第一章:第七話
時刻を間違って16:00にしてました!申し訳ない!
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◇ ◇ ◇
ボク。庄崎朱音は天才である。
その頭脳と美貌は、地球の雑誌やニュースでひっきりなしに注目されていた。
化学賞なんて、幾らとったか分からない。
そんなボクはある実験で、異世界に転移してしまった。
今はお人好しな大家君の家に下宿しながら、帰還の手段を探しているが……。
何はともあれ、金が無いと始まらない。大家君の軒先を借りて、日々の事業に励むばかりだ。
「店員さんっ! マギストーブ。一つ頂戴」
「毎度あり。商品の名前はマギコンロだよ。値段は前払いで宝石二個だ」
「金貨で良い? 宝石持ち歩くの怖くて」
「構わないよ。異世界の財布も、売ってるけどどうだい?」
「えぇっ、本当!?」
事業とはイノセンスの道具を、地球のデザインに変える事だ。
これが馬鹿売れした。流石は僕、目の付け所が違う。
だが幾ら天才でも転移先の生活に、驚きやら戸惑う事は多い……でも毎日が幸せだった。
「にしてもボクって……本当に天才だなぁ」
ボクが発明したりデザインした商品を、一般人達は大喜びで買っていく。
その売り上げの全てを注いで、更なる事業の拡大を行う。
この世界は現代社会構造をしている癖に、商業権という概念が無いから出来る荒技だ。
「次はどんな商品を作ろうか」
「あのぉ……」
ボクが思案していると、声をかけられて邪魔された。
ガレージの外から声をかけてきたのは、見覚えのある顔だ。
ヘリコプターを欲しがった、SFファンのおじさんである。
「やぁ、良く来たね。何か欲しいモノでもあるのかい?」
「ああいや、独り言が聞こえたのでぇ。話しかけたんですぅ」
おじさんの訛り方は特徴的である。
大家君が言うには人間? ヒュージン?……まぁボクらとは違う種族らしい。
そのヒュージンにトロール種の血が混ざっているとか。
「新商品、出たんですぅ? 次に何を作るのか聞きたくてぇ」
「まだ考えてるけど。一週間で原案は作るよ、そしたら教えようか?」
「アカネ先生は本当にSFの造詣深い人だねぇ。次も楽しみだよぉ」
ボクは良い気分になり、おじさんにサービスをした。
次商品のリクエスト権である。
おじさんは暫く考え込むと、真剣な顔で提案してきた。
「そうだねぇ、乗物とかぁ?」
「車なぁ、見た目だけを似せてもな……」
「先生の作品は中身が良く出来てるのが売りだしぃ。一品物でも売れると思うんだよぉ」
購買者の貴重な意見は取り入れたい……成程、一品モノの高価な商品か。
大量生産で釣るのも良いけど、懐の温かい相手を集められるかも?
そこまで考えた時、僕の脳裏に電流が走る!
「良い意見だ。ワトソン君」
「ワトソンって誰ぇ?」
「早速、開発を急ごうじゃないかっ!! 新商品を楽しみにしていたまえ!!」
「だから、ワトソンって誰ぇ?」
ボクはガレージに引っ込むと、図面を引っ張り出す。
大革命となる発明品になるが、異世界の物理法則や宗教的禁忌を調べるより簡単だ。
何故なら既に、図面はこの頭の中にある。
「商品名はそうだな、いや先人に敬意を支払おう」
ボクは図面に線を引きながら商品名を書き込む。
地球では見慣れた。だけどこの世界では全く新たな単語。
「『豆電球』だ」
◇ ◇ ◇
「スティ。上の空ね、どうしたの?」
「え?、あ、あぁっ! モニカさん。何が?」
モニカさんの声で、呆然としていた俺は意識を取り戻す。
ここはルシア社の俺のデスクで、現在時刻は昼休みか。
机を見れば書類が積み重なり、通信魔法の魔道具からはニュース音声が流れている。
「何がじゃないわよ。朝からずっとそうじゃない」
「……あー、ゴメンね。友達の事でちょっと」
モニカさんは上の空の俺を、心配してくれている。
見れば彼女が飲む、完全栄養食の天界水ゼリーは半ば飲み終えている。
だが俺の机には、全く手をつけていない弁当……昼休憩終了まで時間が無い。
「体調が悪いの?」
「いやぁ違うんだ。最近どうも友達の事でね」
「最近同居してる子? 良かったら話を聞くわよ」
モニカさんは優しい。誰かが困ってたら力になってくれる。
俺よりも頭も気立ても良いし、何より女の子だ。
アカネさんについて、相談するならもってこいだろう。
「俺の友達が何かしてるみたいなんだ。だけど何をしてるのか分からなくて……」
「そう。直接聞いてみたらどうかしら」
「聞いて見たんだけど、驚かせたいって教えてくれないんだよ」
「うーん、スティはどうしたいの? 要領が掴めないわ」
その子が教えてくれないから寂しいのか。
その子が何をしてるのか不安なのか。
何となく気になるだけなのか。
モニカさんがツラツラと述べた、俺の心境の可能性。だがどれもしっくりこない。
「それ次第で、あなたがする事は変わってくると思うの」
「そうかな……そうかも?」
「後で話は聞いてあげるわ、とりあえずご飯を食べたら?」
「うん。分かった」
食べながら考えようと、フォークで弁当の中身を突いて口に頬張った。
前までは雑弁当だったが……アカネさんが来てからは、弁当も一工夫している。
俺が野菜炒めを草食動物の様に頬張っていると、不意に聞き慣れた声が聞こえた。
「あれ、アカネさん?」
周囲を見渡すが、居るのは居眠り中のカスパル十人長と事務員位だ。
視線を弁当に戻すと、またもや彼女の声が聞こえてくる。
『良いかね。多くの言葉で少しを語るのではなく、少しの言葉で多くを語るべきなんだ』
声の発生源は通信魔道具の一つ。ニュースを流すメディアチューナーからだった。
アカネさんは自分の事業について、得意げに自慢を続ける。
リポーターは苦笑いしながら、自分で説明を始める。
『最初は家庭魔道具のデザイナーとして働いて。遂には新技術を開発したんですよね?』
『そう。それが科学だ。おい、何故笑う』
タハハと周囲からの笑い声が聞こえ、アカネさんが不機嫌そうに続ける。
『ボクが開発した科学製品だ。映画や小説の中にしか存在しない、画期的な文化なんだぞ?』
アカネさんが商品説明を始めたが、そんな事はどうでも良い。
俺は泡を食って立ち上がると、カスパル十人長に大声で叫んだ。
「十人長! すみませんっ、早退させて下さいっ」
「はぁっ! 午後からの仕事どうするんだよっ!?」
「家が火事になりそうなんですっ!」
「はぁぁっ!?」
カスパル十人長はモニョモニョ口を動かした後に頷いてくれた。
周囲を見渡せば誰もが驚いて俺を見ているが、構ってる暇は無い!
「モニカさん、ごめんっ!! さっきの約束はまた今度でっ!!」
「えぇっ! お昼ご飯どうするのっ!?」
本当、マジでそれどころじゃないからぁっ!