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逃走若様 道中記  作者: C・ハオリム
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第28話 「トイレだけに臭うですね」

 「南公園の公衆便所の清掃………、港の公衆便所の清掃………」


 ボクは商工会の掲示板にある日雇いの仕事の一覧を見てがっくりと肩を落としかけていた。


 「お嬢様、こっちに今は無住になっているお屋敷の………」


 コレットが他の傭兵っぽい仕事を見つけたらしく、掲示してある依頼票を指さしていた。


 「違法に住み着いた盗賊の退治とか?」


 シュマがコレットが指さす依頼表を見て固まっていた。


 「どれどれ、そんなに凶悪なヤツがいるのか………、なになに………屋敷内の全トイレの清掃………」


 シュマとコレットが固まっている理由が良く分かった。言い方は違うけど似たような依頼だった。個人が使用するか不特定多数が使用するかの違いしかなかった。


 「お嬢様、ここに迷宮の………」


 コレットがこの街の近郊にある地下迷宮での依頼票を指さした。


 「迷宮内のトイレの清掃、それなりに腕のある方に限ります。………って、ここはトイレ清掃専門の斡旋しかしていないのか」


 商工会の掲示板にある依頼は場所が違えど全部トイレ清掃だった。


 「お嬢ちゃんたち、いい仕事か見つかったかい? 」


 ボクたちがあまりにも偏った以来しかないことに悶絶している所に職員らしき老人が通りかかり、明るく声をかけて来てくれた。


 「なんで、トイレ清掃のお仕事しかないんですかー」


 シュマがボクたちを代表するように彼に尋ねてくれた。


 「人は1日どれぐらいトイレで過ごすのかな。凡そ30分ぐらいかな。お嬢ちゃんたちならもっと必要かな。1日30分とするなら1年で凡そ180数時間を過ごすことになる。一生だとどれぐらい過ごすことになるのか。それだけの時間を過ごすんだ、快適であった方が良いだろう」


 彼の言う事には一理あると思うけど、普通ならある隊商の護衛や郊外の見回りが1件もないのは腑に落ちない。


 「確かに綺麗なトイレで用を足すのは気持ちが良く、大切な事だと思うんですが、護衛などの仕事がないのが不思議で………」


 ボクは職員に見たままの疑問をぶつけた。


 「領主であるエイラー子爵様が大変トイレに思い入れがある方で、常々「美しきトイレは人を健康にする。そして国を富ませる」と口にされておられまして………」


 職員はこれ以上はどうも言いにくそうだった。多分、エイラー子爵様は政よりトイレに力を入れていおられるらしい。


 「お嬢様、清掃以外の仕事がありましたよー」


 シュマが掲示板の隅っこに貼ってある依頼票を指さしていた。彼女の肉球付きの指先にある依頼表書かれている仕事とは………。


 「公園の公衆便所の建設作業ですね」


 コレットがため息交じりに教えてくれた。


 「お腹を壊したときみたいですねー」


 何かを思いついたのかシュマがニコニコしながらその依頼表を指さした。


 「して、その心は」


 「おトイレから離れられない」


 「お見事っ」


 シュマとコレットがイェーイとばかりにハイタッチをしている。それを見てボクはため息をついていた。

 多分、旨い事を言ったと思っているんだろうな。


 「配送やお店の手伝いも無いんですか」


 このトイレしかないような商工会に最後の希望を持って尋ねた。


 「ないね」


 ボクの希望は一言で霧散してしまった。


 「………一体領主様は………、領内の物価をご存知なのでしょうか。しがない流れ者の傭兵ですから、ここに来て路銀の減る音が激しくて夜も寝られないぐらいですよ」


 ニヤニヤしながら嫌味を込めて職員に言ってやると、彼はこっちにも聞こえるぐらいの溜息をついた。


 「子爵様の方針ですから」


 「街のあちこちで公衆便所の整備作業、下水道工事が為されていましたが、ここには人足の依頼票がありません。公共事業であれど商工会が労力などを斡旋するのが普通ではないかと」


