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逃走若様 道中記  作者: C・ハオリム
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第16話 「お金ってそんなに大切? 」

 「それにしても、いい女じゃな。ちと、毛深いが」


 「ええ身体しておるぞ。ちと、毛深いが」


 「顔だちも、えれえ別嬪じゃ。ちと、毛深いが」


 ボクたちを取り囲んだ武装老人たちは好色な目でボクたちをじっと見つめてきた。

 彼らの言葉からすると、餌食として見た居るのはシュマ、コレット、リナであろうと察した。

 彼女らには、悪いけど、少し安堵したことは事実だ。


 「ほう、こちらもええ女じゃな。ちと、若すぎるが」


 「なーに、多分大丈夫だろ。ちと、若すぎるが」


 どうやら、ボクも彼らの獲物として認定されているようだ。それを感じた途端、ボクの身体全体に鳥肌が立つ感覚が襲ってきた。

 でも、一番守らなきゃならない、ジャグや、恩を売っておきたいルメラは彼らの守備範囲からズレているようで、そこは安心した。


 「ほほう、外道の楽しみも味わえるのう」


 不味い、非常に不味い、ジャグも彼らの守備範囲だった。ボクはこの状態からどうして脱しようかと考えた。この中で、彼らの目から外れているのはルメラだけのようだ。彼女の竜としての能力で何とかならないかと思った時だった。


 「これは、マニアックじゃな」


 老人たちの1人が、何が起こったのかさっぱり理解していないルメラをじっと見つめて声を上げた。


 「幼女、しかも見たことも無い種族じゃ。長生きはするもんじゃな」


 ルメラも彼らの守備範囲だったようだ。つまり、ここに居るボクたちは全員彼らの獲物だと言う事が判明した。


 「さっきから黙って聞いていりゃ、好き勝手な事をほざきやがって。それ以上、臭い息を吐くと流石のリナ姐さんも穏やかじゃ居られないよ」


 リナがジャグを庇うように前に出ると、大きな口を開け威嚇の声を上げた。それに合わせるように、シュマもコレットも唸り声をあげている。

 この姿を見た老人たちは引き下がるかと思ったら、平然と余裕の笑みを浮かべていた。


 「声も良いのー」


 「めんこいのー」


 まるで、孫娘を見る目であった。何が彼らをそこまで大胆にさせるのか、さっぱり見当がつかず、ボクも威嚇のために剣の柄に手をかけた。


 「随分と威勢の良いお嬢ちゃんたちじゃのう。しかし、これを見ても気は変わらんかのう」


 老人の中でひときわヤギ髭が立派な老人がずいと前に進み出て、腰につけていた巾着袋を外してリナの目の前に突きつけると、ゆっくりと袋を開いた。


 「え、それって………」


 リナが袋の中身を見て、威嚇のために大きく開けていた口をさらに大きく開けた。顎が外れるんじゃないかと心配になった。


 「どうじゃ、高純度の魔晶石じゃよ」


 ヤギ髭の老人は自慢そうに小鳥の卵程の大きさの黒光りする石を手にすると、リナの鼻先に突き出した。


 「お嬢ちゃんたち、儂らは 燻し銀の疾風団 じゃ。この辺りで活動しておる。心が自由を欲する時は大自然に身を任せ、身体が自由を欲する時はこの大自然を探索する。財布が温もりを欲する時は狩猟者となるのじゃ」


 ヤギ髭の老人は自らを、いぶし銀の疾風団と恥ずかしい名称を口にしたが、彼らが何者で、何をしたいとかさっぱり分からない。

 できるものなら、永遠に全てにおいて自由であってほしいように思った。


 「アンタたち、一体何がしたいんだ。目的がさっぱり分からない、こっちもアンタらの目的次第で、凶暴になる準備もできている」


 ボクはヤギ髭の老人をしっかりと睨みつけた。ボクの眼力の効果か、それとも牙を剥く猛獣たちの威嚇の効果か、としわも行かぬジャグとそう見えるルメラの泣きそうな表情による彼らの良心への訴えなのか、彼らの態度は出会った時と一切変わることがなく、謎は謎のままだった。


