8.魔法とスキル
「なあ、トーゴ、これ、このステータスボードっての、ほかにもできることがあるんだよな」
「あ、はい、そうです。
大切なことからやりましょう」
そう言ってトーゴはマップとマーカーの使い方を教え、お互いにマーカーを付け合った。さらにパーティー登録をして、離れていても連絡ができるようにセットした。
「おお、こりゃ凄いな、携帯電話みたいなものか」
「ねえねえ、これって料金とかどうなってるの?」
「いや、別に料金は発生しないと思いますよ、こういうので料金発生とか聞いたことないんで、たぶん大丈夫です。う~~んと、そうだ、テレパシーみたいなもの? なんかそんな感じでいいと思います」
「そうか、連絡したい相手を思い浮かべるだけで話ができるんだな?」
「ええ、パーティー登録が条件で、お互いに了承する必要がありますけど。
問題は、知らない人がいるところで話を始めちゃうと、なんかアブナイ人だって思われちゃうところですよね。相手もいないのに話をしてるように見えるから」
「おお、なるほど」
「ふーん、テレパスと違って、考えるだけでお話しできるとかそういうことはないのね、話さないといけないのね」
「ええ、そうでないと、頭の中に流れるいろんなことが全部相手に読めちゃうでしょ?」
「あ、なるほど」
「ふむ、そういうことか」
カッサンドラとコンラートは、顔が見えるところにいるのに、電話ごっこをして喜んでいた。
昼下がりになって、眠くなってしまったトーゴは、
「すいません、俺ちょっと眠くて。朝方までボードの機能をチェックしてたから。
ちょっと昼寝してきます。
他の機能はまた明日にしましょうか」
「あ、うん、鑑定で遊んでるわ。
それと、夕ご飯は私が作るよ、なんか好き嫌いとかある?」
「いや、ないです。お世話になります、よろしくお願いします」
「何言ってんだか、順番でいいよね、パパだってパン焼けるよね」
「そりゃ俺はパン屋だからな、小麦粉あったっけ? ってか、普通に料理できんだろうが、やもめ暮らし二十年だぞ、舐めんなよ」
「はいはい、期待してますから」
翌朝、やはり睡眠不足気味のトーゴを起こして、昨日の続きが始まった。
ステータスボードをいじり倒したカッサンドラが、なんだかんだとコンラートに教え、わからないところはふたりがてんでにトーゴに聞くというスタイルで理解が進んでいく。
「あのね、このスキルとか魔法とか、これって何?」
「それはですね、要するに魔法がある世界だってことなんです、ここは」
「ほう?」
「はあ」
「トーゴ、ちょっとやってみろ」
「はあ、まあいいですけど、俺のはわかりにくいですよ。
魔法って、その人の素養に沿ったものしか使えないんですよ、確か」
「おまえの素養って何だ?」
「俺のは、要するに情報収集とか、分析とか、サポートとか、そういう能力みたいなんですね。あとは少しですけど、防御もあるみたいです」
もしかして、ヒッキー系オタク的生活をしていて、進学や就職の時期に周囲に合わせて生きられるように分析とサポート能力を身に着けてきたという人生だった? うっ……なんか胸が苦しい、かも。
「うん?わっかんねな、ちょっとやって見せてくれないか」
「ええ、じゃあ、トランスパレンシス、透明化、ってのをやります。見ててください」
モブとして目立たないように生きるための究極形態かも……。
カッサンドラとコンラートがトーゴを見ていたが、スーッと姿が見えなくなっていった。それはまるで消えてしまうように、色が薄くなって見えなくなり、まるでそこに何もなくなったようにただ風景が見えていた。
トーゴにイタズラ心が沸いたようで、テーブルの上のカップがスッと見えなくなった。おそらくトーゴがカップを持ち上げたのだろう。
「おい、トーゴ、解除だ、解除。びっくりさせやがるぜ」
「本当に透明になっちゃうんだねぇ、びっくり」
トーゴが透明化を解除して、カップを持って椅子に座った姿を現した。
「驚かせちゃいました?」
「あったりまえだ、目の前で見てなきゃ信じられないぜ」
「まあ、魔法ですからね」
「ねえ、パパや私にもできるの?」
「ステータスボードをスライドして、スキルと魔法の画面にしてください、そこでわかりますよ」
なんだかんだとわちゃわちゃやりながら、三人は魔法とスキルを試してその日は大体終わってしまった。
コンラートは攻撃魔法の使い手のようだった。ファイアー系統とウオーター系統が得意なようだ。「おお、すごい」とか、「う、これはなかなか」とか言いながらすごく楽しんでいたが、そのうち魔力が尽きてへばってしまった。
コンラートがファイアーとウオーターの能力を見せたということは、生涯のほとんどをパン屋として送ってきた経験によるのかもしれなかった。攻撃魔法の使い手であるというのは、軍人であったという経歴によるのかもしれない。
カッサンドラは薬剤士だけあって、治癒魔法の使い手で、さらにスキルに調合を持っていた。スキルを持っているのがカッサンドラだけだから、この世界ではスキルを持っている人は珍しいのかもしれない。
恐る恐るスキルを使ってみていたが、こちらは魔力を必要としないようで、むしろレベルアップすることで調合の質が上がったり、できる調合の種類が増えたりするのではないかと、トーゴがアドバイスを入れ、ワクワクが止まらないようだった。