突然の旅立ち
「宅配便です。」
「何か注文でもしたのかしら?」
と、なんの躊躇いも無く玄関をあけた。
僕達は、ユリファの忠告があったので念の為、すぐ部屋へ逃げれる様に階段の隅で様子を見ていた。
すると、宅配便の男はいきなり家へ上がってきたのだ。
後ろには他に3人くらい来ていた。
星崎さんは戸惑い、
「ちょっと、いきなりなんですか?」
と宅配便の男の腕を掴んで入れない様にしたが、宅配便の男はお構いなしに星崎さんに掴まれた手を払い、ズカズカと入ってくる。
「おい、オルラルドは何処にいる?」
宅配便の男達は大きな声を出して僕らを探し始めた。
僕らは見つからない様に直ぐに階段を駆け上がった。
【リツ、どうしよう。僕らの事探してるよぅ。】
【とりあえず逃げるぞ。】
部屋に逃げ込んだけど、見つかるのも時間の問題だ。するとリツが窓を開けた。
【おい、リツ、ここは3階だぞ!】
【亜弥登、忘れたのか?オレ達はオルラルドだぞ!ユリファ!】
リツはユリファを呼ぶと、ベランダから柵を蔦って外へ出てしまった。
どうしよう。
僕が躊躇っていると、
【お前が見つかったらヤバいんだぞ!早くこっちに来い。】
と、リツが急かしてくる。
【わかってる!わかってるけど、こんな高い所から飛び降りたこと無いんだから、怖いに決まってるだろ!】
「おい、居るのはわかってるんだ!何処だ!」
ドアの向こうから宅配便の男の声が近づいてくる。
ドンドンドンドン
足音がドンドンと響いてきた。
【星崎さん、大丈夫かなぁ。】
【今は自分の心配しろ!ほら、急げ!人間の姿のオレが出来るんだから、オルラルドの姿のお前なら大丈夫だ!】
僕は意を決してベランダから柵を蔦って飛び越えた。
「うわぁ、僕、飛んでる!」
軽々と飛び越えた。
リツとユリファが待っている。
【楽勝だっただろ!】
【うん!】
【私について来て!とりあえずここに隠れましょう】
【さっきの宅配便の男達が出てきたら後をつけるぞ。何か手掛かりが見つかるかもしれないからな】
あの人がユリファさんかぁ。
薄いピンクがかった綺麗な長い髪。
肌の色は白くて全体的に引き締まっている。
歳は僕より少し年上のお姉さんって感じだ。
おっといけない。見惚れてる場合じゃないな。
【ごめん、ちょっとだけ待ってて】
【おい、何処行くんだ。】
【直ぐ戻るから!】
僕は家の反対側へ周り病院の方へ向かった。
周りの人に見られない様に木の陰に隠れながら。
そして患者さんのご家族と話している母さんを見つけた。
母さん、暫く帰れないかもしれないけど、絶対帰ってくるから!
僕は心の中でそう伝えて、リツとユリファの元へ戻った。
【亜弥登、絶対大丈夫だから!】
【うん、行こう!】
そうして、僕達は旅立った。
私が患者さんのご家族とお話をしている時だった。
ふと、窓の外に目を向けると、木の上に何か動くモノが見えた。
アレは、亜弥登?…いや、あんな高い木に亜弥登がいるはずない。
私は瞬きを何回かして、もう一度よく見てみた。
もしかして、まさかリツ?
なぜ外にリツがいるのかしら?
その表情は、何か寂しそうな、でも、優しい表情。
しかし私がもう一度瞬きをした瞬間、姿がなくなっていた。
気のせいだったかしら。
すると電話が鳴り響いた。
受付の子が電話に出て、直ぐに私を呼んだ。
「柊先生!」
「どうしたの?」
「星崎さんからです!急いで代わってほしいって言っています」
「わかったわ」
私は急いで電話を代わった。何か胸騒ぎがする。
「もしもし、柊です。どうしたの?」
「亜弥登くんとリツが!!」
「落ち着いて、ゆっくり話してちょうだい」
話の内容はこうだ。
知らない男達がいきなり家へ上がり込んできて、オルラルドを探していたと。
すると、リツと亜弥登がいなくなっていた。
との事。
「今そっちにいくわ!」
幸い緊急な患者はいなかった為、尋を呼んで、病院は他の看護師達に任せ、家へ向かった。
家へ着くと、家中が荒らされていた。
「一体何があったんだ!」
尋は狼狽えている。私も冷や汗が止まらない。
「宅配便に装った男と他にも3人ぐらいの男達がいきなり家に入ってきて、リツを探しまわって…。」
「2人はどうしたんだ?」
それが、何処にもいないんです!」
「連れて行かれたのか?」
「いえ、男達にも見つけられなかったみたいで、帰って行きました。」
「じゃあ、2人で逃げたのね。大丈夫。2人ならちゃんと逃げ切れるわ。」
「そうだな」
尋と柊は、2人の無事を祈った。