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逃走若様 道中記  作者: C・ハオリム
32/37

第31話 「何が目的かさっぱり分からないけど」

 「変だな」


 「人前で脱糞する奴がまともなハズあるわけないでしょう」


 ボクの言葉にコレットが鼻をこすりながら答えてくれた。ボクの言った「変」はエイラー子爵の性癖に関することじゃないんだけど。


 「"夢の途中" ですか」


 「そのとおり」


 ボクの疑念を的確にとらえてくれたのはリナだった。彼女は妙に冴える時があるからな、普段は残念過ぎるけど。エイラーの夢って何のだろうか。


 「世界をトイレだらけにすることじゃないですかー」


 チーンと鼻をかんだシュマが涙目でつまらなそうに応えて来た。


 「疑問だったら、直接聞くのが一番だと思う」


 ルメラが事切れたエイラー子爵に取りすがって泣いているドゥカーティを指さした。

 ルメラは腐っても竜ということか、何気に鋭い事がある。

 周りが盆暗すぎるってことはあるけど。ボクを含めて………。


 「貴方の言っていた ”夢” についてお答えなさい」


 いきなりコレットの声がしたと思ってその方向を見たら、ドゥカーティの首筋に剣を突きつけた彼女の姿があった。


 「夢なんて大層な事を言っているけど、どーせ金を儲けたいとか、女を侍らかしたい程度でしょ」


 リナがゴミを見るような目でエイラー子爵の亡骸に縋り付いているドゥカーティを見て吐き捨てた。


 「エイラー様、エイラー様、我々の成果は既に報告されているでしょう。この黄金の便器の威力はきっと我々の夢の実現のための確実な一歩です」


 コレットの事なんて存在しないかのようにドゥカーティは泣きじゃくりながらあらぬ方を見つめてうなされたようにうなっていた。彼の言葉からすると、何か大きなモノが何かの目的をもって動いているらしいことを察することができた。


 「聞かれたことに答えなさいっ! 」


 コレットは周りの事など全く目に入ることも無くただ泣きじゃくるドゥカーティを怒鳴りつけていたけど、状況は変わらないだろうな、多分。


 「コレット、そいつに何を聞いても無駄だよ。心が壊れている」


 リナがドゥカーティに剣を突きつけているコレットの肩をそっと叩いた。


 「何か大きなモノが動いているみたいだね。何が目的かさっぱり分からないけど」


 「あまり儲けに繋がらないみたいですので、これ以上関わらない方が良いと思いますよ」


 金の事になると案外リナはドライと言うか、堅実みたいだけど、案外最初の判断が間違っていることもあるから、彼女の言葉を鵜呑みにはできない。


 「お嬢様方、ありがとうございます。貴女方の活躍のおかげで、悪しきエイラーは斃されました。我々は騎士団のガド・シウス様と並んで傭兵ロスタ様を英雄として、街として歓待したいと思います。勿論、お礼も考えております」


 泣き喚くドゥカーティと物言わぬエイラーが彼らの部下たちによって何処かに運び去られると、ザ・家令がボクの所に来て、恭しく頭を下げた。


 「お嬢様、お礼ですよ。歓待と言う事はタダ飯ですよ。これは、良い事です」


 さっきまで、この件について何の興味も示さなかったリナがボクに掴みかかるようにしながら歓喜の声を上げた。


 「タダ飯より上手いモノは無いと言いますよー」


 「お魚です。新鮮な魚介類です」


 涎を手の甲で拭いながらシュマは目を輝かせ、コレットも尻尾をピーンと立てて来たいのに籠った目をボクに目を向けてきた。


 「好意の無理強いはよくないよ」


 ジャグが猛獣たちに人として当然の事を教えていた。彼女はボクの次に良識があると思っている。初めて会った時はスリみたいなことをしていたのに。しかも、リナから日常の様々な事を学んでいるのにもかかわらず、真っ当である。

