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前編

 私たちの出会いはおよそ二年前。都内の大学に進学することで住み慣れた、けれども大変気を遣う田舎から抜け出し、念願の気兼ねない一人暮らしを始めた大学一年目のことだった。

 わたし、盛岡(もりおか)二葉(ふたば)は舞い散る桜と浮き足だった活気に満ちたキャンパスのメインストリートで三回生だった湯浅(ゆあさ)(れん)と出会った。


「ちょっと待って。アンタ、ダサすぎでしょ」


「はい?」


 突如目の前に現れたイケメン、いや、そんな陳腐な言葉じゃ表せない。

 長めの黒髪からのぞく涼しげな目元。その目尻はほんのりと春色に色づいて艶かしい。

 容赦ない言葉を放つ薄い唇に添えられたほくろによって足された色気がさらに人目を集めている。

 全ての人の視線を一身に浴びる、ただただ美しい人。


 もうね、私は田舎では絶対にお見かけ出来ないお美しいオーラに圧倒されたよ。

 失礼な事を言われたにも関わらず、あんぐりと口を開くだけの私を蓮ちゃんはジロジロと観察してこう言った。


「なに間抜けヅラしてんのよ」


 衝撃第二弾。姿形は美形男性なのに言葉遣いと仕草は女性的という、なんと目の前の美しい人はオネエだった。


「……すみません。いきなりディスられてびっくりしちゃって」


「だって本当のことでしょ。アンタここがどこかわかってる? 都内よ? しかも大学生なのよ? 中学生や高校生よりも自由にオシャレできる、けれども女性にとって限りある時間なのよ。それでその格好はないわよ」


 初対面でいきなり『ない』と言われた。

 今思えば随分とひどいんだけど、これは仕方がない。

 なぜなら、当時の私の服装は着古したTシャツにジーパン、スニーカー。さらにはノーメイク眼鏡のポニーテールとおおよそ都内の女子大生とは思えない出で立ちだった。中学生、いや、オシャレ小学生にも負けていた気がする。

 そんな私にズイッと顔を近づけてくる蓮ちゃん。


 ——やめてくれ、羞恥の汗で毛穴が開くじゃないか。


 メガネを奪われさらによく観察されたことで、嫌な汗がダラダラ流れる。

 挙動不審になる私に構わず、蓮ちゃんは一人で納得して話を進めた。


「素材は悪くないわね。ちょっとこっち来なさい」


「うぇ⁉︎ やだ! 人攫い⁉︎」


「失礼ね。ただのお節介よ」


 大きな手で掴まれて問答無用でグイグイと引っ張られる私。掴まれた腕は痛くはないけど、振り解けない絶妙な力加減に「その優しさはいらない」と心底思ったよ。


「お節介⁉︎ あの、私お金なくて! ついでにセンスもなくて! あとガサツなんですけども!」


「それは見たら分かるわよ」


「つまりなんだ、お節介してもらっても対価払えません! 今は所持金1,276円と健康な体しかありませんので!」


「あら、それがあれば十分じゃない。健康は宝よ〜」


「いや、そうだけど! ちょ、待って!」


 思えばあの時、人攫いよろしく連れ去られたんだけど、結果として連れて行かれて良かったと思っている。


「いいからアタシに任せなさい」


 自信に満ちた顔があまりにも眩しくて。

 有無を言わさない行動力が羨ましくて。

 誰もが圧倒されてしまう存在感に目が離せなくて。


 田舎では絶対にお目にかかれないタイプの人だな、なんて思いながらも願ってしまった。


 ——私も、この人みたいになりたい。


「はい! オネエ様!」


 元気よく答えたこの瞬間から、私は蓮ちゃんに弟子入りした。

 そこからはダイエット、スキンケア、メイク、ファッションと女子力アップのための内面磨き。

 ええ、ええ。徹底的に扱かれましたとも。

 奨学金バイト苦学生ぶりを哀れんだのか、料理教室と称してご飯を食べさせてくれた時なんか女神だと思ったよね。指導(しごき)は鬼かと思うほど厳しかったけど。


 そうしてオネエ様の元で腕を磨いて現在。

 髪の毛は明るい茶色に染めてインナーカラーも入れてみたり。

 眼鏡をコンタクトにしたら顔の印象がだいぶ変わってお化粧を楽しむようになれたり。

 今や見た目はどこにでもいる料理できる系女子大生になれました! 蓮ちゃん様々です!