 諦めた表情を浮かべる職員にいきなりやって来たリナがにこやかに尋ねてきた。

 ボクが聞きたかったことを代弁してくれたことに感謝しようと彼女の顔を見ると、口元には笑みがあるものの、その目は決してにこやかじゃなかった。


 「工事は全部ドゥカーティ商会が取り仕切っていましてね。我らが口を挟むこともできません。物価高については………」


 リナの質問に職員は苦しそうな表情を浮かべながら答えると、苦悶の表情を浮かべた。


 「子爵様は、食べたら出るだろう、ならば食べる量が減れば、出すものが減って、トイレの寿命が長くなる。良い事だらけだ。と敢えて食料品を流通させない様にしておられます。魚介類に対しても、ガポーリ海賊団が目を光らせていて、漁獲量の8割方を強奪していくんですよ」さ

 職員は力なく言うとがっくりと項垂れてしまった。こんな景気の中で商売が活発になる訳もなく、ここの商工会はトイレ関係以外は開店休業状態になっているのだろう。


 「こんな危機的状態なのに、子爵様はトイレにしか興味がないときている。お嬢さん、ここでは儲けられないよ」


 職員は力なくボクたちに告げると幽霊のように事務所の奥の方に消えて行った。


 「リナ、どうした? 」


 いきなり出現した不機嫌なリナに尋ねると、彼女は尖った口を皿に尖らせた。


 「商売になりません。仕入れた物は食料品以外需要はないです。街の皆さんはお金がないし、お金のある人は私が商う商品には興味がないようですし」


 リナはそう言うと項垂れ、耳までぺたっと垂れてしまっていた。ポンコツ商人から商を抜いてしまうと、只のポンコツ人になってしまう、商人としての彼女のアイデンティティが危機なのかもしれないが、食事して一晩寝れば元に戻っているだろう。


 「猟師さんが獲ったお魚とかは半分以上が海賊が持って行くんだって。ヒドイよね」


 魚料理を喰い損ねたジャグがむすっそやた表情で訴えてきた。


 「お魚以外もゼイキンで高くしているって、食料を運んでいる時に限って山賊が襲ってきて、食べ物が入って来ずらいんだって。お腹減った………」


 ルメラは魚介類以外の食料も潤沢にないことを口にすると、言葉以上に雄弁に腹の虫を鳴かせた。


 「何か妙だな、なんだか臭う感じがする」


 食料品が組織的に品薄にされている。量のお金は大半がトイレ及びその関連に消費されている。何か大きなものが動いているように思われた。そこで、謎解きをする賢者のように顎に手を当ててキメてみたんだけど。


 「トイレだけに臭うですね」


 「お見事っ」


 シュマとコレットはボクが意図している事とは別の方向に頭を働かせているようだけど、いつものことだから一々突っ込むのもしんどいのでそのままにしておく事にした。


 「お嬢様、このままじゃ、路銀が尽きてしまいます。王都への船賃もままならなくなります。商船も海賊だとか、港の使用代が高騰しているとかで船賃がうなぎ上りなんですよ。今の状態でも一番下の船室に潜り込めればいいぐらいの蓄えしかないんですぅ。どうしましょう? 」


 リナが目に涙を滲ませながらボクの手を取ってきた。そんな彼女の手をシュマとコレットは邪険に払いのけようとしていたが、そんなリナは彼女らの妨害もなんのそのでしっかりとボクの手を握っていた。


