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逃走若様 道中記  作者: C・ハオリム
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第12話 「ちょっとアイデアがあるんだよね」

 小生、ブッコワース伯爵様のお膝元のトポリの街で、魔法道具を作成から販売までしている、しがない魔導士兼職人兼商人である。

 器用貧乏とはよく言ったもので、小生、齢33にして未だに商売で芽を出すこともできず、うだつの上がらぬ独り身である。


 小生の商う商品の中に「魔法薬」がある。これは、様々な薬効を持つ植物などを配合し、そこに魔法を混ぜ込み、大地の力の流れ、つまり力線を利用して、服用者に様々な影響を与える薬品である。

 しかし、この手の魔法薬は大概がどうしようもない効果しかない。例えば、足のあの臭いを、柑橘系の匂いにするとか、脂性の人の脂を可燃性の脂にするとか、しかもそんなしょうもない効能を与えるために、細かな薬効成分の配分やら微妙な魔力の調整など神経をすり減らすような作業をしなくてはならない。さらに服用者の状態に合わせて微調整する必要があり、手間の割には余り儲からないのである。もし、服用者に何かのトラブルが発生した場合、その賠償まで背負わなくてはらない。これをメインに商売をする者がいれば、小生はその者に知性があるとは思わない。


 そんな小生の店に尻尾の行商人らしき女がやってきた。彼女が言うには、毛の色を変えたいと言うではないか。魔法薬で割と一般的なモノであるが、望みの毛の色にするのは、小生程の手練れでも難しいのである。


 「うむ、毛の色を変えるのか。ポピュラーな物だな。何色から何色に変えるのかね」


 「兎に角、毛の色を変えたいの」


 小生は、彼女に具体的にどのような魔法薬を所望しているのか尋ねたのであるが、返ってきた答えはあまりにもざっくりしたモノであった。


 「とりあえず毛の色を変えたいのは分かった。お嬢さんの素敵な小麦色を変えるのだね」


 小生は尻尾のお嬢さんが兎に角毛色を変えたいのだと理解したが、彼女は首を横に振った。


 「獣人の侍女の方です」


 「お嬢さんと同じ尻尾持ちであるな。それなら………」


 小生が獣人の女性の毛の色を変える薬の値段を提示しようとすると、彼女は私の手を振って言葉を遮った。


 「同じものを三つです。その分、お安くお願いしますよ」


 薬効成分の調合や魔力の調整は量に左右されない作業であり、しかも魔法陣も同じとあれば楽なモノである。

 彼女は4割引きで、小生は最大に譲歩して2割引きで交渉したが、彼女に押し切られ3割引きで引き受けることにした。


 それなりの商売であったが、それなりであり、小生の生活が良くなることはなかった。


 それが、先日、伯爵家から領民に対して御触れがあった。


 「シドレ・ブッコワースを捕獲した際には中金貨10枚、情報提供には中金貨3枚を与える。」

 「シドレ・ブッコワースは獣人の侍女2人と逃走していると見積もられる」


 これを見て、小生は何か引っかかった。先日の毛の色を変える魔法薬である。あの女は侍女の毛の色を変えると言っていた。

 毛の色を変える魔法薬が三つ、侍女とシドレ様の分とすれば納得いくではないか。シドレ様は金髪であったが、もし薬を服用されていたならば、金髪以外の髪の色になっているはずである。

