星剣ジ=アストラシオ
本日六回目の更新です!
前話を読んでない方はご注意下さい!
星剣。
それは星の力が具現化した剣。
星自らが相応しい使い手を選定し、その絶大な力を与える。
選定条件は不明。
強さは絶対条件だとされているが、必ずしも最強が選ばれるわけではない。
よって相応しい者がいない場合、星剣適合者が不在の時代もある。
たとえ魔王が現れ世界が滅亡の危機に陥ったとしても、星が適合者を妥協することはない。
そしてたった一つ、絶対不変の規定がある。
それは星剣が世界に一振りだという事。
いつの時代も二人以上、星剣適合者が現れたことはない。
その規定が今、崩された。
「確かなのか?」
「うん。星剣適合者である私が間違えるはずない。……星剣は一振りじゃ……」
ラナが呟いた疑問にレニウスは答えない。
代わりに枯死の翠に背を向けると、ラナの眼を正面から見た。
「ラナ=ラ=グランゼル。キミは星剣が司る概念とは何だかわかるかい?」
「……」
ラナは視線を地面に落として思考に耽る。だけど明確な答えを持っているわけではないようだった。
「……魔術より上位のなにかとしか」
「そうだね。間違いではない。そして魔術師という枠組みに囚われた者が解るのはそこまでだ」
次の瞬間、レニウスの姿が掻き消えた。と思った瞬間には再び現れた。
周囲から甲高い音が幾重にも重なり、鳴り響く。
周りを見ると不可視の壁にメリ込んでいた枝の槍が浅く斬り裂かれていた。
……速い。
目で追うことができなかった。
レニウスは星剣を胸の前に掲げる。
「星剣ジ=アストラシオは崩壊の概念を司る」
言った瞬間、枝付けられた傷がボロボロと崩壊していく。崩壊は枝を伝い、枯死の翠へと魔の手を伸ばす。
枯死の翠は崩壊を食い止めるべく、即座に自らの枝を切り落とした。
次にレニウスはラナの星剣に視線を向ける。
「知っての通り、星剣ラ=グランゼルは停止の概念を」
そして最後に自らの胸に手を当てた。
「そして私が司る概念は守護だ。ここまで言えば賢いキミならわかるはずだよ」
ラナの双眸が大きく見開かれる。
「そんな……まさか。星剣の力は魔法だとでも言うのですか?」
しかして、魔法使いレニウスは頷いた。
「その通りだ。星剣の力を正しく引き出せれば、それは魔法を扱っているのと同義だ」
「でも、魔法は法則を創り出す物だって……」
「誰が言い出したのかはわからないが、言い得て妙だね。見ようによってはそう見えてもおかしくない。だけど真髄は違う」
レニウスの言う通り、それは魔術師の中での常識だ。よくよく考えてみれば魔法使いが表舞台に姿を現さない以上、情報は少ないわけで信憑性は微塵もない。
「星剣を正しく扱えれば、それは魔法使いにも届く武器となる。だから、よく見ておくといい」
レニウスは星剣の切先を枯死の翠へと向ける。
「崩終星焉壊」
切先に歪みが生じ、小指の先程度の小さな黒球が現れた。そして内側へと向けて崩壊が始まる。
光すらも呑み込む黒き渦。それは、星の終焉。
そこに、レニウスは星剣を突き刺した。黄金の刀身が黒く染まっていく。
「行くよ」
気付いた時にはレニウスは枯死の翠の懐へと潜り込んでいた。
【させぬよ】
枯死の翠もその速度にしっかりと対応している。
木々を伸ばすと樹木の監獄を作り出し、レニウスを取り囲む。その隙間から枝の槍が殺到した。
一閃。
たったの一振り。レニウスは星剣を振るった。
それだけで全ての枝が黒き黄金剣の刀身へと呑み込まれ、崩壊していく。
枯死の翠も止まらない。
いくら枝が呑み込まれようともお構いなし。周囲の木々からも枝を伸ばしてレニウスへと殺到させる。
だが、それは囮だった。
レニウスの死角から放たれた数本の枝。それが不可視の壁を貫こうとこちらへ迫る。
「よそ見かい? 舐められたものだね」
レニウスがこちらに向けて星剣を振るう。
放たれるは黒き斬撃。
見た目こそ俺の第三偽剣と似ているが、内包される破壊力はその比ではない。
斬撃が一瞬で俺たちに迫っていた枝に着弾。すると膨張し穴を作り出した。そして一切合切を呑み込む。
「ほら、ガラ空きだ」
レニウスが星剣を振り抜いていた。いままでに無い剣速。
しかし、枯死の翠の眼は既に閉じられていた。
大樹が崩壊し、風に流れて消えていく。
【厄介極まりない】
気付けば少し後方にまた大樹が聳え立っていた。そこには翠眼がある。
「お前のソレも厄介だよ」
またもレニウスが消えた。
枯死の翠、その周囲から断続的に枝の斬り裂かれる音が鳴り響く。
枝がしなり、伸縮し、鞭のように乱舞する。次々と枝が斬り落とされ、崩壊していく。
もはや目で追える戦いではなかった。
「ラナ……見えるか?」
「悔しいけど、見えない」
「……俺もだ」
これは人が介入できる戦いではない。文字通り次元が違う。
「……強くなったと思ってたんだけどなぁ」
「まだまだ全然足りないね」
上には上がいる。
わかっていたことだが、まざまざと見せつけられると心に来るものがある。
今回はたまたま運が良かっただけだ。
レニウスが来なかったら俺たちは成す術も無く殺されていただろう。
「もっと強くならないとな」
「うん。そうだね」
ラナも思うところがあるのか、レニウスと枯死の翠の戦いをじっと見つめている。
これは紛うことなき頂点の戦いだ。俺も何一つ見逃すまいと目に焼き付ける。
こちらに襲いかかってくる枝は既に無い。
枯死の翠にそこまでの余裕は無く、レニウスにも決め手がない。
互角だ。
膠着した戦況。
おそらく、何かがあればすぐに均衡は崩れるだろう。切札を切るか、どちらかがミスをするか。それが何かは俺にはわからないが、今はお互いに機を伺っている。
だがレニウスの言葉が正しいのなら、時間がないのは枯死の翠だ。
――なにか急ぐ理由でも?
