第11話 「それが水臭いんですよ」
「普通、この手の野獣の襲撃からの護衛って、騎士団がやるんじゃないのかな」
コレットがオオヤマイヌを退治した証拠となる尻尾を束ねて、持ちやすくした物をぶらぶらさせながら独り言のように呟いた。
「普通の騎士団ならね。我らがブッコワースの騎士団って筋トレしかしないよ。領民を護るより身体を鍛えるのが任務みたいだから」
シュマがコレットの言葉を聞いて、ため息つきながら応えていた。その意見には大いに同意する。
ブッコワース騎士団について言えば、シュマの言うとおりだ。彼らは筋トレの片手間にパトロールや野盗の討伐に赴いているのだ。
実際、街や村を警備、守備しているのは準騎士団とも言える自警団と帯剣したお役人が主となっている。
何のための騎士団か、その存在を疑問視する人たちもいるが、疑問視した所で何も変わらないので、皆諦めているのが現実だ。
「何のために身体を鍛えているのかなんて、彼らは一切理解していないわよ。ブッコワースの家の者であるボクですら、未だに彼らの真の目的が何かなんて分からないんだから」
少しずつ、それっぽい話し方を心がけているけど、どうしてもオネェみたいな気分になってくる、これもその内慣れるのか、複雑な気分になってくる。
そして、さらに複雑な思いにしてくれるのはコレットが指摘した騎士団の事なんだけど、かつて父上に尋ねた所、返ってきた答えは「身体を鍛えよ」だった。
想像とおりだったけど。
「野獣退治もいいトレーニングになりますよ。実戦の1日は訓練の3カ月と同じなんて聞いたことがありますよ」
シュマも騎士団の在り方に疑問を持っていた。彼女もブッコワース領の領民だから当然の事だ。
領民でこの事を気にしていないのは、騎士団員とブッコワース家の者だけだ。
「あ、あそこに騎士団の駐屯地がありますよ」
シュマが白い指で指さした、そこには簡単な柵で区切られたグランドと簡単な造りの数棟兵舎が並んでいた。
そして、グランドには想像の通り騎士団員たちがひたすら腕立て伏せをやっていた。それは、ブッコワース領の日常風景だった。
「あの体力をもっと建設的な事に使えないかって思うわ」
ボクは彼らの無目的な体力を有意義に使用してもらいたいとため息交じりに呟いた。
「そうですよね。アレが仕事なんだからいい身分だと思います。それより、これを商工会に持って行って換金しましょうよ」
コレットは、これ以上騎士団に付いて考えたくないのか、ボクにさっさと行こうと言うと、手にしたオオヤマイヌの尻尾の束を掲げて見せてくれた。
この季節だから、ステキな臭いが漂い始めている
コレットの気持なんかする由もない騎士団員は懸命に腕立て伏せを続けていたが、彼女はそんな騎士団員を視界に入れないようにしながら足を速めた。
「トポリで仕入れた物が全て売れました。最近、トポリからのお手頃な化粧品とかが品薄らしくて、あっという間ですよ。私の商人としてのレベルが上がったんでしょうね」
ボクたちより一足早く宿に戻っていたリナはとても商売が上手くいったようで上機嫌で、にやにや笑いを止められないようだった。
「私たちも、臨時収入があったよ。オオヤマイヌの尻尾は1本につき、中銀貨1枚。11頭やっつけたから大銀貨1枚と中銀貨1枚になったよ。後は、ヤマイノシシのお肉、今日血抜きしているから、明日商工会に卸に行くよ。あ、そうだオオヤマイヌの毛皮もあるよ。程度は少し悪いけど、リナが直接買い付けてくれるなら、リナに格安で卸すけど」
コレットが今日のボクたちの戦果についてちょっと自慢気にリナに話しだすと、シュマがボクに熱い視線をよこしてきて、コレットが一息ついた所を見計らって、皆を注目させるためにパンと手を叩いた。
「今日、お嬢様の戦いっぷりが凄かったんですよ。襲い来るオオヤマイヌをあっという間に三枚におろし、次々と屠って行く様は美しいの一言でしたよ」
シュマの頭の中でのボクの姿はとてつもなく美化されているようだ。シュマの方がボクよりやっつけた数は多いからね、そこは間違えないように。
