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逃走若様 道中記  作者: C・ハオリム
26/37

第25話 「しっかり、女の子だったんだねー」

 「コルセール、それは何のつもりだよっ! 」


 翌朝帰って来たコルセールを見るなりルーダさんが怒声を張り上げた。

 おかげで、朝の惰眠タイムが潰れてしまった。久しぶりのフカフカのベッドだったのに。

 確かに、今のヤツの姿を見ればそう言いたくなるだろう。

 なんせ、ヤツは可愛らしいテディベアを愛おしそうに抱きしめ、剣帯にはおびただしい量の小さなヌイグルミや可愛らしい小物がぶら下がっているんだから。


 「ルーダ、このクマさん可愛らしいだろ。硬玉亭のマスターやファンシーフレンズに見繕って貰ったり、プレゼントしてもらったんだ。いくら可愛いからって君にはあげないけどね」


 「その姿、誰にも見られていないよね」


 「可愛いって、ファンの娘たちに言われたよ」


 顔色を変えて問いかけるルーダさんにヤツはしれっと答えやがった。

 素人のボクでも分かる、これは大きな設定の変更が必要だ、しかも今まで整合がとれるような不自然じゃない変更だ。


 「君は何てことをしてくれたんだよ………」


 ルーダさんは頭を抱えて悶絶しだした。その気分、何となく分かる、計画していたことを他人だとか協力者によって滅茶苦茶にされるって、はっきり言って気分悪いよね。

 誰かのおかげで、可愛いお嫁さんから「あなた」とか「ダーリン」なんて呼ばれることも、可愛い子供たちから「パパ」とか「お父さん」なんて呼ばれることも無くなったんだからね。マイサンとともに、永久に。


 「昨夜は刺激的すぎてね。俺は眠らせて貰うよ。さ、クマちゃん、一緒におねむだよ」


 ヤツはルーダさんの苦悩を他所にテディベアに甘く囁きかけながらさっさと寝室に入って行った。


 「………悩んでいる所悪いんですけど、ボクらの役割も変わるんですか」


 「大きくは変わらないと思うけど、詳しいことは暫く考えさせてからにしてくれないかな。私の考えがまとまるまでの宿泊費はこちらで持つから心配しなくていいよ」


 ボクの問いかけにルーダさんは苦悩を隠すことなく呻きながら、手をひらひらさせてボクたちを退出させた。これ以上、あの場にいて妙な設定を背負わされたらたまったものじゃないからね。



 「お嬢様は、いろんな意味で可愛いを解禁されていますから、思いっきり楽しんでいいと思いますよ」


 ボクらが宿泊している部屋に戻って、寝間着からア普段着に着替えているとコレットがいきなり不穏な事を口にしながら、ボクに詰め寄ってきた。


 「そ、そりゃ前の姿でヌイグルミを抱いて街を歩くなんてできないからね。リボンもフリルも縁がなかったよ。でも、ほら、今はもうリボンもつけているし、この服だってここにフリルが………」


 ボクはさっきシュマが髪を梳かして綺麗にセットした後、ボクの意向なんて無視して結わえたリボンを指さして、コレットに、可愛いはもうたくさんだと主張してみた。


 「全然可愛いが足りていません」


 コレットがしっかりと、溌溂と言い切った。可愛いが足りないって………。


 「ロスタ姐ちゃん、おいらより可愛いが足りないもんなー。ルメラですら寝るときには竜のヌイグルミを抱きかかえているし、おいらも最近、パンツは子供から卒業しているからね」


