一つもない。身に纏っている薄水色のドレスも美しく、氷姫の名に相応しい。
薄らと化粧をしているのか、いつもより顔色が明るく見える。
つまり、とてつもなくかわいい。
そんなラナはベットの側まで歩いてくるとドレスを翻し腰掛けた。
「どうしたの? 具合悪いの?」
「いや違うんだ。燃え尽き症候群ってやつ」
「燃え尽き……なに?」
地球人ではないラナには伝わらなかったようだ。可愛らしい顔で首を傾げている。
「……燃え尽き症候群。何かを成し遂げた後に燃え尽きたようにやる気が無くなっちゃうことを地球ではそう言うんだ」
「あぁなるほど。レイは頑張ってくれたもんね。なんて言ったって世界を超えて私を助けにきてくれたんだから。……レイは私の王子様だね」
「ラナは本物の王女様だけどな」
軽口を言い合い、お互いに笑みを浮かべる。
……なんかこういうのいいな。
これが青春というヤツだろうか。
あの地獄を見てから学校生活なんて送れなかった。だから正確には青春がどのようなものかは想像することしかできない。
でも、なんだか胸が暖かくなった。干からびた心に熱が入ったようだ。
「…………よっと」
俺は気合を入れて、起き上がる。そしてラナに向き直った。
「どうしたの? 真剣な表情して」
「……あーっとその、なんだ……。ラナは今日仕事とかあるのか?」
「いや? 本当はやろうと思ったんだけどアイリスにしっかり休んでてって怒られちゃった」
「そうなんだ。なら暇なのか?」
「うん。今日一日は暇かなぁ」
「じゃあその……」
俺はこれから言うことが恥ずかしくて頬を掻いた。視線がベッドに落ちるが、それでは格好が付かない。
だからしっかりと目を見て口を開いた。
「ラナ。俺とデートをしませんか?」
「……でー……と? ………………デート!?」
ラナは言葉を飲み込むと一瞬で真っ赤になった。
だけど、直ぐにいたずらっ子の様な笑みを浮かべる。
「燃え尽き症候群は治っちゃったのかな?」
「どうやらそうみたいだ」
俺は苦笑し、ラナと二人で笑い合った。
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