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逃走若様 道中記  作者: C・ハオリム
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第33話 「けしからん奴は魚の餌ですね」

 「お嬢様、朝だよ」


 「眠い・・・」


 ホイッスルと弁当の関係について考えている内に眠りそこなってしまったため、ボクはジャグに身体をゆすられるまで眠り込んでいた。ホイッスルと弁当以前にげっちゃ鳥の真実に打ちのめされていたこともあるけど。


 「御髪を梳かしますよー」


 「歯を磨きましょうね」


 寝ぼけ眼で椅子に腰かけるボクにシュマとコレットが2人がかりで整えてきだした。こうなったらボクは着せ替え人形と同じで、着るもの、髪型、身につけるアクセサリ一つ選ぶ権利はなくなる。


 「今日の下着は海の波を意識して、フリル多め、布地少な目、青を主体としたモノですよー」


 シュマが手にしているのはハンカチが一枚あれば全部の布地が賄えそうな下着だった。


 「絶対に似合います」


 リナが妙に自信ありげにしている。多分、彼女が今日の下着を手に入れたのだろう。小さなパンツは肌に密着してくれるから、無くしたモノをいやでも意識してしまうので好きではないのだが、さっきも言ったようにボクにそれを拒否する権利はない。


 「パンツをずらしますねー」


 「はい、バンザーイ」


 屈辱以外の何ものでもない、こんな事に歓びを感じてしまった時、ボクは何かの一線を越えたことになるのだろう。そして、その時はボクの内なる益荒男が息絶える時だ。


 「今日は、ツインテールにしましょうか。そうすればこのリボンがもっと映えますよー」


 梳かし終えたボクの髪をいじりながらシュマが何気に怖い事を言いだした。


 「いつもので良いよ。後ろで軽くまとめたので」


 「ツインテール、似合うと思いますよ」


 ボクの言葉に全く同意しかねるとばかりに、ブラシを手にしたコレットが捕まえた小動物に牙を突き刺すような、ネコ科動物が半死半生の獲物を弄ぶような気配を漂わせながらボクに近づいてきた。


 「コレット、シュマ、ステイっ」


 ボクが声を張り上げると、猛獣たちの動きが止まった。しかし、彼女らの眼にはまだ獲物を狩る肉食獣の輝きがあった。このままでは、何時まで立っても狙われている立場に居続ける事になる。ならば、ここは彼女らにとって最大級の脅しをかける事にした。


 「この髪、長いからショートにしたいんだよね。女性戦士にあるような刈り上げた感じにさ」


 ボクは彼女らが梳かしてくれた髪を手にすると右手でハサミの形を作って切るようなジェスチャーをしてみせた。


 「ダメですよー」


 「認められません」


 間髪おかず猛獣たちは否定の言葉を発してくれた。猛獣たちはボクが髪を切ることを極端に嫌がる、その辺りの理由は分からないが、彼女らとの交渉に際して「髪を切る」と言うのは中々有効な武器なのだ。

 でも、彼女らがボクのショートカットが見たいなんて言い出したら………、考えるのはよしておこう。


 「早く食堂に行こうよ」


 「ルメラ、お腹空いた」


 ボクの準備が整うを図っていたように(実際は計っていたんだろう)ちびっ子コンビが声をかけて来た。彼女らの衣装もいかにもザ・街の子どもと言った感じだった。ルメラの角と尻尾を別にしたらでだけど。


 「船旅での楽しみの一つ、食事に参りましょう」


 リナが恭しくボクにお辞儀するとボクをエスコートして、メアリー・ディアリング号の食堂に案内してくれた。


 「おお、朝から美の女神たちの行進を見られるなんて、ボクは何て幸運なんだろう」


 食堂の入り口でギャロップステッキに跨った船長があの白銀の騎士並みの芝居じみた所作と台詞を吐いてきた。ボクはひょっとしてコイツはコルセール・エナンが変装しているんじゃないかと疑いたくなった。しかし、ボクは大人だ。そんなことは表情に出さずにこやかに挨拶することにした。