 「海賊と山賊を退治すればちょっとはマシになるかな」


 「ここの領主様からして、如何なモノか、なんですから、そんなに簡単にはいかないですよ」


 ボクがふと漏らすと、ボクの手を握りしめたリナがじっとボクを見つめて、ため息交じりに首を振ってきた。


 「お嬢様、海賊と山賊を退治なさるおつもりですか? 」


 コレットが真剣な眼差してじっとボクを見つめてきた。多分、ボクが想像している遥か上の事を考えているのだろう。


 「まさか、ボクらにそんな力はないよ。まさか、コレット、殴り込みをしようなんて思ってないよね」


 「悪を討伐するのは当然の事ですよー」


 ニコニコしながらシュマまでもが何時ものようにトンデモ発言をかましてきてくれた。


 「討伐の話はナシ。いいかい、ボクらの戦力なんて見てくれ相応か下ぐらいだよ。自分の力を見誤ると命がいくつあっても足らないよ」


 ボクは義憤?にかられ血気はやる2人を宥めながら商工会を後にした。あそこにいてもいい仕事にはありつけないからね。



 「さーて、ボクらも傭兵ではなく、個人として何かの仕事をしないとマズイ事になるな」


 宿に戻って屋台で購入した安い総菜を挟み込んだパンのようなモノを齧りながらボクらはこれからの行動について話し合う事にした。


 「今の宿でしたら一月あまりは充分に宿泊できるお金はありますけど、それを使ってしまえば素寒貧です。私の商売もここの経済状況では、赤を出すだけになりそうです」


 リナはため息をついてがっくりとしていたが、食べる手を休めることはなかった。食べることは大事だからね。


 「全体的に景気が悪いんですよね。飲食店で働くにしても、ドゥカーティ商会関連しかなくて、あそこは全部、赤い実を食べることが前提になってますから」


 赤い実を食べる、つまり身体を売るのが前提って、どんな飲食店なんだ。ま、想像はできるけど。


 「そんな所にお前たちを働かせに行くわけにはいかないよ。それなら、ここの街を出て遠回りしよう。それなら商売しつつ移動ができるだろうからね」


 こんなトイレしかないような街、長くいる必要はない。船便が不便であっても他の街の方がマシに決まっている。


 「明日の朝にでもここを発って、近くの港街に移動しよう」


 ボクはこの街に深く関わることに気が進まなかった。どう考えてもこの街の病巣は深く、とてもじゃないけどボクにどうこうできるように思えなかったからだ。


 「ネズミはいち早く沈む船から逃げるらしいですから。あたしはキツネですけど」


 「こんな所と心中するような趣味はありません」


 「ここには忠誠を誓っていません。私が忠誠を誓っているのはお嬢様だけですよー」


 猛獣たちはボクと同意見らしい。


 「お腹が減る所は嫌だよ」


 「食べ物がないのは魅力がないのと同じ」


 ちびっ子たちも同じだった。こうなると、グズグズすることはない。明日には出発だ。



 「どういう事です? 」


 次の日の朝、城門の衛兵にボクは喰ってかかっていた。


 「女はこの街から出るにあたり、1人当たり大金貨10枚納める事になっている。納められないなら出ることを認めない」


 衛兵はバカの一つ覚えみたいにこの台詞を繰り返すのみ。多分、コイツはバカに違いないと確信する。しかし、大銀貨10枚なんて、郊外にそれなりの家が買えるぐらいの金額だ。


 「この子たちもそうなんでかかー?」


 シュマがジャぐとコレットを見やって目つきをするどくしながらも、いつもの様にのんびりした口調で衛兵に尋ねた。


 「女なら同じだ」


 コイつ、言い切りやがった。こんな小さな子まで女として見ているのか。虫唾が走る。


 「滅茶苦茶な話だ。ならば、力で進ませて………」


 「納得いかんのであるっ! 」


 ボクが衛兵に凄みながら剣に手をかけた時、どこかで聞いたような大音声が響いた。

 何事、とこの声の主をを確認してボクは複雑な気分になった。

 そこに居たのは筋肉山塊のガドだった。彼は怒りで体中の筋肉を盛り上げしかも青筋まで浮かべている。いつものパッツンパッツンの鎧は今にも裂けてしまいそうになっていた。


 「レーペは我々に欠かす事の出来ぬ知恵袋なのである。それを貴様らは出させぬとほざく。我らはブッコワース伯爵の命で動いているのである。我らに口出しは出来ぬのである。………これで良かったか?」