 彼女はボクがそれなりの立場にあれば、身の周りに居てほしいタイプの人材だ。


 「そんなにお気を使われなくてもいいですよ。これは、我々の感謝のしるしですから」


 ザ・家令はジャグやボクの気持ちを推しはかったように言うと笑みを浮かべた。


 「コレ、あの人たちが作ったのかな? 人間って変な物を作るんだね」


 ボクたちがお礼の御馳走について妄想している時、ルメラがさっきまでエイラーがふんばっていた便器をしげしげと見つめていた。


 「ルメラ、ばっちいよ」


 便器のあちこちを触ったりしながら、何かを探っている様なルメラにジャグが声をかけた。


 「変な魔力が籠っている。さっきのおじさん、大した魔力持ってなかった。多分、これで魔力を大きくした、と思う」


 「それって、魔道具?! 」


 ルメラの落ち着いた分析の言葉にリナが頓狂な声を上げた。

 ひょっとしてあれを手に入れるつもりなのか、あの中にはまだエイラーの作品が残っているはず、不衛生なモノは身近に欲しくない。


 「ルメラ、それ、ばっちいから触っちゃダメだよ」


 「臭いからこれ以上近寄らない。身体に付いたら嫌だから」


 ルメラの賢明な判断にボクは拍手したくなった。街で見たルメラと同じぐらいの背格好の子どもたちは、排泄物を棒で突いたりして大はしゃぎしていたからちょっと心配だったのだ。


 「お前ら、エイラー様の遺作を勝手に触るな。エイラー様の作品は皆、私の物だ」


 衛士たちに引っ立てられながらドゥカーティが叫んだ。彼にとっては排泄物も大切らしい。良く分からない価値観だ。分かりたくもないけど。


 「中に入っているモノはいただけませんが、あの便器、高度な魔道具と思われます。あの臭いに音、普通に考えて魔力も何もない只のおっさんが出せるものじゃありません」


 「リナさんの言うとおりです。これは、とても高度な技術で作られていると推測できます。並大抵の職人でこの便器を作るなんてできませんよ」


 レーペさんが黄金色に輝く便器を遠目に見ながら、何やから考え込んでいる風だった。そして、彼女の周りでガドたちがレーペさんの帰還を祝ってスクワットをしていた。うん、平常通りで安心したよ。


 「これだけ精巧な魔道具を作るには、とても優秀な職人、魔導士が必要。でも、ここはあくまでも漁業と貿易の領。じゃ、これは一体どこから来たのかしら」


 レーペさんがうーんと難しい表情で考えだした。確かに、こんなシロモノをこさえるなんて普通じゃできない、特に脳みそが筋肉な人の割合が圧倒的に高いブッコワース伯爵領内でそんな器用な職人や魔導士が存在するなんてあり得ない。

 この便器はここ以外のどこかで作られ、そしてここに持ち込まれた。


 「あれって、ワンオフ物なんでしょうか? 」


 「金ピカで趣味が悪いから、多分そうじゃないですかー」


 今まで鼻を押さえていたコレットとシュマが恐るおそる黄金の便器を見つめながら首を傾げていた。


 「ワンオフにしては、ここから見る限りじゃ、ちょっと華美さが足りない感じがする。只色を黄金色にしただけみたい。これが本当に黄金なら凄い価値があるけど、あたしが見る限り、安っぽい金色に塗装しただけみたいだから、ひょっとすると量産品かも知れないよ」


 リナが遠巻きに目を凝らしながら便器を観察しながら呟いた。

 その時だった。


 「催してきたのである」


 ガドが一声宣誓すると、躊躇うことなく黄金の便器に腰を降ろした。


 「やめろっ」


 ボクは大声で叫んだ。レーペさんや騎士団の連中すらやめろと叫んでいる。猛獣たちは悲鳴を上げ、ジャグとルメラは号泣しだした。しかし、その声はガドの大腸やらなんやかんやが奏でる凄まじい音と臭いによってかき消されてしまった。

 