 「ふふふ、儂らは今、新たな団員を募集しておるのじゃ。特にわかい娘さんは大歓迎じゃ」


 ヤギ髭の老人の脇に控えた、頭が眩しい老人がチラシをボクたちに配ってきた。


 「えーと、仲間を作って健やかな生活、様々な活動をして親交を深めています。ハイキング、バーベキュー、キャンプなどを定期的に開催しています………、これ何ですか? さっきの魔晶石との関係は? さっぱり分からないよ。まるで、どこかの国の異端審問だよっ」


 ボクはヤギ髭の老人にチラシを突きつけて大声を上げた。

 彼らはボクの剣幕をどこ吹く風と受け流してくれた。この辺りは年齢からの余裕なのだろうか。


 「隣村の連中の お達者冒険倶楽部の連中が都会に出た孫娘が帰省中に奴らの仲間に引き入れおったのじゃ。怪しからんことに、それを自慢しやがるのじゃ。酷いヤツらじゃと思わんか。今、仲間になれば、魔晶石をプレゼントするぞ」


 やっと、何とか彼らの企図が読めてきた。つまり、ボクらに燻し銀の疾風団に入団しろと言っているのである。この山賊もどきの老人たちは楽隠居している老人たちなのだろう。それにしても、身なりが今一つなのは引っかかるけど。


 「アンタらは、あたしたちにその燻し銀の疾風団に入団しろ、って言いたいんだよね。でも、あたしらは旅の商人だから、定住もしないし、アンタらの活動に付き合えないよ。でもね、その魔晶石、買い取らせてもらうよ。魔晶石はランプや物を温めたり、冷やすのに必要だから、需要はあるんだよね」


 リナはヤギ髭の老人を値踏みするように見つめながら早速商談を切り出していた。


 「尻尾の嬢ちゃんや、魔晶石は入団の特典じゃ。いくら積まれても売らんぞ。嬢ちゃんらが一晩付き合ってくれれば考えんでもないがのう」


 老人たちは好色な眼差しでリナを舐め回すように見つめた。その視線に気づいてか、リナの全身の毛がぶわっと逆立った。


 「ふ、ふざけるなっ! このリナ姐さんは、物は売っても身体は売らないんだよ」


 リナは老人たちに噛みつかんばかりの勢いで吠えたてた。その勢いに老人たちは後ずさった。ボクも目の前であの剣幕で吠えられたら逃げたくなるし、ひょっとすると、ちょろっといくかもしれない。


 「ううう、最近の若い者は老人を労わる気持ちが無いようじゃ………」


 「この年齢になって若い者に罵倒されるとはのう………」


 「年老いて弱った儂らに、早く死ねと言っておるんじゃ」


 「若い奴は鬼じゃ。この世も末じゃ」


 老人たちは口々にリナを非難するような事を口にし、虐待されるか弱い老人を演じだした。

 彼らはわざとらしく、手足を震わせたり、その場に蹲ったりしだした。


 「もう、行こうよ」


 ボクはリナの腕を軽く引っ張ると彼らを無視して先を急ごうと伝えた。


 「魔晶石は惜しいですが、仕方ありませんね」


 リナはため息をつくと、よぼよぼと動き回る燻し銀の疾風団に背を向けて歩き出した。


 「待て、待つのじゃ、この魔晶石はやる。入団も強要せん。ただ、今日一日、臨時団員として儂らに付き合ってくれんか。儂らは弩助平じゃが、歳じゃから、嬢ちゃんたちが少しでもその気になれば簡単にやられてしまう。まだまだ命は惜しいから無茶はせんぞ」