 ジャグがちょっと自慢そうに胸を張ってから、特別だよってパンツを見せてもらった。確かに、お子ちゃまパンツからランクアップしていた。

 男のか女の子か分からなかった状態からすると随分と進化している。進化と言う面においてはボクの方がはるかに進化していると思うんだけど。


 「確かに、そのパンツは頂けませんねー。お嬢様の年齢に対して幼すぎますよー」


 シュマも何か怪しいことを口にしだした。この流れは良くないと思う、何とか断ち切らないと。


 「君らの言うのは可愛いじゃなくて、やらしいじゃないのかな」


 ボクらのやり取りを聞いていたリナが手にしたキワドイパンツを横目に言い放ってやった。


 「お嬢様の眼は節穴ですか。やらしいとはこういうのを言うのです」


 ボクの言葉にリナがいきなり立ち上がってスカートを捲りあげて、現在穿いているモノを見せつけてきた。


 「黒………、レース………」


 突然の出来事にボクの頭の中はパニックなっていた。獣人の彼女の肢体はとてもグラマラスで、発毛している箇所は概ね人とは反対みたいなところがあるから、スケスケのパンツの攻撃力はボクには強烈過ぎて、

最近、元気のなかったボクの中の益荒男が天を衝くように元気になったのを感じた。

 悲しいかな、物理的に天を衝くモノは無いんだけど。


 「下品です。お嬢様はこういうのがお好きなのです」


 コレットが声高に叫ぶとスカートを勢いよくたくし上げた。

 そこには純白があった。ヒラヒラの。


 「清純とせくすぃの程よい融合、これこそが、可愛いの具象化です」


 これは、コレで良い。よろしい、ボクの中の益荒男がさらに上機嫌になっていた。

 日頃、一緒にお風呂に入ったり、着替えを見たりしているのに、この感動は何なのだろうか。


 「それも、やらしいです。これが至高にして最高なんですよー」


 こんな事で態々対抗心を持たなくてもいいのに、シュマまでもがスカートをたくし上げボクにその中身を見せつけてきた。

 装飾は最小限、小さなリボン程度、そして清楚な感じの縞模様、これも良い感じだ。

 その時、ボクの頭の中にふと、あの言葉が思い浮かんだ。

 「秘すれば花」

 女体の神秘を最小限の布で隠す、これこそ、益荒男が喜ぶシチュエーションじゃないか。

 思わず、昂ぶりを覚え………られなかった。

 もう、男じゃないんだから。

 その上、この手の下着を穿くことになるのはボクなんだから。

 お金がとても好きな人が自らがお金になりたがるだろうか。

 つまり、現在のボクの状況はそう言う事だ。


 「お嬢様、硬玉亭の人たちはこんな可愛いのを穿けないんです。これを穿いたらこぼれ出ますからね。ロスタお嬢様にはもう関係ない事ですけど」


 リナがやたら布を節約したパンツを手にしてボクに迫ってきた。

 確かにまろび出るモノはもう無いけど、ムラサキ色のレース多めって初心者にはハードルが高いと思うんだけど。今穿いているお子様パンツですらまだまだ違和感があるのに。


 「そんな事はありません。前の身体でもお嬢様は穿けます。何もまろび出ません」


 コレットがリナの誤りを正すように厳しく言い放った。前の身体であってもこの小さな布で隠せるって?


 「若様の可愛かったですからー」


 聞き捨てならないことを耳にした気がした。失われたとは言え、マイ・サンがそんな小さな布で収まるようなヤツじゃなかった。見えじゃなくて、真実だ。持ち主だった者が証言する。だから、「まろび出ない」、「可愛い」は絶対に受け入れられない。


 「そんな事は無い。大きくなった時はそれは………」


 ボクは13年間付き合ったマイ・サンの雄姿を思い出しながら彼女らに抗議しようとした、でもそれ以前に大きな喪失感に包まれてしまった。


 「………」


 ボクは堪えようとしても堪えきれない涙と隠しようのない悲しみに襲われた。


 「お嬢様のは、ご立派でした」


 「猛々しくてドキドキしましたよ」


 白々しい、取って付けたみたいな笑みを浮かべながらマイ・サンを誉めたてる彼女らを一瞥して、ボクはそっと股間に手を当てた。予想通り、そこにボクの思っているモノはなかった。


