49.二人の忠臣
ブレイン要塞をめぐる戦いは、レイドールと聖剣ダーインスレイヴの力によってザイン王国が勝利した。
これによりアルスライン帝国西方侵攻軍は国境のバルメス要塞まで後退して、ひとまずザイン王国は滅亡の危機を乗り越えた。
ザイン王国軍は帝国皇女であるセイリア・アルスラインを捕虜として捕らえるという大金星を挙げた。
その情報は瞬く間に王都に広がっていった。それまで敗戦ムードに暗く沈んでいた王都の住人であったが、降って湧いた勝利の知らせにお祭り騒ぎに沸き返った。
「はははっ、ざまあみろ帝国め!」
「ザイン王国、万歳! グラナード陛下、万歳!」
「いやいや、これはレイドール殿下のご活躍だろう! さすがは聖剣の英雄様だ!」
喜びに沸いた王都の住民の口に上がるのは、やはり聖剣保持者であるレイドール・ザインの名前である。
王国軍が勝利した報告を受けた際、グラナードは弟の活躍について緘口令を布いてレイドールの存在を隠そうとした。
王国が勝利したのはバゼル・ガルスト将軍の活躍であり、さらに言うとその主君であるグラナード・ザイン王の采配によるものである。そんな風に情報操作を行おうとした。
しかし、実際に戦場に戦った兵士が黙っていられるわけがない。
彼らはダーインスレイヴとクラウソラスという二本の聖剣がぶつかり合う戦いを目の当たりにしたのだ。神話の目撃者となった彼らが、自分達が目にした生ける伝説を隠すことなどできるわけがない。
「これはここだけの話だ」、「誰にも言わないように」などと前置きをしながら、レイドールの活躍は数日のうちに王国中に知れ渡っていた。
そうして王都中が新たな英雄の登場に喜び騒ぐ中、再びレイドールとグラナードの二人が顔を合わせる機会がやって来た。
「……此度の戦い、真に見事だった。褒めて遣わす」
「はっ、光栄でございます。兄上」
仏頂面を絵に描いたような表情でグラナードは膝をついたレイドールに言う。レイドールもまた、どうだとばかりに嘲るような笑みを浮かべて兄の言葉に応じた。
「そなたの活躍はすでに聞いている。敵の大軍を打ち破り、さらにクラウソラスの使い手を捕らえたそうだな?」
「ええ、これも全ては兄上の御威光ゆえにございます。私の活躍など微々たるもの」
称賛するグラナードも、謙遜するレイドールも、お互いに言葉とは真逆に互いを牽制するように視線を交わしている。
そんな二人の様子を横で見て、宰相ロックウッド・マーセル、将軍バゼル・ガルストは並んで溜息をついた。
「この二人は……」
「もはや是非もない。諦めよ、ロックウッド」
頭痛を堪えるように額を抑えるロックウッドに、バゼルがぼそりとつぶやく。
「しかし……このままでは二人は永遠に和解することはできませんよ? 二人が支え合うことができればこの国は……」
「世の中にはどうしようもならぬ流れがある。二人を和解させたいのであれば、もっと早く行動を起こすべきだったな」
かつてはレイドールの追放にかかわった二人であったが、いずれ時を見てレイドールを王都に呼び戻したいと考えていた。
先王が病床の頃はどうしても後継争いを避けるためにレイドールを犠牲にするしかなかったが、グラナードが王としての地位を盤石にすればレイドールを持ち上げようとする者もいなくなる。
王としての実績を積めばグラナードもまたレイドールに対する劣等感を捨てて、かつてのように兄弟として接することもできるはずだ。
そう考えていたのだが……
(それも帝国の侵略によってふいになってしまった)
帝国の侵略によってレイドールを強制的に呼び戻すことになり、和解もすることなく一方的に戦いを命じることになってしまった。
もはや二人の間の亀裂は決定的で、仲の良い兄弟に戻ることなど叶わないだろう。
「あの二人はいずれ戦うことになるだろうな……貴公も覚悟を決められよ」
「……ガルスト将軍、まさか貴殿はレイドール殿下につくつもりではないでしょうな?」
妙に悟った様子の将軍に、ロックウッドは疑念を込めて問いかけた。
ガルストは白いヒゲを撫でながら「ふむ」と頷く。
「あの二人のどちらが勝つにせよ、私は武人としての忠義を貫くのみ。もっとも、レイドール殿下が勝たれたのであればそれは息子に任せるつもりだが……」
「……武人の忠義は王に捧げられるものではないのですか?」
「それを言われると胸が痛いのだがな」
ガルストは苦笑して肩をすくめた。
「平時であればそれも良いのだがな。帝国が一度の敗戦で諦めるとも思えぬ。兵力の損耗を避けるためにも、政争に我ら軍は口出しせぬ」
「…………」
「そう睨んでくれるな。すでに賽は投げられているのだ。私や貴公にできることは多くない」
横目で睨みつけてくるロックウッドから顔を背けて、ガルストは眼前の主君へと目を向けた。
「謙遜をすることはない。聖剣に選ばれたお前が戦いだけは優秀であることは誰もが認めるところだろう」
「そういう兄上こそ、玉座が非常にお似合いですよ? 貴方がそこに座っているだけで、何もせずとも帝国を打ち倒すことなど容易いことでしょう。いや、まったく。さすがは国の大事に何もしなくてもいいとは国王とは良いご身分だ」
二人の王族は相変わらず、能面のような顔で嫌味の応酬を繰り広げている。
兄弟ケンカというにはあまりにも陰湿なやり取りを見て、将軍はそっと目を閉じた。
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