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69.精霊憑き

 上と下、そして左右。

 貸倉庫の扉の前に立っているレイドールめがけて、四方向から一国王直属の隠密部隊が襲いかかった。


 隠密の手にある武骨な刃が一斉に振り下ろされる。

 瞬く間に距離をゼロにしてくるスピード、寸分の狂いもないコンビネーションはレイドールでさえ目を見張るものだった。


「速いな……しかし」


 しかし、それでもレイドールの顔に浮かんだ余裕の笑みは崩れない。

 己の身体を貫こうとする刃を平然と無視して、ゆったりとした手つきでダーインスレイヴの柄を握りしめる。

 瞬間、鞘に収まったままの漆黒の聖剣から黒い瘴気が噴き出して飛びかかってくる隠密を跳ね飛ばした。


「ぐ……ああああああああ!」


「セイリアの雷撃に比べれば鈍い。その程度の突きで俺を貫けると思うなよ」


「くっ……なんと忌々しい力だ!」


 剣すら抜くことなく敵を蹴散らしたレイドールは、吹き飛ばされて荷物に頭から突っ込んだ隠密を冷たく睥睨する。

 たった数秒で配下の半分を倒されて、隠密部隊の隊長は表情を悔しそうに歪める。


「『火喰い鳥』、何をボーっとしている! さっさと魔法を放て!」


「へいへい、今準備が終わり…………ましたよっと!」


『深淵より生まれ出ずる地獄の火よ』


「朱より赤く、溶岩より熱き血潮の鳥」


『火喰い鳥』の口から二つの声が同時に発せられる。

 まるで高度な腹話術のように二重で響く声音にレイドールは目を見開いた。


二重詠唱ダブルキャスト…………精霊憑きか?」


「へえ、よくわかりましたねえ? 博識なことで」


『火喰い鳥』がタバコを吐き出して、「あっかんべえ」でもするかのするように舌を出した。

 レイドールの前にさらされた赤い舌ベロの上には、二つの黒い目玉と青白い唇。人面疽のごときアザが浮かんでいる。

 舌ベロの上に描かれた歪な顔が、ギョロリと目玉を動かしてレイドールを見やった。

 アザではない。それはたしかに生きた生物の顔である。


「……ネイミリアが闇の精霊を好んで呼び出しているが、あいつ以外に使役された精霊は初めて見たな」


 舌ベロの上に浮かぶ不気味な顔に、レイドールはぼそりとつぶやく。


 優れた魔術師の中にはアストラル界と呼ばれる場所に住んでいる『精霊』という上位存在と契約を交わして、加護を授かる者がいる。

 精霊憑きとはその中でもさらに異端。精霊がその肉体に寄生して、一つとなってしまった存在を指していた。


「精霊憑きは人格が未熟な幼少期に精霊に魅入られ、無意識に契約を交わしてしまったことで生まれると聞いていたが、よくぞその年まで生き残っていたものだな。精霊憑きの多くは成人するまでに力を暴発させて死亡してしまうと聞いたが?」


「残念ながら私はそれには当てはまりませんよ。なにせ後天的に生まれた養殖の精霊憑きですからね」


『火喰い鳥』はかつて宮廷魔術師であった頃に、精霊を外科手術によって人体に取り込み、意図的に精霊憑きを生み出すという研究をしていた。

 そして、己の身体すらも実験台とした末に力を暴発させて、宮殿の一部を破壊してしまったのである。


 危険思想を持った異端者として宮廷を追放されてしまった『火喰い鳥』であったが、宮廷での地位と引き換えにして得られた実験の成果として、精霊の力を取り込むことには成功していた。


「それじゃあ……いきますよ? 王弟殿下!」


『狂え、狂え、狂え!』


「燃やせ、燃やせ、燃やせ!」


『猛れ、地獄の業火よ!』


「飲み込め、不死なる火炎鳥よ!」


『ゲヘナ・フレイム!』


「フレア・ファルコン!」


 人間の口と、精霊の口。

 二つの口が同時に詠唱を終えて、二つの魔法がレイドールめがけて放たれる。


 レイドールの足元を中心に円形の魔法陣が出現した。

 幾何学模様が刻まれた魔法陣が激しく明滅して、足元から地獄の業火のごとき炎が放出される。

 同時に、『火喰い鳥』の頭上に炎の羽を纏った不死鳥が現れて、空気を切り裂いてレイドールに襲いかかった。


 足元と頭上。その両方から鉄を溶解させるほどの温度の火炎が包み込む。


「おおっ……これならばっ!」


 炎に飲み込まれたレイドールを見て、隠密部隊の隊長が喝采の声を上げた。

『火喰い鳥』が放ったのは宮廷魔術師でも数えるほどの人間しか扱うことができない最上級魔法。

 それを二つも同時に受けたのだから、常人であれば骨すらも残さずに消滅してしまうだろう。


 そう、常人であれば――


「……あーあ、やっぱりダメかよ」


 隊長が、他の隠密の仲間が勝利の声を上げる中、『火喰い鳥』は苦々しく唇を尖らせた。

 新しいタバコを取り出そうと懐に手を入れるが、先ほどのが最後の一本だったことに気がついてさらに顔をしかめる。


「30年の研鑽がまるで響かねえとは落ち込むねえ。はっ、燃え尽きちまいそうだぜ」


 レイドールの身体は今もなお紅蓮の業火に抱かれている。

 しかし、炎の中からあふれ出す巨大な魔力。奈落の底を覗き込んだような黒い魔力はまるで衰えることなく『火喰い鳥』の目に映っていた。


 そして――


「なっ……!?」


 次の瞬間、魔法の炎がかき消された。

 特別なことをされたわけではない。魔法を使った気配は感じなかった。

 何もされていないにもかかわらず、二つの最上級魔法が一瞬で消滅させられた。


「まさかっ! そんな馬鹿な!?」


 信じられないとばかりに隊長が叫ぶ。


 先ほどまで炎が荒れ狂っていた空間には、なおも聖剣を鞘に収めたままのレイドールが立っていたのである。


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