11.森を進む
四日目の朝が来た。
お互いに服装を確認し、西に向かってゆっくりと歩きだす。フォーメーションは、先頭がコンラート、後ろがカッサンドラとトーゴのトライアングルだ。
横に並んで歩く広さが取れないときは、トーゴ、コンラート、カッサンドラとなる。索敵と先制攻撃が死命を決するからだ。
コンラートは、歩いている間は珍しい草や木を見ても絶対に立ち止まって鑑定しないように何度もカッサンドラに言い聞かせていた。
「いいな、ドーラ、野営地に着いたらゆっくり鑑定しろ、俺がどこへでもついて行ってやるから、そこまで我慢するんだ」
トーゴは、索敵が忙しくて、カッサンドラに目を配ることはできないだろう。
「一回でも鑑定してみやがれ、俺のベルトとお前のをザイルで繋いでやるからな、立ち止まったら死ぬと思え。お前がはぐれて探しに行くなんて面倒掛けたら、ぶん殴る」
「はい、パパ、気を付けます」
「絶対だぞ、チーム全滅の引き金になるなよ、俺の背中だけを見てついて来い」
オレノセナカダケミテツイテコイ、ちょっとかっこいいかもしれない、とトーゴは思ったのだった。
コンラートはトーゴがドローンを操って作ったマップを確認し、左前腕に着けたコンパスをちらりと見ると、まず西へと進んでいく。左後ろにトーゴ、右後ろにカッサンドラだ。
森の中は「ギャオーン」「ピチピチピチ」「キーリキーリキリ」などという、謎の音で満ちていた。
「ねえ、トーゴ、ごめんなさい、集中してるときに話しかけて。
あの、凄い声、怖いんだけど大丈夫なの?」
「あ、はい、ほとんどは植物が出している威嚇音みたいですから、近づかなければ問題ないです」
「植物?」
「ええ」
「おい、ドーラ、話しかけるな、トーゴの気が散る。敵地を行軍中に声を出すのは、仲間を殺す愚か者だ」
「はい、そうですね、ごめんなさい」
不安そうにあたりを見回すが、気を取り直して父親の背中を見てできるだけ落ち着いて歩くように頑張ってみる。
「前方、何か来ます。鑑定ではアルナス・ゴイトとなっています。
ハマーを出します、ちょっとどいて」
トーゴが飛び出して、木々の間に隙間を見つけてハマーを収納から出した。
「カッサンドラさん、中に入って。
コンラートさん、上にあがります。
用心のためにできるだけ十m以内に近づけないようにしましょう。
あまり無駄玉を撃たないよう、できるだけ少ない弾数で仕留めてください。
今のところ五頭です」
ハマーを見つけた魔獣は、用心深く取り囲むように展開した。
「取り囲んできました。俺が後ろをやります、前を頼みます」
「おう」
ハマーの上で背中合わせになったコンラートとトーゴは、現代兵器の性能に助けられてあっさりと最初の敵を片付けた。コンラートは3頭、どれも一撃で頭を撃ち抜いている。トーゴの方は、とりあえずどこかに当たれば御の字、とか当てることを優先し、足を鈍らせてからなんとか急所に入れていた。
「はぁー」
心拍と血圧が一気に上がり、トーゴは眩暈がした。
「おう、大丈夫か」
「はあ、すいません、生き物に向けて撃ったのって初めてで」
「おお、そうか、最初が人間じゃなくてよかったじゃないか。
俺は吐いたぞ」
「はい、どうも」
おっしゃる通りですね、と、吐きそうになりながら、とにかく前に進むしかない。
ハマーを収納するためにカッサンドラに声をかけて外に出した。
魔獣アルナス・ゴイトは、地球上の動物なら狼に似ていた。
トーゴは手早く五頭を収納に納めた。
西の川までの十キロほどを五時間以上かけて踏破した。
出会ったのは、アルナス・ゴイト、アルマジロのようなトッテンという魔獣、ケイパという名の巨大な飛べない鳥が二羽、四本足じゃないよね、六本あるよね、とショックを受けた直立するワニのようなキットランなどだ。コンラートとトーゴが銃撃で倒し、トーゴはすべての死骸を次元収納に回収してしまった。
「魔獣なら魔石を持っているかもしれないし、街があれば素材として売れる部位もあると思うんですけど。とりあえずわかんないので、全部持っていきます」
「おおそうかよ、頼んだぞ」
細かいことはトーゴに任せると決めてしまったらしく、コンラートは全方位を警戒して、倒すことに集中していた。
嬉々として倒した魔獣を収納して回るトーゴと、手当たり次第に鑑定したくてたまらないのをぐっとこらえているカッサンドラを保護者の目で見守る。
俺がしっかりしないと全員死ぬ、というコンラートの判断は実に的確だった。