50.契約の履行
「さて、レイドールよ……セイリア・フォン・アルスライン皇女と聖剣クラウソラスはどこにある? なぜここに持ってきていない?」
一段高い場所にある玉座の上から弟を見下ろしながら、グラナードが訝しげに問うた。レイドールはようやく尋ねてきたかと唇を吊り上げて、堂々と胸を張って答える。
「麗しの姫君だったら俺の屋敷で寛いでもらっているぜ? もらった屋敷の初めての客人が他国のお姫様とは光栄極まる話だよな」
「馬鹿な! 敵の王族を捕らえておいて主君である私に引き渡さないとはどういうことだ!? 貴様、国のために戦うという約束を違えるつもりか!?」
「そちらこそ、奪った財宝と捕虜は俺のものにするというのが誓約での取り決めだ。忘れたのかよ?」
「なっ……それは……!」
グラナードが怒りに顔を赤くしてなおも言い募ろうとして、グッと言葉を飲んだ。
もしもここで因縁をつけるようなことをすれば、グラナードの胸に刻まれた誓約の呪いが発動してしまうかもしれない。
奥歯をギリギリと噛みしめながら、不敵に笑う弟を鬼の形相で睨みつける。
「どうせこれから帝国と和睦の交渉に入るんだろ? 交渉が終わるまでの間、セイリア皇女のもてなしは俺がさせてもらおう。心配せずとも、無事に交渉がまとまったら皇女の身柄は解放しよう」
「……何が目的だ? 皇女の身柄など、貴様が預かっていたところで意味はあるまい」
「目的ねえ。さてなあ、愛らしくも美しい皇女殿下を口説く時間が欲しいとか?」
「……真面目に答えるつもりはないようだな」
グラナードはさらに目元の険を深めて、苛立たしげに踵を踏み鳴らした。肘掛けに頬杖をついてしばし考え込み、やがて諦めたように溜息をついた。
「……いいだろう、セイリア皇女と聖剣クラウソラスはお前に預ける」
「結構、ご慈悲に感謝いたしますよ」
「ただし、いつまでも調子に乗っていられると思わぬことだ。いずれ貴様がかけた呪いも宮廷魔術師によって解除されることだろう。今のうちに命乞いの言葉を考えておくことだな」
グラナードは胸元に刻まれた呪印を服の上から指差して、忌々しげに言い捨てる。
『呪いが解けたら覚えていろ』――はっきりと言葉に出して脅しつけられて、レイドールは降参するように両手を上げた。
「あまり脅かしてくれるなよ。ちびっちまうじゃねえか」
「……用はこれで終わりだ。さっさと失せるがいい」
「承知……ああ、ちゃんと開拓都市への援助金は送っておいてくれよ? 約束を違えるようなら……」
「早く消えろ! 何度も言わせるな!」
「はいはい」
いよいよ声を荒げる兄王に、レイドールは肩をすくめて玉座の間を後にした。
グラナードは弟が消えた扉をしばらく睨みつけていたが、やがて横で控えている家臣へと噛みつくように命じた。
「ロックウッド、早々に帝国との講和を進めて奪われた領土を取り返せ! 宮廷内部の裏切り者のあぶり出しも忘れるな! ガルストは講和が終わるまで要塞の守りを固めておけ!」
「はっ……」
「御意に」
「いいな、あの愚弟におかしなたくらみをする暇を与えるな! 一刻も早く帝国との戦いを終わらせて奴を排除するのだ! この私に呪いをかけるなど今度は辺境追放などでは済まさん……少なくとも牢獄に幽閉、場合によっては首を落としてやる!」
「…………」
「…………」
ロックウッドとガルストはそろって黙り込み、剣幕を露わにして怒鳴り散らす国王を何とも言えない微妙な顔で見返した。
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