 こめかみに青筋を浮かび上がらせ一気にまくしたてると彼は隣に控えているレーペにそっと確認していた。

 レーペさんの言うとおりに話しているだけってのがはっきり分かる。しかし、ガドの怒りは彼の筋繊維でできた小さな脳みそから発せられる本当の怒りのようだった。


 「その女を出さぬとは言っておらん、大金貨10枚を納めればよいことだ。只それだけのことだ」


 この衛兵も同じことしか言わないバカだった。コイツの物言いには少々むっと来た。


 「この女だと。彼女にはレーペと言う名がある。我ら騎士団の知恵袋であり、大事な仲間である。その仲間を侮辱する奴は、この鍛えぬいた身体で教育してやるっ」


 「レーペ様への侮辱は、我らへの侮辱と同意っ」


 「正しき心が宿る、正しき肉体にしてやる」


 ガド以下の騎士団員も激昂しているみたいだ。


 「しゃーすぞーっ」


 「処す」


 先日のチンピラ(海鮮風)も一緒になって騒いでいる。で、当のレーペさんはいつもと同じようにポーカーフェイスを決めている。

 でも、これ以上は押し問答となると見ると、ガドの前にずいっと前に出てきた。


 「通行税を勝手に決めることはいくら領主と言えどもできません。伯爵様の許可を得ないと何の意味もありません」


 正しく、彼女の言うとおりだ。通行税を勝手に決められたり、値下げや値上げされたら領内の流通はガタガタになってしまう。ふくらブッコワース領でもそれは認められない。


 「ふん、ここではエイラー子爵様が法なのだ。貴様らの言い分などここでは意味をなさん」


 衛兵が滅茶苦茶な事を口走ってやがる。バカだと思っていたが、今、確信に変わった。


 「ならば押し通るまで」


 何と、レーペさんが大声を上げた。その声を合図にしたかのように騎士団の連中が抜刀する。筋トレ以外していないのかと思ったら、ちゃんと統制がとれているし、剣の構えもしっかりしている。


 「わ、分かった、お前らは出て良い」


 筋肉山塊の集団が刃物を抜いて睨みつけているのだから、穏やかでいられるはずがない。

 奴らはあっという間に道の両側に引いて道を開けた。


 「! 」


 衛兵たちが道を開けた瞬間、レーペさんがボクたちを手招きした。


 「行くよっ」


 このタイミングを逃しちゃいけない。ボクたちは一斉に走り出した。目標は門の外だ。


 「助かりました。感謝します」


 「後は君たちで頑張ってね。ジャグちゃん、ルメラちゃんを危険な目に合わせたら許しませんよ」


 ボクたちはレーペさんの横を通り過ぎる時、短くお礼を述べると彼女はにっと笑みを返し、脇を通り過ぎるジャグとルメラの頭をさっと撫でてくれた。


 「レーペさんも気を付けてね」


 「生水には注意」


 ジャグとルメラはお返しにとばかりレーペさんに声をかけた。


 「お、お前らは違う、待て、待つのだ」


 「待てと言われて、待つ人はいないよ。ボクは自由なんだから」


 衛兵たちが大騒ぎしていたが、そんなの知った事ではない。ボクは奴らに向かってべぇーっと舌を出して言ってやった。

 ボクたちの背後で悔しがっている衛兵たちの吠え声が聞こえたけど、いい気味だ。


 「と、ついさっきまで思っていました」


 とっぷりと日が暮れ、辺りには人家の灯りもなく、むやみやたらに走り回ったものだから自分がどこにいるかも分からず、がっくりと項垂れて道端に座り込んでいるボクの姿があった。


 「地図にもない所ですね」


 リナが大雑把すぎる地図を眺めながらため息をついた。


 「食べ物の臭いがしませんねー」


 「人がいる気配はありません」


 ボクらがいる街道とも言えないような細い道の先を偵察に行っていたシュマとコレットが戻ってくると残念そうな表情を浮かべた。


 「仕方ないよ。こんなどこともつかない森の中だもんね。明日は、あそこに見える山に上がって町がないか探してみよう」


 ボクは自分自身に聞かせるように気休め程度の提案をしてみた。あてなく彷徨っていてもシュマやコレット、リナの鼻があれば何らかの生活臭を拾う事ができると言う思いがあった。


 「っ! 」


 ボクがぼんやり考えているといきなりシュマが空を見上げるようにして鼻をひくひくとさせ始めた。それに倣ってコレットもリナも同じように鼻をひくつかせた。これは、何かがあるって事だと、経験がボクに教えてくれた。


