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9.聖剣保持者

「事情を説明する気はあるんだろうな」


 底冷えのする声でレイドールが詰問する。

 メルティナの目の前にいるのはかつての優しく穏やかな幼馴染ではない。辺境の開拓都市で魔物と戦い続けてきた無頼漢である。その殺気は肌を刺すほど鋭いものであった。

 事実、荒事に慣れているはずのメルティナの護衛達はおののきに顔を引きつらせながら、それでも護衛という任務を果たすためにいつでも動けるよう警戒を強めている。


「もちろんでございます。ぜひとも殿下に聞いていただきたく思っております」


 しかし――その殺気を真っ向から向けられているはずのメルティナの顔に恐怖の感情はない。微笑みを浮かべたまま、毅然とした顔つきでレイドールを見返してくる。


(へえ……思った以上におっかない女じゃねえか。見誤っていたな)


 表情を変えることのないメルティナに、レイドールは彼女に対する評価を改める。

 考えても見れば、メルティナはかつて追放される自分を表情一つ変えることなく送り出した娘である。その心の内は五年前でさえまるで読むことはできなかった。

 レイドールは深呼吸をして煮えたぎる怒りの感情を抑え込み、目で話の続きを促した。


「現在、我が国は大きな危機に面しています……殿下、東方のアルスライン帝国についてはご存知でしょうか?」


「知らないわけがない。大陸中央の大国だろう?」


「その帝国が、ザイン王国へと宣戦布告をしてまいりました。すでに戦端が切られて2週間が経っております」


「はあ?」


 レイドールは思わず訊き返した。メルティナの口から出たのが予想外の情報だったからだ。

 大陸中央の覇者であるアルスライン帝国は領土の広さ、国力ともにザイン王国の十倍以上を誇る大国である。

 帝国は武力による大陸統一を国家の指針として定めており、過去に何度かザイン王国とも矛を交えていた。

 しかし――アルスライン帝国は大国であるがゆえに四方に敵を抱えているため、ザイン王国を滅ぼすほどの兵力を送り込むことができず、ほとんどの戦いが小競り合い程度に終わっていたはずである。


「どうせ今回もいつもの威力偵察だろう? その程度のことを国の危機なんて言うのは言い過ぎじゃないか?」


「残念ながら、今回は本気で我が国を滅ぼすつもりのようです…………敵に聖剣保持者がいるようですから」


「聖剣!?」


 聞き捨てならない言葉にレイドールは思わず声を上げた。それは若き王子の人生を根本から変えたものである。


 聖剣とは神話の時代に神が人間に与えたとされる聖具であり、地上に十二本あるとされている。

 そのうちの一本こそがザイン王国が所有し、レイドールが聖剣保持者エクスカリバーホルダーとして選ばれた『ダーインスレイヴ』であった。

 驚きに目を見開くレイドールをよそに、メルティナは淡々とした口調で説明を続ける。


「アルスライン帝国は三本の聖剣を所有しています。そして……現在、三本すべてに保持者が現れたとの情報が入ってきています」


「全部だと!? それはなんとまあ……」


 聖剣というのは誰でも使える物ではない。神の意志か、あるいは運命によって選定された者にしか所有することは許されない。

 ダーインスレイヴの使い手がザイン王国の初代国王を最後に現れなかったように、百年以上も保持者が現れないことも珍しくなかった。

 それが一つの時代に三人も。レイドールを合わせれば四人も現れたということになる。


(話が読めてきやがった……ああ、クソが! 勝手なことを……!)


 レイドールは右手で顔を覆い、激しい怒りに拳を震わせる。

 メルティナの言葉の続きが予想できてしまった。それはあまりにも身勝手で、こちらを馬鹿にしているとしか思えないものであった。


「レイドール王弟殿下。どうぞ王都に戻ってきてダーインスレイヴを手に取り、王国を救うために帝国の聖剣保持者を打ち倒してくださいませ」


 予想通りの言葉を受けて、レイドールは全力で拳をテーブルに叩きつけた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 帝国に亡命すれば
[気になる点] 聖剣保持者のルビを『エクスカリバーホルダー』にするのはおかしくないかと。 ホーリーソードホルダーならまだわかるけど。
[一言] なんか某聖闘士の話になってきたな笑
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