凱旋
本日八回目の更新です!
前話を読んでない方はご注意下さい!
帰路は特に何も起こらなかった。
レニウスの言っていた眷属に襲われる事もなければ、しっかりとした街道を通っているため魔物に襲われる事もない。馬車に揺られるだけの、平和で長閑な時間だ。
道中、カナタから魔王にトドメを刺さなかった理由を訊かれた。だけど俺自身まだ整理がついていない。だから返答は待ってもらった。
幸い王都までの道のりは長い。考える時間は山ほどある。
そうして馬車に揺られること数週間、俺たち勇者パーティは王都に到着した。
綺麗に整備された街道を馬車が進む。
王都に向かう人、旅立つ人。商人であったり、冒険者であったりとその人種は様々だ。
だけど、そのほぼ全員が勇者パーティの馬車を見て歓声を上げていた。
その歓声は大きく、馬車の中まで響いてくる。
「やっと……帰ってきた」
彼方に聳え立つ王城を見ながら、ラナが小さく呟いた。その横顔は感慨深げな表情を浮かべている。
ラナがあの場所に閉じ込められてから俺と出会うまでに三年。そしてあの出会いからすでに一年半以上の月日が流れている。もう少しで五年だ。
五年はとても、とても長い。
「お姉ちゃん」
隣にいたアイリスがラナの手を強く握る。そして噛み締めるように言葉を口にした。
「おかえりなさい」
「……うん。ただいま」
ラナの目に光るモノが溜まっていく。唇を噛んで堪えていたが、それはすぐに決壊した。
ボロボロと涙を流すラナをアイリスはそっと抱き締める。アイリスの目にも涙が浮かんでいた。
ラナを探し続けたアイリス。アイリスの協力がなければこれほど早く救い出すことは出来なかっただろう。
ようやく一つの長い戦いが終わった。
勇者パーティの馬車が門を潜ると直ぐに大量の人々が押し寄せてきた。
外を見ると、大通りはすでに人で埋め尽くされている。
「すごい人気だね」
ラナが鼻を啜りながら呟いた。
まだ目は赤いが、気持ちは落ち着いたらしい。
「本当だな。まさに凱旋って感じだ。ほら勇者と聖女。顔出さなくていいのか?」
現在御者はカナタが務めており、その隣にカノンが座っている。勇者が御者をしていたら締まらないとの事で少し前に交代したのだ。
ちなみにウォーデンは寝ている。二日酔いだ。
「私はさっき泣いちゃったので辞めておきます」
「そう? 私は行った方がいいかな?」
サナは民衆に気圧されたのか、たじろいでいた。
そんな勇者様の気も知らないで人々は口々に勇者を呼んでいる。
「逆に行かなきゃダメなんじゃねぇかこれ? 収拾つかねぇぞ」
気付けば馬車の速度はだいぶ遅くなっていた。民衆が溢れていてあまり進めていないのだろう。
「そうだね。じゃあちょっと行ってくる」
サナは立ち上がると扉を開け、顔を出す。すると割れんばかりの声援が聞こえてきた。
「うわ〜。すげぇな勇者」
まるでアイドルだ。
……いやそれもあながち間違ってないのか。
娯楽の少ないこの世界では、誰もが知る勇者という伝説的存在はまさに偶像だ。
そんな存在が目の前にいるのなら熱狂しても仕方ないだろう。
とか思っているとアイリスに肩を叩かれた。
「レイさんは行かなくていいんですか?」
「なんで俺?」
俺は勇者でもなければ、聖女でもない。
この旅が勇者物語になるのならば、俺は勇者の友人戦士Aとかの端役だろう。そんな俺が顔を出したところで誰も喜ばない。
「知らないんですか? 募集試験で大立ち回りをしたからレイさんの人気もすごいですよ?」
「……初耳なんだが。逆になんでアイリスは知ってるんだ?」
「だって街で……。あっ。あれは行きの話でした」
アイリスの言葉で合点がいった。
俺が飛んでラナを迎えに行った時に、アイリスたちは馬車で移動していた。その時にでも聞いたのだろう。
「アイリス。大立ち回りって?」
ラナの目は輝いていた。興味津々といった様子だ。なんとも居心地が悪い。
「あれ? お姉ちゃん聞いてないの?」
「うん。パーティメンバーを募集してカノンとウォーデンさんが仲間になったとしか」
「じゃあまずはレイさんがなんて呼ばれてるか教えてあげるね!」
アイリスがニッコニコの笑みを浮かべた。
こんな笑顔は見たことがない。なんだか無性に嫌な予感がする。
「なになに!?」
アイリスが一呼吸置いて口を開く。
「……黒の暴虐!」
ゾッと、鳥肌が立った。
なんだその厨二病でも恥ずかしくてのたうち回りそうな二つ名は。最悪だ。
絶対に幼馴染二人に馬鹿にされる。むしろ今の今まで何も言われていないのが不思議なぐらいだ。
……付けるならもっとカッコいいのにしてくれよ。せめて雷鳴鬼よりはマシなのをさぁ。
頭を抱えていると、アイリスが続きを話し出したので慌てて止める。
「……アイリス。せめて俺のいないところでやってくれ。流石に目の前で話されるのは恥ずかしい」
「えー! 私気になるんだけど? 詳しく教えてアイリス」
異を唱えたのはラナだ。
その瞳は好奇心に満ち、キラッキラに輝いている。
アイリスが困ったように視線を向けてきた。
俺は深い深い溜め息をつく。
「……仕方ないな」
「やった!」
そう答えた俺をアイリスは半眼で見た。
「レイさんってお姉ちゃんには甘っ々ですね」
「……」
俺はあえて答えないことにした。自覚はある。
こうして俺たちは勇者パーティとしての目的と俺の目的を果たし、王都に帰還した。
キリが良いところで、本日の更新はここまでです!
明日からはストックが切れるまで毎日更新をする予定です!
この土日で大分削られてしまったので少ししかないですが!
それはともかく、これからも応援よろしくお願いします!