 「おはようございます。美の女神の行進なんて………、誰にでも仰っているんでしょ」


 「HAHAHA、ベイビー、そんな事はないよ。君たちだから言っているのさ。美しいレディが細かい事を気にしちゃイケナイヨ」


 真っ白の船長の制服にナイスガイがにこやかに話しかけてくる。これでギャロップステッキがなければ世の中の8割の女性の好感をえることができるだろう。天は二物を与えずとはよく言ったものだ。


 「なにか既視感がありますね」


 船長の言動をコレットがじっとりした目で見て、小さなため息をついた。


 「注意しないと妙なファンクラブがあるかもしれませんから、要注意ですよー」


 シュマがあちこちを見回して妙なご婦人方がいないか確認していた。


 「それらしい人たちはいませんねー」


 いくらイケメンでも万年ギャロップステッキに跨っている様なヤツにファンがつくとは思えない。なにもギャロップステッキの存在を否定している訳じゃない、余暇に跨って騎士の気分に浸るのも良いと思うけど、職場でやるべきじゃない、時と場所を選ばないと何事もダメだと思うんだ。仕事を放ったらかしにして筋トレに励むようなものだ。


 「船長はあのままにして、さっさと頂きましょう」


 餌を目の前にして「待て」をかけられている犬のような表情でリナが訴えかけてきた。よだれが垂れそうになっているのは彼女の名誉のために指摘しないでおこう。シュマもコレットも似たような感じになってるし。


 「リナ姐、行儀がよくない」


 「竜は洗練されているから、そんなことしない」


 年長者の姿を醒めた目で見るちびっ子コンビが苦笑を浮かべていた。ジャグはともかく、ルメラまで食欲をコントロールしているとは流石、竜というべきか。

 そう思っていた自分がいました。よーく見ればルメラの尻尾がピクピク動いている。涎を我慢しても尻尾までは我慢できなかったみたいだ。

 ボク自身も目の前の朝食に心奪われ、すんでの所で涎を垂れ流しそうになっていたのはボクだけの秘密だ。




 「おいしかったー」


 その体のどこに入るんだ、と思わず突っ込みたくなるような食いっぷりを見せてくれたルメラが、船室のベッドにだらしなく横たわり、膨れた腹を撫でながら満足の表情を浮かべている。

 竜と言う生物の神秘性を今の彼女のどこにも見ることができないのはボクだけだろうか。


 「朝からガッツリと行きましたからねー」


 シュマもベッドに腰かけてぐでーとだらけているし、コレットは椅子に座ったまま寝落ちしているし、リナは………あれ、姿が見えない。ジャグの姿も見えない。


 「リナは何処に行ったのかな」


 「リナは仕入れた乾燥果物の行商でジャグと一緒に客室を回っているよ」


 ルメラがボクの呟きに面倒くさそうに答えてくれた。


 「甘いモノは貴重ですからねー」


 「甘いモノは活力を生みます」


 シュマが何か甘いモノを食べている記憶を呼び起こしたのか、口元にだらしない笑みを浮かべた。あの駄商人結構まじめに仕事しているんだ、と妙に感心してしまった。


 「お嬢様、お嬢様、凄い事がー」


 「王様が交代するんだって」


 「それは、あたしが言う予定だったのにー」


 ボクが寛いでいる所にリナとジャグが転がり込んで何やら大声で騒ぎだした。彼女らの断片的な言葉から類推すると王都で現国王が退位されることになり、王子の誰かが次の国王になると言う話だった。

 しかし、次期国王を決めずに退位するなんて妙な事があるもんだ。ボクの王都での目的とは直接関係がないから、そんなに懸念することも無いと思う。


 「退位と戴冠の儀式のときはあちこちから貴族が来るんですよ。良い儲け時です」


 「あちこちからって、ブッコワース領からも来るってことかな」


 商売が上手くいくと根拠もないのに思い込んでホクホク顔のリナが聞き捨てならないことを口走ったので、思わず気になったことを口にしてしまった。


 「勿論ですよー。こんな時に不義理をかましたらどんな目に遭うか分からないですからねー」


 「脳みそが足りない方たちですけど、本能的に危険を回避されますからね」


 シュマとコレットがボクがこの状況で最も嫌だと思う事について話してくれた。残念だけどこればかりは彼女らの言っている通りになる公算が大きい。嫌だけど。

 奴らは筋トレにしか興味がないから王様の退位と戴冠の記念式典に参加するなんてトレーニングする時間を削るモノとして忌避すると思っていたけど、事が大きいから仕方なく来るんだろうな。嫌だけど。