そう問われた時の反応を考えれば大いにあり得る。だから先に動くのは枯死の翠だと俺は思っていた。
そして唐突に事態は動いた。
しかし動かしたのは枯死の翠でも、レニウスでもない。
遥か彼方。世界の外側で何か大きな気配が立ち昇った。
荒々しく、猛々しく。暴力的な気配だ。
レニウスと枯死の翠がお互いに動きを止める。
「おいおい。冗談だろ? 月を消し飛ばす気か?」
レニウスの視線は枯死の翠の背後へと向いている。その額には冷や汗が流れていた。
【アルスタァァァアアアアア!!!!! 忌々しい龍王め!!! 邪魔をするか!!!】
枯死の翠が怒声を上げた。
荒野の木々が消え、枯死の翠の周りへ密集する。そして全方位に枝を巡らせ、編み込み、防壁を作り出した。
最後に本体の眼が閉じていく。
「逃げるのかい?」
【………………業腹だがな。我でもあれをまともに喰らえば消滅は免れまい】
枯死の翠は忌々しそうに吐き捨てる。
「……そういう事か。アルスターめ。逃がさないようにしろと?」
レニウスの姿が掻き消えた。
一瞬にして枯死の翠の枝で作り出された防壁が斬り裂かれる。
「ヤツの思惑に乗るのは癪だが、仕方ない。逃げるのなら先に殺すぞ。枯死の翠」
言葉通りレニウスの攻撃が苛烈さを増した。
逃がさない為に、防御を最小限にしてひたすらに攻め立てる。
【……くっ!】
枯死の翠に焦りが見られた。
攻撃に精細さが欠いていく。その隙を見逃すレニウスではない。
すると諦めたのか、枯死の翠は再び眼を開いた。
だが、時間がないのは枯死の翠だ。
世界の外側に感じる気配がどんどん大きくなっていく。
逃げる枯死の翠。逃がさんとするレニウス。戦況はまたも膠着する。だが今はそれでいい。時はレニウスに味方している。
「ラナ=ラ=グランゼル!!! 星剣の力を使って周囲を停めておけ!!! 仲間を守れるのは星剣を持っているキミだけだ!!!」
酷く焦ったようなレニウスの声。
その声に、ラナは迷わず星剣を地面に突き刺した。一度息を吐くと、ゆっくりと目を閉じる。
瞬間、纏う気配が変わった。凄まじい集中力だ。
その時、世界の外側で膨張していた気配が止まった。
レニウスが三度星剣を振るい、黒い斬撃を生み出す。
【……邪魔を……するな!!!】
枯死の翠が枝を殺到させ、なんとか受け止める。
受け止められた斬撃の一つは大きく膨張し、周囲の枝の全てを呑み込み終息した。
そしてそのタイミングで残りの二つの斬撃が膨張。二つが合わさり巨大な穴と成った。
穴はいつしか黒き渦と成り、あたり一面を呑み込み始める。
枯死の翠は枝の量を増やし、封じ込めに掛かった。
その隙にレニウスは後退。俺たちの元へ戻ってきた。
あれだけの技を繰り出すのは流石の魔法使いでも負担が大きいのか肩で息をしている。
「……出来たか!? ラナ=ラ=グランゼル!」
ラナが目を開き、星剣から何かが放たれたのを感じた。
レニウスが満足そうに頷く。
「素晴らしい!」
レニウスもラナと同じように星剣を地面に突き刺した。そして頭上の魔法陣が目まぐるしく形を変えていく。
周囲に展開されるいくつもの魔法陣。それが俺たちを取り囲む。
次の瞬間、黒が世界を満たした。
記念すべき第100話です!
ここまで頑張って来れたのも読んでくれた皆様のおかげです!
本当にありがとうございました!
これからも救氷の偽剣使いをよろしくお願いします!
感想等も頂けると嬉しいです!
この後、間に合えば後二話ぐらい更新する予定です!