 「無くしたモノを嘆くより、今あるモノを大切にしましょう」


 ボクのマイ・サンが居なくなった原因を作ってくれたリナがしれっと反省の色が見えない台詞を吐くと


 「えいっ」


 いきなりボクのスカートをずり下げてくれた。


 「えっ、なにを」


 「じっとしていて下さいねー」


 ボクがスカートを元の位置へ戻そうとしているとシュマがボクの両手をホールドしてくれた。


 「これもっ」


 リナがボクのパンツを綺麗に下ろしてくれた。ボクの下半身は白日の下にさらされてしまった。


 「シュマ、今よ」


 リナがシュマに声をかけると彼女はボクの腕を掴んだまま持ち上げた。


 「コレット」


 「任せてっ」


 シュマに持ち上げられ、リナに身体をホールドされているボクに素早くコレットがあのムラサキ色を穿かせてくれた。


 「お嬢様、似合ってます」


 コレットが姿見を持ってきて、シュマとリナに捕縛されているボクの姿をボクに見せようとしてくれた。

 そこには、黒髪の少女が悲しそうな、悔しそうな、怒っている様な微妙な表情で睨みつけていた。彼女の下半身にはあのムラサキ色が綺麗にフィットしていた。

 これが他人だったら、きっと内なる益荒男は天を衝くがごとく歓喜しているだろう。

 でも、今のボクは………。


 「ロスタ、いるかい? え、なに? 」


 いきなり、ルーダさんが扉を開けて部屋の中に飛び込んできて、壮絶な姿になっているボクを目撃して固まってしまった。


 「しっかり、女の子だったんだねー」


 落ち着きを取り戻したルーダさんは、下着姿のボクをしげしげと見てにこやかに言ってくれた。


 「………ボクは、お、女の子ですよ」


 この台詞を口にするにはいろいろと抵抗があったけど、これ以上彼女に痛くない腹を探られたくないから、これも試練だと思う事にした。


 「そうだよねー、話をしたり、動きを見ていると、時々、君が男の子みたいに思えることがあってね。ひょっとして女装した男の子なんじゃないかなって思っていたんだよ。そうだと、物語がイロイロと面白くできると思ったんだけど………」


 ルーダさんは「なーんだ」と言いたげにボクを見て軽いため息をついてくれた。


 「ご希望に答えたられなくてごめんなさい。生まれ落ちてから一日も休まず女性をしていますから」


 「それなら、それでいいよ。で、アイツ………、白銀の騎士様のことだけど、アレの隠された趣味として可愛い物が好きって設定を付け加える。大っぴらには言わないけど、可愛いモノ好きってギャップが乙女心に刺さるんじゃないかなって。それで、リナさん、貴女にはアイツが密かに手に入れたい可愛い物を商ってくれる商人ってことにするからね。君らは全員女の子だから不自然じゃないし」


 ルーダさんは何か新たな設定を作ったようで、それを早口でボクらに説明してきてくれた。


 「今夜のディナーショーでは、その辺りをちりばめようと思ってね。今、台本を直しているんだよ」


 「え、今夜もですか」


 ルーダさんの言葉に思わず聞き返してしまった。あの地獄をさらにもう一度繰り返すのか。


 「契約書に3回と書いてあるけど。ちゃんと読んだ? 」


 ルーダさんがニコニコしながらボクらに恐ろしい事を告げてきた。彼女の言葉に顔を真っ青になった(毛で分からないけど瞳孔が開いているから多分そうだ)リナが急いで彼女から受け取った契約書を捲りだした。