 「退位と戴冠なんて商工会でも聞かなかったよね」


 ボクはその手の話があったか記憶をたどったけど、全く何もヒットしなかった。


 「急に降って湧いたような話ですねー」


 シュマが伸びをしながらつまらなそうに言うと、その横でコレットも黙って頷いていた。


 「人間って、支配者が変わると大変なんだ」


 「政がくるっと変わるってこともあるからね。税金が高くなったり、魔物に対して変に敵愾心を煽りだすとかね」


 ボクは歴史の書物で読んだことを思い返していた。そして、今まで急に王様が変わった場合、起こりえる事は二つしかないことを学んだ。それは、政が悪くなるか最悪になるかだ。

 そして、大概物事は最悪に転がって行く。

 貴族としての危機は来ないけど、庶民として生活の危機を迎える事になるのは勘弁願いたい。


 「お嬢様、そんなに心配することはありませんよ。貴族と違って庶民は案外強かなんですよ。この国で商売ができ無くなれば他の国に行けばいいだけですよ」


 リナがボクの不安を吹き飛ばすようにあっけらかんと言ってくれた。

 もう、ボクにはブッコワースなんて名前はない、ボクは何処にでもいるような傭兵のロスタだ。


 「お嬢様、私らは自由なんです。自己責任の名のもとに、どこにも行こうとも、何をしようとも自由なんですよ」


 コレットがボクの両手を掴んで力強く訴えて来てくれた。彼女の肉球の感触がとても安心感を与えてくれた。幼い頃、悪夢にうなされて泣いた時にもこの肉球で優しく撫で貰ったことをぼんやりと思いだした。


 「お嬢様がどこに行こうが付いて行きますよー」


 シュマが様々な意味でボリュームのある身体で優しく僕を抱きしめてくれた。彼女はいつもボクが不安を感じたりしているとこうやってぎゅっと抱きしめてくれた。彼女のフワモコがボクに安心感を与えてくれるのは今も昔も変わりがない。


 「オムツを替えた仲ですからね」


 「おねしょの後始末もありますよー」


 ボクが過去の感慨にふけっている最中に、彼女らはボクの隠しておきたい、知られたくない過去をこともあろうかジャグやルメラに披露してくれやがった。


 「えー、ロスタ、おねしょしたんだー」


 ルメラのヤツ、ボクを見てニヤニヤしてやがる。何かとボクに突っ込まれることが多いから、この機会を逃さないとつ言うつもりだろ。


 「ボクも幼かったからねー、ちょっとせき込んだ時にポロリと卵を産み落とすよりマシだと思うよ」


 ボクは少し嫌味を込めてルメラに言ってやった。すると、ルメラはむっとした表情を浮かべた。ドンことをする時も相手からの反撃を予想しないとダメなのだ。この事で、今日、彼女は少し成長しただろう。


 「お嬢様、おしっこは我慢しないようにして下さいね。なんでも男と女では尿道の長さが違って、女の方が短いってことですから、前のままでいると………やらかしますよ」


 リナが意味深な表情を浮かべて囁きかけてきた。確かに、前とは違い我慢がしにくくなった気はしていたけど、物理的にそんな仕組みになっていたのかと改めて思い知った。


 「貴重なアドバイスありがとう。これから注意するよ」


 「………お嬢様がおもらしするところも見てみたい………」


 流石、生まれてから毎日欠かさずに女性をしてることがあるリナのアドバイスに素直に感謝した。しかし、この女狐、舌なめずりしながらトンデモない事を言いやがった。


 「おもらしした後、真っ赤になって」


 「涙目になりながら、一生懸命に強がる姿………」


 シュマとコレットも何か良からぬ事を想像しているようで、不気味な笑顔でボクをチラチラと見ながら何やら小声で相談し始めた。


 「お嬢様、おいらも良くおもらししたよ。おもらししなくて大人になった人なんていないと思うよ。お嬢様はさ、女の子になってからまだ1年もたっていないんだよ。姿はおいらより大きいけど、女の子としては赤ん坊と同じだって思うよ」


