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志願兵  作者: 倉名依都
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15.長い道のり

 それは、長い旅の始まりの何日かに過ぎなかった。

 二日歩いて、三日休む。気の長いプランだが、森がどこまで続くか見当もつかないのだから、疲労して一か所で何週間も寝込む羽目に陥るよりも確実だった。

 できるだけ川から離れないようにしながら、ゆっくりと進んだ。

 休憩に当てた三日間は、洗濯と温浴、スキルや魔法の練習、ナイフ術訓練、投擲練習などを飽きずに繰り返した。

 三人とも忍耐強い性格だったことが運を呼び込み、続けたことでその運をさらに取り込んだ。大きなミスを犯すことなく、ケンカもしないで、淡々と歩き続け、保存食を食べ、トラックの荷台の簡易ベッドで眠った。


 カッサンドラが疲れてイラつきかけると、トーゴとコンラートは歩みを止めた。

 ふたりとも既婚者でおまけに娘がいたから、疲れてきたらとにかく休ませて甘いものを食べさせれば、自分で立て直せることを知っていた。

 カッサンドラのペースがチームのペースだ。カッサンドラが歩けるペースと時間を把握しながら、歩くリズムを作っていった。


 途中で山脈に行き当たり、越えることができる場所まで大きく回り込んだ時が一番キツかっただろう。五日セットの旅程を確実に繰り返し、体力を温存しながらの旅でなくては到底持ちこたえられず、カッサンドラかトーゴがへばってしまうことになったに違いなかった。


 山脈の谷間を辿って、向う側に出たら、気候が変わっていた。

 少し涼しくなり、植生も変化し、カッサンドラの好奇心がまたまたうずいてしまった。振り返ってみればあの濃厚な森の気配や、暑く湿った気候は体に堪えた。


 山脈の向こうで採取した薬草や薬になる数々の材料は、あるいはめったに手に入らない貴重なものなのかもしれなかった。

 特に、白銀のカブトムシ、とか、虹ユリの花粉など、長い採取時間をかけても2,3個しか入手できなかったようなアイテムについては、たとえ街にたどり着くことができても人には見せない方がいいとトーゴからのアドバイスがあった。

 カッサンドラは森の奥で手に入れた材料はできるだけ温存することに決めた。スキルの訓練は、これから手に入る材料を使ってやればいい。


 ドローンを飛ばしても、まだまだ森の終わりは見えない。

 再び山脈の裾を川に向かって戻り、遠くに轟音を聞いた。

 予想できたことではあるが、川は山脈から滝となって流れ落ち、幅の広い流れの緩やかな河となっていた。


 再び水がたっぷり使えるところに来て、三人は存分に温浴を楽しんだ。ポンプなんて、充電のために車のエンジンを動かすのがもったいない、というので、バケツを次々とリレー式で持ち上げた。ずいぶん筋力と体力がついたようだ。

 カッサンドラも軽機関銃の二連射を覚え、及ばずながらも魔獣の足止めくらいはできるようになっていた。


 この時ばかりは一週間休憩とし、食っちゃ寝、起きてお風呂、と休暇を楽しみ、次の旅程に立ち向かう気力を養った。

 湿度の高い深い森を、魔獣を倒しながらたった三人で踏破したのだ。生きているのが不思議なくらいだった。トーゴの索敵、コンラートの対空砲とショットガン、カッサンドラの回復ポーション、どれが欠けてもここまでたどり着けなかっただろう。


 休憩最後の朝、翌日からの旅程について話し合いになった。

「トーゴ、この先どうなりそうかわかるか」

「ドローンで見る限り、川は森の中をうねるように流れていますね。湿地にならなければいいですけど。

 平野に出るにはまだ少々かかりそうですけど、どこかで河を離れることもあると思います」

「そうか。

 ドーラは植物を見ていて、何か参考になりそうなことに気が付かなかったか」

「そうね、木はかなり変わったと思うわ。山の向こうで見た木はほとんどないかな。新しい植生になったと思う。

 草も違うわね、麦のような草があって、どうやら実は食べられるみたいよ」

「そうか。食べられるといえば、このあたりの動物は食べられるみたいだぞ。鹿とかイノシシのような動物を見かけて、鹿の方はドリアテというらしい」

「鑑定できるほどじっとしていてくれたの?」

「ああ、草の中に立っていてな。賢いよ、動かない方が安全だと知っているようだった。

 動けば草が動いて居所がわかっちまうからな、捕食動物もいるんだろうよ」

「なるほど」

「つまり、肉が食えるってことだ、焚火で丸焼きといこうぜ、いいなぁ。保存食も食い飽きたぜ」


「コンラート、解体できるんですか?」

 長くつらい道のりのうちに、トーゴはすっかり家族扱いになっていて、名前呼びが普通になっていた。

「いや、やったことはねぇ。兵士をやってるときに猟師の息子がいて、流れ弾に当たったイノシシを解体するところを見ていてな。

 喉を切って、吊るして血抜きだよな、それから川に漬けて温度を下げる。解体はそれからだ」

「俺、できないですけど、頑張って手伝います」

「じゃあ、私は臭み抜きの草を探す。トーゴついてきてくれる?」

「ええ、いいですよ」

 こうして、その午後はドリアテ肉の食べ放題パーティーとなった。

 ドリアテを川に漬けて冷やしている間に、見張りをしていたトーゴが、大きな川魚を見事ナイフで仕留めたが、仕留めたトーゴ自身の方が驚いていた。ナイフ投げも練習の甲斐あってずいぶん上達したようだ。


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