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志願兵  作者: 倉名依都
19/32

18.人に会う準備

 恒例朝のコーヒー会議。

 コンラートは、街の近くまで行って、遠目に観察するところから始めたらどうか、と言う。

 カッサンドラは、旅人として街に入ってみたらどうか、と言う。

 トーゴは、とりあえずお金の価値がわからないと、ひどいことになりそうだから、そこから始めないか、と言う。

 うーん、と三人三様に考え込んで、コーヒーばかりが減っていく。


「あのな、まず、俺らはどういう身分なんだ?ここでは」

「うーん、平民?」

「いや、そうじゃない、どこの国の何者なんだ?」

「そりゃもう……寒い国から来た迷子の兵士ってことでどうです?」

「なんだそりゃ」

「えーっと、まずですね、服装が変じゃないですか。

 こちらの服装じゃないでしょう?」

 迷彩服のズボン、長靴、カッサンドラはスニーカー、Tシャツに防刃防弾ベスト、念入りに迷彩柄のハットだ。日焼け止めなんてないから、ガンガンに日焼けしている。

「そういわれてみりゃそうだ」

「そうねぇ、到底街なんかに入れないわよねぇ、怪しさ満杯ってとこ?」


「兵士って言ったってなぁ、おまえ、俺たちの武装はこんな銃なんだぞ?

 さっきの護衛兵は腰に剣吊るしてたじゃないか。おまけに馬?に乗っていた。

 カンジュラスだったか?

 俺は、馬に乗ったことないけど、どうだ、トーゴ」

「馬でいいですよ、野生のカンジュラスを家畜化したらしいですし。

 俺はカレンにせがまれて、乗馬クラブに二年ほど一緒に通いました。

 所詮お遊びですよ」

「まあ、それでも乗ったことがあるだけまだましってところさ、どうするかなぁ。

 馬車はどうだ? 馬を操れるか」

「やったことありません」

「そうだよなぁ、ああ、どうするかなぁ」


「このままじゃだめだけど、最初の接触は大切で、できるだけミスを犯さないように、穏やかにこの世界の人たちの中に入っていきたいってことよね」

「そうですねぇ、何かいい方法を思いつきますか?」

「人探しをしてるっていうの、どう?  嘘じゃないし」

「ああ、それ。それいいかも。

 そうですね、その設定で行きますか。えーっと。

 できるだけ作りこみは少なくした方がいいんですよ、大切なところは外さないで、こまごまとしたところは話さない。聞かれてもにっこり笑うか、問い返して相手にしゃべらせる」


「そうか、それなら、俺が担当だな。

 俺が前に出よう。人探しの任務を受けて、遠い国からエリンという少年を探しに来た。

 俺が上官で、おまえらが部下だ。俺ならうっかり口を滑らしたりしない。おまえらは俺の許可がないと話ができない、それでどうだ」

「いいです、それいいですね、ぜひそれでお願いします」


 それからは話が早くなった。

 三人はほかに着替えもないので迷彩服のまま、銃を持ちバックパックを背負って道に出ることにした。銃は「雷の杖」とでも言い張ればなんとかなるかもしれない。かなり苦しいが、祖国の武器だと簡潔に言うことにする。

 それに、この姿は外せない効果を発揮する。もし、地球から界渡りをしてきた人が見れば、現代地球の兵士であると一目でわかる。歩く広告塔みたいなものだ。

 こちらで見分けることができなくても、あちらから近づいてきてもらえればありがたい。


「さっきドローンで見た限りですけど、近くに大きな町はありません。

 あるいは、途中に村や開拓地があるかもしれませんし、小さな町に続いているかもしれません。

 最終的に大きめの街に潜り込むまでに、徐々に怪しまれない服装に変えて、この世界のことを学びながら行きませんか。

 とりあえず、馬車の行った方向に進んで、できたら最初は野営地に泊まり、周りの人のうわさ話に耳を傾けるというのでどうですか」

「よし、それで行こう。

 ドーラ、トーゴも、余計なことをしゃべるなよ。いいな」

「はい、注意します。どうしてもしゃべりたくなったら、地球の言葉で話しましょう。ただし、この世界の人の前では使わないでください。わからない言葉で話し合う人は不審な目で見られます」

「え? 地球の言葉? そうか、言葉が通じないか」


「いえいえ、そうじゃなくて。そうだよね、こちらで人に会うのは初めてでした。

 全言語理解、っていう機能がステータスボードにありましたよね。俺たちは、相手と同じ言葉で話せるし、読み書きもできる。

 パソコンの翻訳機能みたいなものです。非常に優れていますけど」

「え?そんなに便利なの?」


「ドーラは、何か国語話せるの?」

「スラブ語、英語、これは学校で習ったものね。あとドイツ語は、母がドイツ系だったから」

「三か国語だね。

 いつもはスラブ語で話しているよね、それで、たとえばお母さんの実家の人と話をしようとして、ドイツ語だと思ったら、切り替えるよね。 そのとき、どうやって切り替える?」

「あー、なるほど。そうね、あ、ママの言葉、と思うかも。え?違うかな。

 うーん、ドイツ語、と思って、そうだねぇ、頭の中でカチッとスイッチを入れる感じ?」


「そう、全言語機能は、それができるんですよ。

 知らない言葉を聞いた瞬間に、おそらく頭に“〇〇語”という切り替えスイッチが浮かぶと思います。その瞬間にその言語を習得したことになるはずです。

 言語には文化背景がついてくるので、完璧じゃないけど、一応意思の疎通はできるようになります。ただ、政治的、歴史的、文化的、特に宗教的な話は絶対にダメです。どこで相手の怒りを買うかもしれません。

 タブーってのは、言語理解だけではわからないです。

 俺たちは外国人です、用心深くお願いします」

「ふーん」


「要するに、日常会話しかするなってことなんだな」

「そういう理解でお願いします。

 俺は、日本で生まれ育って、ヨーロッパで仕事をしましたから、ある程度分かるつもりです。困ったときには、とりあえず口をつぐんで、俺を振り向くか、手を引っ張るかして、助けてくれというサインを出してください。それで状況を説明しているうちに落ち着いて対応できるようになるはずです」

「そうか、おまえも苦労したんだなぁ」

「いやだな、仕事だったからですよ」

「そうか」



 こうして打ち合わせを終えた三人は、親の依頼を受けてエリンという男の子を探すために遥かな道のりを歩いてきた傭兵、という設定を飲み込んだ。

 無限収納は異界渡りの特典の一つだが、ここにも小部屋ほどの収納ならあるかもしれなかった。

 だが、念のために兵士に支給されるカーキ色のザックを背負うことにして、人目に付くところで出し入れするものを詰め込んだ。

 服装を点検し、ハマーを収納、ザックを背負って馬車の通る道に向かって歩き始めた。


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