 「人の臭いがしますよー」


 いつものようなのんびりとした口調だけど、シュマの表情が固くなっていた。


 「うわっ、おっさんの汗の臭いですよ。それも何日もお風呂に入ってない、歯も磨いていないですよ」


 リナが顔しかめて鼻で拾ったことを伝えてくれた。


 「………結構な足音がします。凡そ15~20人、それなりに武装していると思います。防具がこすれる音がします」


 コレットが耳をピンと立てて音を拾っていた。どうやら、ボクらは山賊を発見したようだ。彼らの名誉のために言うけど、ブッコワース騎士団員は、汗臭いと言っても毎日ちゃんと身体を洗っているからすえた臭いはしないからね。


 「追跡できるかな? 」


 ボクは猛獣たちに聞いてみた。


 「勿論ですよー」


 「我らはもとより狩人です」


 「獣人の五感を舐めてはいけませんよ」


 既に猛獣たちは狩猟モードに入っているようだ。


 「ルメラもできる」


 なんと、ルメラが溌溂と手を上げているではないか。今まで、只管食べて、思いきりはしゃぎまわって、意地汚く惰眠を貪るだけかと思っていたら、意外な事が出るとは、やはり腐っても竜ということかな。


 「夜の闇に紛れて奴らのアジトを突き止める。そして、その場所をレーペさんに伝えて、後はガドに暴れてもらう。できれば、その際、ボクらは奴らからイイ感じものを頂く。この方針で行こうと思う」


 「お嬢様、悪い顔になっていますよー」


 「悪党には何をやってもいいのです」


 シュマとコレットはボクの方針に異議はないようだ。


 「金目の物があればいいですねー」


 リナに至っては、既に討伐することが前提であるようだし、


 「悪い奴は許せないよ」


 「お魚料理の恨み」


 ジャグとルメラも同じのようだ。こうなったら、即実行だ。


 「シュま、コレット奴らをつけてアジトを見つけてくれ。ヤバかったらすぐに逃げるんだ」


 ボクが彼女らに命じると、猛獣たちは牙を剥いてにっと笑ってみせた。


 「ルメラじゃないですが、お魚の事、結構根に持っているんです」


 「八つ当たりしたい気分なんですよー」


 そう言い残すと猛獣たちは夜の森にそっと忍び入って行った。


 「彼女らが戻ってくるまでお嬢様はお休みください。見張りはこのレナが引き受けます。ジャグ、ルメラもお嬢様と一緒に休むんだよ」


 リナはそう言ってシュマとコレットを見送ると気の元に座り込んで背中をその幹に預けた。


 「見つかるといけないから、焚火も虫よけの香もなし。我慢してくれよ」


 何か不満げにボクを見つめるちびっ子ズにボクはさらに追い打ちをかけた。


 「匂いがするから食事は携行食だ。お腹がすくっていうならさっさと寝る事。いいね」


 文句が言いたそうなちびっ子ズにボクは言いつけると、リナと同じように気に背を預けて座り込んだ。勿論、剣は抱えてだ、もし山賊が来たらリナとちびっ子ズが逃げられる程度の時間は稼ぎたいからね。



 見張りを引き受けると言った。リナが低く鼾を書き出してから暫くすると藪の中から白い影がいきなり現れた。


 「っ! 」


 ボクはさっと立ち上がって、その白い影に向けて抜刀した。


 「お、お嬢様、コレットですよー」


 ボクの緊張に反して、白い影からのんびりした答えが返ってきた。


 「だから、いきなり出ちゃダメって言ったでしょ。白いってのは妙に目立つんだからね。そこは注意してよ」


 白い影の後ろから黒い気配がぬっとあらわれた。元白猫のコレットにしてみればシュマの目立つ毛色に対する無頓着さが気に入らないのだろう、と、勝手に判断しつつボクは剣を納めた。


