71.落陽の始まり
一方、その頃。
ウルフィンの中心部にあるウルファート子爵家の屋敷にとある一団が訪れていた。
十数人ほどの男達はいずれも鎧を身にまとっており、腰には剣をさげて武装している。
門扉の前へとやって来た武装集団に、慌てて見張りの兵士が声を張り上げる。
「止まれ! 何者だ!?」
屋敷の門扉を守っていた兵士は、当然ながら目の前に現れた一団を制止する。
王国軍との衝突が間近に迫るこの時期に、町の最高権力者である領主の屋敷に武装した集団が現れたのだ。
兵士達が警戒をあらわにするのも無理はないことであった。
「お前達はどこの所属の兵士だ! 子爵家の兵士ではないな!?」
「これは驚かせて申し訳ありません。彼らは僕の部下ですよ」
「貴方は……スヴェン・アーベイル殿!?」
前へ進み出てきた少年に、見張りの兵士は驚きながらも頭を下げる。
武装した一団を率いていたのはスヴェン・アーベイル。
アルスライン帝国との戦争で滅亡したアーベイル伯爵家の生き残りであった。
本来であればいくら恵まれた育ちとはいえ、すでに滅んだ貴族家の子弟にまで礼を尽くす必要などない。
しかし、スヴェンは彼らの雇い主であるウルファート子爵夫人の甥にあたる少年でもあった。
ぞんざいな扱いをすれば、甥っ子を溺愛している子爵夫人からどんな罰が下るかわかったものではなかった。
見張りの兵士は、13歳の少年相手に使うには不釣り合いな丁寧な口調へと切り替える。
「ええっと、スヴェン殿。こちらの兵士達はいったい……」
「彼らは我がアーベイル伯爵家の家臣ですよ。避難民に混じってこの町に逃げ込んできたところを再会しまして、再び私の配下となってくれた者達です」
「おお! それはそれは、よくぞ生きてここまでたどり着かれた!」
「つきましては、彼らを子爵様にご紹介したいと思い連れてきたのですが……屋敷の中に入っても構いませんよね?」
「は……いや、それはちょっと……?」
思わぬ提案に兵士は言葉を濁す。
スヴェン一人であれば自由に屋敷に出入りできるように事前に許可が出ているが、その配下の兵士まで勝手に入れていいものだろうか?
相手が相手だけに強く拒否はできないが、下っ端の兵士にはとても判断できることではなかった。
「も、申し訳ございません。上の者に確認をしてまいりますので少々……」
「ああ、待ちたまえ。許可なら私が出そう」
兵士の詰め所に確認に走ろうとする兵士であったが、身なりのいい中年男性がその背中を呼び止めた。
兵士に声をかけたのはこの屋敷で働いている使用人の長にあたる男で、「家令」の地位を与えられている男である。
男は貴族でこそなかったものの、この町でナンバー2の権力を有していた。当然ながら、一介の兵士が対等に話せる相手ではない。
見張りの兵士は思わぬ大物の登場に、ポカンと口を開いて立ちすくんでしまった。
「は、あ……?」
「挨拶だけならすぐに済むだろう。わざわざ身分を検分したり、身体検査をするのも手間ではないか。アーベイル伯爵家とは長年の友好関係にあったことだし、彼らのことも信用していいだろう」
「へ……? あ、しかし、それは……」
「それとも……君は、私の判断がそんなに信用できないのかね?」
「め、滅相もございません!」
ジロリと家令に睨まれて、兵士は慌てて背筋を伸ばす。
そのまま直立不動の石像のようになってしまった兵士の横をすり抜けて、スヴェンを先頭とする武装集団はウルファート子爵家の内部へと足を踏み入れていく。
「家令殿、感謝いたします。それでは失礼を……」
「ええ、ゆっくりしていってくださいませ。奥様も喜ばれるでしょう」
屋敷の扉をくぐる寸前、家令の男がスヴェンに片目をつぶって合図を送る。
しかし、秘かに送られたサインに気がついた者は誰もいなかった。
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