 「ここは? 」


 ボクはどこかのベッドの上で目を覚ました。あの大音響と激臭で気を失ったようで、親切な誰かがボクを清潔なベッドの上に運んでくれたようだ。


 「荷物はある。で、猛獣たちとジャグ、ルメラもいるね」


 ボクの寝かされていた部屋はベッドだけが置かれている部屋、つまり病室みたいだった。


 ボクがベッドの上で体を起こして、残り香を確認している時、そっと扉が開いて、ザ・家令が入ってきた。


 「お気づきになられたんですね」


 「貴方がボクらをここに? 」


 「ええ、館の使用人総出で運びましたよ。館に入るまでが大変で、全ての窓を開け放って………、まだ臭いがこびりついていますから、あの館はもう使用できないでしょうね」


 建物が使えなくなるぐらいの破壊力があるとは、あの便器侮れない、と言うか、ガドが凄すぎるのではないかな。


 「お礼の宴は皆さまが回復なされてからに致します。飲み物などをお持ちしますのでしばらくお待ちください」

 

 ザ・家令は一礼して部屋から出て行った。それから、一呼吸してから隣のベッドで横たわっていたジャグがモゾモゾし始めた。


 「ジャグ、気づいたかい」


 「う、うん………、まだ臭い気がする」


 体を起こしたジャグが自分の腕を臭いでいた。良く見ると彼女はウサギのワンポイントが可愛い寝間着を着せられていた。


 「随分と可愛い寝間着だね」


 「お嬢のも可愛いよ」


 ジャグの言葉に改めてボクは着ている物を確認した。ボクが今着ているのは、いたる所に様々なポーズをしたクマが描かれたかわいい寝間着だった。ちょっとボクの中の益荒男が傷ついたけど、どうじにこの寝間着を気に入っているボクがいた。


 「シュマ、コレット、リナはまだダメージから回復していないみたいだし。ルメラは………」


 流石の竜もあの激臭には耐えられなかったのか、かわいいヒヨコ柄の寝間着を着せられた彼女はいまだに白目を………、ひょっとすると瞬膜かもしれないけど、さらしたまま固まっていた。

 角だとか尻尾だとか瞳孔の形を気にしなければ、彼女もそれなりに愛らしい容姿をしているのだが、この表情はそれらの愛らしさを相殺していた。とても残念な事だ。

 この中で一番耐久力やら回復力があるのはひょっとするとボクかも知れない。


 「それにしても臭かったよね。あのおっさんよりガドの方が何倍も臭かった」


 「タンパク質系の食物は臭くなるって聞いたことがあるような気がするな」


 「あれって武器だよね」


 残り香がないことに安心したジャグが身を震わせながら恐怖の記憶を捲っていた。


 「武器だとしたら、とても性質が悪い武器だよ」


 あんな武器が普通にあってたまるか、ボクはそんな現実があるわけないとボクは思っていた。


 「く、来るなーっ! 」


 いきなりコレットが大声を上げてガバっとベッドの上に身を起こした。


 「コレット、大丈夫? 」


 ボクはベッドから飛び降りて震えているコレットを抱きしめた。


 「臭いが来る。に、逃げて、逃げて………」


 抱きしめているボクの腕の中でコレットがブルブルと震えていた。


 「もう終わったよ。大丈夫、大丈夫だからね」


 「お嬢様」


 宥めるように抱きしめていると、いきなりコレットがぐっと力を入れてボクをホールドしてきた。


 「お嬢様っ」


 コレットが胸をぐっとボクに押し付けてきた。あの双丘にボクは顔をうずめるような形になってしまった。ボクの中の益荒男が猛り狂いそうになった。


 「お嬢様、随分育ちましたね」


 ボクを抱きしめながら、コレットが嬉しそうな声を上げてくれた。この一言でボクの中の益荒男はスンと小さくなってしまった。


 「あ、本当だー」


 いつの間にか起きたシュマが背後から手を入れて僕の胸の大きさを確認するとニコニコ顔でコレットに言いやがった。


 「シュマ、大丈夫? 」


 「大丈夫ですよー。私のはそこ猫のより大きいですから、包容力はけた違いですよー」


 ボクの問いかけにシュマは明後日の方向から答えてくれた。


 「そこの犬より、張りは私の方が上です」


 シュマがさらに抱きしめる力を強めた。獣人はもとより人より力が強い、そんな彼女が力を入れてくるとなるとサバ折りみたいにななるから、その双丘の感触を楽しむなんて余裕は無くなってしまう、残念な事だ。


