思念伝達
僕が小さい頃、寝る前にいつも母さんに読んでもらった物語があった。僕が大好きなお話だった。
確か―。
昔、オルラルドと言う生物がいました。
全身がオーロラの様に輝く毛に覆われていて、その瞳はエメラルドの様にキラキラと大きな瞳をしていました。
そして耳は大きく、ふさふさの尻尾を持ち、まるでネコの様なしなやかで品のある姿をしていました。
オルラルドは知能と運動能力が高く、人々と助け合い共に生活を送っていました。
そのおかげで、人々の生活は豊かになりました。
しかし、ある日突然貴族のお茶会で1人の貴族が言いました。
「オルラルドの毛をコートにしたらきっと暖かいのでは。オーロラ色の毛皮は美しく肌触りも素晴らしい」すると、「実は私もエメラルドの瞳が宝石にはならないだろうかと考えていた」
と別の貴族も言いました。
そしてまた別の貴族が
「高い知能を持つ脳を食べたら頭が良くなるのでは」
「筋肉が発達した肉はさぞかし美味しいに違いない」
などと貴族達はそれぞれ言いました。
それからオルラルドは沢山の狩人に狙われるようになってしまったのです。
人々はそれがどんなに悲しい事であっても、弱気者は力ある者には逆らえず目を瞑るしかありませんでした。でも、オルラルドを愛する勇気ある若者はオルラルドを守ろうとしました。
オルラルドもまた、その若者に助けを求めました。
するとその若者は突然大きな力を手に入れ、オルラルド達は自由になることができました。
オルラルドは今もきっと何処かで静かに暮らしている事でしょう。
「母さんこのワカモノ?凄いねー!ヒーローみたい!どうして強くなったの?」
「それはね、オルラルドが心から信頼したから、この若者は強くなれたんじゃないかしら」
「えーなんでぇ?」
「絆の力かしら」
「キズナってすごいねぇー」
「そうよ!だから亜弥登も誰かを裏切ったり、傷つけたりしてはダメよ」
「亜弥登ぉー!起きてー!」
んっ。あれ、僕は気を失ってた?それに父さんと母さんがいない。
「おーい、亜弥登ぉ!」
僕が僕を覗き込む。
あっ、そうだ!リツが僕で、僕がリツになってるんだった。
「どうなってるんだよ!」
「亜弥登が気を失う方のタイプでよかったよぉ。びっくりして大声出すタイプだったらどうしようかと思ったぁ」
「どういう事?」
「気づかない?だってほら、オレと入れ替わってるのにちゃんと会話できるだろ?尋と柊に聞かれたら大変だぞ!」
た、確かにー。
ってえっ、なんで?しかも父さん達を呼び捨てだし。
「今なんでー?」って思ったでしょ?
えっ。
「しかも呼び捨てだしって思ったでしょう?」
どういう事?心の声が聞こえるのか?
「そうだよ」
えっ、怖いんだけど。
「ママから聞いてないの?」
「何も聞いてないよってリフの事「ママ」って呼んでたのか。ウケる。」
「う、うるさいなぁ。そんな事より、なんでか教えてやろうか。」
「う、うん。」
「オレ達オルラルドは『思念伝達』が使えるんだ。それで普段は会話してるんだぜ」
「『思念伝達』?」
「そ。心でお話ができるんだ」
「す、すごい。けど全部聞かれるのはヤダなぁ」
「大丈夫。聞かれたくないことは「シャット」て思えば聞かれないよ。」
「そうなんだ。よかったぁ。」
「なんか聞かれたらまずいことでも想像してるのかよぉ。」
「い、いや、別に。ってことは人間の心の声もわかるの?」
「いや、オルラルド同士だけだよ。」
「え、でも俺たちは何でできるんだ?」
「そりゃ、だって、オレは元オルラルドだし、亜弥登は今オルラルドだからな」
「なんだそれ」
「で、本当の目的なんだけど」
「あ、うん」
「実は、オレ達オルラルドは「イーエデン」って所で暮らしてたみたいなんだ」
「え、あの幻の島?」
僕が知る「イーエデン」は幻の島と伝えられている。
誰も見たことがない、何処にあるか分からない島。
「さぁ、オレはまだ小さかったからよく知らないんだけど。ママが言ってた。でも、ある日外から来た人間に襲われたんだ」
「えっ。」
「ママが見せたと思うんだけど」
「えっ、あ、うん。夢でリフに会ったんだ。そして、助けてほしいって。でもイーエデンの場所も分からないのにどうやって?」
「それはオレにもよくわからない」
「なんだよ、ソレ」
「まぁ、今はとりあえず、お互いの身体に慣れておかなきゃだよ!」
「慣れておかなきゃだよ!じゃないよ!戻れるの?」
「うん。戻れるって」
「どうやって?」
「今はまだ教えない」
「おい!教えろよ」
「それはともかく、亜弥登にオレたちオルラルドを救ってほしんだ」
「どうやって?」
「それをこれから考えるんだろ」
「これから考えるってどうするんだよ」
「とにかく、亜弥登はバレない様に、オレになり済ますんだな!人間の言葉喋るなよ!」
「わかってるよ」
そんなこんなで、僕はリツに、リツは僕に入れ替わってしまった。