58.宰相の策略
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それからレイドールは精力的に冒険者としての活動に取り組んだ。
北の海に出現した海竜を討伐して。
東の村々を襲う山賊を征伐して。
西の廃城に巣くったアンデッドの群れを退治して。
南の町にいる病気の子供を助けるために希少な薬草を採取した。
王都ギルドに塩漬けとなっていた依頼の中にはレイドール一人なら手を焼いたものもあったが、もう一人の聖剣保持者であるセイリアの助力もあってすさまじい速さで依頼を達成していった。
もともと、レイドールの活躍は帝国との戦いに出兵した兵士の口を通して王国中に知れ渡っている。
民衆というのは元々、英雄譚が好きなものだ。
聖剣に選ばれた英雄が王国のあちこちで貧しい人々を救っている姿は語り草となっており、今や吟遊詩人が歌にして広めるまでになっていた。
聖剣の英雄、レイドール・ザイン。
帝国との戦争での暗いムードを吹き飛ばそうとしているのか、多くの歌い手がその武勇を王国中へと広げていった。
しかし、そんな新たな英雄の登場を好意的に受け止められない人間も当然ながら存在する。
その筆頭ともいえるのが、ザイン王国国王であるグラナード・ザインだった。
「民のご機嫌取りとはなんと忌々しい! 聖剣の力を無駄遣いしおって!」
グラナードが憤怒に形相を歪めてあたり散らす。
憎しみに染まりきった顔は、当然ながら弟の活躍を喜んでいるというわけではない。
レイドールの一挙手一投足が憎くて仕方がないのだろう。悪鬼羅刹のごとく顔が真っ赤になっている。
「聖剣ダーインスレイヴは護国の剣。ザイン王国を守護する最後の切り札ぞ! その力を己の人気取りのために使うとはなんたる不敬! 聖剣の力を軽んじるとは、やはり奴はダーインスレイヴに選ばれるべき人間ではなかった!」
「陛下……どうぞお気を鎮めてください。他の者に聞かれては面倒なことになりましょう」
声を潜めて主君を諫めたのは宰相であるロックウッド・マーセルだった。
国王の執務室である部屋にはグラナードとロックウッドの二人しかいない。
普段は王の職務を補佐している政務官なども遠ざけられており、執務室の周囲からも人払いがされていた。
「レイドールめ……! 民衆の支持を得てこの私を追い落とすつもりに違いない、小癪なことを……!」
宰相に諫められたグラナードはわずかに声のトーンを落としながらも、それでも止めることなく実の弟に対する苛立ちを吐き捨てた。
グラナードは聖剣保持者の弟が絡むと途端に愚王となってしまうものの、先王の病床の頃より英邁な統治者として国を支えてきた傑物である。
レイドールの狙いを正確に見抜き、ギリギリと奥歯を噛みしめた。
ロックウッドもまた王の考えに同意して、深々と重い息を吐きだした。
「民衆一人一人は虫の一匹のごとく小さくか弱きもの。されど数千、数万の虫が一つの方向へと羽ばたけばそれは誰にも止めることはできますまい。レイドール殿下は王国に住む数十万の民衆を味方につけようとされているようですな」
「おのれっ……なんとか、何か方法はないのかっ! ロックウッド!」
「……難しいでしょうな」
ロックウッドは沈痛な面持ちで首を振る。
すでにレイドールの英雄譚は国中に広まっているのだ。情報操作で王弟の名声を落とそうとしても、新たな英雄に沸き立つ人々の熱を冷ますのは容易ではない。
(だからといって武力で抑え込むのは不可能だ。この国に殿下を止められるものはいない)
唯一、可能性があるとすれば将軍バゼル・ガルストが率いる王国軍なのだが、軍は帝国への警戒からブレイン要塞に詰めていて身動きがとれる状態ではない。
仮に動くことができたとしても、ガルスト将軍はもはやレイドールとグラナードの争いに対して静観する意思を示している。
実直な将軍が意思を翻すことはまずないだろう。
「我々はレイドール殿下を政治の場から遠ざけるために暇を与えてあえて放置することにしていましたが、それが仇となったようですね。与えられた時間を利用してこんな手を打ってくるとは……」
「くっ……あの愚弟を抑える手段はないのか? せめて呪いが解ければ……」
グラナードは服の上から左胸を掻きむしる。
グラナードがレイドールに誓約の呪いをかけられてすでに1ヵ月が経っていた。
宮廷魔術師を総動員したことにより呪いの術式は着々と解読されているものの、いまだ解呪には至っていない。
呪いをかけられたままではレイドールを積極的に排斥することもできず、その行動を放置せざるを得なかった。
「……陛下、いっそのことその呪いを利用するというのは如何でしょうか?」
「む……どういうことだ?」
ふと思いついたようにロックウッドが口を開く。
グラナードはピクリと片眉を上げて、宰相へと尋ねた。
「誓約によって縛られているのは陛下だけではありません。レイドール殿下もまた己に呪いで枷を課しています。『レイドール・ザインはザイン王国を守るために帝国と戦わなければならない』――殿下もまたその誓約には逆らえないはずです」
「ふむ……つまりレイドールをあえて戦いの場に行くように仕向けて、民衆の支持を得られないようにするということか? しかし……帝国との戦いはすでに和睦交渉に入っている。いたずらに争いを起こすわけには……」
「はい、もちろん帝国軍本体と戦わせるわけにはまいりません。しかし、帝国との戦いによって新しく生まれた敵もいるではありませんか」
ロックウッドはふっと一度息継ぎをして、毅然とした面持ちで言い放つ。
「帝国に寝返った東方の貴族。奴らの粛清を殿下にしていただきましょう」
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