83.真昼の決闘
本作に2つほどレビューをいただきました。素敵なお言葉に心より感謝を申し上げます!
今後とも本作をどうぞよろしくお願いします!
ジャスティ・オイギスト。
オイギスト子爵家の長男にして跡継ぎ。年齢は25歳。
貴族でありながら武人でもあるその男は、数年おきに国境で起こる帝国との小競り合いでいくつも手柄を上げ、さらに領地を荒らす野盗や山賊を数えきれないほど打ち倒してきた英傑である。
その槍さばきはまさに剛勇。圧倒的な強さから『東方の獅子』とまで呼ばれるほどであった。
『ただ強いだけではなく、ジャスティさんは頭もとても良いんですよ。文武両道というんですかね。統治能力も高くて、領民からも慕われていますし。僕は見たことはありませんが、魔法も使うことができると聞いたことがあります』
というのが、スヴェン・アーベイルによる評価である。
スヴェンはそこまでジャスティを褒め称えて、「だけど……」と続けた。
『あの人は頭がいいけど、ここぞという場面になると筋肉でしか考えられないんですよ。獣が礼服とメガネをつけて歩いているとでも言えばいいのか、肝心なところで化けの皮が剝がれてしまって、力技で解決しようとする悪癖があるんですよね』
「その悪癖の結果が『果たし合い』なわけか……」
「わざわざお越しいただき感謝を申し上げます。レイドール王弟殿下」
事前に届けられた決闘の日時。
オイギスト子爵家が治める町・オブルトを訪れたレイドールを出迎えたのは、ジャスティ・オイギスト本人である。
この町を訪れるにあたって、レイドールはわずかな護衛しか連れてきていない。
手紙が届けられた当初こそ罠ではないかと疑いもしたが、ジャスティと面識のあるスヴェンが「あの方が小細工などありえない」と主張したため、編成中の軍をウルフィンに置いてきていた。
レイドールがオイギスト子爵家を訪れると、ジャスティは屋敷の中庭で鎧兜で武装した姿で出迎えた。
「さて……果たし状には『自分に一騎打ちで勝利したのであれば領地を明け渡す』などと書かれていたが、間違いはないか?」
「無論のこと。武人の誇りにかけて、決して違えるつもりはございませぬ」
ジャスティはメガネの縁を押し上げて、きっぱりと断言した。
首から上だけを見ると学者のような顔立ちをしているのだが、大柄な体つきと鎧から伸びた太い手足がなんともミスマッチな男である。
「一応、聞いておくが……わざわざ決闘を申し込むなど、どういうつもりだ?」
「帝国に寝返り、大恩ある王家に砂をかけるような真似をしたのはオイギスト子爵家でございます。なれば、無用に戦をして兵士や領民を傷つけるわけにはまいりませぬ」
「……無条件で降伏するという選択肢はなかったのか? 大人しく領地を明け渡すのであれば、多少の恩赦も認めてやらんでもないが……」
「そういうわけにはまいりません!」
ジャスティは右手に持った槍の石突で地面を叩いた。
「王家への忠義に背を向けて、もはや私に残っているのは武人の誇りのみにございます! 戦わずして負けを認めるなど武人の恥! 殿下には悪いですが、一手仕合うていただきたい!」
「武人の誇りねえ……」
レイドールは微妙な顔で頷いた。
ここでジャスティの申し出を断ることは簡単だ。
もとより、レイドール率いる軍とオイギスト領軍が戦えば、数の差でレイドール軍が勝利するだろう。
わざわざ決闘や一騎討ちに応じずとも、戦場で決着をつけることだってできるのだ。
(それでも……戦わずして、余計な血を流さずに勝利できるのならそっちがいいに決まっている)
そして、何よりもここで引いてしまえばジャスティの覚悟に泥を塗ることになるだろう。
レイドールは自分が高潔な人間だとは思っていないが、それでも戦いの世界に身を置く人間だ。
武人の誇りを足蹴にするような真似をするつもりはなかった。
「いいだろう。相手になってやるよ」
レイドールは剣を抜いて、数メートルの距離をとってジャスティに向かい合う。
「感謝いたします…………む?」
レイドールに槍の穂先を向けたジャスティであったが、敵の手に握られている鈍い銀色の剣に眉をひそめた。
「王弟殿下、聖剣はどうなされた」
レイドールの手の中にあるのは漆黒の聖剣ではない。兵士達が使っているのと同じ、軍で支給している大量生産の剣である。
「同じ条件で戦わなくちゃ対等な戦いにならないだろうが。聖剣は使わない」
「……私を舐めているのでしょうか? 自信と驕りは別物ですが」
「驕りかどうかは自分の身をもって確かめてみるといい。聖剣がなければ何もできない武器頼みの雑魚だと思っているのなら、それこそ馬鹿にしている」
「さようでございますか。伝説の聖剣と斬り結んでみたかったのですが、是非もございませぬ」
ジャスティはわずかに不満を顔に出したものの、それ以上は言い募ることなく槍を構えた。
レイドールもまた腰を沈め、いつでも飛び出せるように脚に力を込める。
「…………」
「…………」
レイドールは剣を。ジャスティは槍を――それぞれ構えて無言のまま睨み合う。
レイドールの供として付いてきた兵士や、屋敷から庭を覗いているオイギスト家の使用人らが固唾を飲んで2人を見守る。
「…………」
「…………」
空気を凍らせた沈黙がどれだけ続いただろうか。
呼吸をするのも忘れるような緊張感がピークに達した頃、まるでその空間にいることが耐えられなくなったかのように、庭木にとまっていた野鳥が高々と鳴いて空へ飛んだ。
「いざ!」
「尋常に勝負!」
その羽音が合図になった。
2人は同時に裂帛の気合を吐き出して、地を蹴った。
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