 「どこにも書いてないですよ」


 リナがムッとしてルーダさんに契約書を突きつけた。その時、ルーダさんはニヤッと笑った。

 【嵌められた】

 ボクは直感した。これはヤバイきっと何か大きな仕掛けが隠してある。何で気づけなかった、ボクは歯を噛みしめた。


 「尻尾のお嬢さん、ちょっと借りるわよ」


 ルーダさんはリナから契約書を取り上げるとテーブルの上にあった蝋燭に火を付けた。そして、その火に契約書をかざした。


 「よーく見ててね」


 ルーダさんはニコニコしながら契約書をボクらに見せつけると、契約書に文字が浮かび上がってきた。


 『3回開催されるディナーショーに参加する。』


 「炙り出しって知らないかなー、ちょうどこの部分を書いている時にインクが切れて代用したのが炙り出しインクだったんだよ」


 ルーダさんはてへっと笑ったけど、こっちは笑い事ではない。


 「詐欺だ」


 ボクは思わずルーダさんに掴みかかろうとしたけど、シュマとコレットに拘束されてしまった。


 「………契約時に疑問点をすべて解消する、相手が不実な事をしているかを見極めるのが常識です。今回は私たちの負けです」


 コレットが悔しそうにこぶしを握り締めながら呟いた。その横でシュマも牙を剥いていた。


 「契約後、『不誠実な履行を敷いた者は、相応の対価を支払う義務を有する。』ってありますよね」


 リナは契約書の最後の方に書かれた文言を指さしていた。確かにそこには慣用句のように当然の事、道義的な事が書かれている。その一文にリナは目をつけていた。


 「後、2回のディナーショーに参加するには、それなりの対応、1回につき参加者1名に対して金貨1枚を要求します。このような不誠実な契約書を作成されましたからね」


 「金貨1枚は大きすぎるよ大銀貨銀貨2枚が精一杯だよ」


 「大銀貨5枚」


 「大銀貨2枚と中銀貨5枚」


 「間を取って大銀貨4枚」


 「大銀貨3枚なら現金で手渡せるよ」


 「それでは、握手を」


 リナとルーダさんが何やら熱いやり取りをした後、互いに表面上はにこやかに握手して、一回当たりのボクらの報酬は1人当たり大銀貨3枚となった。

 ボクら全員で1回で金貨1枚と大銀貨8枚の儲けとなった。

 あのディナーショーの雰囲気はたまったもんじゃないけど、お金のためなら我慢もできる。はず。


 「何か釈然としません」


 ルーダさんが出て行った後、ぶぜんとした表情でコレットが唸った。


 「安いのか高いのか微妙な金額ですねー」


 コレットも納得いっていない様子だし、


 「おいら、あんな怖い思いしたくないよ」


 「ルメラも………」


 ちびっ子コンビもテンション低め、かくいうボクも気が乗っている訳じゃない。お金の話が無かったら、躊躇いもせず逃げ出しているだろう。

 うん、お金の力ってスゴイね。


 「ジャグもルメラもお小遣いが増えるぞ。お菓子や服も買えるよ」


 「おいら、そろそろブラが欲しかったんだよね」


 「ルメラはせくすぃなパンツ」


 なんか2人の成長が健全じゃないような気がするけど、気のせいかな。

 なんでも欲と二人連れ、お金のためなら多少の苦労も苦労じゃない、確か………誰かが言ってたような気がする。


 「そう言うのはもう少し大きくなってから、ジャグはもう少しだね。ルメラは尻尾が独特だから、それを活かせるデザインが必要だから、特注になるよ。世の中には幼い子のそう言うのに一定の需要があるから」


 ボクたちの中で一番大人(年齢的に)なリナが優しくちびっ子コンビを諭してくれて………、どうも雲行きが怪しい気がする。

 その一定の需要に何が何でも彼女らを近づけさせないようにしないと、ボクは心に誓った。


 「お金が手に入ってちゃんとした寝床が後2回は確実なのは嬉しいですよー」


 シュマがうまい具合に話の腰を折ってくれたおかげでアダルトなお話は打ち切られたけど、さっきまで履いていたボクのパンツを洗濯ものの籠に投げ入れてくれやがった。そうすると、暫くボクはこのムラサキ色を身につけていないとダメな事になる、どうも締め付けとスカスカ感が心地よくない。絶対に着替えたい、ボクは意を決した。