 だが、しかし。私は今とてもモヤモヤしている。

 そのモヤモヤを押し流すようにゴクッゴクッ、と喉を鳴らして冷たいビールを一気に迎え入れた。

 一杯目からのまさかの勢いに対面に座る蓮ちゃんがきっと目を丸くしていることだろうが知ったこっちゃない。

 天井を仰ぎ、最後の一滴まで飲み干して、グラスを叩きつけるように置くと同時に私は言葉を吐き出した。


「なぁにが『今のお前なら付き合ってやってもいいぜ。俺と付き合えるなんて嬉しいだろ?』だ! アンタの為に努力なんかしてないってーの! 調子に乗んな!」


 私が腹から出た声を出したものだから近くで聞かされた蓮ちゃんは顰めっ面をした。


 ——しかしなんだ。美人は顔を顰めても美人だな。


 もちろん蓮ちゃんは一切悪くない。なんなら日曜日の夜に攫うように居酒屋に連れてきた私の方が悪い。


「ちょっと、声大きい。アタシは帰りは明日だって聞いてたんだけど? それがいきなり帰ってきて呼び出しとか……」


「ごめん、ごめん」


「かなり急いで支度してきてあげたんだから感謝なさいよ」


「うん、ありがとー」


「まぁ、なんて心のこもってない……あら店員さん、ありがとう」


 お小言を貰っていると料理を運ばれてきた。蓮ちゃんは店員さんに感謝の言葉と共にウインクを投げかけたのだが、店員さんは反応に困りあたふたとするばかり。


 ——分かる、分かるよ。


 急いで支度したと言うから今日は男装だけど、女装も女神かと拝みたくなるほどに美しいから是非見てほしい。店員さんに念を送っておこう。


 挨拶がわりにウインクを飛ばしはするが誰彼構わず口説いたりはしない。お説教は垂れるが偉ぶらない。見え隠れする気遣いが嬉しくて私の顔はだらしなく緩む。


「やっぱり蓮ちゃんの方が優しくてカッコよくて綺麗で素敵!」


「……当たり前でしょ」


 脈絡もなく飛び出した賛辞に一瞬キョトンとされたが、そのあと当然のように言い放つ蓮ちゃんには勝ち気な笑顔がよく似合う。


 上品に口元に運ばれるグラス、鮮やかなカクテルが少し唇を濡らす様は艶やかさがあるのに、上下した喉仏が妙に雄々しい。

 次いで美しい箸捌きでだし巻き卵を食す。育ちが出るって言うか、何気にお箸の持ち方って重要だよね。

 なんて、ぼんやりと眺めていると当然のように対面から「それで?」と質問が飛んできた。


「急に呼び出すくらいなんだから何かあったんでしょ?」


 分かりやすい私の行動はどうも蓮ちゃんに読まれてるようで。

 けれども、聞いてあげるから話してみなさいと言う空気に甘えることにした。


「今日さ、成人式だったのね」


「知ってる。写真送ってくれたじゃない」


「いっぱい撮ったから後で見てね! でさ、懐かしい友達とかにも会うじゃん?」


「そうね。まぁ中には会いたくない奴もいるでしょうけどね」


「それ!」


 蓮ちゃんの言葉についお箸を向けたら、行儀が悪いとばかりに手を(はた)かれた。ごめんなさい。

 私は唐揚げをつまみながら今日あった事を愚痴る。


「どこにでもいると思うんだけどさ。やたら目立ちたがり屋で『自分が楽しい=みんな楽しい』って思い込んで調子乗って他人が嫌がることも遊び感覚でやっちゃう人」