 ヤギ髭の老人は真剣な眼差しで訴えかけてきた。しかも土下座までしていた。


 「そこまで言うなら考えてみようかな………」


 ボクは彼の言葉を受けて彼らを見る目が少し変わった。

 男には2種類ある、それは助平と弩助平である。常識ある紳士は認めないだろうが、実際に男だったボクには良く分かる。

 彼は自らを弩助平だと告白した。自らの自尊心を無視するように、そこに枯れたとはいえ、少しばかりの男気を感じたからだ。


 「で、あなたたちに付き合うって、具体的にはどういうことですか? 」


 「ベッドの上なんて、あり得ませんよ」


 コレットとシュマが全く信用していないと言う事を隠すことも無く表情に出して彼らに尋ねた。


 「そうじゃな。お前さん方には隣の村まで一緒に来てもらいたいのじゃ。そしてお達者冒険倶楽部に見せつけてやるんじゃ。儂らには別嬪な団員が居るとな。………ちと、毛深いが」


 ヤギ髭の老人はボクたちにやっと目的を語ってくれた。つまり、一時だけでも隣村に自慢したいのだ。


 「………魔晶石は、あたしら1人に一つでいいのよね。それ以上でも全然かまわないけど」


 「お達者冒険倶楽部の奴らを悔しがらせたら、払ってやるぞ。ついでに儂らの村の特産の光石も買って貰えんかのう」


 「光石! 」


 リナの目の色が変わった。光石とは、光を吸収して暗くなるとその光を放出する性質をもった鉱物で、装飾や照明に使用されることが多い、と言うかそれ以外の使用を聞いたことはないけど。それでも、貴重な鉱物であることは変わりなく、魔晶石と同等クラスの価値があるって言われている。

 いい値段で仕入れれば大儲けも期待できる、これにリナが飛びつかないことはない。


 「そうじゃ、光石じゃよ。どこで採れるかは言えんが、それなりの量がある」


 ヤギ髭の老人はニヤッと笑った。その笑みはとてもいかがわしかった。


 「その話、乗った。じゃ、さっさと隣村に行こうよ」


 リナは誰よりも乗り気でヤギ髭の老人の手を引こうとしていた。


 「………リナのヤツ、何で態度が変わったの」


 ルメラは不思議そうな表情を浮かべて、隣にいるジャグに尋ねていた。


 「あれは、お金儲けの臭いがしたからだよ。おいらたち商人はお金を儲けることが大切なんだよ」


 「お金ってそんなに大切? 」


 「お金があれば、お腹が空いたのに苦しんだり、寒くて眠れないとか無くすことができるから、だから大切。お金がないと旅もできないからね」


 今一つ世の中の常識が分かってなさそうなルメラにジャグは丁寧にお金の大切さを教えていた。

 おもちゃやお菓子を買うために必要だと言わない所にジャグが年齢以上の苦労をしてきたことを感じ取れた。


 「お金ってとっても大切なんだ。ルメラもお金儲けるよ」


 ルメラは無邪気な笑顔でジャグに応えていた。

 一応、保護者としては、彼女には見た目なりの無邪気に過ごしてもらいたいと思っているけど、今の環境は小さい子の教育には良くないと思う。竜だから良いことにしておくことにした。

 彼女の教育以前に、彼女がどうやってお金を儲けようとしているのか、気になるけど………。


 「話はまとまった。これから、お達者冒険倶楽部の奴らに見せつけてやる。吠え面を書かせてやるぞ」


 ボクのもやっとした考えなんか知った事かとばかりに、ヤギ髭の老人が下品な笑い声を上げると団員の老人たちも笑い声を上げた。そして、全員がむせ返った。


 「無茶しちゃダメですよー」


 見かねたシュマがむせて今にも息が止まりそうな老人の背中をさすってやっていた。大概の場合、シュマは誰に対しても親切である。しかし、ボクが関わることになるとスイッチが入ったように凶暴になってしまうのも事実で、ここで燻し銀の疾風団員がボクに対して不埒な事を口にした途端、どうなるか見ていて不安しか感じられなかった。