 この情報は中金貨3枚に値すると小生は考えた。そうなれば、善は急げである。

 小生が騎士団本部に行くのに時間はかからなかった。



 まさか、こんなに言葉が通じないと思わなかった。

 小生が毛の色が変わる魔法薬を売ったという話とシドレ様が逃走したという話が彼らの中でつながらないのである。


 「毛の色が変わった事とシドレ様がどこにいるのかの関係が分からない」


 私の情報に対して騎士団のシドレ様追跡の担当者が言った言葉である。


 「逃走されるにあたり、毛の色を変えられている可能性があると申し上げます」


 「シドレ様がその薬を飲んだところを見たのか? 」


 「飲まれた可能性があると………」


 「可能性だろ、何色かもわからない。そんな事を言っている暇があるなら、身体を鍛えるんだな」


 これが、騎士団と小生の会話である。

 彼らの考えは全く分からない、ただ一つ言えることがあるとすれば、シドレ様を連れ戻すことは多分彼らに出来ないだろう、できたとしても途轍もない時間がかかると言う事だ。

 小生は思わず、彼らに呪いの言葉を吐きたくなったが、我慢することにした。

 彼らに呪いの言葉など理解できないし、理解できたとして、そんな事を言うのは体力が足りないからだ、と無理やりトレーニングに付き合わせられるのが関の山である。

 小生は設け損ね、彼らは重要なヒントを手に出来なかった。

 ただそれだけの事である。納得しかねるが。

 ならば、この手でシドレ様をとっ捕まえて、中銀貨10枚を手に入れようではないか。

 小生は、早速旅立ちの準備を始めたのだ。

 シドレ様をとっ捕まえられれば、小生の名声は上がり、商売も旨く行く、魔導士としての価値も上がる、いい事づくめになるのだ。 

 手付金を貰って完成していない仕事、店の賃貸料、借金? それが何だと言うのだ。

 そんなモノは大事の前の小事にすぎないのだ。




 「今日は平和だったね。重くない? 」


 袋に入れられた昨日やっつけて、血抜きを終えたヤマイノシシを担いでいるシュマにボクは尋ねた。


 「全然ですよ。尻尾持ちは人に比べると力があるんですよ」


 シュマ気にするなと言わんばかりにニコニコしながら、尻尾を元気良く振った。


 「シュマは元気だけが取り柄ですからね」


 オオヤマイヌの毛皮を束ねて縛り上げたのを肩にかけてコレットが尻尾をピンと立てて楽しそうに言ってきた。


 「コレットも重くないかな? いいお金になったらこれからの旅に役立ちそうなものを見繕うのもいいよね。それより、リナに一括して運用してもらった方が良いかも。ボクらはお小遣い程度にとどめて」


 「そうですね。私たちだと商人との交渉で相手の言い値で買い物しそうですからね」


 コレットはボクの提案に少し考えてから賛成してくれた。

 このやり方が一番合理的と判断したことにいまの所、問題はないようだ。

 

 ボクたちは宿に戻る道を足取りも軽く進んで行った。


 商工会でオオヤマイヌの毛皮とヤマイノシシ1セットを買い取ってもらったおかげで、懐事情は多少改善されているように思えた。

 小遣い程度の具体的な金額もお小遣いにしては少々豪勢な金額になったことはリナには言わないで置くことにした。


 「ロスタお嬢様、これ、どうしましょう? 」


 ボクたちが宿の部屋に戻るとリナが耳を力なく伏せてテーブルの上に例の卵を悲しそうな目で眺めていた。


 「どんな街にも好事家がいるって、言ってたよね」

 

 ボクはリナの言葉を思い出して尋ねると、彼女は首を横に振った。


 「似た卵はもう持っている、それにこの卵が薄汚れているって、買ってもらえませんでした。綺麗に磨いたんですよ。でも、この焼こうとした跡はとれなくて」


 リナは卵の焦げた所を指さして項垂れた。元々は只で、と言うか、拾った物だし売れればそれだけで儲けになるとボクは思っていた。


 「リナ、それ売れなかったら捨てればいいんじゃないの」


 コレットが何故リナがここまで落ち込んでいるのか理解しかねる、と首を傾げた。


 「商人のプライドの問題なんだよ。リナ姐ちゃんが今まで聞いた中で最高の口上で売り込んだんだけど、エライ人は聞いてくれなくて、いらないって………、びどいよ」


 ジャグまでしょげていた。しかし、拾った物を売りつけようとする行為自体が如何なモノかと思うんだけど。


 「売れるまで捨てない。ここで負けられないのよ」


 リナは今にも噛みつきそうな目つきでコレットをきっと睨みつけた。


 「その卵、生きているんですか? 温めたら何か孵るかもですよ」


 シュマが卵を優しく撫でながら、リナを宥めるように優しく言った。その言葉が嬉しかったのか、リナは女神を見るように見つめた。


 「生きているかどうかは分からないけど。試しに温めてみようか? 今日から寝る時に順番に抱えて一緒に寝て温めてみようよ。孵った方が価値が上がるかもしれないよ。今日ボクが抱えて寝るからさ」