「あーね。いるわね」


「例にも漏れず私の学年にもいたんだけどね。ほら、私って蓮ちゃんに会う前は見た目も服も酷かったでしょ? まぁ、中学でも高校でもそんな感じだったんだけど……」


 ああ、思い出してもムカムカしてきた。

 私のへの字になった口に笑ったのか、それとも出会った時を思い出して笑ったのか。蓮ちゃんが穏やかに尋ねてくれた。


「何か言われたの?」


「んー。『ナニナニ大学デビュー? いるよなー都内に行くからって調子乗って変わろうと頑張っちゃう奴! 女って化粧で変われるから楽だよなー。つーかもはや詐欺だよな! でも、その見た目なら俺オッケーだわ! 一晩くらい付き合ってやんよ! 嬉しいだろ?』」


 似てないモノマネを披露したら、揚げ出し豆腐が宙で止まった。そりゃそうだよね。

 一瞬固まった後、蓮ちゃんは唸りを上げた。


「はぁ?」


「ほんと『はぁ?』だよね。相手したくないから無視して友達と喋ってたんだけど、しつこい上に馴れ馴れしくてさ」


「……へぇ。どんな風に?」


「『おいおいー、そんな無視すんなよー。都内に行ってるってだけでそんな態度は良くないと思うぜー? いーじゃん、一緒に楽しもうぜ?』なんて肩触りながら言うんだよ。ありえないし、気持ち悪いし、友達との久々の再会に水さされてほんと最悪……ヒィィ!」


 ペッペッと肩を払ってから蓮ちゃんの方を見ると、何と無表情。美人の無表情、怖い。思わず声が出ちゃった。

 私のあまりのビビりように蓮ちゃんはすぐに取り繕って雰囲気を柔らかくしてくれた。


「あら、ごめんなさい。ねぇ、そいつの名前は?」


「え? 名前?」


「そ。教えてくれない?」


「…………一応聞くけど何のために?」


 無表情からのこの流れ。悪い予感しかしない。

 蓮ちゃんは警戒心を解くようににっこりと笑って見せてくれたが、なんだろう。綺麗な笑みに悪寒が走った。


「ちょっと社会的に消してくるだけよ」


「やめーい! そんなことしなくていいよ!」


「……クソ野郎を庇うの?」


「違うよ! てか、もうやりかえしたから!」


 普段より低くなった声に怒りを感じて慌ててそう言い切ると、今度は目が丸くなった。なんだよ、そんな顔も可愛いな。


「ベタベタ触ろうとしてくるし、口開けは誰かを下げることしか言わないし。そんな人と一晩どころか一瞬たりとも付き合いたくない! てか、同じ空間に居たくない!」


「それはそうよね」


「だからそう言ったら今度は逆ギレしちゃってさ。『ダサ女が調子乗ってんなよな! どうせジジイに金もらって生活してんだろ! 汚ぇんだよ!』とかなんとか——バキッ!——……ばき?」


 再び似てないモノマネをしてたら必要のない効果音が入ってきた。恐る恐る音源の方に目を向けたら、なんと言うことでしょう! 蓮ちゃんのお箸が真っ二つ!


「アィイヤー! 蓮ちゃん、それ離して! 手、手は大丈夫⁉︎」


「……大丈夫よ。ごめんなさいね。つい怒りが外に出てきちゃった。二葉はそんな安い女じゃないって言うのに」


 申し訳なさそうに眉を下げる蓮ちゃんだが、むしろ悪いのは私。いや、クソ野郎だ!