「私も思わずうっとりしました。あのような光景を見られるなんて、私は幸せ者です」
コレットは昼間の出来事を思いっきり美化しているようだった。
はっきり言うけど、ボクはそこまで強くない、試合をしても、シュマ、コレットどちらにも勝てない、これは自信を持って言える。
現に今まで、試合で勝ったことがないのだから。
「オオヤマイヌを斃したのも、ヤマイノシシを斃したのもシュマとコレットだからね。ボクは活躍していないから。斃した獲物の処理をしたのもこの2人だし、ボクは只その場にいただけよ」
ここは、早く誤解を解かなくては、ボクは昼間にあったことの真実を話した。
「お嬢様が居られたから、私たちは常の倍以上に力出せたのですよ」
「お嬢様に無様な姿をお見せするわけにはいきませんから」
ボクの言葉に2人は特別な解釈を施し、昼間の戦果がボクの働きの賜物だと頑なに主張しだした。
こうなると、この2人はとても頑なになる。彼女らにとってボクは常に完璧な存在なのである。
現実は、全く違うけど。
「私も、お嬢様の雄姿を見たかった」
リナがとても残念そうに言った。でも、実際に見ると幻滅すると思うんだけど。
スポーツにせよ、戦にせよ、兎角争いごとで名勝負と言うのは、それを見ていない人たちが勝手に脚色しているからだとボクは思っている。
「その話は、ここまで。で、ドリスコル商会について何か情報はあったの? 」
ボクは無理やり話題を変えて、ドリスコル商会がやろうとしていることについてリナに尋ねた。
「ドリスコル商会についてですが、近くの採石場だとか、材木問屋に顔を出されていましたね。何か新しいお店でも作られるのでしょうか」
リナは昼間、見聞きしたことを要約してボクに話してくれた。
「ドリスコル商会の店なら、ナンガにもあるよね。だとするとその線は薄い………、商人としてならさ、売り買い以外で商売につながることってある? 」
ボクは何かに辿り着きそうな気がしていた。その何かは、いまの所さっぱり分からないけど。
「街道の整備でしょうか? 人の行き来、物の行き来を盛んにすると商機は大きくなりますから」
リナは暫く考えてから彼女なりの推測を聞かせてくれた。
リナの言うとおり、現状のままでは、街道を使っての人の行き来も怪しくなってくるだろう、その内商品も来なくなるかもしれない。それは遠い未来ではなく、案外近いところまで来ていると思われる。
「リナの読みは鋭いと思うよ。ドリスコル商会って大きいんでしょ。だったら、さっさと工事してしまえばいいのに」
ボクは何故ドリスコル商会がさっさと動かないのか不思議に感じられた。
「道を直すには、力がないとできないんだよ。大きな石を運んだり、木を運んで橋を作ったりで、とってもしんどいんだって。傷薬を買いに来たおじさんが言ってたよ」
リナの言葉を静かに聞いていたジャグが道を直すことは案外とキツイことを教えてくれた。
伯爵の長男としては縁の遠い世界の事だから疎いのが普通なんだけど、ちょっと恥ずかしかった。
「人手が足りないのかな、農家の人を見たけど、そんなに体力にありふれているようには見えなかったし、体力があれば、野獣の襲撃も自分たちで処理できるだろうし」
ボクは街で見た人たち、農家の人たちの姿を思い出しながら頭に浮かんだことを口にした。
「道路工事は体力勝負の所が多々ありますからね。普通に仕事があったら片手間に道路工事に従事することは出来ないでしょうね。道路工事に従事する人が足りないってことでしょうか」
リナはドリスコル商会が面している困難について推測し、尤もらしく話した。
ボクもリナの話を聞いて成程と納得していた。
「そろそろ、お風呂の準備ができている頃です。早く入りましょう。今日は外で働きましたから汚れが激しくて気持ち悪いんです。犬系の人たちは気にしないようですが、猫系はその辺りは神経質ですから」
ボクが頭の中で何だかんだと推測している時、お風呂好きのネコがお風呂に行こうと声をかけて来た。
「犬系でも気にするよ」
