リツの記憶
次の日。
僕(リツの身体)は父さん達が診察してくれた。
リツ(僕の身体)は父さんの知り合いのおさ医者がきて診察していた。
幸い、どちらの身体も多少の擦り傷や打撲などはあったものの、特に大きな傷や命に別状はない。
車に轢かれそうになった時、リツが僕に体当たりしたおかげで2人ともぶつかった時と転んだ時にできたケガだけで済んでいる。
しかも倒れた地面が土だったので、草などがクッションになって軽い怪我で済んだ。
それから2、3日程で元気になり、リツは学校に行くことになった。
「おい、学校大丈夫かぁ?」
僕は母さんと父さんにバレない様にこっそりリツに耳打ちした。
「うん、大丈夫だよ!亜弥登が覚えた事は身体が覚えてるし、記憶もちゃんとあるからな。それに、なんかあったら呼びかけるから!」
呼びかける?
あ、そうか、思念とやらで呼びかけると心の中で喋った声が聞こえるんだっけ。
【そうだぞ。だから耳打ちなんて必要ないよ。】
そう言って、リツは思念伝達を使って話しかけてきた。
【そ、そうだったな。って、僕の記憶もわかっちゃうの?】
【うん。じゃ、学校行ってくるから。】
【えっ、う、うん。わかった。】
「母さん、父さん行ってきます。」
「いってらっしゃい!」
「気を付けるんだぞ」
母さん、父さんってちゃんと言えるじゃないか。
僕と話す時は呼び捨てだからヒヤヒヤするんだよなぁ。
そんな事より聞きたいことが山ほどあるので、僕はリツが学校に行った後も、思念伝達でリツに呼びかけた。
【おい、リツ聞こえるか?】
【聞こえてるよ。】
【さっきの続きなんだけど】
【記憶の事か?】
【う、うん】
【亜弥登も俺の脳にアクセスすると記憶が見えてくるはずだからやってみて。俺の記憶は殆どが亜弥登と過ごした記憶しかないんだけど、亜弥登に会う前の記憶にアクセスしてほしんだ】
【僕と会う前の記憶?】
【そう。後、尋と柊が何か隠してるみたいだったから探ってほしんだ】
【隠してる?】
【そうだ。オレたちを見た時に尋が言ったんだ。「あの噂は本当だったのか」って。それに…いや、とりあえず宜しくな】
【えっ、あ、うん。確かにそんなことを言っていたような】
【だからその真相を探ってほしい】
【わ、わかった】
それから僕は、リツに言われた通り、僕に会う前の記憶にアクセスしてみることにした。
よくわからないけど、とりあえず頭に集中してみるか…。
うーん…
頭が痛くなってきた。
力入れすぎたかな。
一旦落ち着こう。
ふぅー。
ん?なんか見えてきたぞ。
これは、人間の僕だ!わぁー。
リフもいる!!
懐かしいな。
これはリツの記憶だからリツ目線なんだ。
なんか面白いなぁ。
って、そうじゃないだろ!僕!もっと小さい頃の記憶だ。
僕は更に集中した。
ん?此処はリフが見せてくれた景色にあったな。
リツは檻の中にいるのか。
あと、リツの兄弟かな。
リフもいるみたいだ。
リフはリツと兄弟を大事そうに抱えているみたいだった。
優しいリフの顔。
あ、リフが見せてくれた映像にもいた、同じ服を着た人間だ。
やっぱり鞭だ。鞭を持ってる。
バチン!!
「ほら、ちゃんと立て!」
バチン!!
鎖に繋がれているオルラルドを叩いている。
ひ、酷い…酷すぎる…
一体何のためにこんな事をするんだ。
すると、スーツを着た人が歩いてきた。
何か偉そうな感じだな。
スーツ男は僕たちの檻の前に立った。
「おぉ、これは上等だ。この一匹はいい体付きをしているな。しかしこの一匹はダメだ。貧弱だ。ほらほらおかあさん。ちゃんと育ててくれないと困るんだ。しっかりしてくよな。」
そう言って鞭の先でリフの顎を持ち上げた。
「おい、やめろ!」
僕は鞭を振り払おうとした。でもこれは記憶だから、今僕は見てる事しか出来ないんだ。
悔しい…
僕が悔しがってる間に
「おい、こいつを抑えておけ。この一匹を連れて行くぞ。」
「はい。」
付き添いの奴3人が檻を開けてリフを抑え込んだ。
そして子供のオルラルド一匹を連れていく。
一体どこに連れて行くんだろう。
リツは残されたままだ。
リフの表情が苦しそうだ。
ダメだ。見てられない。
僕が目を瞑ろうとした瞬間
【ちゃんと見なきゃダメだ!】
リツの声が聞こえた。
わかってる。わかってるよ!
