鬼無里涼との出会い『悪魔と天使』
彼女……いや、彼か? 謎が渦巻くネット事情。
今回の登場人物、鬼無里涼は性別不明である。
いや正確には知っているのだが、名前で判別がしにくいのだろう。ネット界隈で鬼無里涼は男女どちらか謎となっている。
笛吹きとして各地を飛び回る鬼無里涼は、雄太朗が勝手に師匠と仰ぐ人物の1人だ。
鬼無里涼は、卓越された描写を書くことで知られている。鬼無里涼が地の文を描けば、そのリアリティーと臨場感に、数多の者が驚くだろう。
雄太朗に関してはその作品を手に取った時、あまりのレベルの違いに理解が追いつかなかったほどだ。
それもそのはず。鬼無里涼は趣味で書く小説なのに、書きたい風景に似た場所まで行って、リアルを取材しないと気が済まないレベルなのだ。
小説を書くまで、小説を全く読んだことがなかった雄太朗。鬼無里涼と出会うまで、雄太朗の文章は完全なる自己流であった。
決して自己流であることが悪いわけではないが、物事には全て基本というものが存在する。
ある日、鬼無里涼が自分の作品を校閲しようかといってくれた。
それまでの雄太朗は、自分の作品に誤字脱字などあるか。なんど推敲したと思っている。と自信満々であった。
しかし、結果は惨敗。
出るわ出るわ誤字脱字のオンパレード。
それだけじゃなく、二重表現や漢字の細かな間違い。時には方言まで指摘された。
雄太朗の推敲とはなんだったのか。
だがそれも仕方なかったりする。
作者はどうしても書けているといった概念を持ったまま、自分の作品を読んでしまう。細かな間違いに気づけないのは、何も雄太朗だけではないのだ。
こういった時、ネットは偉大な力を発揮してくれる。
自分1人では解決できない問題でも、無限の人々が集うネット環境では、いとも簡単に解決してくれるのだ。
しかし、数多の人々が集うからこそ最大限に注意しなければいけない。
そこにはやはり悪魔が巣食う。
雄太朗は、一度だけとあるサイトで日、週、月総合1位に輝いたことがある。
そんな時、ネットから向けられた牙は雄太朗に大きなダメージを与えた。
心が折れそうだった。
もうやめようと思った。
悪魔に雄太朗は食われかけていた。
そんな時、掲示板の皆が救ってくれた。
鬼無里涼は熱い感情を世界に放ってくれた。
ネットの悪魔に殺され、ネットの天使に生かされる。
この異世界は、現実よりも辛く、現実よりも温かいものであった。
ありがとう、みんな。
そんな出来事を雄太朗は染々と思い出す。
そんな雄太朗と同じ時を歩く鬼無里涼は、今日もどこかで笛を吹いているのだろう。