「美しい毛皮を保つためには入浴は必須です」
彼女の言葉に、イヌとキツネが口を尖らせた。彼女らには悪いけど元々尖っているように見えるんだけどね。
「ブッコワース伯爵様のご長男がご乱心されたとか………」
ボクが毎回、内なる益荒男を傷つけながら浴場に踏み入ると湯気の向こうから、リナと同じような女性の行商人たちが噂話をしていた。
「伯爵様を斬りつけて、逃走されたとか………」
コレットの耳が確実に話し声の方向を向いている。
姿形は変わっていても他人事ではないから、思いっきり気になる。
ボクは身体を洗う手を止めて耳をそばだてた。噂話をしているのは、ちょっと昔の娘さんらしき女性たちだった。
「次期侯爵の座を狙おうとしていたけど、弟気味のダグ様がお強いから、非力な兄のシドレが次期侯爵の座が危ないと思って、ダグ様がまだ幼い内にと、侯爵様を亡き者にして侯爵の座に就こうとしたとか………」
「私が聞いたのは、平民の女と所帯を持とうとしていたのを反対した侯爵様を亡き者にして駆け落ちしようとしたって聞いたわよ」
いつの間にか父上が死んだことになっていて、殺めたのがボク、つまりシドレってことになっている。
ボクがブッコワース家の中でも珍しい優男であることは周知の秘密で、黄金の鉄の塊のような父上をどうやって殺めることができるのか、常識があれば分かることだ。
「何かしっくりこないね。シドレ様って、私ゃ遠くから見ただけだけど、随分と線の細いお方だったよ。あんな優男に伯爵様を殺めることができるのかねー」
随分と昔の娘さんが、根拠なく盛り上がっているちょっと昔の娘さんに常識で考えれば当然の事を口にした。オバさん、いい線行っている、と思わず口走りそうになった。
「でもさ、生物って発情期には結構凶暴になるでしょ。それに、常は大人しい動物ほど凶暴になるって聞いたよ」
「人は見かけによらないと言うじゃないの。シドレ様もカっとなれば………、多分」
「シドレ様を捕縛するために、騎士団が派遣されたそうよ。しかも、あのガド・シウス様が指揮をとられているって」
「シウス様の所の知恵袋のレーペって方はお若いのに、優秀だと聞いてるからね。シドレ様が捕まえられるのも時間の問題かもね」
何かボクが知らない所で、イロイロと動きがあったようだ。それにしても、父上が亡くなったとしたら、そこそこ領を上げての大騒ぎになるはずなのだけど、今までどこも通常営業で、情報が早い商工会が動いていないから、その手の話はガセだと思うんだけど。
「侯爵様が身罷れたのですか? 」
ボクの気持ちを察したのか、更なる情報を得るためかリナがオバさんたちに声をかけた。
「あら、尻尾のお姉さん、貴女も行商人ならこの手の話は早く仕入れないと商機を逃すことになるよ」
一昔前のお嬢さんがリナが何も知らないと思って呆れたような声を出した。
「商工会で侯爵様のお話は耳にしませんでしたので、シドレ様が亡き者にしようとしたと言うのは、シウス様が街の者たちにお報せされていたのは見たのですが。不勉強者なのでお教えいただけないでしょうか」
リナはあくまでも先輩を立てる形で話を聞きだそうとしていた。その態度に気を良くしたのかオバさんたちはニコニコしながら耳にしたことやら、勝手に推測した事を話し出した。
「スーチェ様が伯爵様の死に対して箝口令を布かれているようだけどね。人の口に戸は立てられないし、火のない所に煙は立たないってね」
「シドレ様は実はすごい遣い手で、マグナ様を斬り伏せたってお話もあるのよ。私としては、それはガセだと思っているけど」
ボクは思わず、オバさん、貴女の推測は真実をついていますって言いそうになった。
「つまるところ、どれもこれも噂の範疇からでないってことだよ。真実は、自分の目と耳で確かめる事さね。他人の言葉に踊らされたら足元をすくわれるだけだよ。尻尾のお姉さん」
一番年嵩に見えるのオバさんがリナに諭すように優しく語りかけた。
「情報を見極めないとダメですね。シドレ様を捕まえれば金貨10枚って聞きましたけど」