そしてスーツ男が外に出ていく瞬間、一斉にオルラルド達が暴れだした。
何が起こったんだ。
そして扉が閉まりそうになった瞬間、リフは思いっきり自分を抑えてた人間達を振り切り僕を咥えて走り出した。
「おい、逃がすな。早く追うんだ!」
しかし周りのオルラルド達は更に激しく暴れだす。
周りにいた人間達もそれを抑えるのに必死だ。
「何してる!早く捕まえろ!!」
周りの人間たちが銃を撃ってきた。
「急所は狙うなよ。」
しかし、そんな事はお構い無しに扉が閉まる前に外に出たリフは物凄い勢いで走っている。
周りの景色がどんどん変わっていく。
高い岩山も数メートルありそうな崖も一瞬の迷いなく走り抜ける。
しかしよく見るとリフは血だらけだった。銃の弾が当たったのか?
それでもリフは止まることなく何日も走り続けた。
そして僕たちが出会ったあの山道に倒れこんだ。
僕はその映像を見終わり、気がつくと涙がボロボロと零れ落ちていた。
母さんが言っていた。
「逃げてきたのかしら」 と。
やっぱり父さんと母さんは何か知っているのかもしれない。
早くリフの仲間を助けてあげたい。
午前中の診察が終わるのを見計らって、僕は父さんと母さんの休憩室に向かった。
「あらぁ、リツ!また遊びにきてくれたのねぇ。」
母さんだ。バレない様にリツに成りすますんだ。
「ギャー」
「あの時リツが飛び出していった時はどうしようかと思ったけど、亜弥登を助けてくれたんですのも。命の恩人だわ。」
そう言って僕をよしよししてくれた。
「でもなぜわかったんだろう。あの時亜弥登が危ないと。やはり野生の感なのか。動物は本当に感が鋭いんだな。」
と父さんが笑った。
「院長、会長がお見えになられています。」
父さんを呼びに看護師さんがドアをノックした。
「わかった。絶対リツを出さないように。」
と言って父さんは休憩室から出て行ってしまった。
僕は気になって父さんの後を追いかけようとしたけど、母さんが
「ダメよ。ここにいてね。」
と言って僕が出ない様に扉を閉めた。
会長さんは、動物保護協会の会長で、笑顔が優しくて暖かそうなおばあさんだ。
動物保護協会の会長さんなのに、オルラルドを保護している事は言っていない様だった。
なぜ秘密にしているのだろうか?
伝説の動物だからかな?
だから父さんと母さんは、リフとリツの事は誰にも言ってはいけないっていったのだろうか。
それとも見つかるといけない他の理由でもあるのかな?
もしかしたら、オルラルド達を酷い目に遭わせている人物を知っているのかも。
どっちにしても、探る必要があるかも知れない。
僕はリツに思念で伝えた。
そしたら、やはりリツも何か疑っている様だった。
「ただいまー」
リツが帰ってきた。
僕はなるべく自然にいつもリツが僕にしていた様に振る舞っていた。
リツも頑張って僕を演じている様だった。
「はぁー。疲れたー。」
その日の夜、僕らは自分の部屋(僕の部屋)で一息ついていた。
「リツ、学校大変だったでしょ?」
「えー、学校めっちゃ楽しいじゃん!」
「そうかなぁ。勉強ダルいし、僕あんまり友達いないから詰まらないよ。」
「オレ、友達とかよくわからんけど、みんな従順だし、良い奴らだ!」
従順?どう言う事?まぁ、いいや。
「あんまり目立つなよ。僕目立つの嫌いだから。」
「わかってる、わかってるって。明日も偵察宜しくな。」
「うん、わかってる。早くオルラルド達を助けたいもん。」
「亜弥登。」
「ん?」
「ありがとう。」
「うん。」
それに人間のご飯食べたい。
「なんか言ったか?」
「ううん。なんでもないよ。おやすみ」
「おやすみ、亜弥登」
そして僕達は眠りについた。