51.囚われた皇女
兄王グラナードとの謁見を終えたレイドールは与えられた屋敷へと戻ってきた。
帝国との戦いが始まった当初こそ、貴族街の中央にある広大すぎる屋敷にはメイドのネイミリアと二人きりというもの寂しい有様だったが、現在は三人目の住人が住みついていた。
「ちょっとお兄さん! 私にクラウを返してよっ!」
「……帰ってきた家主にいきなりですな。セイリア皇女殿下?」
屋敷に入るや否や、怒鳴り散らしてきた少女にレイドールは困ったような笑みを返した。
レイドールに詰め寄ってきたのは金髪の美貌の少女。帝国皇女であり、聖剣クラウソラスに選ばれた聖剣保持者のセイリア・フォン・アルスラインであった。
捕虜としてこの屋敷に連れてこられた彼女は、今は軍服でもミスリルの鎧でもなく、白いブラウスに紺のスカートという簡素な出で立ちになっている。
「俺が言えた話ではないが……仮にもやんごとない身分の人間ならば、もう少し品性ある振る舞いをして欲しいんだけどな。そもそも、聖剣だったら腰にあるじゃないですか?」
レイドールは人差し指をセイリアの腰部に向けた。そこには鞘に収まったクラウソラスが確かにあった。
まるで人が盗んだような言い方をされるのは心外である。
しかし、レイドールの言葉にセイリアは目を吊り上げて、尖った八重歯を剥いてさらに怒声を発する。
「そういうことじゃない! どうしてクラウソラスが私の声に応えてくれないの!? 貴方が何かしたんでしょ!?」
「ふむ? なんでそう思うのかな?」
「お兄さん以外にこんなことできる人はいないでしょ! 聖剣の力を封じるなんて……!」
「まあ、そうだな。大正解だ」
レイドールは肩をすくめて肯定した。
捕虜となったセイリアから武器を、それも聖剣という一軍に匹敵する力を持つ兵器を没収していないのは、今の彼女にはそれを使うことができないからである。
「お察しの通り、君が気絶している間に呪いをかけて聖剣とのつながりを断たせてもらった…………ほれ」
「ひゃあっ!?」
レイドールはセイリアが着ているブラウスの襟をつかみ、容赦なく胸部を開いた。
なだらかに膨らんだ女の胸には、心臓の真上に黒い刻印が刻まれている。
グラナードの胸に刻んだものとよく似たそれは、呪いの聖剣であるダーインスレイヴによって付けられた『封印の呪い』である。
「それはかつて俺の祖先が一人の魔女を封じるのに使った呪い……それを応用したものだ。いくらダーインスレイヴの力とはいえ、同格の聖剣であるクラウソラスの力を封じきることはできない。しかし、聖剣保持者の力を封じて一時的に聖剣と切り離すことくらいなら可能だ」
「ひ……あ……あ……」
「あくまでも一時的な呪いだから、いずれは解いて…………どうした?」
説明を聞いているのかいないのか、セイリアは露わになった自分の胸元を見下ろしてワナワナと震えている。
そんなに呪いの刻印を刻まれたのがショックだったのかとレイドールは首を傾げた。
「心配しなくても呪いを解けば刻印は……」
「きゃああああああああああああああっ!!」
「うおおっ!?」
セイリアの口から甲高い悲鳴が放たれた。耳を貫くような絶叫を至近距離から受けて、レイドールは大きく身体をのけぞらせる。
「離してっ! 触らないでよう!」
「ちょ、なっ……どうした!?」
「やだっ! やだやだやだっ!」
「お、おい、あんまり引っ張ると……うおっ!?」
セイリアが己の胸を掻き抱いてレイドールから距離をとろうとした。しかし、レイドールはいまだ彼女のブラウスをつかんだままである。
悲鳴に驚いて姿勢が崩れていたこともあって、後ずさるセイリアに引っ張られるがままレイドールは前のめりになって倒れ込んでしまう。
「うおっと!」
「ひっ……!」
レイドールとセイリアは折り重なるようにして床へと倒れてしまった。
ぶちぶちと音が鳴って、残りのボタンまでもが引きちぎられる。
白い皇女の肌が首筋からへその辺りまで一気に露わになってしまい、下着をつけていない二つの乳房が露出する。
あれよあれよという間に半裸となってしまったセイリアはレイドールに押し倒される形になってしまった。
当然ながら、皇女である彼女はこんな暴虐を受けたのは初めての経験である。
「あ、ああ……」
「痛っ……危ないな、何を急に暴れていやがる」
「やだ……やだよう。こんなのやだ……うっ、えっぐえっぐ……」
「はあ……?」
ブラウスを剥かれて、男に押し倒されて……とうとう張りつめていた緊張の糸が切れててしまった。
セイリアはまるで幼い子供のように「えーん、えーん」と泣き出してしまう。
捕虜になった女性兵士が敵兵からどんな目に遭わされるか、それは知識として知ってはいたが、まさか本当に自分がそんな辱めを受けるとは思わなかった。
頼りにしていた聖剣はこんなになっても、自分に語りかけてくれない。力を貸してくれない。
それはいかに聖剣に選ばれたとはいえ、十代の皇女の心を極限まで追い詰めるには十分な要因だった。
「ええっと……」
一方、レイドールはセイリアを押し倒した姿勢のまま、目を白黒させて困惑していた。
目の前で子供のように泣いている女と、かつて戦場で自分を追い詰めた聖剣保持者の姿がまるで重ならない。
レイドールはしばしセイリアの泣き顔を見つめて、やがてややあと納得したように頷いた。
「あ、そうか。普通の女は裸を見られるのを嫌がるんだったな……」
そんな当たり前すぎる悟りを開き、レイドールは今さらのようにセイリアの裸身に自分の上着をかぶせた。