「いやいや、こっちこそごめんね。胸糞悪い話聞かせちゃったね。でも、ちゃんとオチまであるから聞いてほしい!」


「なぁに? クソ野郎のチンコでももいだ?」


「もいでない! てか、綺麗な顔でチンコ言うな!」


「アンタも言っちゃダメよ。しかも声大きいし」


 蓮ちゃんは残念なモノを見るような目を私に向ける。


 ——先に言ったのは蓮ちゃんなのに……解せぬ。


 でもここでそれをツッコむとまたお小言が始まる。だからソコには触れず話を続けることにした。


「もうさ、とにかく自分が優位に立たなきゃ気が済まなかったんだろうけど……でも親離れしないで遊び歩いてるだけの人に私の変化を否定される理由が分かんないよね」


「親離れしないでって、え? 学生じゃなくてニートなの?」


「ニート。留年して大学辞めて遊び歩いてるって自分で言ってたもん。態度はでかいけどやってることが小さすぎて……」


「どうしようもないクズね」


「わーお、ばっさりー!」


 清々しいまでの切り口につい笑ってしまった。

 息子があんなに気ままでご両親はさぞ大変な思いをされているだろうが、遅くにできた一人息子を甘やかしたツケだと私は思う。

 そして、本人に関してもこう言われるのも自業自得だと。


「『アンタが一番のロクデナシなのに、私に偉そうに言わないで』って言ったら周りの人が笑い出しちゃって。そしたら恥をかかされたとでも思ったんだろうね。殴りかかってきたの」


「そう……ほんと男の風上にも置けないわね。怖かったでしょう。怪我はしてない?」


 心配そうな蓮ちゃんになんだがすごく申し訳なくなった。だから、私は努めて明るくこう言った。


「してないよー! でも、私もしつこくされて腹が立ってたから、蓮ちゃん直伝の護身術で投げ飛ばしちゃった!」


「やるじゃない! 教えた甲斐があるわ〜!」


 イェーイ! とハイタッチする私たち。

 投げ飛ばしたと言っても相手が向かってくる力を利用して転がしただけ。私は殴ったりはしてないのでご安心を。


「そんなわけでね、流石に成人式でこれ以上騒ぎになるのも嫌で同窓会には出ないでそのまま帰ってきたの。ニュースになったらもっと嫌だしねー。まぁ、投げ飛ばしちゃった後だけど!」


 カラカラと笑っていられるのは蓮ちゃんが話を聞いてくれたから。胸にあったモヤモヤがすっかりなくなってビールが美味しい!

 だと言うのに、世の中は非情だ。


「あら。もう遅いみたいよ」


「え?」


「ほら。metubeにアップされてる」


 喋り疲れた喉を潤すようにビールを呑んでいると、蓮ちゃんの口から告げられた悲報。グラスを口につけたままの私に蓮ちゃんはスマホの画面を見せてくれた。


『成人式で久々に会った同級生が綺麗になって男を投げ飛ばした件』


「ゴホッ!」


 噎せたよね。しばらく咳き込んで痛んだ喉にビールで冷やしを与えてからグラスを机に叩きつけた。


「誰だよ、アップしたヤツ!」


「同級生って書いてるあたり犯人(ホシ)は男かしら。全く、動画撮ってないで助けなさいよね」


「その通りだよぉぉぉ!」


 気分はまさに天国から地獄。世界に発信とかやめてよ。アップしたヤツ許すまじ! と怒りを沸だがらせる私とは反対に、蓮ちゃんは面白そうに動画のサムネを見ている。


「へぇ、ゴミは袴だったのね」


「つ、ついに代名詞がゴミに……」


 これは毒舌なんてもんじゃない。まだクソ野郎の方が人間として扱われてた気がするな。

 しかし、そんな私の考えは意に介さず、蓮ちゃんは画面に向かって叫びだした。


「って、何よこれ……なんで羽織が虹色なの⁉︎ それでいて着物はハート柄⁉︎ 柄も色も主張激しすぎてバランス崩壊してるじゃない!」


「とにかく目立ちたかったんだろうねー。オーダーメイドって言ってたよ」


「このゴミは和装を馬鹿にしてんの⁉︎」


「いや、実際バカなんだよ」


 本人は至極満足そうに肩で風を切ってたけどね。奇抜すぎて遠巻きにされてたって言うのが事実ですが。

 ところが画面を見ている蓮ちゃんが怒り心頭だ。


「ない……ないわ! 折角の晴れ着なのになんでこうなるのよ! 親も止めなさいよ! センスが悪いなんてもんじゃない! 趣味が悪いわ!」


「まぁ、そういう意味では目立ってたよね。てか、こんなのより蓮ちゃんの方が和服似合いそう! ちょっと見てみたいかも!」


「あら、いいわよ。その時は二人で着ましょうね」


 私の提案ににっこりと笑って乗ってくれた。やったね!