 「私たちが協力するんですから、良い冥途の土産になるでしょうね」


 コレットが燻し銀の疾風団員たちを冷めた目で眺めてぼそっと呟いた。コレットは時折、ドキッとするような毒を吐くことがある。大概の場合、ボクに対して何か良からぬことを企んだり、口にした連中にその毒は吐かれているようで、それに立腹して物理的に黙らせようとしたり、謝罪させようとした連中は大概、彼女に物理的に沈黙や謝罪を強制されることになってしまうのである。燻し銀の疾風団員たちは皆耳が遠いようなのでボクはほっとした。


 「自慢しに行く前に、儂たちの秘密基地に寄ってもらうぞ」


 ヤギ髭の老人はニコニコしながらボクたちに話しかけてきた。

 しかし、この歳で秘密基地って、聞いているこっちが恥ずかしくなってくるけど、でも、男だったら憧れるのも理解できる。身体は違うけど、心はまだ男の子だからね。


 「どうじゃ、これが儂らの秘密基地じゃ」


 ヤギ髭の老人は自慢そうに山間に立てられた一軒の屋敷を前にふんぞり返っていた。

 ボクはてっきり、掘っ立て小屋程度だろうと思っていたが、目の前にあるのはおしゃれなロッジ風の豪邸と言って差支えがない立派な建物だった。ただ、それは白日の下堂々と佇んでおり、どこに秘密の要素があるのかさっぱり伺えなかった。


 「うそでしょ」


 「信じられないよ」


 コレットとシュマが豪邸を見上げて目を丸くしていた。


 「ショボいのは、見てくれだけか………」


 リナが驚きの声を上げているシュマとコレットの横でじっと老人たちを見つめ、自分の観察眼の至らなさに悔しさを感じているようだった。


 「あの歳で、働きもせず、フラフラ出来るんだから、それなりのお金を持っている人しか考えられないよ」


 何にも分かっていないようなルメラが何かが分かったような表情で偉そうに言うのを聞いて、ボクは彼女の本性に対する考えに混乱が生じていた。


 「こう見えても儂は、ナンガで手広く商いをしておるし、コイツは職人たちのまとめ役、コイツは商工会の顧問、皆それなりの身分と銭を持っておるぞ。そこのお嬢ちゃんの言うとおりじゃ、これは儂らが共同で出資して作った秘密基地じゃ」 

 

 ヤギ髭の老人は笑いながらルメラの頭を撫でようとしたが、彼女は自然な動きでそれを躱した。流石、竜だ。


 「それで、私たちにここで何をしろって言うの? 」


 コレットがムッとした表情で老人たちに問いただした。ボクたちをここに連れ込んで不埒な悪行三昧に耽ろうと企んでいるんじゃないのか、と彼女は心配しているようだけど、ボクは彼女を老人たちが怒らせた時にどうなるかが心配だった。


 「ふふふ、気になるか、着替えじゃよ。そのまんまの姿じゃ、如何にも旅の人にお願いしました感がありありじゃろ。だから、儂らの用意した衣装に着替えてもらいたいのじゃ。サイズはたんと用意しておるから心配ないぞ。それにコイツは街で最大の服飾店を経営しておる職人じゃ。その場での手直しなんぞ朝飯前じゃ」