リナがボクに掛けられた賞金の妥当性について尋ねてみると、そのオバさんは首を横に振った。
「シドレ様と一緒に逃げたって言われている侍女が結構な遣い手だって噂でね。簡単にはいかないだろうって専らの噂さ。その金貨10枚も小金貨なのか、大金貨なのか示していないからね。ブッコワースのお家のなされることだから、そこまではまだ考えておられないんじゃないかね」
オバさんが話した「侍女が遣い手」の言葉にビクンと反応し、口元にニヤニヤとして笑みを浮かべた。
噂では遣い手らしいけど、実際は「それなりの」って言葉がつくとボクは思っている。
「その侍女の方って、お美しい方なんでしょうね。ブッコワース家の長子に付いて行かれるぐらいなんですから」
リナはボクの思うところを察してくれたのか、ボクを洗いたくて肉食獣の目つきで見つめている2人についての噂について聞いてくれた。
「その辺りの噂は少ないねぇ。毛深いとかゴツイとか言われていたのを聞いたことがあるよ」
彼女の言葉に2匹の野獣ががっくしと項垂れた。ゴツイは別として、毛深いは本当の事だから、気にする事はないと思う、と言うか、獣人はあのフワフワのモコモコな手触りが良いのであって、毛深いことは恥ずべき事じゃない。誇っていいことだと思う。
「その他に一緒に動いている人っているのかしら」
少し凹んでいるシュマとコレットを脇目でちらと見たリナが自分の事も噂になっているかと尋ねた。
「さぁね」
リナは湯船に沈みそうになったようだけど、懸命に持ち直したみたいだ。でも、その表情はどこか浮かないようだ。
『話の種になるより悪いことがひとつだけある。話の種にもならないことだ』
と言われるぐらいだから、ダメージはそれなりにあったようだ。
「私らが毛むくじゃらのゴツイ侍女って、あんまりだよ」
宿の部屋に戻るなりシュマがドサリとベッドに俯けになった、尻尾が力なくぺたりとなっている。
「毛むくじゃらは否定しませんが、毛深いって表現が気に入りません。しかもゴツイなんて、こんなに可憐なのに」
コレットの尻尾がブンブンと不機嫌に振られていた。
2人の気持ちは分からないでもないけど………。
「噂にもなっていない。切れる庶民の美女が手引きしたとかあっても良かったのに」
リナは完全に落ち込んでいた。噂にも何にもなっていないからだった。
「でも、ボクたちの情報が不正確だってことは、逃げやすいし、捕まりにくいってことだから、この場合はいいことなんだと思うよ。情報を収集するのはいいけど、気取られやすいから露骨なのは止めた方が良いよ」
ボクはやんわりとリナに注意を促した。追ってくるのはあのガド・シウスだけど、彼には知恵袋のレーペが付いている。一度しか会ってないけど、彼女は切れ者だ。ガドを旨く操縦されたら、ボクらの逃避行はあっという間に悲劇で終わってしまうかも知れない。だから、気を付けなければいけないのだ。
「そうですよね。お嬢様………シドレ様はッコワース領を乗っ取ろうとして、侯爵様を殺害した謀反の張本人、シュマとコレットはそれに加担した共犯者、あたしとジャグはその逃走を手助けしている共犯者。ここにいる者は皆凶状持ちですよ。取っ捕まったら、首と胴体が泣き別れになりますね」
リナはそう言うと手で首を掻っ切る動作をしてみせた。それを見たジャグの表情が強張った。
「おいらも殺されるの? 」
ジャグは恐怖を隠すことなくボクに尋ねてきた。この時、ボクは今までの長くない人生の中で最大級の失敗をしでかしたことを認識して、超弩級の後悔の念に駆られた。
「そんなこと、させない。絶対にさせない。ここに居る皆を殺させない。皆に危害が及ぶ前にボクは名乗り出る。ブッコワース家なら、ボクを捕まえ、亡き者にできればそれ以上の事は考えない、と言うか考えられない。でも、完全に安全な旅ができるかと言うと、それは保証できない。巻き込んでしまって、まことに申し訳ない。今なら、ボクと関係を絶てば君たちの安全の度合いは高くなる。そうなってもボクは決して裏切ったとは思わない。これは、大地母神メラニ様にかけて誓える」