 「これ、履き替えたいんだけど」


 「ダメです」


 「似合ってますよー」


 「私が選んだ逸品、存分に堪能してくださいね」


 猛獣たちはボクの細やかなお願いをけんもほろろに拒否しやがった。暫くはこのムラサキ色とお付き合いしなくちゃならくなってどんよりとした気分になってしまった。


 「お嬢様もそのパンツに似合ったキャラになりきった方が、今夜のディナーショーで苦しい思いをしなくて済むかもしれませんよ」


 「パンツに似合ったキャラ?」


 リナが妙に真面目な表情でボクに何かを提案してきた。あまりの事に思わず聞き返してしまった。


 「素のお嬢様であの場にいるからキツイんです。あの場ではルーダさんが作り上げたお嬢様を演じるんです。怒りを向けられるのも、嫉妬されるのも演じているキャラクターが被るんです。素のお嬢様はなんら傷つかないって寸法ですよ」


 リナがニコニコしながら、おかしな事を提案してきた。


 「どういう事? 」


 「お芝居で悪党を演じている役者を真剣に憎むヤツなんてそうそういないでしょ。あの場は、アイツがヒーローを演じているお芝居の舞台なんです。私らはアイツを盛り立てる脇役なんです。あの場の私たちは、お芝居の役を演じている役者なんですよ」


 ボクはリナに彼女が何を言わんとしているのか尋ねると、いつもの彼女らしからぬイイ感じの言葉を聞けた。その事に、ボクは素直に驚愕した。


 「成程、そうすると私たちも役作りをする必要があるんですね」


 コレットがリナの話を理解したようで少し楽しそうな表情を浮かべていた。


 「アイツを助けた親切な傭兵がどんな人物なのか掘り下げるのも面白そうですよねー」


 シュマが乗り気になったらしく楽しそうに尻尾を振りだした。


 「ルメラはどんなのがいいかなー」


 存在するだけで勝手に設定が何だかんだと湧いて来そうなルメラが思案顔で呟いた。君は黙って存在するだけで多くの人たちの想像を広げるからあんまり盛らないように。


 「おいらはそのまんまで良いよね。行くあてのないおいらをリナ姐ちゃんが拾ってくれたって」


 ジャグがリナをじっと見つめている。何だかんだあったけど、ちゃんとリナは師として面倒を見ているし、種族こそ違うけど実の姉妹のように仲がいいのも事実だから、ジャグはこのままでいいかなと思っていた。でも、リナが何かを思いついたようでニコニコしながら話し出した。


 「ジャグは私の大恩ある商人の忘れ形見、行商中に良心を殺され、行方不明になっていた所を偶然私に見つけられた。で、私は、その商人が妾に産ませた子、これは後で明らかになる。うん、これで行こう」


 リナが何やら自分たちの身の上をご機嫌で作り上げだした。


 「じゃ、私は親の代からお仕えしている使用人の娘、ロスタお嬢様付きの筆頭侍女ね」


 「それ、今の私らのまんまだよー、盛るならさ、ロスタお嬢様の御実家が潰れる時に親から頼まれたってのがいいよー。で、私がお嬢様付きの侍女筆頭ね」


 「その設定はいいけど、筆頭は私です」


 「それは、ちがいますよー。私が筆頭です」


 コレットとシュマが何やら言い合いをはじめて睨みあっている。でも、その設定気になるところがある。


 「潰れる原因は何か、潰れると言っても物理的に潰れるのと廃業に追い込まれるのは違うし………、店を後妻に乗っ取られた、彼女はボクの父親と君らの両親が流行病で亡くなると、邪魔な長女を店から追い出したってことでいいかな」


 ボク実際に近い設定を彼女らに提案してみた。多分、あまり無茶な設定でないから大丈夫たと思う。まかり間違っても光の戦士の生まれ変わりなんてモノじゃなから。

  

 「無理はないですね。それじゃ、リナとの繋がりをどうしますか? 」


 リナがジャグと一緒にボクらを見つめてきた。確かにこのままじゃ、なんの繋がりもない。


 「リナの師は、昔から出入りしていた行商人ってことでどうかな」


 ボクは暫く考えてからリナたちとの繋がる設定を口にした。この設定は現実に少しばかり手を加えたものだから無理はない、はず。


 「ルメラもそう言うの欲しい」


 案の定、ルメラがむすっとして自分の設定を欲しがりだした。彼女の場合、見た目のインパクトが強いから、下手な設定を付け足すと面倒な事になりかねない。それこそ、竜の幼体なんてことにしてしまえば、次の日から「売ってくれ」とか「俺たちが頂いた」とか言いかねない輩が列を為す事は間違いない。