 ボクはテーブルの上の卵を撫でながら言うと、その場にいた皆からブーイングを貰った。


 「それじゃ、お嬢様と一緒に寝られないじゃないですか。困ります」


 コレットが一番先に不満をぶちまけた。ボクは困らないし、逆に歓迎したいことだ。


 「お嬢様と一緒に卵を温めればいいんじゃないですかー」


 シュマがニコニコしながらボクに熱い視線を送ってきた。まさか、そんなやり方があるとは思わなかった。


 「そうすると、今日はあたしと一緒ですね」


 リナが大きな口で舌なめずりしながら見つめてきた。その姿は獲物を見つけた肉食獣そのものだった。


 「寝る時だけじゃなくてお風呂でも温めようよ。その方がもっと温かくなるよ」


 ジャグが無邪気にボクに提案してきてくれた。成程、その手もあるか。


 ボクの女性歴は、ジャグにも劣っているがここ数日で自分で身体を洗う事が出来るようになった。

 我ながら、凄い進歩だ。ただ、3頭の猛獣は不満そうだけど、そこは気にしない。


 「あら、また会えましたね。貴方は確か行商人のリナさん」


 ボクたちが湯船の中で一日の疲れを癒している時、浴場に入ってきたドリスコル商会の会頭のネルがリナに声をかけて来た。


 「ネル様、お先にお風呂を頂いています」


 リナと卵を抱えたジャグが立ち上がり恭しくネルに首を垂れた。


 「あらいいのよ。貴女は私の部下でもないんだし。ここでは、1人の商人としてお付き合いくださいね」


 ネルさんはそう言うとさっと身体に湯をかけ、湯船に入ってきた。そして深いため息をついた。

 身体を洗ってから入った方が良いと思うんだけど。


 「随分とお疲れのようですね」


 リナがネルさんを覗きこむようにして見てから心配そうに声をかけた。


 「ありがとう、尻尾のお嬢さん。どうにも人が集まらなくてね」


 ネルさんはため息交じりに吐き出すと湯船の中で完全に脱力していた。その姿を見て、ボクの内なる益荒男が騒ぎ出した。これが熟女の魅力と言うやつなのかな、なんて考えていたら、ふと何か引っかかった。


 「道路を工事をする人が足りないって話でしょうか? 」


 ボクはリナたちと話し合って推測したことを尋ねてみた。


 「あらあら、そんな事何も言ってないわよ。あ、さっきうっかりこぼしたのを聞いていたのね。なかなか察しの良いお嬢さんね」


 ネルさんはニコニコしながらボクを見てきた、その時、ボクは一瞬身体全身に鳥肌が立った。それと同時にシュマとコレットがボクを庇うように立ち上がった。


 「何もないわ、控えなさい」


 ネルさんは片手を上げて、誰もいない方向にそう言うとボクたちににっこりした。


 「鋭いお付きがいるのね。うちの子たちも仕事だから許してね」


 彼女がそう言うとひりつくような感覚がすっとなくなり、シュマとコレットもゆっくりと湯に浸かりだした。


 「お嬢さんの言うとおり、この辺りの道を何とかしたくてね。道を良くすれば、人や商品の行き来が盛んになって、商機が増加し、儲けに繋がる。これは、投資ね。ここの街で工事に必要な資材、道具、人手を調達するから、この街としても良い話なんだけどね。どうしても人の手は難しくて」


 ネルさんは困った表情を浮かべた。この話は一介の行商人や傭兵には大きすぎる話だ、ボクたちがすぐに何とか出来る話でもない。


 「他の商会に先を越されたくないから、今の話は聞かなかったことにしてちょうだいね。そうじゃないと、イロイロと面倒な事になるから」


 ネルさんはボクたちに微笑んで恐ろしいことを口にした。つまり、ボクたちは常に見張られているって事なのだろう。そして、いらない事を口走りそうになった場合は速やかに処置されるんだろう。