 ボクたちは老人たちに急かされるように屋敷に入れらると老人たちに似つかわしくない明るい色の華やかな壁と可愛らしい調度品などで飾られた一室に案内された。


 「これを見よ! 」


 老人たちが明るい色の花柄の壁に手をかけ、さっとスライドさせるとそこは巨大なクローゼットでそこには、華やかかつボクが袖を通したくないようなデザインだった。


 「嬢ちゃんたちは、立派な耳や尻尾を持っておるから、一目見た時にコレしかないと思ったのじゃ」


 老人たちは示し合わせたように何やら布を随分と節約したような意匠を手にしていた。


 「コレをボクに着ろと? 」


 彼らが手にしたのは、ウサギをモチーフとした衣装だった。レオタード状で丸い尻尾も付いている。


 「そうじゃ、嬢ちゃんたちの毛皮の色にあったモノをチョイスするぞ。キツネとイヌとネコの嬢ちゃんは自前の耳と尻尾を使ってもらいたいのじゃ」


 もう彼らは、ボクたちがその衣装を身につけることになっている。ジャグやルメラもウサギの衣装を着るらしいけど、同じウサギでも着ぐるみみたいなモノになると思っていた。

 そして、その衣装を身につける対象にボクも含まれている。確かにこの衣装を着ている女性を見るのは好きだけど、自らが着ようと思ったことはない。今まで、たったの一度もだ。


 「これを着るのか………」


 ボクは濃紺の衣装を手にして固まっていた。これを身につけたら、ボクの何かが失われると本能が告げていた。


 「うわー、おいらって結構イケる? 」


 「人間って面白いねー」


 奴ら、ジャグやルメラみたいな子の衣装も準備してやがった。ボクが気づいた時、既に彼女らは嬉々としてその衣装を身につけていた。


 「お嬢様、私たちも恥を忍んで着ています。これもお金儲けのためです」


 真っ赤な衣装を身に付けたコレットがボクににじり寄ってきた。


 「絶対に似合いますよー」


 真っ黒の衣装を身に付けたシュマが両手をワキワキさせながら近寄ってきた。


 「絶対、似合いますって」


 真っ青の衣装を身に付けたリナが舌なめずりしながら近寄ってくる。


 ボクはここで全ての抵抗を諦めた。抵抗することによりますます彼女らの狩猟本能を刺激するのはよろしくない、結果が同じになるなら徒に時間をかけることはない、これがボクの判断だった。


 「………」


 尊厳を奪われた。股間のフィット感が敢えて意識しなかった喪失感をまざまざと思い知らしてくる。それに胸だ。ボクはどうやら標準より大きいらしい。シュマがボクのサイズに対して「自慢できますよ。敵は作りますけど………」とニコニコして口にしていたことを思い出した。