 なんせ、竜の身体は捨てるところがないぐらい良い素材になるし、その生き血はクスリを作り上での最高級の素材だ。


 「間違っても、竜とは無関係な設定じゃないとダメだよ。竜なんてことになったら………、ボクはバラバラになったルメラは見たくないから」


 「それ、絶対ヤダ」


 ボクの言葉にルメラはブルっと身体を震わせた。世の中、どんなモンスターより人間の方が怖くて質が悪いのだ。


 「ルメラは、記憶を失って街で佇んでいたところをボクが見つけて、保護した。今は君の仲間を探しながら旅をしている。これで良いよね」


 「………仕方ない………」


 ルメラはボクが提案した設定に渋々同意してくれた。存在自体が濃いルメラには悪いけどこれが精一杯だ。


 「後は、ルーダさんのお話と矛盾がないようにしないとね。で、ディナーショーの場にいるのは親切な行商人とその護衛の傭兵、ボクらとは違う人たちって事で行くからね。さっきの設定をしっかり押さえておいて、勝手に盛らないようにね。設定が独り歩きすると危険だから」


 ルメラはボクの言葉を素直に聞いてくれた。ちょっとばかり不服そうだったけどね。今は彼女の気持ちより、ややこしいことに巻き込まれたくないし、安全に旅をしたいという何にもかえ難いりゆうがあるから。


 「じゃ、今夜のディナーショーまで身体を休めよう、多分あのショーの後は今度こそ紅玉亭にいって、アイツの活躍の場を作ってやらないと、大銀貨3枚分の仕事はしないとね」


 「今日と明日でこの宿ともお別れですから、あの糞ったれなショーまでの間はゆっくりと身体を休めましょう」


 リナは皆にそう告げるとどさっとベッドに身体を投げ出し身体を丸めて睡眠の姿勢になった。


 「じゃ、おいらたちは外に行こうか? 」


 ジャグがお姉さんぽくルメラに尋ねると、ルメラも大きく頷いた。でも、それは、あまりにも危険だ。


 「ジャグ、ルメラ、楽しみをつぶようですまないけど、君らは昨夜のことであの怖いオバさんたちに目をつけられている、ボクらも一緒だ。何を仕掛けてくるか分からないから、つまらないかも知れないけど、ここから出ないでくれないか」


 保護者としては、この子たちが危険な目に遭うのを看過することはできない。普通なら考えつかないことを暇を持て余したオバさんたちなら朝飯前に仕掛けてくることは余程想像力が欠如していない限り、明らかだと推測するだろう。


 「私たちがついいければいいんだけど、私らもあのオバさんたちに目をつけられているから………」


 コレットがすまなそうにジャグとルメラにボクの言うとおりにしてくれと頼んでいた。


 「それじゃ、2人とも私たちとここのキッチンでお昼ご飯の準備をしようよー。料理のスキルは身に毛ついても損はないよー」


 「それじゃ、下拵えのやり方から稽古していこうか。男の胃袋を掴むと何かと便利だからね」


 シュマとコレットがジャグとルメラを連れて簡易キッチンに昼食の準備に向かった。今日のお昼は何かと期待できそうだなと思っていると、リナが気持ちよさそうに寝息を立てだしていた。


 「気楽だなー、今夜の事を思うと気分はちょっと重いかな………」


 ボクが独り言を呟くと


 「今回は準備しているんで大丈夫ですー」


 起きているのか寝言なのかリナがボクに言ってくれた。


 「そうだね、今度はもう少しうまく立ち回らないとね。励ましてくれてありがとう」


 ボクは昨夜みたいなことに絶対しないと思いながら、涎と舌をだらしなく大きな口から出しているリナの寝顔に頭を下げた。


 

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