使徒と眷属
本日七回目の更新です!
前話を読んでない方はご注意下さい!
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息も絶え絶えに、ラナが地面に膝を付く。そのまま倒れそうになったので、俺は咄嗟に支えた。
カランと星剣が地面を転がり、粒子となって消えていく。
「大丈夫かラナ?」
「うん……なんとか。……魔力はもう空だけどね」
ラナは無尽蔵ともいえる魔力を持っている。それは普通に戦うだけならば到底尽きることは無い程の。
それが空になったということは最後のアレは俺には想像もつかないほど凄いモノだったのだろう。
目の前を見れば全てが消滅していた。
枯死の翠も石室も全てが消し飛び、月面が一直線に抉れている。
その先には星があった。蒼き星。惑星レスティナだ。
ラナはこの破壊を齎した黒い何かをほんの一瞬だが、完全に停止させた。
その隙にレニウスが魔法を使い、上後方へと逸らしたのだ。
「全く、結界が台無しじゃないか。この借りは必ず返してもらうぞアルスター」
恨みがましくそう呟いたレニウスの光輪が形を変えた。
すると上空に巨大な魔法陣が展開される。
しばらくするとレニウスが満足そうに頷いた。
「これでよし」
そんなレニウスに俺は聞かずにはいられなかった。
「何が起きたんですか?」
「ん? あぁ、アルスター……もう一人の魔法使いが地上から龍之息吹を撃ったんだよ。黒だったから殺す気満々だね」
レニウスはそう言って苦笑した。
アルスター。
枯死の翠が言うには龍王アルスター。
十中八九、あの壁画に描かれていた龍だろう。
「ほら、あそこ見えるかい? 雲が消し飛んでいるだろう? あの場所から撃ったんだよ」
レニウスが指差した先、惑星レスティナの雲にぽっかりと穴が空いていた。どうやら本当に地上から撃ったらしい。
宇宙という無重力空間上を通り、月まで届く超弩級の長距離攻撃。普通なら威力が減衰して然るべきだが、破壊の爪痕はご覧の通り。
一体どれほどの威力があればこんなことが出来るのだろうか。わかってはいたが、魔法使いという者達は正真正銘のバケモノだ。
「レイ。ありがと。もう大丈夫」
「ん? ああ」
呼吸が落ち着いたのか、ラナが一人で立ち上がった。
「……魔法使いは誰でもこんなことができるのですか?」
ラナの問いにレニウスは肩をすくめた。
「アルスターだけだよ。彼は破壊の権化だからね」
「そう……なのですね」
ラナが呆然と呟く。
見ると、拳が固く握られていた。魔法使いの攻撃を直接受けたラナは、俺たちよりも明確に差を感じたはずだ。
内心を察することしかできないのが無性に悔しかった。
俺はまだその領域に立ててすらいない。
「それで、枯死の翠はどうなったんですか?」
俺とラナが沈黙していると、カナタがレニウスに聞いた。
この惨状だ。おそらく木片の一つも残っていないだろう。そう予想したのだが、レニウスは首を縦には振らなかった。
「死んだ……とは断言できないね」
「これで死んでない……?」
俺はこの目で龍之息吹に呑まれる大樹を見た。直撃だ。
これ程の攻撃をまともに受けておきながら、生きながらえている可能性があるとはゾッとする。
そして、レニウスの表情を見るかぎりその可能性は決して少なくなさそうだ。
「ヤツは使徒の中でもとにかくしぶとい。だから生きていると思った方がいい」
常に最悪の状況を想定する。
確かに直撃したとはいえ、俺が見たのは呑み込まれるところまでだ。しっかりと消滅の瞬間を見ていない以上、安心はできない。
「そこで忠告だ」
「忠告……ですか?」
「枯死の翠にキミの存在がバレた」
レニウスが俺を見ながら言った。
「わかっているとは思うが、柊木レイ。ヤツの狙いはキミだった。おそらく、使徒全員に共有されているだろう」
「……使徒?」
聞いた事のない単語だが、文脈的に間違いなく枯死の翠の事だ。そして「全員に共有される」との言葉から複数体いる事がわかる。
答えはおのずと出た。
「使徒ってあの壁画に描かれていた異形の事ですか?」
「壁画? ……あぁ月華神殿のか。その通りだ」
「となると使徒が俺を殺しにくるって事ですか?」
そうなったらとてもじゃないが防げない。今はままじゃ、俺が勝てる可能性はゼロだ。
「安心していい。地上で使徒自らが動くことはない」
「それはどうしてですか?」
「私とアルスターがいるからだ。ヤツらは万が一にでも消滅のリスクがある場合は動かない。この二千年そうだった」
「……二千年」
気が遠くなるほどの年月だ。
目の前の魔法使いはそれほど前から使徒とやらと戦っているらしい。
「今回はおそらくだけど、魔王が月で完全に封印されたのを察知した枯死の翠が、ここではアルスターの手が届かないと思って自ら動いたんだろう。私も地上からあんなことをするなんて思わなかったしね」
「レニウス様がいたのにですか?」
ラナの疑問はもっともだ。
レニウスとて魔法使いの一人。あの戦いを見る限り、使徒にとっては脅威の筈だ。
「柊木レイ。キミがそれほどヤツらにとって脅威というわけだ。私一人を相手してまでも殺す価値があるほどに……ね」
「……俺が……ヒトだからですか?」
ヒト。おそらく人間とはまた別物の存在。
「そうだ」
レニウスは頷く。しかしそれ以上は何も言わなかった。
おそらく自分で調べなければ意味がないと言うことだろう。
「わかりました。……ではひとまず地上は安心だということですか?」
レニウスは首を横に振った。
「確かに使徒の心配はない。だけどヤツらには眷属がいる。私たち魔法使いは使徒に備えている以上、眷属までは対応できない。だから気をつけるのは眷属だ」
「眷属……ですか?」
「眷属というのは簡単に言うと使徒の力を分け与えられた魔術師だ。元の力が使えるキミなら大丈夫だと思うけど、封印が定着するまではあまり一人にならない方がいいね」
「……わかりました。ありがとうございます」
「それじゃ私は失礼するよ」
「はい。助けていただきありがとうございました」
ラナが王族らしい上品なお辞儀をした。アイリスも慌ててラナに続く。
レニウスは鷹揚に頷くと踵を返した。
「ではまた巡り会う日まで、お別れだ」
レニウスが大きく翼を広げ、飛翔する。その姿はすぐに見えなくなった。
……流石にこれ以上は何もないよな?
皆が皆、何も喋らずに警戒を解かない。
五分か、十分と警戒を続けていたが、何も起きなかった。
「……ふぅ。なにもなさそうだな」
「これで何かあったら驚きだよ……」
ラナが疲れたように苦笑する。
「ホントだよ! てかレイもカナタもラナもよくあんなのと喋れてたよね!」
「あんなのって……」
魔法使いをあんなの呼ばわりするサナについ笑いが込み上げてきた。
幼馴染三人でひとしきり笑っていると、みんなも釣られて笑みを浮かべた。
「……ともあれ、みんな無事でよかった」
しみじみ呟くと隣にいたラナが頷いた。
「そうだね。助けに来てくれてありがとねレイ」
「ああ。約束だったからな」
ラナの手を取ると、サナに頭を叩かれた。
「もー! また二人の世界だよ! ほら! 早く帰ろ!」
サナが扉に向かって駆け出す。それを俺たちはみんなで追いかけた。
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