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66.少年軍師の奇策

 兵士が戦いの準備を終えたタイミングを見計らい、スヴェンはコホンと咳払いをした。

 そして、レイドールにグシャグシャにされた髪の毛を手で撫でつけながら朗々と語りだした。


「現在、この町には我々と敵対している勢力が2つ存在しています」


「ウルファート子爵と火付けの工作員、だよな」


「はい、その通り。その2つの勢力のうち我々にとって脅威となっているのは工作員のほうです」


 ウルファート子爵の私兵も国境警備の兵士だけあって弱いわけではなかったが、王国軍には聖剣保持者のレイドールがいる。


 レイドールの戦闘能力はまさに英雄級。

 本末転倒な話をするのならば、レイドールただ1人でこの町を攻め落とすことだって不可能ではないのだ。


「しかし、子爵の兵士と戦闘を起こしてしまえば工作員が町に火を放ってしまいます。そうなれば町を制圧したとしても敗北と変わりません。我々は悪逆非道のそしりを受けて、レイドール殿下を人々は恐れるようになるでしょう」


 聖剣保持者という強大な力の持ち主をザイン王国民が好意的に受け入れているのは、レイドールが自分達の味方だからである。

 いかに凶悪極まりない力を有していたとしても、その力が自分達に向けられることはない。そう信じているからこそレイドールを英雄として褒め称えているのだ。


 ウルフィンが焼き払われ、その非道がレイドールに押しつけられるようなことがあれば、人々はいつか自分達に聖剣の力が向けられるかもしれないと怯えてレイドールを排除しようとするかもしれない。


「そうならないためにも、町に混乱を起こさず、戦闘が生じたことを人々にも工作員にも気づかれないようにウルファート子爵家を制圧する必要があります」


「理屈はわかりますが……そんなことが可能なのでしょうか?」


 疑問の言葉を上げたのはダレンである。

 副官であるサーラも上官の端正な横顔を盗み見しつつ、うんうんと繰り返し頷いている。


「不可能ではありません……そのために、今日という日のために、僕はずっと根回しを続けてきましたから」


 スヴェンは年齢に似合わず覚悟を決めた顔つきをしており、そこにははっきりとした自信が浮かんでいる。

 いったい何がこの少年にこれほどの決意を抱かせたのかは気になるところだが、とりあえずレイドールはそれを置いておくことにした。


「ふむ……スヴェンの事情は色々と気になるが、ここまでこいつの言うとおりにしてうまくいってるからな。とりあえずは信じようじゃないか」


「そうですか……殿下がそうおっしゃるのでしたら、私からは何も言いません。それで、いったいどうやって子爵家を制圧するのですか?」


「はい……まずは子爵家の攻略ですけど、新参者が僭越なのですが指揮は私にとらせてもらいたいと思っています」


「……殿下とダレン隊長を差し置いてか? さすがにそれは不敬でしょう!」


 サーラがムッとした顔で抗議の声を上げる。

 王族であるレイドールはいいとして、没落貴族の遺児でしかないスヴェンが自分の敬愛している上官をないがしろにしているのに腹を立てたようである。

 スヴェンは女騎士のほうを一瞥して、もっともだとばかりに頷いた。


「サーラ卿のおっしゃる通りです。戦を知らない僕みたいな者が殿下の兵を預かるなんて荷が重すぎると承知しています。しかし、殿下も千騎長殿も名前が売れすぎていて子爵や兵士に顔を覚えられているかもしれませんので」


 スヴェンの説明を聞いて、ダレンが思案気に目を細める。


「……つまり、攻め込むのではなく味方を装って侵入するということでしょうか?」


「その通りです。私は叔母が子爵に嫁いでいることもあって、ある程度自由に子爵家に出入りすることができます。兵士を連れていくのはさすがに簡単ではありませんが……まあ、うまく言いくるめて見せます」


「なるほど……それなら確かに戦闘行為は最小限で済ませることができますね」


 ダレンが納得したとばかりに唸った。

 しかし、対照的にレイドールが唇を尖らせて不満そうな顔になる。


「それじゃあ俺とダレンは出番なしか? ここまで来て留守番とはさすがに泣きたくなるんだが」


「まさか! 殿下には殿下にしかできない仕事をしていただきます!」


 スヴェンはぶんぶんと両手を振る。

 そして、再びイタズラ小僧の顔になってタップリと間を置いてから言い放った。


「殿下と千騎長殿には別の場所を攻略していただきます。つまり、火付けの工作員のアジトをね」

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