 「アジト、見つけましたよー、この先の海岸の洞窟に20人程いましたよー。臭かったです」


 「それぞれ武装しています。海岸には中型の外航船が停泊していました。私が思うに、連中は海賊と山賊を兼業している、です」


 コレットの言う臭いってのは、連中が文化的な生活をしていないことを指しているし、コレットの見立ては概ねその通りだろう。


 「山賊と海賊の兼業って、いやな兼業もあったもんだね」


 シュマとコレットが見つけた連中がろくでもない連中であると言う事はほぼ明確だ。


 「近々、でかい仕事をするって言ってましたよー。でかい仕事って、大きなおトイレでも作るんでしょうかねー」


 「なーに言ってんの。大きな仕事って、あの子爵とつながっているなら、大きな方、これに決定。皆で大きいのを出すのよ」


 シュマとコレットが見てきた連中についてヤイヤイと騒ぎ出したけど、早く騎士団に連絡しないと大変な事になりそうなことは確かに思えてきた。


 「騎士団を探して、ここまで連れて来る、果たして時間の余裕があるでしょうか? 」


 ボクが連中のことを騎士団に通報すると言いだそうとした時、至極真っ当な事をリナが口走った。


 確かに、リナの言うとおりだ。そこまでの余裕がない、指を咥えてみていると、被害が出る。どこかで涙を流す人がいる。それを見過ごすことは伯爵家の者として見過ごすことは出来ない。無辜の民を助けることは高貴な義務(ノブレス・オブリージュ)否、貴族にのみ許される権利だ。


 「悪党を見逃すことは、ブッコワース否、貴族として否、人としてできないっ」


 「流石、あたしが見込んだお方です。悪党をさっととぶちのめして、奴らのお宝を頂きましょう」


 リナのボクを見る目が金づるを見る目になっている。

 実際、勇ましいことを口走ったものの、気持ちは本気なんだけど、実際はどうかなーと落ち着いて考えだすと、ちょっとばかしヤバイかもと思いだした時のこの台詞、退くに引けなくなってきている感じがしてきた。


 「悪党に呼吸する権利はありませんよー」


 「害虫は駆除しましょう」


 猛獣たちが既に狩りのモードに入っている。こうなると………


 「流石、おいらが見込んだ人だよ。リナ姐、絶対に御用達になろうよ。お嬢様なら、売りて良し、買い手良し、世間良しで商いできるよ」


 「人間にしておくのが勿体ないぐらい」


 ちびっ子ズがキラキラした視線で確実に退路を防いでくれた。こうなったら、殺るしかない………、殺られるかもしれないけど。

 でも、猛獣たちに冷静に彼我の戦力差を説明したら。


 「しかし、相手は武装した20名程度の男たち、対してボクらは獣人2人とボクのみ。戦力差は………」


 「そうです。愛と信頼を総身に受けている獣人です。負ける理由がどこにあるでしょうか」


 「そうですよー。お嬢様は一言、殲滅せよって仰るだけでいいんですよー」


 ダメだ。ビーストモードだ。こうなると、腹を括るしかない。短い人生だったなー。

 潔く、貴族らしく散るのもまた良し………。散りたくないけど。


 「………無辜の民のため、牙なき民のため、正義のため、力を行使する時は今」


 こうなったらやけくそだ。毒キノコを食べるなら石突きまでだ。ここは格好良く剣を天にかざして系よくかましてやった。


 「我が命は主のため。我が牙は主の敵をかみ砕くため」


 「我が肉体は主のため。我が爪は主の敵を引き裂くため」


 「「我ら、主の命により、主の敵を討ち滅ぼさん」」


 あー、猛獣たちが勝手に盛り上がってきている。


 「お嬢様、これを………」


 猛獣たちの盛り上がりに固まっているボクにリナが綺麗な紙をそっと差し出してくれた。


 「白紙の契約書です。あたしは家臣ではありませんので、商人として利害を超えた最大の忠誠を誓う証です」


 「あ、ありがとう」


 ボクはリナが差し出した紙を受け取った。ここで受け取らないって選択はなかった、と言うか選択させてもらえなかった。


 「お嬢様、おいらまだ一人前じゃないから白紙の契約書は持ってないけど、身も心もこれからのすべての儲けも全部お嬢様に捧げる」


 「竜の最大級の加護を未来永劫さずける」


 人はこうやってトンデモない事に追い込まれて逝くのだろうね。

 何か目から流れた気がするけど、多分の気のせいだろう。

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