73.裏切りと裏切り
「こ、これは何のつもりだ!? スヴェン!?」
首に剣を突きつけられたウルファート子爵が動揺しきった様子で叫ぶ。
そんな親類の顔を困ったように見上げて、スヴェンはわざとらしく溜息をついた。
「何のつもりといわれましても……言ったではありませんか。お家簒奪だと」
「う、ウルファート子爵家を奪うつもりか!? 誰ぞ、曲者がいるぞ! 誰かいないのか!?」
「無駄ですよ。子爵様。すでに家の者達は他の兵士達が遠ざけています。いくら叫んでもここには誰も来ないかと」
「そ、そんなっ……どうして貴様らのような曲者が、我が屋敷に入り込めたのだ!?」
「親切な方の協力で入れていただきました。持つべきものは友人、というところでしょうか?」
スヴェンの説明ははぐらかすようなものだったが、子爵は意外なほど鋭敏に真相にたどり着く。
「ま、まさか……裏切り者がいるのか? 私の、この屋敷に……!」
「ご名答ですよ、子爵様……存外に聡いではないですか」
「ふ、ふざけるなあああああ! この私を裏切るものがこの屋敷にいるなど、あっていいはずがない!」
子爵はズダンズダンと地団太を踏んだ。
床が抜けるのではないかという音に、スヴェンはわずかに顔を引きつらせた。
「己の保身のために王国を裏切った貴方ならわかるのではないですか? 我が身可愛さに敵に寝返る者の気持ちが」
ウルファート子爵家には、家令の男をはじめとした裏切り者が何人かいた。
以前からスヴェンによる根回しを受けていた彼らであったが、最終的にはレイドールに家族と財産を保障してもらうことを条件としてスヴェンらを屋敷へと招き入れた。
子爵が己の欲望と保身のために帝国に身を売ったように、この屋敷に仕える者にもまた守るべきものがあったというだけのことである。
「そっ、そんなことがあってたまるか! 私を誰だと思っている!? 選ばれた人間、ウルファート子爵家の当主だぞ!? この私を裏切るものがいるなど許されるものか!」
しかし、他人を平気で害する者ほど自分が被害者になることを許さないものである。子爵は自分のことを棚に上げて、顔を真っ赤にして怒声を撒き散らす。
「この私がっ、このわたひいっ!?」
「いい加減に黙ってください。さすがに耳障りです」
剣を突きつけられて身動きが取れない子爵に、首に突きつけられた剣の一本が突き刺さる。
首を裂いた傷は剣先がほんの少し刺さった程度のものだったが、子爵は大げさに悲鳴を上げる。
でっぷりとした身体をガタガタと震わせた子爵は、媚びるような目をスヴェンへと向けた。
「す、スヴェンよ……私はお前の命を救ったはずだ。家を無くし、家族を失ったお前をかくまって、住むところまで与えてやったではないか? それなのに、どうしてお前が私を……」
「おや? 利用をするために僕の身柄を抑えただけではないですか? アーベイル伯爵家を復興した際に後ろ盾となってお家を乗っ取るか、あるいは帝国に売り飛ばして報酬を得るかするつもりだったのでしょう?」
「そ、そそそっ、そんなことは……」
図星をつかれて、子爵が青ざめる。
強欲なこの男が親切心で親類をかくまったなどとはスヴェンは思っていなかった。子爵の浅はかな陰謀など、最初から見抜かれていたのである。
それでも、子爵は己が生き残るため、諦めることなく言い募る。
「な、ならばどうしてウルファート子爵家を頼ってこの町に来たのだ? 利用されることを知っていてどうして……」
「決まっているではありませんか……復讐ですよ」
「ふ、ふくしゅう?」
子爵が子供のようにスヴェンの言葉を反復する。
そんな子爵を冷たく睨みつけて、スヴェンはぎりっと歯を噛みしめる。
「はい……アーベイル伯爵家を裏切って帝国に売り飛ばした貴方を殺すために、僕はあえて貴方のところに身を寄せたのですよ。子爵様」
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