夜のこと
ある夜、一人ベッドに座っていたデスタンのもとへ、ミセがやって来た。
「なーにしてるの? デスタン?」
問いつつ、ミセはベッドに腰を下ろす。
つまり、彼のすぐ隣に座ったのだ。
「何もしていません」
「相変わらず冷たいのねぇ〜」
事情があってミセの家に住んでいるデスタンだが、最近は、何かと忙しいということもありミセの家に帰る日が減っている。だからこそ、デスタンに何としても絡みたいミセは、この機会を逃さない。
「お話しな〜い?」
今も昔も、ミセは、その気になれば積極的に行動するタイプである。一度やりたくなったらやらずにはいられない、自ら進まずにはいられない、それが彼女の性質だ。
「いえ」
「もぅ! 冷たいのね!」
言いながら、ミセは両腕をデスタンの片腕に絡める。デスタンは一瞬呆れたような顔をしたが、すぐに無表情に戻った。腕だけでは駄目と気づいたのか、ミセは今度は上半身を密着させる。が、ミセの行動が彼の表情を変えることはない。
「暑いのですが」
「最近あまり会えないんだものぉ〜仕方ないじゃないっ。たまには触れ合いたいのよぉ〜」
「はぁ……」
ミセは上半身を密着させる圧を強める。
「以前世話になった恩を忘れたわけではないですが、身体を密着させるのはいい加減にしてください。蒸れて気持ち悪いです」
冷めた視線を向けられるも、ミセは挫けない。
テンションを保ったまま言葉を返す。
「えぇー。ひーどーいー」
というのも、ミセがデスタンに冷たい態度で接されるのは珍しいことではないのだ。
これまでもずっとそうだった。
一目惚れした時から、ミセは、ずっとデスタンに心を奪われている。そして、傍にいれば傍にいるほど、もっと一緒にいたくなる。感情は膨らむ一方。
しかし彼はというと、主人である王子に常に意識を向けているからか、ミセにはさほど興味を示さない。時に礼を言うことはあっても、それ以上の何かはない。
「でも、ま、いいわぁ。たまに帰ってきてくれるだけで」
◆終わり◆