17.コンラートのパン屋タイム、そしてついに人を見つける
コンラートが控えめに口にした希望を叶えようと、海岸に出た。
砂浜に大型テントを張って、本当に久しぶり、実に四か月ぶりにのんびりとした時を過ごした。もちろん、トーゴの索敵と、いざとなったら逃げ込めるようにトラックをすぐそばに出してのことだ。
「なあ、ここの海も塩からいな」
「そうですねぇ」
「船はあるかな」
「そうですねぇ、海があって、人がいるなら、必ず船はあると思いますよ」
「そういうもんか?」
「まあ、多分。
ほら、コンラートさんだって、海を見て、海に出たいって思ってるでしょ?
人間だったらそう思うのは当たり前じゃないですか。そこに山があったら登ってみたい、海があったら渡ってみたい、そういうものでしょ? エベレストに登頂するのも、南極点へ到達するのも、全部その気持ちの延長線上じゃないですか。
人類は月まで行ったんですよ?」
「そうだなぁ」
コンラートはこの世界に来て初めて、砂浜に簡易石窯を築いて種なしパンを焼いた。
小麦粉の袋を開けて匂いを嗅ぐと、コンラートのパン屋モードが発動した。重曹もドライイーストもなかったから、ふっくらしてはおらずナンや薄手のピザ生地を思い出させる薄いパンになったが、三人は、コンラート特製パンに心から満足した。
コンラートも職業柄パンにはうるさい。薬草やナッツを練りこんだり、海水で小麦粉を捏ねてみたり、収納していた魔獣肉でひき肉を作ってパン包み焼を作ったり、ずいぶん楽しんでいた。
ここまで保護者の目線で頑張ってきたコンラートに、久しぶりに訪れた自分の時間だった。
トーゴがコンラートにイーストを作ってみないかと提案する。
「自然酵母って、割と簡単に作れるんですよね、やってみませんか?」
「ああ、俺も親父から習った。パン種は今も俺の跡を継いでくれた奴が使っているだろうよ。扱いやすいパン種だったぞ、質がいいというのか、安定していたな」
「酵母は、その土地の空気や水に左右されるといいますからね。
コンラートのパン屋は長年パンを作っていたのだから、環境が良かったのじゃないでしょうか。
勿論、毎日世話をしているパン屋の親父さんがまじめだからですけど」
「そうか、そう言ってもらえると存外うれしいものだな。俺は仕事でやっていただけだがな。
こっちでも作ってみるか。最初は干しブドウを水につけて作るんだったな」
「ええ、でも、別にフルーツの果皮についている酵母を使えばいいので、果実を見つけたらセットしてみて、気に入ったものができるまで何度でもトライしたらいいと思いますよ」
「ああ、なるほどな」
「えーっと、これは雑学ですけど、昔の人はパン種で無濾過ビールを作っていたそうですよ。
今でも実証実験で作ることがあるようで、本当にできるみたいです。
コンラート、手作りビール、飲んでみたくないですか?」
「ううーん、腕が鳴るぜ、手伝ってくれるよな、もちろん」
「勿論ですよ、濾過器を作りたいですねぇ」
鳴っているのは腕なのか? それとも喉なのかな?