 「そだね。だから、おもらししても仕方ないって事、これでいいよね」


 ジャグが微妙なフォローを入れてくれた。そして、そのフォローを台無しにしてくれたルメラ。そして、追い打ちをかけるようにルメラの言葉にジャグが頷いていた。


 「ひょっとして、君らそんなにボクのおもらしした所を見たいのかい? 」


 彼女らの言動に少々むっとしたボクは彼女らに嫌味を込めて尋ねてみた。まさか、主の恥ずかしい所を見たいなんて口になんてできないだろうからね。


 「勿論っ! 」


 全員綺麗にハモッて返しやがった。そんなに見たいのか、君らの主であるボクが恥に塗れる姿を。


 「………君らとの付き合い方を考え直す時期に来たかもしれないね」


 「そうですよー」


 「もう主従の関係を越えましょう」


 シュマとコレットが舌なめずりしながら不穏な台詞を吐き散らかしてくれた。見直すという派のそんな前向きのモノじゃないぞ。


 「御用商人からいっそ、愛人に、いいえ妻にならしてもらいます」


 リナも妙な事を口走っているが、そもそも彼女はボクの御用商人じゃないからね。


 「おいらはお嬢様の妹になりたい」


 「ルメラはロスタの養女になる」


 ちびっ子コンビもぶっ飛んだ事を言い始めた。周りに良いお手本がないために彼女らが様々な事象を拗らせて成長しているのではないかと不安になってきた。

 このままではいけない。ボクはここで主として猛獣どもを躾けなくてはならないし、ちびっ子コンビをどこに出しても恥ずかしくない大人に育てることが主としてのボクの務めなのだ。


 「こんな姿になって、しかも貴族でなくなったボクは一介の男子、否、少女であるが、その心中は今でも君らの主であると思っているし、臣下には皆幸せなってほしいと願っていることは嘘じゃない。君らの事をとても大切に思っている。これも嘘じゃない」


 ボクは静かに語りだし、そしてちょっと話を区切った。そして、全員をゆっくりと見回した。全員、次にボクが何を言い出すか目をキラキラさせてこっちを見つめている。


 「でも、一線は必要だと思うんだ。親しい友人間でも礼節が必要なのと同じことさ。もし、ボクがこの中の1人と深い仲になれば他の皆はその彼女に嫉妬するだろうし、チームとしてボクたちが成り立たなくなってしまう。つまり、ボクの命にダイレクトに関わってくる事態になると推測されるんだよね」