ボクは彼女たちに深々と頭を下げた。ボクの我儘で、何の罪もない彼女らを凶状持ちにしたくないのだ。
「おいら、シドレ様とさよならするのはもっと嫌だ。ずっと一緒にいたいよ」
ジャグはボクと一緒にいると殺されるかもしれないことより、ボクと別れることの寂しさによる恐怖が勝っているようで、ぎゅっとしがみついてきた。
ボクは彼女の小さな体を優しく抱きしめた。
「シドレ様、いい女には秘密やワケがあるってヤツですよ」
シュマはボクの後悔なんか気にしないよとばかりにふわっと微笑んでくれた。
「何を水臭いことを仰るのですか。私たちとシドレ様の仲じゃないですか。私はブッコワースのお屋敷を出た時に心を決めています」
コレットはボクの横に腰を降ろすとそっと肩を抱きしめてくれた。
「デカい商機にはそれなりのリスクがつきものです。この危険は投資ですよ。最悪でも、この旅の事を物語にして吟遊詩人たちに売ることもできますから。損はないですよ。上手くいけば、伝説の商人になれるんですよ」
リナは商人らしく投資だとか言っているけど、それだけじゃないとボクは感じた。
「ありがとう。でも、ボクのために命を粗末にしてほしくないことは本当の事だよ。男に二言はないから。あ、今は女だっけ」
ボクは本音を口にした途端、ちょっと恥ずかしくなって茶化してしまった。でも、彼女らはそんなボクの事をじっと見て、くすっと笑ってくれた。
「信じてますよー」
「お嬢様に同じ言葉を綺麗に包装して可愛いリボンをつけてお返しします」
「こんなに面白いことから手を引けるわけありませんよ。何回も言っているように大きな商機なんですからね」
「おいら、ずっとロスタ姐ちゃんといるから、どこまでも一緒だから」
皆口々に言うとボクの傍に寄ってきてくれた。
どんな騎士団より、ボクにはこの4人の方がずっと頼りになり、力強い味方だと今更ながらに知ることになった。
「ありがとう………」
いつの間にか、ボクは泣き声になっていた。実の家族から居ない者として扱われ、公の場でも冷遇されてきたボクにとって彼女らの温かさは何より嬉しかった。
「だから、それが水臭いんですよ」
リナは笑いながら言ったけど、ボクはその声がどこか湿っていたように感じた。
「分かった。そう、ここに居るのは傭兵のロスタとその配下のシュマとコレット、ボクらが旅先で偶然知り合った行商人のリナとジャグだ。どこかの伯爵様の倅なんて全く関係ない、だってボクは女の子なんだからね」
ボクは改めて自分に言い聞かせるように、シドレと決別するために言うと、皆がにっこりしてくれた。
「何を今更ですよ」
「私の忠誠と愛に曇りはありません」
シュマはニコニことコレットは真剣な眼差しでそれぞれの思いを伝えてくれた。
「だから、こんな面白そうな事か手を引くなんてできませんよ」
「おいらはずっと付いて行く」
リナは苦笑しながら、ジャグは力を込めてボクを抱きつきながら、ボクの決意に付き合うと伝えてくれた。
翌日、ボクたち傭兵組は商工会で仕事の依頼を請けに、リナたち商人組はナンガで仕入れのために宿から出発した。
「昨日は随分と活躍したようだね。依頼主からまた頼みたいって名指しで来ているんだ。今日も頼めるかな」
受付のおじさんは、ボクに宛てた依頼書を差し出してきた。
「正直な話、昨日君らを見た時、不安だったんだが、実力を見計らえなかった俺が未熟だったと言う事だ。昨日の対応で気に入らないところがあったら、すまない。俺の事はどうでもいいが、これは請けてもらいたい」
「ボクらもそのつもりでしたから。勿論、お請けします」
ボクはおじさんから依頼書を受け取ると、早速昨日の待ち合わせ場所に急ぐことにした。
「お肉と毛皮がありますからね」
「今日も、がっぽり稼ぎましょう」
シュマとコレットもやる気が漲っているようだ。
さて、今日も自らの手でお金を掴み取るために、自立とは言いにくいけど、自分の足で歩き出すための一歩を踏み出すことにしたのだ。