これで、三人はパン、肉、野菜、果物、ナッツを手に入れ、通常の食事で必要とされるもとしてのは乳製品と卵が足りないだけになった。
ドローンで行く先を探りながら前進を繰り返し、四日、ついに人の映像を捕らえた。
「うわー、異世界あるあるだ~」
トーゴが悲鳴のような声を上げた。
ドローンが拾ったのは、馬車と馬のように見える動物に騎乗した護衛の兵士の映像だった。
馬に見える動物は、鑑定ではカンジュラスと出ている。家畜化された魔獣のようだ。
「何だ、異世界あるあるって、またおまえ変になっちまったか」
「いやー、すいません、あるかもとは思ってましたよ、もちろん。でもねぇ、まさかだなぁ。ねぇよなぁ」
「え?なに? 馬車?」
「そうなんですよ、馬車です。自動車はなさそうですね、ガソリンも」
「なんかお祭りとか?」
「いやいや、ないでしょう。街中じゃないんですよ、あれって多分、マジで移動中ですから。
あ、やばい、ドローン帰っておいで、アブナイアブナイ。弓矢とかありそうですよね」
「いや、そこかい。銃の方がよっぽど当たりそうだ」
「いえいえ、職業兵士ですよ? 小さい時から兵士になるために武器の練習している人たちなんです。耳もいいだろうし。ああ、くわばら、くわばら、槍でも投げられたらとんでもないことに。虎の子のドローン」
そう言いながら、ドローンを帰還させたトーゴは、当分使うつもりをなくしていた。
またまたお茶をいただきながら、共通理解を作り上げる作業となる。
残念ながらトーゴ秘蔵のバターケーキは全部食べてしまった。代わりに、コンラートが焼いた小さなパンが出るようになっていた。上からかけたアイシングの甘さがすごくうれしい。
話し合いももう慣れたものだ。
体力はカッサンドラが基準になって、動ける距離と時間を判断する。
トーゴが状況を説明し、それを踏まえてどうしたいかをそれぞれ提案し、妥協できる方法を探る。
コンラートはカッサンドラとトーゴが暴走しかけたら止めるという大切な役割を担っている。
「この世界の文明は、魔法が基準になっていると思います。
つまり、電気、ガス、石油などは使わないんです」
「それで大丈夫なのか?文明なのか、それ」
「ええ、魔法を使うんですよ、動力の代わりに。
ファイア系列の魔法で煮炊きします。お湯を沸かしたりね。多分ですが、バッテリーの代わりに魔石を使っていると思います。
ウォーター系列の魔石で水を出すから、水道もいりません。
ウインド系列なら、帆船や風車を動かしたりね」
「ええ~、まさか~」
「そうですよねぇ、見るまで信じられないでしょうね。
ドーラ、次元収納を使いこなしてますけど、薬草類を乾燥もさせない、冷蔵庫もなしで何カ月も運んできたこと、忘れてないですか」
「あ、そうか」
「人によって使える魔法には種類があることはもうわかってますよね。
多分、兵士になっている人たちは攻撃魔法が使えるんだと思いますよ。ほかに例えば戦闘時に体力が自動で回復するとか、剣に魔力を流し込んで折れないようにするとか、もっとすごいと、剣に炎をまとわせて与えるダメージを上げるとか」
「ねえねえ、じゃあ、火の魔法を使えない人は、台所で料理できないってこと?」
「まだよくわからないですけど、たぶんそういう人のために魔法の道具っていうのがあると思いますよ。そうですね、たとえばガスレンジのガスの炎の代わりに、火の魔石を組み込んでいるとか。
魔道具とか言うんですよ、そういうの。それを専門に作る魔道具職人とかもいるかもですね」
「うーん、どういう世界だ?」
「電気やガスの代わりに魔道具がある世界でしょうか。電線やガス管の代わりに、持ち運べる魔石がある、と思ってもらっていいかもしれません。エネルギーが小さな魔石に籠められていて、それを魔道具に組み込むわけです」
「ふーむ、それなりに便利なのか。公共工事をしなくてもいいのか」
「そうですね、そういう考え方もできるでしょう。電気、ガス、水の供給が個人単位でできるのですから、あとは下水道ですかね」
「なるほどなあ」
「それでですね、とにかく見たこともない世界に行くんですから、ここの常識ってのを身に着けなきゃなんないでしょ? それをどうするかですよ、ね」
「うーん、わからん」
「誰かに聞く?」
「誰にです?」
「うーん」
「とりあえず、多少の知識がある気がする俺が行ってみて、情報を持ち帰るというのも悪くはないとは思うんですよ。
でも、やっぱり別行動は危険です。どうしますかねぇ」
話は一向に前に進まず、とにかく一晩寝て、それからまた話し合うことになった。
このチームのノーマルモードだね!
わかりやすいと思いますが、コンラートのイメージモデルは、60歳くらいのシュワルツェネッガーです
パン屋のシュワちゃん、毎日買いに行く
娘の頭を抱き寄せて涙を流すシュワちゃん、いい
対空砲で爆撃機を落とすシュワちゃん、ハマる
密林を行くシュワちゃん、プレディター?
王女殿下に膝をつくシュワちゃん、コナン・ザ・グレート以来だね
シュワルツェネッガー主人公の異世界映画つくってくれないかな~、ワイバーンを打ち落とすところとか、見たい、見たいがあふれてくる~~