 「ボクたちも、トラブルは望みませんから」


 ボクはひきつりながらも彼女に負けじと笑みを浮かべて応えた。


 「お利口さんは好きですよ」


 「では、お先に失礼します」


 ボクたちはどこかで見張られていると緊張しながら浴場から出て脱衣場に向かった。


 「あっ」


 ボクたちが脱いだ服の上にお菓子を包んだ小さな包みがちょこんと置いてあるのを見つけてボクは声を上げた。

 さっき、ネルさんが言ったのは注意ではなく、警告であるとボクらは認識し、湯上りなのに背筋に冷たいものが走る思いをした。ちょっとチビリそうになったけど、そこは我慢した。



 「敵に回すには厄介すぎる相手ですね。どのぐらい手練れを抱えておられるのかすら分からない、ドリスコル商会の情報網から考えると逃げ切ることも難しいでしょうね」


 部屋に戻るとコレットが力なくベッドに腰かけてボクに話しかけてきた。ひょっとしてコレットはドリスコル商会と事を構えようと考えているんじゃないだろうか。それは自殺行為だ。


 「コレットが何を考えているか知らないけど、敵に回しちゃいけない相手だよ」


 ボクはコレットが暴走しないようにと釘をさすことにした。彼女は、一度思い込むと、その方向に一直線で走り出してまう事が少なからずあった。たとえそれが明後日の方向であっても。


 「でも、相手がお嬢様に剣を向けたら、相手が誰であれ私はその喉笛に牙を突き立てますよ」


 シュマも何か危険な雰囲気になっている。彼女の一番大切な事はボクの生命らしいから、ボクに危害を加える者がいれば、それが誰であれ迷わず飛び掛かって行くだろう。

 そんな事態に陥ったら、ボクたちの命の補償はどこにもない。


 「シュマ、それは逆にボクたちを危機に陥らせることになるから、先走らない様に。絶対にネルさんには牙を向けちゃいけない」


 シュマにも暴走しない様にリードを付けておく。


 「お嬢様はやんわりと言っているけど、もしアンタらが暴走したら、命がなくなるから。洒落や冗談の話じゃないよ。力のある商人は下手な貴族より恐ろしいものなのよ。貴族同士の小競り合いとは別次元だから」


 リナはコレットとシュマに商人がとる実力行使が如何に洒落にならないかを説明してくれた。おかげで、2人とも大人しくなってくれた。

 もし、2人が何かしでかしたら、管理者責任となって、ボクを窮地に追い込んでくれるだろう。

 それが、彼女らの善意からの行為であっても。


 

 「リナ、ビーズとか豆とか持ってないかな、この桶に入るぐらい」


 部屋に戻るとボクはこっそり持ってきた風呂桶をリナに見せて尋ねた。


 「毒消し、膿だしの白豆ならありますよ。お嬢様、どこかお怪我をされたとか」


 リナは心配そうにしながら巾着袋を取り出してボクに渡してくれた。巾着袋の中には指先ぐらいの大きさの白くて硬い豆がぎっしり入っていた。


 「これを桶に入れていいかな」


 リナに尋ねると首を縦に振ってくれたのでボクは白豆を桶に入れた。その豆をもう一つこっそり持ってきた桶に音をたてて落としていく。雨が降っているような音が部屋に響いた。


 「よし、ジャグ、ちょっと手伝ってくれるかな。ボクとリナがお話している間は、この桶からこっちの桶に豆を落として行ってくれないかな。雨が降るような音を出してもらいたいんだ」


 「分かった、こうすればいいのかな」


 ジャグはボクから白豆の入った桶を受け取ると早速もう一つの桶に注ぎだした。イイ感じで音が出ている。


 「ジャグ、ありがとう。合図したら始めてくれるかな」


 ボクはジャグに言うと彼女はニコニコしながら頷いてくれた。それを確認したボクはさっと手を上げてジャグに音をたてるように指示した。


 「人手から足りないってお話だったでしょ。それについて、ちょっとアイデアがあるんだよね」


 ボクは敢えて小さな声で話し出した。ボクの声はジャグのたてる音にかき消されるようにして聞こえにくくなる。リナはボくに顔を寄せ、耳をこっちに向けて懸命に音を拾おうとしていた。