 「ロスタ姐ちゃん、大きい。おいらもそうなるかなー」


 「ルメラも将来そうなるから」


 ちびっ子二人組が何か憧れの視線で見つめてくる。その視線がキツイ。


 「とってもお似合いですよー」


 「素敵です」


 「もう、お金取れるレベルですよ」


 猛獣たちが熱い視線をよこしてくる。彼女らでこの反応である。カスタマーであるあの老人たちがボクたちを見たらどうなるか…………。


 「おおお………」


 「長生きはするもんじゃ」


 「ああ、もう思い残すことはない………」


 「スエ、スエっ! しっかりするんじゃ」


 彼らの反応は思った通りだ。2名程があの世への渡しの顔を見たようだ。なかなかの男前だったらしい。その本人が言うのだから、ある程度真実なのだろう。


 「ふふふ、見ておれ、お達者冒険倶楽部、悔しさで今宵は眠れんぞ。ふははは………ゲホゲホ」


 ヤギ髭の老人は高笑いした後に親くそのようにむせ返っていた。




 「お、お前ら、その娘さんたちは………」


 ボクらのウサギの衣装を目の当たりにしたお達者冒険倶楽部の面々は驚きの声を上げた。

 ボクは彼らの舐め回すような視線に鳥肌が立った。猛獣たちも全身の毛を逆立てているし、ジャグもボクの影に隠れるようにするし、その中でルメラだけがいつもの調子だった。


 「変わった種族の子じゃな。なかなか似合っておるぞ」


 「えへへ、可愛い? 」


 「ええ子じゃな。ほれ、これをやろう」


 ボクたちが全員嫌悪に身を震わせているのに、ルメラだけはニコニコしてお達者冒険倶楽部の爺さんたちからお菓子をせしめていた。恐るべし、竜。

 しかし、どこからもジャグやルメラにウサギの衣装をさせている事に非難する声がなかったことが、恐ろしかった。

 ボクなら絶対にこの非道な行いに対して怒りの声を上げているはずだ。多分。


 「お前ら悔しかろう。この子らは儂らの仲間になったのじゃからな。お前らの仲間の女子で一番若いのは確か三十路だったのう」


 ヤギ髭の老人は少しでっぷりして頭が輝かしい老人に自慢げに話しかけていた。禿げた老人は顔を真っ赤にして悔しそうな表情を浮かべていた。


 「うう、悔しい………くなんてないぞ。どうせ、金に物を言わせてその子らを雇ったのじゃろ」


 ハゲの老人の悔し紛れの言葉に燻し銀の疾風団の面々がギクリとなった。それをハゲの老人は見逃さなかった。


 「図星か、お前らは金に物を言わせるだけで浪漫が全くないからのう。儂らの秘密基地は掘っ立て小屋じゃが、一から自らの手で作り上げたモノじゃし、儂らの仲間の尾長は、お前らが三十路と言ったアリア以外にもおるぞ。皆、自ら儂らに加わった浪漫の分かる者たちじゃ。お前らは浪漫が金で買えんことに未だに気付かぬとはのう」


 どうやら、燻し銀の疾風団は、お達者冒険倶楽部の真似を金に物を言わせてやっているようだ。金に物を言わせるのも良いが、そこに漢の浪漫はあまり感じられない。たとえみすぼらしくとも秘密基地は自作するのが漢の浪漫というモノだ。


 「何か揉めだしだしましたよ」


 シュマがボクに囁いてきた。彼女は表情に隠すことなく嫌悪を浮かべていた。


 「さっさと終わらないですかね」


 コレットはうんざりとした表情で囁いてきた。ボクもうんざりしていた。


 「ねぇ、そろそろ行きましょうよ」


 リナがヤギ髭の老人に甘えたような声をかけた。ボクらとしては貰うモノを貰ってさっさとここから立ち去りたい、それしか思わない。


 「金に物を言わせるのが浪漫がないと言うのか。よし、それでは、その金で漢の浪漫を見せてやろう。嬢ちゃんたち、今夜、秘密基地で宴会をするぞ。嬢ちゃんたちの分も出すから心配はいらん。泊まりは秘密基地のゲストルームを使うとええ。会費を払えばお前らも来てええぞ」


 ヤギ髭の老人はハゲの老人に薄ら笑いを浮かべながら言い放つと、ボクらを引き連れてさっさと秘密基地に戻って行った。




 「約束が違うよ」


 秘密基地に戻るなりリナがヤギ髭の老人に食ってかかった。ボクらも彼女の後に続く気でいた。

 ボクが文句の一つでも口を開きかけた時、ヤギ髭の老人がボクたちに新たな契約を申し出てきた。


 「1人につき、魔晶石三つと光石を一袋じゃ。これでどうじゃ」


 「宴会に付き合わせるよね。そこでの給仕とかもね。あたしらは小さな子もいるんだ。だから、宴席に出せないからね。でも、この子たちにも魔晶石は三つ、光石はもう一袋追加、これならいいよ」


 リナは早速新たな契約のための駆け引きを始めた。確かにこんな連中の宴席にジャグを突き合せたくないし、ルメラは何をしでかすか分からないし報酬は上げてもらいたい。


 「仕方ないのう。それでのもう。でも、衣装はそのままじゃ」


 「お触りは無しだからね。触ったら何をしでかすか分からないって、皆に伝えておいてよ」


 リナとヤギ髭の老人は契約を完了した証としてがっちりと握手した。 

 今夜は長い夜になりそうだとボクはため息をついた。

 

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