 ボクは猛獣たちに今一度彼女らの任務を思い出してもらうべく言葉を続けた。


 「皆を妻にすれば問題ないって思いますけどー」


 「まだまだ心の準備がなされていないだけです」


 「誰が正室になるのかが問題ね」


 猛獣たちはボクの真意なんぞ汲み取る気もないようだが、とりあえずは彼女らのヒートアップは押さえられたようで何とか場を納められたようだ。

 しかし、彼女らにボクに対する敬意はあんまり感じられなかったけど。


 「何か騒がしくなってませんか」


 コレットが大きな耳をぴくぴくと動かしながら窓の外を見ようとした。

 そんな中だった。いきなりドアが乱暴にノックされ、こっちの「どうぞ」の返事をする前に開かれた。

 そこには焦った表情の船員がボクたちを見るなり話しかけてきた。


 「海賊船が近づいています。戦える人は甲板にお願いします。指揮は船長が執ります。戦えない人は部屋に鍵をかけてこちらかの指示があるまで出ないでください」


 彼の言っていることが冗談や酔狂ではないことを彼の表情と額に浮かんだ脂汗が雄弁に物語っていた。


 「シュマ、コレットいいかい? 」


 「我が牙は主に害なす者をかみ砕くため」


 「我が爪は主に害なす者を切り裂くため」


 彼女らはそれぞれの得物を手にして立ち上がり、ボクをじっと見つめてきた。


 「我ら力なき人たちの剣となり盾となろう。行くよ」


 いくら出奔したとは言え、ボクは伯爵家の嫡男、貴族としてのノブレス・オブリージュだ。


 「ジャグとルメラは私が看ています。ご武運を」


 リナがジャグとルメラを引き寄せてボクに深々と首を垂れた。

 今、猛獣たちは本能の命じるまま上体から、捕食者としての野獣にモードを変えたのだ。とは言っても傍目からは全く分からないけど。



 「敵艦見ゆ」


 この船で一番高い場所、メインマストの見張り台から船員がメガホンを持って大声で叫び、手にした旗を遥か水平線の方向に向けた。


 「何か見える? 」


 「なーんにも」


 コレットとシュマが船員が示した方向に手かざししながら目を凝らしているが彼女らには何も見えないようだ。


 「でも、臭うね」


 「不潔な臭いです」


 シュマとコレットが鼻をひくひくさせてて臭いを拾いだし、そして顔をしかめた。


 「どうどう、シルバーホークよ荒ぶるでない。荒ぶる時は少し先だ」


 ギャロップステッキに雄々しく跨った船長が歴戦の猛者を思わせる風格を漂わせながらスキップしてやってきた。


 「お嬢さん方、戦闘に巻き込んでしまって申し訳ない。今我々に向かっているのは密貿易を持ちかけるようなちんけな連中じゃない。ジョリー・ロジャーを掲げる正真正銘の海賊だ。………女性に言うべきではないが、彼らに敗れた時、命を長らえても死より厳しい運命を受け容れる事になることを覚悟してもらいたい」


 船長はそのフザケタいで立ちとは真逆に真剣に、真面目にボクらに覚悟を促してきた。生きて捕まったらボクらはジャグやルメラを含めて生物的に卑猥とされる行為を強制される立場になるのだろう。

 これは何が何でも、海賊を撃退、今後の事を考えれば撃滅しておきたい。


 「けしからん奴は魚の餌ですね」


 コレットが自分のかぎ爪を見ながらポツリと呟いた。あのかぎ爪で引っ掻かれた奴に同情する。


 「そんな連中は、この世界から消えるしかありませんねー」


 シュマがニコニコしながら結構ヘヴィな事を口走っている。ボクも彼女らと同じく、襲い掛かって来る連中に容赦することはない。



 「参ったな………」


 襲いかかって来る海賊船の海賊旗を見た船長がぼそっと呟いた。それに同調するように船員たちの表情が暗くなっている。


 「天下のお下劣海賊か………」


 年取った船員がため息交じりに吐き出した。その表情はどこか諦めに似たような感じだった。


 「お嬢様、あれが海賊旗ですか………」


 「なんか嫌な感じがしますよー」


 コレットとシュマが見つめる海賊旗は確かに変だった。


 「普通、頭蓋骨だよね。でもあれは、骨盤だよね」


 「形状から見て女性のモノですよー」


 「尻尾の骨がありません」


 普通、海賊旗と言えば、頭蓋骨とクロスした大腿骨、もしくは剣だろ。でも、ボクらが目にしているのはシュマいう所の女性の骨盤とクロスした大腿骨だった。


 「敵艦、接舷しますっ」


 船員の誰かが叫んだ。嫌な感じはするけど、このまま簡単に捕まるつもりはない。ましてや、生物的に卑猥な事をさせられれたくもない。


 「凶暴になるのは今だよ」


 「承知っ」


 ボクの呼びかけに猛獣たちは抜刀した。穏やかな航海なんてどこにもないんだろうな、と剣を構えながらボクはぼんやりと考えた。



 「ぬるぬるるる、男ばっかりだぁ」


 海賊船のマストから吊るされたロープを掴んで飛び乗ってきた太り気味の海賊が妙な笑い声を上げながら辺りを見回していた。

 そいつからは邪悪さとか怖さとかより、気持ち悪さを強く感じた。


 「アイツ、気持ち悪いです」


 コレットが毛を逆立ててフーっと唸り声を上げた。 確かにあの気持ち悪さは毛が逆立つのもふしぎじゃない。


 「ぬるぬるるるる、女の子、見ぃつけたぁ~」


 次々と甲板に飛び込んでくる海賊の1人(こいつも充分に気持ち悪い)がボクたちを見つけて気持ち悪い笑みを浮かべた。


 「これより、排除を開始する」


 「承知っ」


 ボクらは剣をかまえて、気持ち悪いに手足が生えたような連中にボクたちは踊りかかって行った。

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