12.最初の宿営地
渓流というには少し幅があるが、川というにはちょっと抵抗があるかなという、最大幅二mほどの浅い流れにたどり着き、立ち合いミーティングになった。
リーダーを決めていないために、指示を出す人がいない。全部話し合いで決める。時間はかかるものの、三人しかいないのだからこの方がいい。
「えーっと、この付近で三日ほど宿営ということでいいですか」
「おお、おれはそれでいいぞ」
「ねえ、大丈夫なの、なんか変な生き物ばっかりでしょ?
早く安全なところまで行く方がよくない?」
カッサンドラが不安と恐怖をぶつける。
トーゴはこの心理が一番よくないことを知っている。
「コンラートさんはどう思います?」
コンラートは戦場の経験があるだけに、トーゴが自分に言わせたいことはわかっている。
「ドーラ、鑑定したいんじゃないのか。森を出たらここの植物のことはわからなくなるぞ。薬効のあるものを集めてたよな、こんな森の奥だ、一回出たらもう来ないと俺は思うがなぁ、いいのか?」
さすがに娘をわかっている。
うーん、と唸ってカッサンドラは降参した。
「わかった。何日いてもいい。その代わりパパ、採集に付き合ってね」
「おお、いいとも」
コンラートとトーゴは、ニマリと笑わないように注意した。トーゴは警戒するふりで空を見上げている。さすがは妻帯者と元妻帯者、ともに娘持ち。
川べりは夜間に水を飲みに来る生き物がいそうなので、少し探してちょうどトラックの車高さほどの段差がある場所に設置した。これで防御の範囲が少し狭くなる。
今夜からは、トーゴもトラックの荷台で眠ることになった。防御範囲を広げるのは好ましくないからだ。
どうしようか、と話し合ったが、カッサンドラの恐怖心を考慮して、トラックの周りに障害物を置くことにした。トラックを押しつぶすほどの怪物じみた動物はいないと思われる。重力と生き物の筋力の問題と、ここが森であることからくる制限があるから、最大の大きさに限度があるだろう。だが、ここは異世界だ。よく知らないところでの予見は確実性がない。
無限収納を便利に使って川沿いの岩を運び、およそ半円形に設置して多少の妨害物とした。大した効果はなくとも安心感は持てる。大切なのはむしろ心理面だ。
簡単に防御範囲を作り出して、トーゴはバリアを試してみた。
目に見える半円の範囲があるので、楽にバリアが発動した。薄青く、半月型ドーム状にバリアが光る。
「何? なにこれ光ってる」
「俺の魔法で、バリアっていうんですよ。防御結界です、魔力でないと破れません。
いざとなったら発動するので」
「おお、トーゴ、俺はお前が一緒に飛ばされてきて、本当に良かったと思うぜ」
「うん、うん」
「いえいえ、あまり長時間は無理ですよ、魔力がなくなっちゃうんで。
カッサンドラさん、スキルで作れるようなら。魔力回復剤作ってください」
「う、うん、リストにあったかな?調べてみるよ」
「よろしくお願いします」
疲れてしまった三人は、夕食を食べると、荷物室に三台並べた簡易ベッドであっという間に眠りに落ちた。
夜中に「どん」、という音がした。何かがトラックのルーフに飛び降りたのだが、三人とも全然気が付かなかった。この世界にかなり慣れたのだろう。