 また一つ楽しみが出来た、とほくほくしていると蓮ちゃんのスマホから音声が流れ始めた。


『図星刺されたからってすぐ暴力に逃げるな。アンタ、ほんとダサいね』


「ちょ、やめて! なんで再生してんの⁉︎」


「せっかくだから見とくわ」


「見なくていいから!」


 手を伸ばそうにもサッと避けられて掠りもしない。しかも当然のように鎮座するテーブルが邪魔ときた。

 ギャーギャー騒ぐ私を無視して蓮ちゃんは画面を注視する。


『いい? 私が変わったのは都内に出たからじゃない。憧れて近づきたいと思えるほどすごく素敵なオネエ様と出会ったから』


『お姉様⁉︎』


『その人はね、自分を高める努力を惜しまない人。自分の生き方に責任を持ってる人。自由に伴う責任から逃げて昔と同じ場所で燻って大声で駄々こねてるだけのアンタとは雲泥の差の人よ!』 


 一語一句、あの時と違えずに流される私の主張。


 ——こんなこと言ったっけ⁉︎ いや言ったんだよね! これだから動画ってヤツは!


 なんて気恥ずかしさから見当違いな怒りを覚える私の向かいで、蓮ちゃんはキラキラと目を輝かせていた。


「やだー、いつの間にこんな漢前になったのよ! コメント欄でも称賛されてるわよ!」


「友達にもそう言われたけど……ダメだ! 本人に聞かれるとすごく恥ずかしい!」


 居た堪れなくて突っ伏して顔を隠すとクスクスと笑い声が聞こえた。


「もぉー。こんなに熱烈なこと言われちゃって、恥ずかしいのはこっちよー? 惚れちゃったらどうするのよ」


「そしたら相思相愛だね! 私も蓮ちゃん好きだし!」


 それは可愛いものが好きと言うような、同姓の友達に言うような気安さで、わたしは他愛ないやり取りとして笑って返した。

 だけど蓮ちゃんの言葉にどうしてだろう。


「あら、ほんとね」


 いつも通りの綺麗な笑顔なのに。

 いつも通りの落ち着いた声なのに。

 肌が粟立ってしょうがない。


 ——なんだろう。一気飲みしたせいかな?


 腕を摩るが寒いわけじゃない。落ち着かない私と反対に蓮ちゃんは微笑みを湛えたままで。

 なんだか居心地が悪くて、私は必死に話題を探した。


「えっと……あ、そうだ! 友達にも綺麗になったねって言われてお手入れの方法とか聞かれたんだけど、教えても大丈夫?」


「教えてあげたらいいじゃない。別にアタシの許可はいらないでしょ」


「えー、だって私がこうなったのは全部蓮ちゃんのお陰だもん! 弟子が師匠の技を勝手に人に教えるのはダメじゃない?」


「まったく、アンタって子は……」


 ニッと笑いながら言ったら頭を撫でられた。

 その心地よさに撫でられる猫よろしく蕩けていると、蓮ちゃんが思い出したように声を上げた。


「あ、そうだ。アンタが一気飲みで始めるからすっかり忘れてたわ」


「ん? なにを?」


 離れた手を未練がましく目で追うと、その手はグラスを持った。前に出されたグラスの奥に浮かぶのは優しい笑み。


「二葉、成人おめでとう」


 その言葉が本当に嬉しくて。


「ありがとう!」


 私たちは改めてグラスを鳴らした。

 そこからは二人ともご機嫌で杯を進めて、いやこれでもかと言うくらいに進みすぎたわけでして————


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