表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/249

74.断罪の短剣

「ザイン王国東の国境を守る貴族の中でも特に力を持っていたはずのアーベイル伯爵家ですけど、当家があっさりと帝国に滅ぼされてしまった最大の要因は内部情報が帝国に流出していたことです」


「…………」


 黙り込んでしまったウルファート子爵を前に、スヴェンは朗々とした口調で語る。


「アーベイル伯爵家が領都として治めていた城塞都市は難攻不落。兵糧も潤沢にあって、たとえ敵軍に包囲されても数ヵ月は籠城できるはずでした……しかし、伯爵家の人間しか知らないはずの隠し通路が帝国軍にバレていたことで、そこから都市内部へと敵の侵入を許してしまいました」


 本来であれば町が落とされる際に伯爵家の人間が外部に脱出するための隠し通路だったが、それが逆に伯爵家を滅亡に追いやることになってしまった。


 隠し通路から奇襲を受けたアーベイル伯爵領軍はあっさりと瓦解して、スヴェンをのぞき伯爵家の人間は残らず、命を落とすことになってしまったのだ。


「そ、それと私と何の関係が……」


「隠し通路の場所を知っていたのは両親と兄、僕……あとは子爵家に嫁入りした叔母上しかいないのですよ。子爵様」


「ぐ……」


「そして、先日、叔母上に問い詰めたところ、貴方に隠し通路のことを話したと教えてくれました。援軍を送るために必要だからと言いくるめられてね」


 自分が秘密を漏らしてしまったせいでアーベイル伯爵家が滅ぼされたことを知って、叔母はスヴェンに泣きながら懺悔を繰り返していた。

 気丈な叔母が泣き崩れている姿を思い出して、スヴェンはさらに目元の険を強めた。


「以上が貴方に復讐する理由ですが……ご理解いただけましたか。子爵様」


「し、知らん知らん! 私は何も知らない! 私は伯爵家を売ってなどいない!」


 子爵は顔を蒼白に染めながら、ブンブンと首を振って否定の言葉を繰り返す。

 しかし、目をせわしなく動かし、額から滂沱の汗を流しながらの言い訳はあまりにも白々しい。

 スヴェンはもちろん、この場にいる兵士の誰もが子爵の言葉を信用してはいなかった。

 家族を奪われた少年軍師はさらに追及の言葉をぶつける。


「……国境に領地を預かる『東部八家』のうち、帝国に寝返ったのは6つの家。そして、子爵家をのぞいた5つの家は、裏切りの証として帝国に金銭や食料を提供させられています。帝国から代官を送り込まれている家だってあります。それなのに、どうしてウルファート子爵家だけがそれを免れているのでしょうか?」


「うぐっ……そ、それは……」


「私の家を、アーベイル伯爵家を売った見返りに帝国への上納を免れたのでしょう? 他の家よりも優位な条件で傘下に入るために、伯爵家を売ったのではありませんか?」


「あ……ああっ……」


 子爵は唇を震わせながら後ずさる。

 スヴェンはゆっくりと手を持ち上げて、指先を突きつけた。


「貴方は自分の保身のために父を、アーベイル伯爵を殺すように仕向けたのだ! 自分の義兄を、ずっと目をかけてくれていたはずの恩人を殺めたんだ!」


「ひ、ひいいいいいいいっ!」


 子爵はガタガタと身体を震わせて、いよいよその場に尻もちをついてしまった。

 豚のように肥えた男は、自分の半分ほどの体格しかない少年を怯えた目で見つめる。


 己が犯した罪が自分を裁くために目の前に現れた。

 子爵の目には、スヴェンが大鎌を振り上げた死神のように映っていた。


「ゆ、許してくれ! こうするしかなかったんだ! ウルファート子爵家が生き残るためにはこうするしか……」


「……子爵様、貴方が自分の家のために仕方がなく裏切りを働いたというのなら、僕も同じことをさせてもらいましょう」


「は……?」


 スヴェンが口にした言葉の意味がわからず、子爵は間抜けな顔で聞き返した。

 ペタンと尻をついている子爵に、スヴェンが冷たく目を細めーー躊躇うことなく右手を翻した。


「ギッ……」


 子爵の首に鋭い金属の先端が吸い込まれる。

 銀の閃光とともに子爵の喉に突き刺さったのは、スヴェンが服の中に隠し持っていた短剣だった。


「僕は貴方の命を上納品としてレイドール殿下に捧げ、アーベイル伯爵家を復興させましょう。貴族家の人間として、家のために手を汚す。子爵様がなさったことと同じことです。まさか文句などないでしょうな?」


「がっ……はあっ……かは……」


 子供のスヴェンの細腕では、贅肉に肥えた子爵の首を完全に刺し貫くことができなかったのだろう。

 子爵は喉を刺されて血を流しながらも、ヒューヒューと奇妙な呼吸音を繰り返して身体を痙攣させている。


「いや、は……しひたく、しにたく……ない……」


「…………」


 スヴェンも、他の兵士達も、誰も苦しみ嘆くウルファート子爵に慈悲をかけてはやらなかった。

 子爵はたっぷりと5分ほど泣き声を上げ続けた末に、ようやく絶命したのであった。


いつも応援ありがとうございます。

よろしければ下の☆☆☆☆☆から評価もお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミカライズ版も連載中!
i000000

書籍第2巻 好評発売中!
↓画像をクリックしてみてください↓
i000000
― 新着の感想 ―
[良い点] スヴェンこそ天下を取る才ですな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