7.鑑定とパスタランチ
夢中になっていたふたりが、ようやく納得してコーヒーを飲んだので次は鑑定について説明した。
「鑑定って機能ももらっていると思うんです。ボードを確認してくださいね。
使い方は、鑑定したいものを見て、鑑定って口に出してもいいですけど、まあ、これが何なのか知りたい、と、思うだけでステータスボードに出ますから」
ふたりはまたまた夢中になって、テーブルやコーヒーから始めて、トラック、タイヤ、ハマーと鑑定しまくり、続いてそのあたりの木や草を鑑定して回っていた。
先にコンラートが飽きて、のんびりコーヒーを飲みながらステータスボードのチェックを続けているトーゴのところに帰ってきた。
「なあ、トーゴ、ここって本当に異世界とやらなんだな、訳わかんないけどな」
魔法やスキルの表示へのスライド方法を見つけて、コーフンしていたトーゴが、コンラートの声で我に返った。
「あ、ええ。 まあ、俺だってまさかって思いますけどね、こうなってみると認めるしかないですよ。
カッサンドラさんは?」
「おお、ドーラは薬学を勉強したんだ、隣の国でな。薬学を勉強して、薬剤士になった」
コンラートの口調は苦々しかった。薬を扱える人になりたいという娘の意思を尊重して、隣国の大学にやったのは、妻が病に苦しんで死んだからであることはわかっていた。その結果、大学で知り合った男と結婚して子を産み、離婚して孫を連れて帰ってきて。
最後は隣国に仕掛けられた戦争で親子三代、三人ともこの始末だ、アタマにくるとしか言いようがない。
「そうなんですね、もしかして鑑定を使って薬の材料を探している?」
「ああ、そうだ。楽しそうだぞ。
トーゴが一緒に飛ばされて、俺は感謝しているぜ、すまんな、おまえはアンナだったか?女房を置いてきちまったんだよな、つらいな。
俺の女房は病気でな、なかなか原因がわからんでなぁ、珍しい病気だったんだ。わかった時には手遅れでな、ドーラにも散々泣かれたぜ、母親は苦しんで死んだからなぁ」
「そうだったんですね……」
コンラートは、なんとかトーゴの異世界説を受け入れたようだった。
カッサンドラがワクワクを隠せない顔でスキップするように帰ってきたのは、もう昼になるころだった。トーゴが作るパスタの匂いで空腹に気が付いたのだった。
「ねえ、聞いて、聞いて、すごいねこの鑑定。
こっちに来る前にもこの機能があればなぁ、薬作り放題だったかも。
まるで辞典を作るみたいだよ、どんどんリストになっていくの、すごいよね、これ」
「へぇー、リストになるの?」
それはトーゴもまだ気づいていなかった。
「うん、木の皮とか、葉っぱとか、そのあたりの草を鑑定していくと、胃薬の材料とか、回復ポーションの材料とか書いてあるのよ。
ところで回復ポーションって何だろう?」
「ああ、それは、疲れた時飲む栄養ドリンクの強力すぎるやつだと思ってください、まあ、おおざっぱな説明ですけど、もし作れたら飲んでみればわかりますよ」
「そうなの? じゃあ、まず材料集めて、作り方を試してみないと」
「はい、どうぞ、簡単だけど、バジルとドライトマトのパスタですよ」
「うん、ありがとう」
カッサンドラは、ステータスボードに作りこまれた鑑定リストから目が離せないようだった。
パスタランチを食べて、三人三様にステータスボードを覗き込みながらコーヒーを飲んだ。