 「質と量、どちらも極上品なのはいかがですか? 」


 やっばり、リナまで絡んできやがった。毛皮に囲まれ暑苦しい、胸の感触を一杯感じられるのは嬉しいけど、呼吸まで辛くなってくる。


 「おいらの将来に投資しない? 」


 ジャグまで絡んできた。この子がこんなのになったのは多分、猛獣たちの悪影響なんだろうな。そんな事を考えている内に、ボクは猛獣たちに締め堕とされてしまっていた。



 「良く寝ていたねー、もう目覚めないかと思った」


 ボクが目を開けるとルメラの顔が正面にあった。 彼女の縦長の瞳孔にちょっと心配しているような色が滲んでいた。


 「毛皮にちょっと蒸されただけだよ」


 「竜には毛皮は今の所、ない」


 ルメラはそう言うとボクにベタっと抱き着いてきた。


 「今の所って………」


 「ガンバレば生やすことは出来るはず」


 ガンバレばって、今君の頭に生えているのは一体何なんだ? よく考えればリザードマン系の人は身体全身がウロコみたいなのに覆われていている者がほとんどだし、竜の姿の時にも毛なんてなかった。


 「イイ女には秘密がつきもの」


 ルメラ、そんな言葉、何時覚えたのかな。少なくとも女=雌としても、君はそれ以前のような気がするんだ。


 「目が覚めておられたんですね。急いでお話したいことがあります」


 レーペさんが僕の所に息を切らしながら走り込んできた。


 「どうしたんですか。まさか、シドレ様を見つけられたとか? 」


 「違います。あの便器、数ものですよ。どこかで量産されているんです」


 レーペさんはリナがあの場で言ったことが正しかったことを証明してくれた。


 「あんなの、どこで必要なんでしょうか」


 「それは分かりませんが、あの便器にはシリアルナンバーが打ってありました。しかも00103です。私はアレが既に3桁は作られていると思います」


 レーペさんが推測している事態って、アンナのが100個以上あって、どこかに設置されているってことだよね。


 「どこにあんなのの需要があるのかさっぱり分かりません」


 レーペさんはそう言う不安な表情を浮かばせた。


 「武器として考えるとアレもそれなりに使えませんかー」


 あの激臭をもろに敏感な鼻に喰らったシュマが毛を逆立てながら、と言っても見える部分だけど、否そうな表情を浮かべた。


 「あの音も我慢できません」


 音に敏感なコレットが耳をイカみたいにしながら呟くとボクをさらにギュッと抱きしめた。


 「あの臭いも音もこの世に存在してはいけないモノです。あんなモノが野放しなんて許されませんよ」


 リナもアレの臭いと音には我慢ならないらしい。


 「数ものだとしたら、アレが既に複数どこかに配備されている可能性はあるよね」


 ボクは一瞬恐ろしいことを想像した。アレが数十器並べられ、一斉に用を足されたら。

 人を倒すだけじゃない、環境を破壊する恐ろしい事態になりかねない。


 「私もそれを心配しています。物がモノだけに機動的に運用することは難しいと思いますが」


 「要塞に配備すれば………、使用中は身体をさらしてしまうから難しいかな」


 「戦に使える、使えない以前に危険ですよ。アレは」


 レーペさんはボクと同じような危機感を持っているようで、顔色がさえなくなってきた。


 「あんなのがあちこちにあったら、ゆっくり眠れやしない、それどころか落ち着いて用を足すこともできないよ」


 「そのとおりですね。あれがブッコワース領で流通していないか調べてみようと思います。シドレ様の行方より重大な案件だと判断しますので」


 確かに彼女の言うとおりだ。ボクの事はそっとしておいてほしいから、この流れで行ってもらいたい。


 「シドレ様の捜索がガド様のお仕事だったように思うんですけど」


 背後からそっとリナが声をかけて来た。背後から声をかけるのは良いから、身体を押し付けないで欲しい、リナの身体の凸凹が背中を通じて感じられるから。ボクの中の益荒男が猛りそうになるから。