 「どんなアイデアですか? お金はどれぐらいかかります? 」


 リナがドンドン顔を寄せてくる。うーん、色気にあてられてか、捕食されそうな気分になったのかドキドキしてきた。


 「余っている力を使うんだ。あの騎士団の連中、アイツらを使えると思うんだ。道路工事はいいトレーニングになるって言いくるめてさ」


 ボクはニヤっとしながらリナにアイデアを説明した。それを聞いていたリナが首を傾げた。その時、ジャグが白豆で満杯になった桶を手にしてまた音をたてはじめた。


 「そんなに簡単にいくのでしょうか? それで、旨く行ってあたしたちに何か儲けがあるのですか? 」

 リナはボクのアイデアに関する疑問を投げてきた。そして、商人として肝心な所を尋ねてきた。


 「直接的な儲けはないけど、少なくともネルさんに恩を売れる。これは行商人としてお金以上の儲けだと思うよ」


 「分かりました。それで、どうされるんですか? 」


 ボクの想定する利益にリナは食いついてきた。ボクとしてもドリスコル商会の情報網は是非とも利用したい。絶対に逃走に役立つはずだから。


 「まず、騎士団員たちのトレーニングの不満を聞き取り、そこで、道路工事をする際の肉体の酷使が如何に身体に負荷を与えて、今まで使わなかった筋肉を鍛えることができるかって言って聞かせるんだよ。奴ら、普通の言葉は理解できないけど、トレーニング関しては理解はできるからね」


 ボクはここまで言うと、ジャグに音を立てなくていいと合図した。


 「お嬢様、さっきの白豆をジャラジャラさせるのは何か意味があったのですか」


 コレットが不思議そうに聞いて来たけど、ボクはにっと笑ってすますだけにした。もし、ここで話を聞かれたくなかった、なんて表立って言えない、相手が何を勘ぐって来るかなんて想像できないからね。




 「商工会での仕事はシュマとコレットで対応してね。ボクはリナとジャグで騎士団の駐屯地に行ってくる。彼らが何を欲しているかを探りにね」


 暑苦しく迫るリナと一緒に卵を温めながら迎えた朝、ボクはシュマとコレットに商工会の仕事を請けるように指示すると、リナと一緒に騎士団の駐屯地に向かうことを告げた。


 「えーっ、お嬢様と一緒じゃないんですかー、そんなの嫌ですよー」


 シュマが早速、ボクの言葉に拒否を示した。


 「私も、お嬢様と一緒が良いです」


 コレットも同じように拒否の姿勢を示した。しかし、このまま流されるわけにはいかない。

 現金は何よりも大切、そのためにも彼女たちには頑張ってもらいたいわけだ。


 「今回の件は、シュマとコレットの専門外なんだ。嫌かも知れないけど、今後の路銀のために頼む。少しでも路銀が多い方が良いからね。そうじゃないとまた野宿する羽目になる、あれは体力を損耗するからね。病気にかかるかもしれない、病気にかかったら動けなくなって、最悪、捕まってしまう」


 ボクがここまで説明すると彼女らは渋々頷いてくれた。


 「ありがとう。ボクは君たちを信頼しているからね」


 不満そうな表情を浮かべている彼女らにボクは最高の笑みを送った。


 「喜んで仕事してまいります」


 2人は見事にハモって返事した。そして、シュマは尻尾を元気よく振って、コレットは尻尾をピンと立てて足取りも軽そうに元気よく出て行った。


 「よし、ボクらも行こうか」


 ボクはリナたちに声をかけるとジャグが今までないぐらいの嬉しそうな表情を浮かべた。


 「今日は、ロスタ姐ちゃんと一緒だ。おいら、街についてから一緒に動いていないからさ」


 ジャグはそう言うとボクに纏わりつくように抱き着いてきた。リナと違って暑苦しさがないのが良い。


 「それは、あたしもだよ。ジャグ、今日は一日お嬢様と一緒なんだからね。お嬢様に恥をかかさないように気を付けて」


 「うん、分かった。それはリナお姐ちゃんもだよ」


 リナはジャグの言葉に笑って応えると、彼女の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。こうやって見るとまるで姉妹のように見える。種族は違うけど、そんな事はボクらには関係がないと思っている。


 「じゃ、行こうか」


 ボクは彼女に告げると、部屋の扉を開けた。

 ボクの計画の通りに事が進むかどうかは、ボクとリナの口先にかかっているのだ。多分。

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