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53.ギルドの妖精

 その日、王都にある冒険者ギルドに珍客が訪れた。

 ザイン王国にあるギルド全てを統括している王都ギルドには冒険者と依頼人、薬や武器を持ち込んでくる商会など、日々多くの人々が訪れている。

 日もすでに暮れかけており、来客の対応をしている受付嬢の顔に疲れの色が浮かびだした頃――その人物は現れた。


 ドアベルがカランコロンと鳴り、一組の男女がギルドへと足を踏み入れてきた。十代の若い男女は腰に剣をさげており、冒険者か傭兵のようである。


(あら? 見ない顔ですね。新人さんでしょうか?)


 二人の姿を上から下まで見やり、受付嬢は首を傾げた。

 女性のほうはお上りさん丸出しで、ギルドの中をキョロキョロと興味深そうに見まわしている。男性の方はまだ慣れた様子なので、別のギルドから王都に移住してきた冒険者なのかもしれない。

 男性のほうが女性に何事かを言ってその場に残し、一人で受付へと向かってきた。


「いらっしゃいませ、ご依頼でしょうか? 登録でしょうか?」


「ギルドマスターに会いたいのだが、今はいるかな?」


「ええっと、失礼ですが……」


 王都のギルドに初めて来る男がギルドマスターに会わせろとのたまっている。困惑を露わにする受付嬢へと、一通の書状が差し出された。


「紹介状だ。確認してくれ」


「あ、はい。拝見いたします」


 受付嬢は差し出された書状を開いて中に目を通し……驚きに目を見開いた。

 書状と男の顔を何度も見返して、「少々お待ちください!」とギルドの奥へと消えていった。

 受付嬢は5分と待たせることなく受付へと戻ってきた。

 よほど急いでいたのか、肩で荒い息を繰り返しながら受付で待っていた男へと声をかける。


「ぎ、ギルドマスターがお会いになるそうです! どうぞ奥までお願いいたします、レイドール王弟殿下!」


「ああ、ご苦労」


 額に汗をにじませる受付嬢に案内されて、男――レイドール・ザインは冒険者ギルドの奥へと進んでいった。






「初めまして、よくぞお越しくださいました……レイドール王弟殿下」


「……ああ、忙しい所を申し訳ない。ギルドマスター」


「当ギルドの責任者をしておりますサイナ・クルスと申します。どうぞお見知りおきくださいませ」


 応接間らしき場所に通されたレイドールを出迎えたのは、緑色の髪に青い瞳という珍しい容貌の娘だった。

 ギルドマスターという地位に似つかわしくない若い女性の登場に、レイドールはわずかに目を見張った。


「高名な冒険者であるバルトロメオ氏の紹介となれば会わないわけにはまいりませんわ。ましてや、今を時めく救国の英雄のお越しとなればなおさらです」


「そうか……ザフィスはそんなに有名な冒険者なのか?」


 レイドールは剣の師であるザフィス・バルトロメオの顔を思い浮かべて、訝しげに目を細めた。

 レイドールにとってザフィスという男は剣術くらいしか取り柄のない酒飲み親父である。王都のギルドマスターという高い地位にある人物から、尊敬の念を向けられるような立派な男では決してない。

 しかし、クルスはレイドールに椅子を勧めながら、なおも称賛の言葉を言い募る。


「バルトロメオ氏はザイン王国南部地域での魔物の被害多発に憂いて、前線基地としての開拓都市建設を提案されたお方。おまけに、資金を出し渋る王宮に代わって私財を投げ出し、有力者を説得して町をつくられた偉大な先人です。その開拓者精神と、魔物の脅威から国を守ろうとする志の高さは、多くの冒険者が手本としております」


「………………そうか」


 レイドールはやや渋い顔で頷いた。

 剣の師であり、第二の父といってもいいザフィスのことを手放しで褒められると、嬉しさ以上に気恥ずかしさのほうが勝ってしまう。

 さっさと話題を変えてしまおうと、口火を切った。


「ところで、クルス殿は随分と若いな。良くその年で王都のギルドマスターになれたものだな」


「ああ、若いというほどの年でもありませんよ?」


 クルスは指先で耳元の髪をかき上げた。すると、緑色の髪の下から先端が尖った耳が現れる。


「私はエルフですから、普通の人間よりも老いるのが遅いのです。こう見えても、殿下のお父君である先代様と同い年ですよ?」


「エルフか……それはさぞ苦労したのだろうな」


 エルフは主に大陸南方に住んでいる亜人種族である。

 森で暮らし、生まれた森からほとんど出ることのない彼らは非常に閉鎖的な性格をしているのだが、それでも時折、森から出て外の世界に飛び出す変わり者もいた。

 ザイン王国ではほとんど見かけることはなく、レイドールもじかに目にするのは初めてのことだった。


「この国では亜人差別は強くありませんから、それほど苦労してはいませんよ。しかし、帝国に占領されてしまえばそうはいかなかったでしょうね……」


「アルスライン帝国の亜人差別は有名だからな。まあ、あの国は南方の亜人諸国とたびたび戦争をしているから当然だが……」


「そういう意味でも、私にとってレイドール殿下は恩人でございます。私のできる限りのお力添えをさせていただきます……それで、当ギルドに何の御用でしょうか?」


 本題へと切り出すクルス。

 レイドールは「ふむ」と口元に笑みを浮かべて頷き、ギルドに来た目的を口にした。


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