 益荒男が猛れば猛るほど、今の自分の身体について思い知らされるから、ちょっとキツイんだよね。


 「ガド様は本来の仕事のことを良く失念なさいますから、少々わき道にそれても問題ありませんよ」


 レーペさんはにっこりしながら平然と言ってのけた。そして、ずいっとボクに近づいて


 「ジャグちゃんとルメラちゃんを危険なことから遠ざけたいですからね。あんなかわいい子たちに酷いことをするんだったら、私たちが全力で阻止しますよ。そして、悪党には然るべき報いを与えます。たとえそれが誰であってもです」


 と、真剣な目で訴えてきた。これは、彼女らに何かあればダイレクトに命に係わる案件になりかねない臭いがプンプンしている。


 「アレのことは騎士団に任せて、私たちはご馳走に集中ですよー」


 シュマが涎を手の甲で拭いながら尻尾をパタパタ振っていた。


 「お魚が、お魚ですよ。新鮮なお魚ですよ」


 目の座ったコレットが何かブツブツ呟いている。ちょっと怖い感じがする、多分正気だよね。

 それより、あんなモノを量産するようなヤツってどんなヤツなんだろう。

 バカでは作ることができないけど、真っ当な精神を持ち合わせているヤツはそれ以前にあんなモノを作ろうなんて思わない、はず………だよね。


 「気を取り直して、お呼ばれに行こうか」


 ボクは自分の頬を両手でパンと叩いて気分を切り替えた。

 これからは出す事より、入れる事に集中するのだ。勿論、どちらも大事な事だ。



 「お嬢様、コレットは、コレットは幸せ者です」


 魚を煮たり燻したり干したりして木材みたいになったのを、鉋で削ったモノをどんぶりに入ったコメの上に山盛りにし、そこにショーユと呼ばれるソースをさっとかけた、この地域で「ねこまんま」と呼ばれる伝統料理に舌鼓を打ちながら感動の涙を浮かべていた。

 シンプルなモノほど心を打つよね。でも、それは程度の問題だと思うんだけど、そこは敢えて口にしない事にした。


 「お魚もなかなかイイもんですねー。このフライなんていくらでも食べられますよー」


 美味しい気持ちを共有することは大切な事だけど、口に食べ物を入れたまま喋るのは止めようよ。シュマの大きな口でやられると、その迫力は凄い事だからね。


 「おいら、お魚がこんなに美味しいなんて思ったことがなかったよ」


 ジャグが平たい感じの塩焼きされた魚をつつきながらニコニコしていた。


 「干物にするとさらに旨味が増すんですね。日持ちするのを仕入れるのも良いかも………」


 リナは開きにされ、干物にされた魚をつつきながらブツブツと呟いていた。こんな時にもちゃんと商売について考えているなんて、やっぱり商人なんだ。食べる手を止めず大きな口に次々と食べ物を詰め込んでいる姿が残念だけど。


 「人って、こんなに美味しいモノが作れるのに、なんであんな嫌なモノを作るんだろう」


 ルメラが食べる手を止め、ボクをじっと見ながら尋ねてきた。


 「人であるボクも分からないよ。種族が違うルメラと仲良くできるのに、同じ人なのにエイラーたちと仲良くできなかったぐらいだから」


 「そうだよね。不思議だよね。ルメラはロスタが好き。でも、エイラーは嫌い。これと同じ? 」


 「そう思うよ」


 ボクはそう言うとコップの中のワインを飲み干し、それをルメラに見せた。


 「ルメラにはこれの形は何に見えるかな」


 「長い四角。何でそんな事? 」


 「じゃ、上から見たら? 」


 ボクはコップをトンとテーブルの上においてルメラに上から見るように促した。


 「丸だよ」


 ルメラは当然の事の様に答えると首を傾げた。


 「長い四角も丸もコップである事に違いはないだろ。人もそういうモノだと思うんだよね」


 「何となく分かった………気がする」


 ルメラはちょっと難しい表情を浮かべた。

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